8月8日はセーフスポーツ・デーです。この日は、スポーツがすべての人にとって安全で、インクルーシブで、責任あるものでなければならないことを、目に見えるかたちで確認する機会として、2020年に定められました。現在では、国際オリンピック委員会をはじめ、子ども、女性、障がい者を含むスポーツをする人の保護に取り組む様々な組織によって、世界中で記念されています。
日本もまた、セーフスポーツの分野で世界をリードする存在となり得るし、そうであるべきです。日本はもはや、国際スポーツの一参加国ではなく、リーダー国の一つです。世界トップクラスの競技成績を常に収めているだけでなく、主要な国際大会の開催国でもあります。スポーツの世界で、日本の影響力が拡大し続けるなかで、そのリーダーシップはメダル獲得や大会運営にとどまらず、とりわけ、すべての人が暴力・暴言等の恐れを感じずにスポーツに参加できる体制作りへと広がっていかなければなりません。
今年、このメッセージは、とりわけ日本に深く関わるものです。ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックに参加した日本代表団は、力強い活躍で広く注目を集めました。東京は、6大会連続で、ワールドベースボールクラシックの開催都市となりました。FIFAワールドカップでも、日本代表には強い関心が寄せられました。9月には名古屋でアジア競技大会が、続いて10月にはアジアパラ競技大会が開催されることで、日本はまた一つ、主要な国際スポーツイベントを迎えます。
日本でのセーフスポーツの実現に向けては、進展を示す心強い兆しが見られます。スポーツ基本計画は、スポーツ基本法に基づき、国のスポーツ施策の方向性を示す指針です。2012年に策定された第1期計画では、スポーツをする人の暴力やハラスメントからの保護は全く言及されていませんでした。2017年の第2期計画では、暴力やハラスメントからの保護の重要性が認識され、指導者の研修が強調されました。2022年に策定された現在の第3期計画では、SNS 等での誹謗中傷や写真・動画による性的ハラスメントの防止、および既にある暴力等の相談窓口の周知・普及活動が、施策として新たに盛り込まれました。
2013年以降、日本は競技者への暴力の対応を約束してきました。近年では、勇気ある元競技者の虐待経験者からの強い働きかけの下で、こうした取り組みが加速しています。2025年6月にはスポーツ基本法が改正され、国はスポーツを行う者への暴力、暴言、あるいは性虐待の防止策を講じなければならないとされました。しかし、この法律は、暴力・暴言等を防止し、日本でセーフスポーツを実現させるための効果的な措置を定めているわけではありません。
スポーツに関わるすべての人にとって、スポーツを本当の意味で安全なものとするために、現在審議中の第4期スポーツ基本計画では、スポーツ界全体にわたる暴力・暴言等の防止と対応に関する実効的な仕組みの整備を、明確な優先事項とすべきです。
法や政策を改めることは出発点にすぎません。日本が真に、スポーツをする人の保護にコミットするのであれば、次のステップは、スポーツでの暴力・暴言等の通報と対応をする独立した専門機関の設立です。各国に既に存在する同様の機関は、スポーツでの暴力・暴言等の解決と根絶に、真剣に取り組む国々にとってのベストプラクティスと見なされています。2026年6月、ユネスコとスポーツ・アンド・ライツ・アライアンスは、セーフスポーツを実現するための政策提言を発表しました。特に重要なのは、独立したセーフガーディングの仕組み、秘密が保持され利用しやすい通報・対応制度、そして、スポーツをする人の権利と安全を確保する虐待経験者を中心とした支援アプローチです。
日本には、子どもやその保護者、性的マイノリティ、障がい者を含めたスポーツでの暴力・暴言等の被害者が、安心して暴力・暴言等を通報し、助けを求めることができる、完全に独立した機関が必要です。ヒューマン・ライツ・ウォッチが2020年に明らかにしたように、日本の既存の制度では、暴力・暴言等やハラスメントを受けたスポーツをする人は、たいていの場合、そのスポーツに関わる組織と関係のある仕組みを通して通報することになります。
セーフスポーツ・センターが設置されれば、こうした状況が変わる一助となります。この機関は、子どもを含むスポーツをする人の保護基準の作成・維持を担うとともに、暴力・暴言等の通報の申立てを調査し、加害者に適切な処分を下すための中央行政機関としての役割を果たすものとなるべきです。
このセーフスポーツ・デーは、日本がリーダーシップを発揮するチャンスです。問題は、日本がスポーツを重視しているかどうかではありません。重視していることは誰の目にも明らかです。問題は、スポーツを成り立たせている人々の権利保護に、日本が真剣に取り組むかどうかなのです。
土井香苗はヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表。湯村帆名は同アジア局オフィサー。