要約
日本の刑罰には、代替刑の種類が少なく、自由刑(身体を拘束して自由を奪う刑)に過度に依存している。刑事事件で有罪判決を受ける人が、罰金・執行猶予以外の代替刑が考慮されることはほとんどなく、収監されれば人権侵害を被ることが多い。 受刑者が幼い子どもを持つ母親である場合には、刑務所で時を過ごさなければならないことの悪影響はとりわけ甚だしい。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、元女性受刑者58人と調査時点で服役中の1人、および弁護士と刑事政策の専門家11人へのインタビューを基に、女性受刑者の収監と処遇に関する状況を調査した。
現在の法的枠組みでは、とくに刑事訴訟法第482条で、被告人の年齢、健康状態、家庭環境などさまざまな事由について、検察官の裁量による刑の執行停止制度が認められているものの、ほぼ活用されていない。法務省の統計にはこうした現実がはっきり表れている。実際に、ここ5年で刑が執行停止された女性受刑者はたった11人だ。
多くの女性は、刑務所内で人権侵害の被害にあっている。刑務所側に、受刑者のニーズと権利に対処するリソースが乏しいことでそうした事態が生じたり、悪化したりするケースも多い。例えば、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律では、女性受刑者は刑務所長が認めれば、子どもが1歳になるまで刑務所内で子どもを養育でき、刑務所長が再び認めればこの期間をさらに6ヵ月間延長できると定められている。
しかし、法務省の統計によると、2009年~2017年にかけて、女性受刑者の出産件数は184件だったが、2011年~2017年にかけて刑事施設内で乳児の養育を認められたのは3件だけだった。元女性受刑者らによると、ほとんどは、刑務所内で乳児と共に過ごすことが法的に認められているという詳しい説明を受けないまま、自分が産んだ乳児と出産時に引き離されている。出産時の分離は心的外傷となり、母親と乳児の両者の健康を害し、母乳育児や母子の絆の形成を阻害しかねない。
また、高齢の女性受刑者がこの数十年で急増している。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査や法務省の研究によると、日本社会の高齢化に伴い、社会的孤立や疎外感から万引きなどの非暴力事犯を繰り返す高齢者もいる。元女性受刑者の話は、高齢の女性受刑者には社会への受け入れや居場所の提供といった特別のケアとサポートが必要であるのに、刑務所ではそれらが満たされていないという現状を浮き彫りにするものである。
薬物事犯は、日本での女性が収監される理由としては、窃盗に次いで2番目に多い。薬物の単純所持や使用で服役する女性受刑者は、複数回の服役を経験していることも多く、物質使用症(いわゆる薬物依存症)の可能性もある。また、複数の研究によれば、こうした女性受刑者の多くが、幼少期の虐待や家庭内暴力による心的外傷を抱えている。女性刑務所では物質使用症向けの更生プログラムを提供しているものの、元女性受刑者や専門家によると、このプログラムは女性犯罪者の再犯率低下に有意義な効果を発揮していない。また、軽微な薬物事犯による収監は、既存の心的外傷に拍車をかけるため、逆に再犯の確率を高める可能性が否めない。
日本の女性刑事施設での人権侵害としては、これ以外に、トランスジェンダーへの人権侵害、独居拘禁の恣意的かつ長期的使用、刑務官による暴言、ヘルス(保健)サービス、メンタルヘルス(精神保健)サービスへの不十分なアクセス、過度に厳しい外部交通の制限、独立機関による刑務所環境の効果的な監視の欠如などを挙げることができる。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、日本政府に対し、女性受刑者の人数を減らすための方策を緊急に採用、実施することを提言する。とくに、非拘禁措置に関する国連最低基準規則(東京ルールズ)が概略を示す社会奉仕活動をはじめとする代替刑を導入すべきである。
同時に、法務省は、薬物の単純所持・使用の非犯罪化に向けて動きつつ、厚生労働省と連携した上で刑事施設外での物質使用症の自主的な治療に専念すべきだ。
自由刑は最終手段であるべきだ。法務省は、すべての刑事施設が、国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルールズ)、女性被拘禁者の処遇及び女性犯罪者の非拘禁措置に関する国連規則(バンコク・ルールズ)などの国際基準に明記されたベストプラクティスを遵守するようにすべきである。
主な提言
国会への提言
- 刑法第9条を改正し、社会奉仕活動命令や戒告などの非自由刑を導入すること。
- 個人による薬物の単純所持及び使用を非犯罪化すること。
法務省への提言
- あらゆる受刑者について、独居拘禁を必要最小限とすること。障がい者の独居拘禁を止めること。
- 国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラルールズ)及び女性被拘禁者の処遇及び女性犯罪者の非拘禁措置に関する国連規則(バンコク・ルールズ)に則り、すべての受刑者が適切な医療的ケアを適時に受けられるよう、明確な方針と規則を定めること。
- 出産中の受刑者に職員が手錠等を使用してはならないとする2014年の法務省通知の施行を徹底すること。この通知を改訂し、陣痛中と出産直後の女性への拘束具の使用を明確に禁止すること。
- 代替刑の創設と利用拡大の法案を起草し、国会での成立を支援すること。また、個人による薬物の単純所持及び使用を非犯罪化すること。
- 検察が刑事訴訟法482条を利用するよう促すこと。
厚生労働省への提言
- 高齢者、妊娠中や子育て中の母親、障がいや深刻な病状がある人のために、代替刑を利用しやすくする法改正へのアドボカシー活動を行うこと。また、薬物の個人的な所持及び使用の非犯罪化へのアドボカシー活動を行うこと。
調査方法
ヒューマン・ライツ・ウォッチは本報告書のための調査を2017年1月~2月、2018年4月~2023年1月にかけて行った。対面インタビューは新型コロナウイルス感染症の流行のため、2020年3月~2022年11月まで実施を見合わせた。
インタビューの大半は今回のパンデミック前に実施されているとはいえ、直近の調査結果から、インタビュー時点で明らかになったことは依然として重要であることが明らかになった。2022年後半~2023年前半にかけて法務省が明らかにした調査結果も、刑務官による男女受刑者への虐待が依然として行われていることを示している。
調査員が行ったインタビューの対象者は、元受刑者58人、当時服役中だった1人、および法律専門家と刑事司法改革に詳しい11人である。元受刑者はすべて女性である。インタビューは、電話1件、書面2件以外はすべて対面で実施した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ調査員は、すべてのインタビュー対象者に対して十分な説明を行った上で同意(インフォームドコンセント)を得ている。また調査目的について日本語で説明を行った。ヒューマン・ライツ・ウォッチはすべてのインタビュー対象者に対し、証言が報告書と関連資料で引用されることを説明している。インタビュー対象者は、聞き取りをいつでも止めてよいこと、また質問には応えなくてもよいことを伝えられている。
インタビューは無報酬で行った。またすべて日本語で実施している。一例を除き、対面でのインタビューはプライベートな、すなわちインタビュアーとインタビュー対象者だけがいる環境で行われた。第三者が同席した一例では、インタビュー対象者に聴覚障がいがあるためにサポートが必要だった。心的外傷を被った方へのインタビューについては、その聞き取りがさらなる心的外傷を引き起こさないように配慮を行った。
プライバシー保護の観点から、ヒューマン・ライツ・ウォッチはすべての元・現(インタビュー当時の状況)受刑者について仮名を用いた。
本報告書で「高齢者」とは、法務省の分類にならって65歳以上の人を指している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは2023年7月31日付で、法務省に対し、政府の政策と慣行について質問への回答と情報提供を求めた。書簡のコピーは付録1に収録してある。政府は2023年8月17日に対面で回答を行い、その内容は本報告書に反映されている。回答の内容は付録2に収録した。
外為レートは2023年9月12日時点のものを使用した。100円あたり0.67米ドルである。
背景
日本には、2022年の時点で、法務省管轄の刑事施設(刑務所、少年刑務所及び拘置所)が178庁ある[1]。うち11庁が、女性受刑者の拘禁施設として指定されている刑事施設である[2]。
女性受刑者数は2011年に5,345人で過去最高を記録したが、近年では減少傾向にある[3]。2021年時点でその数は3,913人だった[4]。
2021年の刑務所入所者のうち、女性は10.3%を占める。入所者の4.8%に過ぎなかった1996年と比べると比率は2倍以上になっている[5]。世界の刑務所の約8割で、女性受刑者の割合は全受刑者の2~9%のため、日本の女性受刑者の比率は比較的高い[6]。
2021年末時点で、日本の女性刑務所11庁の収容定員は合計6,491人である[7]。過去20年間、女性刑務所は一時期過密状態にあったが、政府は女性刑務所を着実に拡大している[8]。
男性は「犯罪傾向あり」「犯罪傾向なし」で収監先の刑務所が異なるのに対し、女性は「W」という1つのカテゴリーにまとめられ、犯罪によって区別されることなく他の女性受刑者と共に収監される[9]。
ある行刑学の専門家は、女性刑務所の数が限られていることが、女性受刑者が区別されない理由の一つだと指摘する[10]。
日本の女性受刑者の特徴
女性受刑者で見ると、入所の理由となった主な罪名は、窃盗罪と覚醒剤取締法違反だ。例えば、2021年に入所した女性受刑者の48%が窃盗罪で、また33%が覚醒剤取締法違反で有罪となっていた[11]。
窃盗で服役する女性はますます増えている。1978年~2011年は、覚醒剤取締法違反が、女性が服役する最多の罪だった[12]。2012年からは、窃盗罪が覚醒剤取締法違反を上回っている[13]。
2021年に入所した女性受刑者のうち、20%が65歳以上であり、2003年の5.5%と比べて約4倍となった。1998年には同1.9%だった[14]。男性では、2021年の新受刑者の13%が65歳以上であり、2003年の4.2%から約3倍となった。また1998年には1.3%だった[15]。
高齢の女性受刑者の大半の服役理由は窃盗だ。2021年、65歳以上の女性受刑者の罪名のうち88%が窃盗罪(ほとんどが万引きなどの軽微な窃盗)だ[16]。
女性刑務所では、メンタルヘルス(精神保健)がますます重要な課題となっている。法務省によると、心理社会的障がい(精神障がい)と診断された女性受刑者の人数は、この16年間で倍以上になった。
2002年、法務省は刑務所に収監される女性の11%が「知的障害」、「人格障害」、「神経症性障害」、「その他の精神障害」のいずれかを有すると認定した[17]。2021年、法務省は当該年に刑務所に入所した女性の25%について、こうした障がいのうち1つまたは複数を有するとしている[18]。
多くの女性受刑者が暴力に関連した心的外傷(トラウマ)を経験していることを示す研究結果もある。2000年の女性新受刑者90人を対象とした調査では、73%が性暴力の被害経験があると回答した[19]。美祢復帰社会促進センターと笠松刑務所で約1,000人の女性受刑者を調査した研究チームによれば、調査対象となった女性の多くがDV被害の経験があると回答した[20]。また、237人の覚醒剤事犯者女性を対象にした2017年の調査では、40%以上が自傷行為を、約46%が深刻な自殺念慮を、また約73%がパートナーからのDV被害を経験していたことが明らかになった[21]。
この20年間、女性受刑者の再犯率は上昇傾向にある。2021年に入所した女性受刑者の48%に受刑歴がある[22]。2004年にはこの割合は30%だった。2021年には、受刑歴のある女性受刑者のうち85%が逮捕時に無職だった[23]。
政府の取り組み
日本政府は、女性が刑務所で直面する問題の一部に取り組むにあたって、重要な措置を講じている。
2002年、刑務官による男性受刑者への深刻な虐待事案(死者1名を含む)が明るみに出たことを受け、日本政府はおよそ100年前に制定された監獄法を改正した。2003年に施行された「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(平成17年法律第50号。以下「刑事被収容者処遇法」)は、その目的を「刑事収容施設の適正な管理運営を図るとともに、被収容者(略)の人権を尊重しつつ、これらの状況に応じた適正な処遇を行うこと」と定める[24]。
2013年、法務省は「女子刑務所のあり方研究委員会」の設立を支援した。この委員会では、参議院議員と千葉県知事を務めた堂本暁子氏が委員長となり、社会福祉サービスと司法制度との連携不足など、女性刑務所の運営に大きな欠陥があることを明らかにした。
2014年、同委員会は法務省に対し、医療の質の向上を含む改革を実施し、女性刑務所の環境を改善するよう勧告した[25]。具体的には、年齢、健康状態、犯罪歴など受刑者の特性に応じた介入やプログラムを提供できる地域の医療・社会福祉専門家とのネットワークを構築し、職員の執務環境を改善することが挙げられた[26]。
再犯率を減らそうと、2016年には「再犯の防止等の推進に関する法律」が制定された[27]。同法は、元犯罪者の就職や住居の確保を支援するなど、円滑な社会復帰に向けた政策を策定し実施することを国に求めている[28]。また、地方公共団体も同法に基づいてこのような施策を講ずるように務めなければならないと定めている[29]。
2018年、日本政府は同法に基づいて策定された「地域再犯防止推進モデル事業」に予算をつけた。2018年~2020年に、法務省は36の地方自治体と調整し、物質使用症を抱える人、性犯罪者、高齢者や障がい者、少年を対象とした、就労支援と住居の確保に向けた取組が実施されている[30]。
兵庫県明石市は、先行的な取組をモデル的に進めてきた。当時の明石市長は2017年、高齢者と精神障がい者の再入所率削減を目指す「明石市更生支援事業」を開始した。法務省はその後、この事業への予算措置を行った[31]。2019年までに、同市は元受刑者の支援事業に取り組む社会福祉団体など37機関・団体とのネットワークを構築した[32]。2021年に明石市はこのモデル事業について、一定数の元受刑者を福祉サービスにつなげるという当初の目的を達成しており、成功したとの評価を行った[33]。
2022年、国会では懲役を定めた刑法第12条の改正と、禁固を定めた同第13条の削除が行われた。この改正で「拘禁」という新たな収容のありかたが導入された。法務省は再犯率の引き下げを目指しており、そのために、労役の有無に基づいた懲役と禁固の区別を廃止し、受刑者が作業すべきかどうか、どのような作業をすべきか、また、どのようなリハビリテーションが必要かを個別に判断する。改正刑法は2025年に施行される。
課題
政府が重要な取り組みを行っているものの、刑務所では男女受刑者への虐待が依然として深刻な問題である。
2022年12月9日、法務省は、名古屋刑務所の受刑者3人に対し、刑務官22人による顔や手をたたくなどの暴行や暴言、房内に物品を投げ入れる、顔に手指消毒剤を吹き付けるなどの身体的・言語的虐待を確認したと発表した。刑務官の受刑者への虐待行為は、2021年11月~2022年8月下旬に行われていた[34]。調査結果を受けて、同省は2022年12月26日に第三者委員会を設置し、その目的を「背景事情を含めた全体像を把握し、その原因を分析するともに、適切な再発防止策を講ずる」こととした[35]。
法務省矯正局は2023年2月8日に、法務省管轄下の257の施設について、2022年12月5日~12日に録画された監視カメラ映像の記録を調査したと発表し、職員による暴言などの不適切な行為を122件確認したことを明らかにした[36]。また、2023年2月8日、2018年~2022年にかけて、受刑者への不適切な行為を理由に、刑務官177人の処分を行っていたことを明らかにした。うち免職は14件、停職は46件である。2020年に起きた女性受刑者1人への性的嫌がらせ事案も処分対象となった[37]。
第三者委員会は2023年6月21日に、齋藤健法務大臣(当時)に提言書を提出した。名古屋刑務所の職員による「暴行」や「不適正処遇」について、委員会は「人権意識の希薄さ及び規律秩序を過度に重視する組織風土」、「風通しの悪い職場環境」、「受刑者の特性の未把握」、「若手刑務官1人で、多数の処遇上の配慮を要する受刑者を担当する勤務体制」、「監督職員が不適正処遇を早期に発見する仕組みの不備」、「不適正処遇の受けた受刑者を救済する仕組みの機能不全」を「原因・背景事情」とした。[38]
同委員会は、「施設の専門化・小規模化」、「不服申立制度の運用改善」や「人材の確保と育成の充実」などを提言した。また、委員会は法務省による2023年2月の発表を念頭に、「本件事案の背景事情等は全国に存在し、再発防止策は全国に向けて策定すべき」とした。[39]
Ⅱ.日本の刑務所での女性への虐待
女性受刑者の特定集団のニーズが満たされない現状
女性の子育てを阻む障壁
女性受刑者は、乳幼児の親であったり、入所時点で妊娠中の場合がある。
2009年~2017年について、女性受刑者の出産件数は184件である[40]。女性は、男性と比べて子どもの主要な養育者になることが多い。日本では、養育に関する男女格差が得にはっきり存在している[41]。
収監される時点で妊娠中あるいは乳幼児の親である女性は、子育てへの弊害に直面しており、子どもや親である女性に悪影響がある。例えば、女性が唯一の養育者である場合に検察官は刑の執行停止ができると法律が定めているにも拘らず、この権限はほとんど発動されていない。また、刑務所内で子どもを養育する機会が認められないことや、妊娠から出産、産後回復期にかけて身体的虐待を受けることなどがある。また、受刑者の子どもは、両親に「できる限り」養育される権利を往々にして奪われている[42]。
出産時の拘束具使用
マンデラ・ルールズ規則48は、「拘束具は、女性に対し、分娩中あるいは出産直後には決して用いてはならない」と定める[43]。また、バンコク・ルールズ規則24は、「一部の国では、病院への移送、婦人科検診及び出産の際に、妊婦に手錠などの身体拘束が使用されている。この行為は国際基準に違反している」とする[44]。
妊娠中の女性受刑者は、出産時には近くの病院に搬送される。2014年以前、病院で陣痛を迎えた受刑者には、陣痛から出産、産後回復期にかけて、少なくとも片腕に手錠をかけられるのが一般的だった。2014年、上川陽子法務大臣(当時)は、すべての刑事施設に対して、妊娠中の女性受刑者に分娩室内で手錠等の拘束具を使用しないようにすることとの通知を矯正局成人矯正課長名で出している[45]。
この通知にもかかわらず、佐賀県の麓刑務所では2018年になっても、職員が出産中の受刑者に(少なくとも片腕に)手錠をかけていたとする元受刑者の証言がある。別の元受刑者は、2017年に出産中に両手首をベッドに手錠をかけられたという、他の受刑者の体験を語った。
ベッドの上で両手で手錠を掛けられて出産したと言っていた。もう、私はどっと涙が出た。でも彼女は病院で無事に出産させてもらえただけでよかったと言っていた。[46]
2019年11月5日、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、麓刑務所で出産中の女性受刑者に手錠が使用されていることを示唆する調査結果を法務省に示した。
2019年11月12日に行われたヒューマン・ライツ・ウォッチと法務省の面会で、法務省側は、すべての女性刑務所で所長が毎年行う自己点検を参照して、この訴えを否定した[47]。面会中、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、女性刑務所、とくに麓刑務所で、こうしたやり方が続いているかを、矯正局に調査するよう要請した[48]。
法務省側は当初、時間や予算、人手が足りないことを挙げて調査は実施できないと回答した。しかし、2014年の通知をすべての刑事施設に再送することに同意し、同月に実施した。また、法務省側はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、麓刑務所について、女性受刑者の出産時に拘束具を使用したかどうかを確認すると述べた。
2019年11月25日、法務省はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、分娩室内で手錠が使用されていたとの記録はなかったとの回答があった。しかし、分娩室の入室前後では、妊娠中や出産後の女性受刑者に対して一般的に手錠を使用しているとも述べた。
刑務所で子育てをする権利の否定
学術研究は、乳幼児期での絆の形成が子どもの発達にきわめて重要であることを明らかにしている。「発達心理学、神経生物学、動物後生学の分野では、ネグレクト、親の一貫性の欠如(parental inconsistency)、愛情の欠如が、長期的な精神保健上の問題や、全体的な潜在能力や幸福度の低下につながることを示すエビデンスがますます増えている」とされる[49]。たとえば、英国では、新生児や乳幼児は母親とともに刑事施設に滞在することが認められており、子と過ごす母親に対して、子どもの養育に関する支援や研修を提供する刑事施設もある[50]。
2019年時点で、日本では7つの刑事施設に乳幼児が親とともに生活できる設備があり、うち5つは女性刑務所内に置かれている[51]。さらに、法律上女性受刑者は、刑務所長が認めれば、子どもが1歳になるまで刑務所内で子どもを養育できる[52]。この1年という期間は、刑務所長が再び認めれば、6ヵ月間延長することができる。
マンデラ・ルールズ規則29はこう定める。
子どもがその親とともに刑事施設に滞在することを認める決定は、当該子どもの最善の利益に基づかなければならない。子どもが親とともに施設内にとどまることを認める場合には、次のものが提供されるものとする。
(a)子どもが親によって世話をされないときに預けられる、有資格者が配置された施設内部あるいは外部の子どもの養育施設/(b)入所時の健康診査および専門家による発達の継続的モニタリングを含む、子どもに特化したヘルスケア・サービス。[53]
またバンコク・ルールズ規則52は、「子どもを母親から引き離す時期についての決定は、国内関連法の範囲内で、個別の評価と子どもの最善の利益に基づいて行われるものとする」と定める[54]。
しかし、実際には、刑務所側が乳幼児の母親に対し、子どもを養育したいと申し出ることができるとの説明をすること自体が少ない。
2009年から2017年の間に、女性受刑者の出産件数は184件あった。このうち、2011年から2017年の間に刑務所内での養育が認められた事例はわずか3件だった。実際に申し出が認められたこの3件について、女性が乳児と一緒に過ごした期間は、それぞれ12日間、10日間、8日間ときわめて短いものだった。法務省は、刑事被収容者処遇法第66条に基づき刑事施設で乳児の養育を申し出た受刑者の人数も、申出が認められなかった件数も把握していないと答弁している[55]。
女性受刑者が出産した際、生まれた乳児はまもなく親から引き離され、親族に引き渡されるか、乳児院に入所する。2018年に釈放された元受刑者のM. レイコさんはこう話した。
(刑務所内で)養育できる部屋を見たことはありませんが、同じ工場で産んだ人は見たことがあります。出産の時については言ってなかったです。その人は出産後一週間ぐらいで戻りました。 遵守事項には1年ぐらい何カ月とか面倒を見れるって書いてあるのに、その人は5分ぐらいで、すぐ持ってかれちゃったって言われたみたいです、病院で [56]。
B・マサコさんは、10年ほど前に受刑中に出産し、類似の問題に直面したことを語った。「再度収監されるときには子どもの行き先、乳児院は決まっていた」[57]。
刑務所内で子どもを養育する女性に対する施設側の態度が、昔に比べて寛容ではなくなっているとの指摘がある。50年前、日本最大の女性刑務所である栃木刑務所で一回目の刑期を務めたことがあり、近年も栃木刑務所に服役していた元女性受刑者のK・ケイコさんは振り返る。
「生活が穏やかだから」という理由で、一日に二人赤ちゃんをお風呂に入れてました。お母さんは仕事に行くんですよ。……(乳児の)部屋は病棟の上の方。綺麗でした。ベビーベッド、上におもちゃがついてて。お母さんが仕事行っている間は(乳児を)見る人がいる。それが半年までできたんですが、今はいれないです。あれが悪いらしいです、(刑務所の)鉄格子が子どものあれに良くないって言って[58]。
高齢の女性受刑者の増加
日本社会は急激に高齢化している。日本人の約4人に1人が65歳以上だ[59]。受刑者も高齢化しており、その傾向は男性よりも女性で顕著だ。前述のように、2021年に入所した女性受刑者の20%が65歳以上であり、2003年の5.5%からほぼ4倍の割合に増加している。なお1998年は1.9%だった[60]。
日本の高齢者の多くが社会的孤立という問題を抱えている。この傾向のひとつの現れが「孤独死」の増加だ。これは、高齢者が一人で亡くなり、何日も、時には何週間も気づかれずにいる事態を指す。
2020年には東京都内だけで「孤独死」とみられる事例が4,238件あった。2003年の1,451件から3倍近く増えている[61]。
高齢女性の社会的孤立と万引きとの関連性を指摘する法務省の調査がある。同調査によると、万引きの動機としては、高齢の男女ともに「経済的不安」が最も多かったが、女性の方が男性よりも経済状況が相対的に良好であってもなお、「疎外感・被差別感」から窃盗に至る割合が高い[62]。
しかし、現在の刑務所の態勢は、増加する高齢受刑者のニーズに対応していない。
2018年に服役した70代の元受刑者C・カズコさんはこう述べた。
私が一番年上だと思って刑務所行ったら、結構いたんですよね。押し車とか、お風呂一人で入れないひととか。それ見た時、自分はまだ洗濯もできるしって思って。身体障碍者というか、ボランティアでもないですが、外から介護の人が来ているんで。その人たちが体洗っているので。どういう関係できているのかわからないけど、刑務所の職員は立っているだけで、介護の人がパンツはかせたり[63]。
介護や支援のニーズがかなり高い高齢受刑者には、一般的に単独室が与えられる。しかし、健康な高齢受刑者は通常、刑務所内の作業場で働き、年齢、刑期、犯罪の種類などが異なる受刑者と相部屋で生活する。このような環境では、高齢受刑者へのいじめが深刻な問題だ。70歳代で約1年間服役した元受刑者のJ・タカコさんはこう語る。
何も知らないで本を読んでいると、(布団)が首に落ちてきて、三日間首が動かなかった……。夜中にポットが二つおいてあるんですね、いったときは7月だったのであまり熱いものは飲まないんですけど。隣の人がそれを私の足にかけたんです、足が膨れて真っ赤になって靴も履けない状態。靴下がきつくて、でもトイレ我慢するから膨れたんだって。絶対医務にも連絡してもらえなかったです。そういうこともノートに書いたんですけど、そこだけは破りなさいって、その部分を(ノートの)。そこで初めて、本当に現実に刑務所に来たんだなって思いました。それまでは夢を見ている感じだった[64]。
刑務官は時に、高齢受刑者の限られた運動能力に苛立ちを覚え、虐待的な対応を取ることがある。窃盗罪で3年間服役し、2018年に釈放された元受刑者J・ヒロコさんは、「おばあちゃんになっても、シルバーカーってありますよね、それを押しながら先生たちに怒鳴られながら、工場を行き来してた……。やってしまったことはあるけど、ちょっとかわいそうだと思った。ちょっとやっぱりもたもたしてたり」と振り返る[65]。
トランスジェンダーの受刑者
日本政府がトランスジェンダー女性の性自認(ジェンダー・アイデンティティ)を適切に認定して健康面でのニーズを十分に支援するということをしていないため、トランスジェンダー女性は、日本の刑事施設制度下で固有の被害を受ける場合が多い。トランスジェンダーを含むすべての受刑者は、戸籍上の性別と一致する刑事施設に収監される[66]。
日本では、性自認が戸籍上の性別と一致しないトランスジェンダーの人びとが多く存在する。法的な性別認定(戸籍上の性別変更)を行うには、法の定めるきわめて厳格で、時代遅れの有害な要件を満たさなければならないからである。
日本における法的性別認定(戸籍上の性別変更)の現状 法律上の性別の変更を望むトランスジェンダーの人びとは、2004年に施行された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(平成15年法律第111号、性同一性障害者特例法)により家庭裁判所に審判を請求しなければならない。この法律は、請求者に対し、非婚かつ未成年の子どもがおらず、少なくとも2人の医師から「性同一性障害」との診断を受けた上で、断種手術を受けることを課している[67] 。負担が大きく人権を侵害するこうした法的条件を満たさず、出生時に割り当てられた法律上の性別のままのトランスジェンダーの人びとも多い[68]。このため、戸籍上の性別がみずからの性自認に一致しないトランスジェンダー受刑者は、みずからの性自認に反した刑事施設に収監されているのである。 |
2011年、法務省は通知「性同一性障害等を有する被収容者の処遇について」をすべての刑事施設に送付した。この通知は、施設側が「性同一性障害者等」(性同一性障害者及び2人以上の医師の診断を受けてはいないものの「同障害と同様の傾向を有する者」)のために単独室を提供し、入浴時のプライバシーを確保することなどを認めている[69]。また、「性同一性障害等」であって[70]、豊胸手術をしているためブラジャーの使用が必要であるなど「外形変更済みの者」については、法の定めに従い、女性用下着を貸与することも認めている[71]。
しかし、この通知のメリットは、戸籍上の性別変更がされていないために自らの性自認に反した刑事施設に収監されているすべてのトランスジェンダー受刑者に及んではいない。2人以上の医師による性同一性障害診断を受けていない場合に、刑事施設によって性同一性障害者と「同様の傾向を有する者と認められる」ことが困難だからだ。
幼少期から女性としての性自認のあるトランス女性のS・モトコさんは、7年ほど前に東京で服役した。当時、モトコさんは「性同一性障害」との診断を受けるプロセスをまだ開始しておらず、戸籍上の性別を変えてもいなければ、性別適合手術を受けてもいなかった。
モトコさんは女性刑務所への収監を希望していたにもかかわらず、男性刑務所に収監された。モトコさんは、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、矯正医官と刑務官に自分は性同一性障害であると伝えて、単独室への収監を願い出たと述べた。しかし、その医官はモトコさんの訴えを無視し、ある刑務官は「命に別状はない」と彼女を叱りつけた。その結果、モトコさんは1年以上、男性受刑者と同じ房で過ごし、寝る場所や脱衣所、シャワーを共有した[72]。
モトコさんはこう述べる。
トイレ行っているときも、刑務官が中を監視できるように全部アクリル板で見えちゃいますし。それはもう同じ部屋の人間からも見えちゃいますし。まあ入浴にしてもそうですよね。まあ周りから見れば「お前も同じ男の体だろうが」ってはなしですけど。自分自身、体にコンプレックスがある分、余計体を人に見せてくないってのがあるし、まあちょっと男性自体の体を見たくないって言うのが私自身あるんですよね。ちょっといろいろあって。なので、苦痛でしかないんですよね。浴場の更衣室なんかはほんとにギュウギュウ詰めで、裸と裸はすり合うし、もう気持ち悪い[73]。
モトコさんは、安全のために自分の性自認を隠さざるを得なかったという。
私自身、刑務所に入るときに刑務官の方に私のセクシャリティについてお話はしましたけども、いくらこれから女性として生きようっていう覚悟をしたとしても、刑務所の中でわざわざそれをさらけだしていくことはどういうことになるのかっていうのは分かっているので、やっぱり隠して受刑生活を送っていたんですよね。周りの同性には。 私としては、一生懸命、女性性を出してはいけないと思って男らしく振舞おうとか。こういう言葉遣いじゃなくてもっと男っぽい言葉遣いをとか色々考えながら日々生活していく中で、常にいつかばれるんじゃないかっていう恐れがありましたし、もしばれた時に、「こいつオカマだ」っていって全員からけなされ、バイアスにさらされるのは本当に恐怖だったので、そのことが大きいですね[74]。
国連開発計画(UNDP)が2020年9月に発表した報告書は、「各国政府と矯正当局は、トランスジェンダー受刑者が刑事施設での居住にかかわる決定に参加し、保安面の問題とのあいだでバランスのとれた選択肢を提供され、居住にかかわる決定の最終結果について通知されることを認めるべきである」との勧告を行っている[75]。
また、次の勧告も行っている。「矯正当局は、シャワーやトイレの利用を容易にするにあたり、トランスジェンダー受刑者の性自認、身体の状態、尊厳、個人の安全を考慮すべきである。専用の、または独立した設備を提供できない場合、矯正当局は、安全性と保安を損なうことなくプライバシーを最大限確保するための、物理的な障壁を設けるべきである」[76]。
トランスジェンダー受刑者に対する虐待は、日本では以前から存在する問題だ。2009年、日本弁護士連合会(日弁連)は、男性刑務所である栃木県の黒羽刑務所(2022年に閉鎖)に、トランスジェンダー受刑者の処遇について懸念する勧告書を送付した。この勧告書に付された調査報告書は、この刑務所に収監されているトランスジェンダー女性が、当初は(男性受刑者としての髪型である)断髪を免除され、女性用下着の着用が認められていたことを詳述している。しかし、その後、刑務所は処遇方針を変更し、こうした配慮を取りやめた[77]。
黒羽刑務所当局は、当初、日弁連からの書面での照会内容のほとんどに対して、詳しい回答を行わなかった。しかし、日弁連の人権擁護委員会が同刑務所を訪れ、照会事項への回答を依頼して、ようやく詳しい説明を行った[78]。
黒羽刑務所当局によると、この受刑者は、自分の障がいに理解がないと判断した人物への衝動的暴行等の犯罪を行った過去があるため、社会復帰した際、たとえ男性として扱われたとしても「感情を爆発」させることのないように、刑務所で「矯正」させることが必要だと判断したという。日弁連への回答での刑務所側の説明によれば、髪を伸ばし、女性用下着を着用する権利を認めないように変更したのは、こうした取組の一環であったという[79]。
法務省が全刑務所に送付した2011年の前掲通知では、トランスジェンダー受刑者へのホルモン療法等は行わなくてよいとしている。特に必要な事情が認められない限り、治療を実施しなくても「収容生活上直ちに回復困難な損害が生じるものとは考えられない」というのがその理由である[80]。
2015年、菊池あずは氏(当時29歳)に東京地方裁判所が懲役16年を言い渡したことが大きく報じられた。菊池氏は「性同一性障害」との医学的診断を受け、18歳からホルモン治療を受けていた[81]。20歳までに性別適合手術を受け、戸籍上の性別も女性に変更した[82]。菊池氏はその後もホルモン投与を続けていたにもかかわらず、2015年3月に菊池氏を収監した東京拘置所は、「病気ではない」と判断し、治療の必要がないとして、さらなるホルモン投与を認めなかった[83]。
公益社団法人日本精神神経学会は2016年3月に法務大臣宛の要望書で、菊池氏が東京拘置所の判断後に体調を崩したことについて「ホルモン欠落症状が発生している」とした上で、「性同一性障害に関する十分な知識と経験を持つ医師」に「できる限り早い時期に」相談することを提言した。[84]
世界トランスジェンダー・ヘルス専門家協会(WPATH)は、ホルモン補充療法は「トランスセクシュアル、トランスジェンダー、ジェンダーに不一致である人びとの多くにとって医学的に必要な措置である」[85]とし、施設に収監されているトランスジェンダーの人びとは、コミュニティで受けることができるのと同水準のケアを受けるものとすると勧告している[86]。
WPATHのガイドラインはさらに「医学的に必要であるにもかかわらず、ホルモン投与を突然中止したり、ホルモン療法を開始したりしないことは、自己去勢による外科的自己治療、抑うつ気分、精神不安、および/または自死といった否定的結果を招く可能性がかなり高い」と勧告している[87]。
人権侵害をもたらす収監環境
日本の刑務所の収監環境は過酷だ。受刑者は、刑務官による厳しい制限に服しており、規律に違反すれば閉居罰を含む懲罰だと脅されている。
日本の刑務所では、社会的孤立を悪化させ、受刑者に精神的苦痛を与えかねない制限が厳格に課されていることが多い。例えば、受刑者は、他の受刑者のほうを見ることや目を合わせることなども含め、許可なく他の受刑者とコミュニケーションすることをしばしば制限される。
2017年に1年数ヵ月服役していたF・マキさんはこう述べる。
引継ぎが無い、言葉で話しちゃいけない。それがつらい。わからなかったので。掃除とか、お風呂場掃除とか話しちゃいけないから、うなずいてもいけない、合図もだめだし。「雑巾洗って」っていうのもだめなんですよ、無言で目を合わせないで[88]。
2017年に2年間服役したM・キョウコさんは「ちょっと隣の人に知らないこと教えたり笑ったりというのは雑居と作業場ではいっさい許されていなかった……(それを注意されたことは)あります 「なんかおかしいことがあるの?」なんて言われた」と述べる[89]。
独居拘禁の恣意的使用
刑務所の規則に違反したことが判明した受刑者は、長期間の独居拘禁により処罰されることがある。また、規則違反が疑われる受刑者も、その疑いについての調査が終わるまで独居拘禁とされる[90]。
刑事被収容者処遇法第151条第1項6号は、独居拘禁を科す閉居罰について「三十日以内(懲罰を科する時に二十歳以上の者について、特に情状が重い場合には、六十日以内)」との制限を設けている[91]。
独居拘禁に伴う社会的孤立と感覚の遮断は、精神の健康に有害な影響を及ぼしうる。隔離はあらゆる受刑者に心理的な被害を引き起こし、不安、抑うつ、怒り、強迫観念、パラノイア、心理社会的障がいを生じさせることがある。その影響は、心理社会的または認知面での障がいを持つ人には特に大きくなることがある[92]。
閉鎖的で厳重に監視された環境がもたらすストレス、有意義な社会的接触の欠如、運動不足は、精神の健康を悪化させ、心理社会的または認知面での障がいを持つ人の精神的な福利に長期的な悪影響をもたらすことがある。
独居拘禁の専門家であるシャロン・シャレヴ氏(オックスフォード大学犯罪学センター)は「(独居拘禁下での)極度の社会的孤立と環境刺激の減少という状況は、心的外傷を生じさせ、場合によっては受刑者から正気そのものを奪うこともある」と指摘する[93]。
拷問に関する国連特別報告者(当時)フアン・メンデス氏は、精神障がい者に独居拘禁を科すことは「どれだけ短いあいだであっても(略)、残酷、非人道的または品位を傷つける扱いだ」と述べている。そして、各国政府に対し、心理社会的または認知面での障がいを持つ受刑者について独居拘禁による懲罰を今後一切止めるように求めた[94]。
3回服役したS・アキコさんはこう述べる。
28日の閉居罰を受けたときに、精神的に苦しくなったので、精神科医に願箋を書いたんです、そしたらあなたは躁鬱病でと言われて、薬を飲まされました。その薬を飲むと眠くなり、作業ができなくなるんです。そう訴え出ると、今度は血中濃度がいかんって。そのうちよだれも出るんです[95]。
マンデラルールズ規則43は、「どのような状況下においても、制限又は規律違反への制裁は、拷問その他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い又は刑罰にあたるものであってはならない」としており、「長期にわたる独居拘禁」を「禁止されるべき実務」としている。[96]
S・アキコさんはさらにこう続けた。
生活を送る中で、調査という制度が私を苦しめました。5度も懲罰に行きましたから……独房に入れられるんです。工場でも席を外され、名札も外されて。調査は懲罰のための取り調べの段階です。 懲罰の間は座っています。 トイレは許可なしでは使えないですし、ドアを向いて、ただドアにあるカレンダーを見つめて座っているだけです。刑務官は中をドア越しに見える……よそ見したら、怒られます[97]。
元受刑者からは、こうした内部調査は一方的に行われ、受刑者には弁明の機会が与えられないとの指摘もある。2018年に釈放されたL・マリさんは言う。
状況だけで物事判断されて懲罰に入れられたりして、本来であれば弁解の場があるはずだけれど、言おうとしたら「あなたはこうでしょ、こうでしょ」と一方的に決めつけられてしまう。 話を聞いてもらえるだけで全然違う、話を聞いてもらえないのはすごく苦痛[98]。
受刑者は、懲罰の状況に応じて、弁護人を含め、面会や信書発受の権利を失うこともある。栃木刑務所に終身刑で服役する女性受刑者は、規則違反で「保護室」に何度も入れられており、2018年12月から少なくとも2019年10月にかけて、弁護人を含めて、面会する権利を一切奪われている[99]。
栃木県弁護士会に対し、この女性受刑者の状況改善を求める人権救済の申立てを行った弁護団の大野鉄平弁護士は、次のように指摘する。
法律(刑事被収容者処遇法)には書いてないけれども、保護室に入れられているということは面会できない状態で、事実上面会は許されていない。手紙も、筆記用具を渡したりすると何をするかわからないから、そういう物品の私用を許されないので発信も許されない。はっきり法律には書かれていないがそういう運用をしていて裁判所もそれを追認している[100]。
日用品への不十分なアクセス
刑務所内での労働(関係法では「作業」)は最低賃金法の適用から除外されている。労働者と使用者との契約に基づくものではないからだ[101]。刑法では、刑務所での労働は刑罰と更生の一形態であって、収入を得る手段と見なされているわけではない。
刑事被収容者処遇法第98条により、受刑者は釈放時に刑務所労働の対価にあたる金銭(作業報奨金)を支給される[102]。服役中、受刑者は収入の一部を生活に必要な物品の購入に充てることを申し出ることができる[103]。
元女性受刑者たちはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、刑事施設の売店が扱う衣類や日用品(自弁品)の値段が高すぎると話す。受刑者が物品を購入できる場所は売店に限られる。2018年から2019年の間に釈放されたT・ジュンコさんは問題点をこう指摘する。
報奨金が安いのに、例えば外で言うとマツキヨでもっと安いのに、歯磨き粉、シャンプー、全部含めて、でもものすごく高いです。100円、200円の化粧水をなぜ1000円でとるの?って。[104]
刑事施設で販売される日用品の価格をどう設定するかは積年の課題だ。法務省矯正局は2004年、売店業務を事実上独占する公益財団法人矯正協会に対して、市場価格調査を行って適正価格を確保し、相見積りをとり、売上総利益率を10~15%にとどめるようにとの指導を行った[105]。しかし、日弁連は2008年に「これを書面化していない施設が多く、その結果を客観的に検証する制度になっていない」と、法務省の指導のやり方を批判する意見書を出している[106]。
この意見書で、日弁連は刑務所内で販売されている物品の価格設定に関して独自に調査を行い、「現状として必ずしも市場価格を上回っているといえない」と述べている[107]。しかし、刑務官を会員とする矯正協会が「矯正協会が各施設において被収容者に対する販売を独占的に行っていることは明らか」だと指摘した[108]。これは、受刑者が刑務所内で物品を購入するたびに刑務官が利益を得ることで、利益相反を生み、受刑者のあいだに不公平感を生じさせているということである[109]。日弁連はこの調査結果を基にして、法務省に対し、矯正協会が販売業者の地位を独占する現状を改め、多くの業者が参入できるような措置をとるべきだと勧告している[110]。
2019年、大阪弁護士会は、大阪刑務所内で販売される一部の物品について、納入業者が変更になったところ、変更前の2011年と比べて価格が1.3倍~4.5倍に上昇したことを明らかにした。そして、販売業者と協議の上、価格の改善を勧告している[111]。
刑務官による言葉の暴力
日本の刑務所では、刑務官による受刑者への暴言が後を絶たない。言葉による虐待行為は、マンデラ・ルールズ規則1に反する行為だ。
すべての被拘禁者は、人間としての生まれながらの尊厳と価値に対する尊重をもって処遇されなければならない。いかなる被拘禁者も、拷問及びその他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い又は刑罰の対象とされてはならず、またこれらの行為から保護される。これらの行為は、いかなる状況下においても正当な行為として実施されてはならない[112]。
2019年に釈放された元受刑者のN・アツコさんはこう振り返る。
雑談とか作業中の脇見とか、普通の怒り方だったら、「あ、アツコさん、脇見ね」とか言われて終わりだけど、統括さんとかお偉いさんが通ると、一瞬脇見したら「あんたたち仕事してんのに」どうのこうのってすごい勢いで言われて、あまりに怒られすぎて、ドキドキして、倒れたこともあったんですよ[113]。
刑務官が何気ない会話のなかで受刑者の犯罪について触れるという嫌がらせがあったという元受刑者もいる。2018年に釈放された元受刑者のB・マサコさんはこう語る。
罪を償うために刑務所に行っているのはわかるけど、一人の人間として接してほしい。罪を犯してきているのはもうわかっているのに、それをさらに言ってきたりとか、メンタルで弱る部分はある。言葉一つ一つで受刑者は滅入っている。やっぱり思い出しますよね、あの時ああいうこと言われたよな、とか[114]。
刑務官側は、受刑者を選んで虐待の対象にしているようだ。2017年に釈放されたY・チサコさんは言う。
先生(刑務官)の中で自分の好きな人と嫌いな人が分かれてるみたいで、機嫌が悪い人にはばーっと言ったりした。責められるときには「税金払っとるんよ。税金で養っとるんよ。なんやと思っとるん」などといわれた。私だけでなくほかの受刑者も言われた。先生の気分で怒るときはぶわーっと怒る。終わってからもしつこく怒ったりして。訓練室行くの怖い、みたいになってる人もいた。懲罰になることを自分で犯して訓練室を替わる人までいた[115]。
2018年後半に釈放されたL・マリさんはこう述べる。「刑務官が怒鳴るのはしょっちゅう。(それを見て)怒られたくないので不安にはなる。威圧感がある男性刑務官が通るときはおとなしくなる」[116]。
男性刑務官が女性受刑者に暴言を吐くこともある。薬物事犯として9回服役した元受刑者のR・エイコさんは言う。
男性職員の物言いが暴力団風な物言いをされて。男性刑務所からきたというけど、あたしたちは女性だから、恐怖がありましたよね。すごく。 結局作業中に、音がすると人間はパッと振り向きますよね。それを作業怠けてるって言われて。俺と目があったやろうが。お前と目があったけん。お前を注意しにきた。って言葉がね、とにかく暴力的なんですよ。無理やり、すみませんでしたって言うまで引き下がらない[117]。
医療への不十分なアクセス
この20年あまり、刑事施設などの矯正施設で勤務する医師(矯正医官)の数が減っており、受刑者が良質かつ不可欠な医療を適切なタイミングでアクセスできていない事態が生じている。2013年に法務省は、受刑者に十分な医療を提供するにあたって、矯正医官の定員を常勤相当で332人と定めた[118]。2022年4月現在、実際の人数は295人にとどまっている[119]。
矯正医療に関する有識者検討会のメンバーは、法務省に対し、「一般の医師との給与面における格差があること」、「生活に不便な地域に立地していること」、「患者が被収容者という特殊な立場にあるため医師と患者との間の信頼関係が構築しにくいこと」、「収容者でもある患者との信頼関係が構築しにくいこと」、「釈放後における接触の可能性などの恐怖心」などを理由として挙げている[120]。
有識者検討会はこの報告書で「直ちに抜本的な対策を講じなければ,矯正医療は早晩崩壊することを認識しなければならない」と指摘している[121]。2022年時点の実際の人数は、十分な医療を提供するために定められた矯正医官の定員を依然として割り込んでいる。
矯正医官を十分に配置しないことは、マンデラ・ルールズ規則27に反する。規則27は、「刑事施設が独自に病院設備を有している場合には、当該病院に送られた被拘禁者に対して適切な治療とケアを提供するための十分なスタッフと設備が備えられていなければならない」と定める[122]。
元受刑者からは、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、適切な医療を利用できないことが、服役中にとても気がかりだったとの指摘があった。2018年に釈放されたJ・ヒロコさんは、痛みに対する治療やメンタルヘルス面での支援をなかなか得られなかったという。
こちらとしてはすぐ診てもらいたいのだが、どうしても「ちょっと様子をみましょう」としばらくしてまた書いても「しばらく様子見ましょう」とそればっかり。やっと受診できても、実際に一番診てもらいたいところを診られた、それで終わりっていう感じだった。私は交通事故で入院したことがあって、頚髄捻挫をやっていて、ロキソニンを26日分出してもらっていたけど、それは出しすぎだからと20錠に減らすと、それはつらかった。精神科のお薬が必要で、どうしても眠れなかった時があった。医務願箋を出すけど、「ちょっと様子を見てください」とずっと診てもらえなかった、一か月も診てもらえなくて薬ももらえなかった[123]。
適切な医療を受けることが難しかったと話す元受刑者もいる。2015年~2018年に服役していた70代後半の女性T・ヒロミさんはこう話す。
寝てて急に腰が痛くなって、歩けなくて、「先生ここ痛くて歩けないよ」って言ったら、先生が医務に電話してくれて、医務が来たら「これぐらい大丈夫だよ」って、でも痛くて痛くてしょうがなくて。だから半日寝かせてくれて、それでもまだ痛い。そのうち治るからって[124]。
診察を受けるまでかなり待たされたという元受刑者は多い。1年ほど服役し、2018年に釈放されたF・マキさんはこう述べる。
風邪をひいて、診てもらうのが2週間後ぐらいなので、治っているんですよね。風邪を引いても言わないことばっかりでした。みんなも一緒です。歯が痛くても、言わない。どうせ抜かれちゃうから、って[125]。
病状の説明を求めても拒まれたり、医療者から不適切な対応をされたりしたと感じる女性受刑者もいる。服役中に70代後半になり、2018年に釈放されたC・カズコさんはこう語る。
身体中が痒く、医者に見せてもそんなの治ると言われた。一年何ヶ月も放置。医務に呼ばれて、その一時間後にお風呂だったら、薬を塗る意味がない。それを言っても聞き入れてもらえなかった。飲み薬も、頭痛薬は一週間に一回のみ。一回飲んで、その後また頭が痛くなっても、聞き入れてくれない。 便秘の時、3日も絶食。食べ物をお願いしますと言ってもくれない[126]。
20年ほど服役した後、2019年に釈放された元受刑者のO・ケイさんはこう振り返る。
わたしはヘルニアを患っていて、腰が痛いと言っても、休養1週間とか。診察はしない。薬をもらい、1週間寝てなさいと言われただけ。しばらくしたら治ったので、よかったのですが。診察してもらえないのは問題だと思った[127] 。
医師に真剣に話を聞いてもらえなかったという声もあった。9回服役したR・エイコさんはこう述べる。
私は頭が痛いから割れそうだからと言うと、「あなたは頭が割れたことはありますか?」って聞いてきます。歯が痛いと言うと、「あなたは覚せい剤でしょ? 私は薬をしたことがありません。僕は歯の痛みは好きだけどね、生きてる感じがします」て言って、挑発的でしょ? それは忘れられません[128]。
マンデラ・ルールズ規則27は、「すべての刑事施設は、緊急時における医療措置への迅速なアクセスを確保しなければならない。専門的な治療又は外科的処置を必要とする被拘禁者は、専門施設又は民間の病院へ移送されなければならない」と定める[129]。元受刑者で2018年に釈放されたN・アツコさんは振り返る。
乳がんになった子がいて、まだしこりがあるから診て欲しいといっても、もうすぐ出所だから出てからにしてって言われたりして。がんの子にそんなことするの?って[130]。
矯正医官が女性受刑者の病気を治療せずに放置した事例もある。2019年に釈放されたL・マリさんは指摘する。
もともと婦人科の病気(卵巣機能不全)がおととし発覚して、その直後に逮捕されてしまったので治療も何もできていない状態。治療の方向性が決まった状態で逮捕されてしまった。留置所にいるころからその話はしていたので向こうも把握していたはず。「拘置所でお薬もらえなかったら刑務所でももらえないよ」と皆言っていた。最初に申告はしたが何もしてくれなくて情緒不安定になった。薬がもらえなくて感情の起伏は激しかったが作業しているときは落ち着いていられた。でも何もないときに急に泣き出したり、自傷行為もあった[131]。
マンデラ・ルールズ規則27は、「臨床上の決定は、責任のあるヘルスケア専門職のみがなし得るものであり、医療分野以外の刑事施設スタッフによってくつがえされ、あるいは無視されてはならない」と定める[132]。しかし、刑務官も、医療の専門知識がないにもかかわらず、誰が診察を受けるのかを決める権限を行使できる。刑事政策の専門家はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、刑務官はそうした管理権限を虐待的な、あるいは有害なかたちで行使しかねないと指摘する[133]。
矯正医療に詳しい龍谷大学の赤池一将教授は、ヒューマン・ライツ・ウォッチにこう指摘した。
医師法では、診療を求める患者があったら医師はそれを診察しないといけないという規定もありますし、それからいわゆる診療が必要であるかどうかという判断、あるいは診療の内容等については医師でなければ判断できない。日常的な慣行として刑務所という閉鎖的な社会の中で、准看護師の資格があるといっても、刑務官という 医師でない人間の裁量の範囲が、一般の社会の中で行うよりもかなり広く捉えている。その判断が、医師でないわけですから、それだけの知識や知見がないわけですから、時に重大な患者を後回しにしてしまうケースもある[134]。
不十分なメンタルヘルス・サービスへのアクセス
バンコク・ルールズ規則12は、「個別化された、ジェンダー・センシティブで、心的外傷について理解した包括的なメンタルヘルスケアとリハビリ・プログラムについて、メンタルヘルスケアのニーズを有する女性受刑者が、刑務所内または非拘禁環境で利用できるようにするものとする」と定めている[135]。
さらに、マンデラ・ルールズ規則25は、「すべての刑事施設には、特別なヘルスケアのニーズを有し、あるいは社会復帰の妨げとなる健康問題を抱える被拘禁者に特別な注意を払いつつ、被拘禁者の身体的及び精神的健康を評価し、守り、改善することを任務とするヘルスケア・サービスが整えられるものとする」と定めている[136]。
しかし、日本の女性受刑者は、メンタルヘルス・サービスが不十分な状況にも直面している。例えば、かかりつけの治療者との通信を刑務官が認めないこともある。東京拘置所で1年以上収監され、収監前にカウンセリングを受けていたマサミ・Fさんは「主治医の先生に手紙を書きたいと言ったのに絶対ダメと言われて書かせてくれなかった」と述べる。「手紙をかける相手は決まっている、家族と向こうから来た人。先生が私個人に手紙をくれるわけないし」[137]。
刑務所には、メンタルヘルス・サービスは必要ないという雰囲気があると指摘する受刑者もいる。2022年に釈放された元受刑者で、知的障がいを持つM・マリコさんはこう語る。
服役中はカウンセリングなどはなかった。カウンセリングをお願いできるような感じでもない、人として扱っていない、完全に。「お前らの話はどうでもいい、お前らが死のうが関係ない」という雰囲気を醸し出している……受刑者も人間。ルールを破った、悪いことをしたことも事実だけど、同じ人間なので、同じ悩みがある、相談を受けてほしいなと思う[138]。
メンタルヘルス・サービスが利用できる場合でも、受刑者に知らされていないことも多い。2018年に釈放された元受刑者のH・キミコさんは「(カウンセリングの機会は)ないです。受けてみたいなっていうのはあったんですよ、でもそういう手続きが分からなかった。受けている受刑者は「先生から言われた」と言ってて、でも私は言われていなかったから」と振り返る[139]。
また、メンタルヘルス・サービスを利用するまでかなり待たされたと話す受刑者もいる。インタビュー時点で仮釈放中だった元受刑者のW・メグミさんはこう話す。
今受けています。小さいころからの家庭環境の問題でPTSDとうつ病の治療を進めています。調子の悪さは小さいころから感じていた、でも自分は気のせいだと思っていた。強く勧められてから行った。刑務官に勧められた。刑務所では受けていない、出てから受けた……和歌山では治療など受けられるシステムがあったけど少し時間がかかるものだった。医務願箋を出してから数か月かかる。周りに受けている人が多くて、時間がかかるものだった[140]。
バンコク・ルールズ規則35は、「刑務所職員は、女性受刑者のメンタルヘルスケアのニーズ及び自傷や自死のリスクを発見し、支援の提供や、専門家への照会を通じて支援を提供するための研修を受けるものとする」と定める[141]。しかし、刑務官も医療スタッフも心理社会的障がい(メンタルヘルスの問題)を持つ女性受刑者に無関心だったとの指摘が女性受刑者からはあった。過去の心的外傷からくる後遺症にどうにか耐えていたという元受刑者のG・ナオコさんは、こう述べる。
精神の安定剤がほしかったし、頭痛薬とかも必要だったけど、つらいと休養になってしまうだけなので、「大丈夫です」と言ってしまう。話を聞いてほしいっていうと、「そんな話なんか聞かないわよ」と言って立ち合いの刑務官に追い出されてしまう[142]。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大
2020年前半には新型コロナウイルス感染症が日本で急拡大したため、法務省は法務副大臣を本部長とする対策本部を設置するなど、刑事施設での感染拡大を封じ込める措置をとった[143]。
例えば、報道によれば、札幌刑務所は新規入所者に対し、少なくとも1週間は別棟で隔離して、それから他の受刑者と同じ房に収監した。また、法務省は、緊急事態宣言が発出されている期間は、刑事施設での面会を制限し、対象を「弁護人等」に限定した。
2023年2月には、マスク、手指消毒、上記対策本部が定めた新型コロナウイルス感染症に関する基本的な対策を除いて、刑事施設での面会制限はなくなっている。
2020年4月23日、ヒューマン・ライツ・ウォッチは森まさこ法務大臣(当時)に書簡を送り、女性受刑者には高齢者が多いこと、刑事施設内での医療へのアクセスなど、本報告書に記されている問題を提起した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、日本政府に対し、「ソーシャル・ディスタンシングのルールを運用して新型コロナウイルス感染症の蔓延防止が実施できるよう、刑務所やその他の収容施設の被拘禁者を速やかに釈放すべき」することを緊急に要請した[144]。
法務省はヒューマン・ライツ・ウォッチの要請に回答しなかった。またヒューマン・ライツ・ウォッチは、新型コロナウイルス感染症を考慮して被拘禁者の釈放が繰り上げられた事例を把握していない。
Ⅲ.人権侵害を助長する政策
収監削減策の欠如
国際的なベストプラクティスは、各国政府に対して「他の選択肢を用意して拘禁を減少させ、かつ、人権の遵守、社会正義の要求及び犯罪者の社会復帰のニーズを考慮して刑事司法政策を合理的なものとするために、自国の法制度において非拘禁措置を発展させるものとする」ことを推奨している[145]。
判決時の累犯者の収監削減策の欠如
日本では現在、自由刑に代わる刑罰が複数採用されている。具体的には、科料と罰金、保護観察がつく場合とつかない場合のある、懲役・禁固の全部または一部の執行猶予などだ。
2021年、日本の裁判所では、有罪判決が下された事件の78%で罰金の支払いが命じられた[146]。また懲役刑の62%、禁錮刑の98%について執行が全部猶予された[147]。
刑法第25条では、基準を満たした初犯者等について、裁判官は刑の執行を猶予することができると定める[148]。2016年には、薬物使用等の罪を犯した人に対する刑の一部執行猶予制度が開始された[149]。
しかし、罰金や刑の執行猶予が選択できない場合、裁判官には、「譴責及び警告といった口頭による制裁 」、「社会奉仕命令」 、「自宅拘禁」など、非拘禁措置に関する国連最低基準規則(東京ルールズ)に記載されている代替刑を命じる選択肢がない[150]。
こうした選択肢がないため、裁判官は、刑の全部または一部を猶予される基準を満たさない累犯者を刑務所に送るしかない。
代替刑とは何か? 世界的に見ると、代替刑は、刑の執行猶予や執行延期、保護観察といった、収監の代替措置を提供することで、自由刑の比率を下げるベストプラクティスである。 1990年、国連総会は、非拘禁措置に関する国連最低基準規則(東京ルールズ)を採択した。この規則には量刑内容についてのセクションがある。「司法機関は、非拘禁措置につき一定の幅で裁量を有するが、判断に際しては、犯罪者の社会復帰上のニーズ、社会の保護及び被害者の利益を考慮に入れるべきであり、適切な場合には、被害者はいつでも意見を聴取されるべきである」とする。 このセクションは量刑について次のような選択肢を列挙している。「(a)説諭、譴責及び警告といった口頭による制裁 (b)条件付き釈放 (c)身分上の制裁 (d)罰金及び日数罰金といった経済的制裁並びに金銭的刑罰 (e)没収又は財産収用命令 (f)被害者に対する損害賠償又は賠償命令 (g)刑の宣告の猶予又は延期 (h)保護観察処分(probation)及び司法上の監督 (i)社会奉仕命令 (j)青少年保護観察センター(attendance centre)への送致 (k)自宅拘禁 (l)その他の形態の施設収容によらない処遇 (m)上記の各種措置の併用。」 各国は、代替刑の実施により、不必要な拘禁の廃止に取り組んでいる。例えば、北アイルランドでは、犯罪者は少なくとも40時間の社会奉仕命令を言い渡されることがある[151]。スウェーデンでは、犯罪者は、最長3ヵ月の自由刑の代わりに、電子機器による強力な監視措置を選ぶことができる[152]。 |
判決後の執行停止の適用が少ないこと
日本の検察は、受刑者の人数を削減できる既存の法律を十分に活用していない。検察官には、特定のカテゴリーの受刑者の収監を減らす選択肢があり、女性支援を特に目的とした規程も存在する。
刑事訴訟法第 482 条は、妊娠、育児や介護、年齢、健康状態などの理由に基づき、検察官による刑の執行停止を認めている[153]。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によると、この規定が使用される機会は皆無に近く、収監後に刑の執行停止が行われる可能性は極めて低い。
例えば、2018年~2022年に刑の執行停止がなされた女性受刑者はわずか11人だ[154]。この数字は、本人が「心神喪失の状態」にあると判断された場合に、検察官による刑の執行停止を定めた刑事訴訟法第480条による執行停止事例も含めたものだ[155]。
女性は、妊娠出産時に適用される刑事訴訟法第482条の規定により、刑の執行停止の対象となる。しかし、本報告書で後述するように、この規定が利用されることはほぼ皆無だ。日本では、女性は男性よりも子どもや大人のケアを担うことが多いが、そのようなケア提供の責任ゆえの刑の執行停止はほとんど考慮されていないと見られる[156]。
母親に対する刑の執行停止の権限を行使しない検察官
女性受刑者には、子どもの養育を理由に刑の執行停止が認められうるが、この規定が適用されることはほぼ皆無だ。刑事訴訟法第482条は、妊娠出産や乳幼児の養育を一人で行っているといった受刑者の状況に応じて、検察官が刑の執行停止を行うことを認めている[157]。
しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によると、幼い子どもを持つ女性の多くはこの規定のことを知らない。検察官もこの規定をほぼ適用しない。
刑事訴訟法第482条は、本報告書注153で示した事由により、検察官による刑の執行停止を認めている。次に母親に特に関係するものを挙げる。
3. 受胎後150日以上であるとき。
4. 出産後60日を経過しないとき。
5. 刑の執行によって回復することのできない不利益を生ずる虞があるとき。
7. 子又は孫が幼年で、他にこれを保護する親族がないとき。
8. その他重大な事由があるとき。[158]
元受刑者で5人以上の子どもを持つI・ナルミさんは、2015年に窃盗罪などで逮捕され、3年近い懲役刑を宣告された。ナルミさんはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、刑事訴訟法第482条のこの規程について知らされたことはまったくなかったと話す。
捕まってから、旦那が親と一緒に子どもを面倒みてくれて、
そのあと事故にあって意識不明になって、そのあと子どもたちは施設に行った[159]。
当時、ナルミさんの末児は1歳にもならなかった。
刑事訴訟を専門とする小竹広子弁護士は、刑事訴訟法第482条を適用するよう求めたことがあると話す。
ほぼほぼそういう話は出ない。私が使ったのは「回復することのできない不利益を生ずる恐れがあるとき」という条文。あとは親のお葬式に出たいという依頼人。どちらも却下された……。刑が確定したら終わりと考えている弁護士が多いのもあるかもしれない[160]。
刑事弁護を専門とする大野鉄平弁護士によれば、この条文は、刑が確定した後に発動することが想定されており、そうなると受刑者には弁護人による法的代理権がないため、ほとんど使われてないと指摘する[161]。
薬物の個人的な所持及び使用の犯罪化と物質使用症のある人への自主的な治療の欠如
日本の刑法では、薬物の所持や使用に厳罰が科される。覚せい剤、コカイン、ヘロイン、LSD、MDMAなどの薬物の所持と使用、そして大麻の所持は犯罪である。[162]こうした犯罪には、大麻所持の5年以下の懲役から覚せい剤所持の10年以下の懲役までの刑が科される[163]。大麻の販売はさらに罰則が厳しく、10年以下の懲役または300万円以下の罰金となる。また覚せい剤の販売は1年以上20年以下の懲役である[164]。
覚せい剤を含む薬物に関連する犯罪は、現在刑務所に収監されている女性に2番目に多く見られる犯罪である。2017年の調査では、男女受刑者699人のうち93%が、覚せい剤を含む薬物に関連する犯罪で複数回服役していることが明らかになった[165]。また、法務省によると、2021年に覚せい剤取締法違反で入所した女性受刑者のうち、約60%が同罪で複数回入所している。[166]
薬物使用等の罪で刑務所に収監される女性が多いことから、法務省は現在、すべての刑務所で再発防止プログラムを提供している[167]。このプログラムは、参加者に物質依存に関するDVDを視聴させるコアカリキュラムと、このDVDに基づいたワークブックで構成されている。コアカリキュラムの他に、参加者に対して、自らの薬物使用を引き起こした外的・内的誘因と再発のリスクを理解させるプログラムもある。その他、教育専門家が参加するグループワーク、民間自助グループとのミーティング、追加のDVD教材の視聴、個別カウンセリングといったプログラムも用意されている[168]。
しかし、そうしたセッションへの参加を事実上強制されたと話す元受刑者もいる。薬物事犯で2年間服役し、2019年に釈放された元受刑者のS・トシコさんはこう話す。「薬物プログラムに入ったんですよ。それも苦労だったかな。前回も前々回も薬物プログラム入ったんですけど、嫌だったんですよ。なぜなら、選ばれるからですよ、希望するのではなくて、先生が選んで、入りなさいって。強制的に。」[169]
物質使用症のある女性受刑者には、家族間暴力を含む心的外傷の過去が多く見られる[170]。法務省が受刑者の薬物使用の動機を調査したところ、女性受刑者は「嫌なことを忘れるため」に薬物を使用することが最も多かった。一方で男性では「快感を得るため」という回答が最も多かった[171]。薬物使用等の罪で3回以上服役した元受刑者のT・ジュンコさんはこう語る。
ひどい虐待は受け続けてきました、母親から。母親は後妻なんですね、若くて、まさか私の父に私のような子どもがいると思わなくて、私の顔が生みの母にそっくりなんですよ。NA(ナルコティック・アノニマス)でみんなふつうにこういうのは語ってる、彼氏のDVとか虐待とか。間違いない、寂しいもん、愛されたかった。親からそんなことされたたまったもんじゃない。覚せい剤やると、自分が一番悪いことをやってるので、母親が私を虐待しても、私のやってることの方が悪いので母を許せるんです。だから、言うんですね、「お母さん、私覚せい剤やった」って、そうすると「あなた身体を大事にしなさい」って言ってくれるんですね、それがうれしくて[172]。
薬物単純所持に厳罰が科され、メンタルヘルス・サービスが十分にアクセスできないことに、女性受刑者に見られる心的外傷の過去が相まって、物質使用症のある女性の再犯率がさらに上昇している。薬物依存に詳しい精神科医の松本俊彦氏は、ヒューマン・ライツ・ウォッチにこう語った。
子ども時代の虐待・PSTDを緩和するために薬を使っている。自己治療の為に使っている人が非常に目立つ。再犯率は高いのだけれど、困難な状況の中で緩和するために使われていて、犯罪としてみなされ、刑務所に入れられる。罰せられるけど、彼女たちの心の痛みを和らげる方法は何も示されず、ただ刑罰が下りる。このシステムの中では、ますます状況は悪くなる[173]。
地域社会とのつながりを保つ上での障壁
受刑者は男女ともに、刑務所外の人びととの面会などの接触の機会が制限されているため、地域社会とのつながりをなかなか維持できない。女性用の刑事施設が限られており、家族から離れた施設に収監されることが多いため、女性は特に制限を受けている[174]。
バンコク・ルールズ規則4は、「女性受刑者は、ケア提供の責任とともに、個々の女性の希望と、適切なプログラムとサービスの利用可能性を考慮に入れた上で、可能な限り、自宅又は社会復帰する場所に近い刑務所に配置されるものとする」と定めている[175]。またマンデラ・ルールズ規則59も、「被拘禁者は、可能な限り、自宅又は社会復帰する場所に近い刑事施設に配置されるものとする」と定める[176]。
しかし、受刑者は、収監先の刑務所を選ぶことはできない。2022年に出所した元受刑者のM・マリコさんは、自宅から遠く離れた福島女子刑務支所で服役していたため、家族と面会できなかったと述べる。
面会者はいなかった。福島は遠い、交通費がかかるので来れないと言われた。お父さん、埼玉に住んでいる。拘置所で、あなたはここに行きますって言われて当日に連れていかれる[177]。
受刑者には、刑務所が面会の必要性を認めた場合、親族、友人、弁護人と限られた回数の面会が許可される。素行に基づく優遇区分第1類から第5類までのランクに応じて、女性受刑者には少なくとも月に2回の面会が認められている。1回の面会時間は30分以上とされ、許可されるのは通常平日日中に限られる。面会室は一般的にアクリルやガラスの板で仕切られているが、区分によっては仕切りのない面会が認められることもある。
受刑者が家族や友人など外の世界と定期的に接触できるようにすることは、受刑者の心身の健康だけでなく、出所後の社会復帰を成功させるためにも重要である。
マンデラ・ルールズ規則58は、「被拘禁者は、必要な監督のもと、定期的に家族および友人と、以下の方法により連絡を取ることを許されなければならない。(a)文通、利用可能な場合は遠距離通信、電子、デジタル及び他の手段、および(b)訪問を受けること」と定める[178]。
しかし、子どもが刑務所にいる親と面会するための特別な取り計らいはない。このため親は困難な環境の下で子どもに会うことを余儀なくされる。2016年に釈放された元受刑者のU・エツコさんはこう語る。
24歳の時に(自分の子どもと親戚が)一回来ました。そのころ栃木(刑務所)は、スクリーンのない面会室だった。スクリーンで仕切られていなくて、畳の部屋でおうちみたいになっていた。娘に触ることもできた……(ガラス張り)でなかったからこそ、連れてきてくれた。そのあとは、ガラス張りになったことで、(刑務所だということが)分かるし、会わせないよ、という感じでした[179]。
面会は通常平日しか認められないため、受刑者の子どもたちは、母親に会うか、学校を休むかの選択を迫られることが多い。2019年に釈放された元受刑者のO・ケイさんは、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し「頻度は最初の頃は頻繁でした、3か月に一回とか……平日に面会をしに来たときは(学校を)休んだと思います」と述べた[180]。
女性が幼い子どもに会えるのは、刑務所に子どもを連れて面会に来てくれる人がいる場合に限られる。2018年に釈放された元受刑者のN・アツコさんはこう振り返る。
お母さんも生きとったから、来てくれたけど。(私が)中にいる間に死んでしまって。 子どもとは中学生になるまで会ってなくて。中学生になってから(学校の先生に)連れてきてもらえるようになったんですよ。平成12年(2000年)に生まれて、3歳の時に別れたんですよ[181]。
また、高齢の女性は、犯罪を繰り返すと家族から敬遠されがちなため、地域社会とのつながりをなかなか保つことができない。また、高齢の女性受刑者が服役中に年配の親族が他界するケースもある。窃盗罪で3年ほど服役し、2018年に釈放された80代の元受刑者、T・ヒロミさんはこう話す。
(服役中は)夫は具合が悪かった。面会は拘置所と警察には何回か来て。私が刑務所入った後になくなっちゃった。全然知らせてくれなかった。刑務官が「飛行機で帰るか?」って聞くから、旦那が迎えに来るから大丈夫って言ったら、刑務官が「Tがここにきて1年後に亡くなったんだよ」って、びっくりして[182]。
面会のほか、受刑者は数の制限なく手紙を受け取ることが認められている。受刑者からは、区分に応じて、決められた数の手紙を出すことができる[183]。手紙の内容は、投函前に刑務官によって検査される。受刑者は、現金、日用品、本や雑誌などを、刑務所側がその品物や送り主が矯正に不適切と判断しない場合に、受け取ることができる[184]。
インターネットは利用できない。電話は、上位区分の受刑者の一部には認められているが、厳しい手続きによって管理されており、女性受刑者が刑務所の外との接触を維持しようとする努力の妨げになっている。元受刑者のO・ケイさんは言う。
電話はまずプリペードカードを買って、何月何日に電話の予約をするので、2週間くらいかかる。母と電話する時、例えば母と電話していたときに、隣に息子がいたので電話を一瞬変わったとしても、名前を申請していないので、後で怒られた[185]。
現在の郵送方法では、返送先住所の記載を含め、受刑者からの手紙だとすぐわかってしまうため、家族に手紙を書くことをためらう元受刑者もいた。このことは、受刑者が感じているスティグマや、家族に恥をかかせないだろうかと心配する気持ちと関係する。元受刑者のS・トシコさんはこう語る。
娘にもっと手紙を出したかった。娘は寮暮らしだったんで、会社の事務所に届くんですよ。住所が知られたくないのがあったので、だから出すのは躊躇して、友達から伝言をお願いしてやりとりしていました[186]。
地域社会とのつながりを失うことは、女性受刑者にとって精神的な苦痛を伴うだけでなく、社会復帰の成功にも直接的な悪影響を及ぼす。窃盗罪で4回刑務所に入った60代後半の元受刑者ヤスコ・Yさんは述べる。
娘と孫がいるけど、今回は手紙をずっと出してるけど返事をもらっていない。一回目、二回目は(娘が)身元引受人になっててくれたけれど、今はなってくれていない[187]。
受刑者の社会復帰の成功を阻む障壁
刑務所からの出所後、多くの元受刑者が、服役歴による社会的なスティグマに直面し、仕事や家を見つけるのに苦労している。
2018年に約3年ぶりに釈放された元受刑者のY・チサコさんはこう述べる。
一番いやだったのは、私が批判されるのはいいんですけど、実際に子どもたちとか主人が責められているのを見た……私に直接言うのはいいんですけど、なんで子どもたちを責めるのかと。子どもとか主人に言われるのが本当につらかったんですよ。そういうことを話したかったんですけど、家族の前では涙ながしたくないので[188]。
多くの女性受刑者は、刑務所で数ヵ月から数年間フルタイムで働いていたにもかかわらず、手持ちの現金がほとんどない状態で釈放されるため、食事、交通、住居などの基本的なニーズを満たすのにも苦労する。窃盗と薬物使用等の罪で2つの刑務所に収監されたことのある元受刑者のM・ハナエさんはこう述べる。
(最初の刑務所は)ポンって出たけど、はっきり言って何もない状態。(刑務所)からの交通費もなかったですし、報奨金出たけどそれで帰ってきた状態。どうしたらいいかという状態で出されて、お金がなくて窃盗始めた。笠松出た時は2万5千円ぐらい。入ったときは0に近い状態。大半が帰りの飛行機に使った[189]。
高齢の女性は特に釈放時のリスクが高く、ほとんどまたはまったく支援を受けることができない。2019年に釈放された元受刑者のU・ヨウコさんはこう語る:
刑務所から、老人だから連れて帰ってくれ、頼んだよ、と言われた。(その人は身内は)子どもはいるみたいだけど連絡先が分からない。耳が遠いから大きな声を出さないとわからない。道路に出て車に引かれたら私のせいになっちゃうのかなと思う。そのへんは行政にちゃんとやってほしい[190]。
刑務所に対する効果的かつ独立した監視の欠如
日本の刑務所制度には、刑務所内で虐待を受けた女性が助けを求める機会を提供し、アカウンタビリティ(責任)を追及し、改革を推進するための強固なメカニズムがない。
2006年、日本では100年近く存続した監獄法に代わり、新たに刑事被収容者処遇法が制定された。これを受けて設置された刑事施設視察委員会が、刑務所の監視を行っている。委員会は、法律、医療、行政各分野の専門家など10人以内の委員で構成される。
委員は、訪問や被拘禁者との面接を通じて、刑務所や少年院などの刑事施設の現状を監視する役目を担っている[191]。また、委員会は、各刑事施設に提案箱を設置しており、被拘禁者が書面で投函した意見や苦情は委員会に伝えられる[192]。委員会には、刑務所長などの刑事施設の長に意見を述べる権限がある[193]。
この苦情処理メカニズムは、すべての受刑者が利用できるという立て付けになっているが、受刑者はそのことを知らなかったり、信用していなかったりすることが多い。元受刑者のF・マキさんはこう語る。
投稿箱ありました。(先生からの)説明はないですね。意見を入れる投函箱はありましたけど、誰も入れた人はいません。筆跡とかでばれちゃうじゃないですか、(目を付けられるのは)嫌ですからね[194]。
刑務官が苦情申立の仕組みについて適切な説明をしていないことは、マンデラ・ルールズ規則54(b)に反する。
すべての被拘禁者は、入所に際し、以下の事項に関する情報を書面ですみやかに提供されるものとする。 (b) 被拘禁者の諸権利。これには、情報請求、法律扶助の枠組みを通したものを含めた法的助言へのアクセス、要請あるいは不服申立の手続につき、認められている方法が含まれる[195]。
ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、刑務官から苦情申立の仕組みについて詳しい説明はあったものの、提案箱は利用できないところに置かれていたと指摘する元受刑者もいる。元受刑者のJ・ヒロコさんは言う。
一回だけ、説明があったけど、他の工場の方が一度入れたことを見たけど、工場ではだれも入れる人はいなかった。入れてもそれが反映されるのかどうかっていうのがあった。一度だけ、入所当時に説明はあったけど、もう行きも帰りも(工場から)列を乱さず歩かないといけないから、意見箱があっても、入れますと言えない状況というのは事実です。作業中もできない[196]。
また、受刑者の秘密性も担保されていない。インタビュー当時に仮釈放中だった元受刑者のY・アイさんはこう語る。
(投稿箱は)工場とお部屋の隔離された分かれ目のところの、
扉の所にありました……常に刑務官がいる。刑務官から紙をもらって書く[197]。
秘密の欠如は「被拘禁者が要請又は不服申立を安全に行えるよう、また、申立人が求める場合には秘密裏に申立ができるよう、保護措置が実施されるものとする」と定めたマンデラ・ルールズ規則57(2)に反する[198]。
受刑者が苦情を訴える際に秘密やプライバシーが確保されないという問題は,日本弁護士連合会が遅くとも 2009 年から取り上げてきた[199]。刑事施設視察委員会は,受刑者にとって意見箱を身近なものにするための改革案を提示している。屋内運動施設など刑務所内のアクセスしやすい場所に設置し,紙の用紙を全受刑者に配布するなどの改革案を示している[200]。
Ⅳ. 適用されるべき国際法および国際基準
日本は中核的な国際人権条約を批准している。刑事司法と被拘禁者の処遇に関わる問題は、主に、市民的及び政治的権利に関する国際規約(市民権規約)[201]、拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(拷問等禁止条約)[202]などの国連条約や、国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルールズ)[203]などの様々な国際基準で扱われている。現行の日本の司法制度と刑事施設の慣行の多くは、こうした条約や基準で定められた内容に反するものである。
国連被拘禁者処遇最低基準規則は、各国政府が拘置所や刑務所にいる被拘禁者の人権を保護するためのガイドラインを定めた中核的な国際文書である。この規則は1955年に犯罪の防止と犯罪者の処遇に関する第1回国連会議で採択された後、1957年7月に国連経済社会理事会で承認された。5年間の見直しプロセスを経て改正され、2015年12月に国連総会で採択された現行の規則は「マンデラ・ルールズ」と呼ばれる[204]。
マンデラ・ルールズのほかに、非拘禁措置に関する国連最低基準規則(東京ルールズ)[205]と、女性犯罪者の処遇及び非拘禁措置に関する国連規則(バンコク・ルールズ)[206]が定められている。
東京ルールズは、犯罪者と社会全体の両方の利益という観点から、各国政府に代替刑の採用を促している。バンコク・ルールズは、東京ルールズが「女性特有のニーズに十分な注意を払っていない」ことを受け、これを補完するために2010年に採択された[207]。
マンデラ・ルールズ、東京ルールズ、バンコク・ルールズは国家への法的拘束力を有しないが、国際的な規範や原則に沿った被拘禁者の処遇に関して、各国政府に詳細な指針を示すものである。
収監の代替措置
日本政府は、バンコク・ルールズが定める収容の代替措置についての基準を満たしていない。
具体的には、バンコク・ルールズ規則58は、「女性犯罪者は、本人の背景や家族とのつながりへの十分な配慮なしに、家族やコミュニティから引き離されてはならないものとする。犯罪を行った女性を管理する代替的な方法、例えば、ダイバージョン(迂回)措置や公判前および量刑時の代替措置は、適切かつ可能な限り実施されるものとする」と定める[208]。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査から、日本政府は、物質使用症のある、心理社会的障がいを有する、または妊娠中や幼い子どものいる多くの非暴力犯罪者を過剰に収監していることが明らかになった。
受刑者のヘルスケアへのアクセス
到達可能な最高水準の身体及び精神の健康は、世界人権宣言、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)[209]をはじめ、日本が批准する各種条約など多くの国際人権文書に明記された人権である。
社会権規約の締約国である日本は、受刑者に「到達可能な最高水準の身体及び精神の健康」(社会権規約第12条1)を提供する義務を負う。社会権規約の遵守状況を監督する国連経済的・社会的及び文化的権利委員会は、「各国は、特に、受刑者又は被拘禁者を含むすべての者が予防、治療及び緩和医療サービスを平等に利用することを拒否または制限しないこと、国の政策として差別的慣行を強制しないこと、および女性の健康状態およびニーズに関する差別的慣行を強制しないことによって、健康への権利を尊重する義務を有する」 とする[210]。
同委員会はさらに、「保健施設、物品、サービスも科学的、医学的に適切で良質なものでなければならない。そのためには、特に、熟練した医療者、科学的に承認された期限内の医薬品や病院設備、安全で飲用可能な水、十分な衛生設備が必要である」とする[211]。
マンデラ・ルールズは、規則24(1)で、「被拘禁者に対するヘルスケアの提供は、国家の責任である。被拘禁者は地域社会において利用可能なものと同水準のヘルスケアを享受し、かつ、その法的地位に基づく差別を受けることなく、必要とするヘルスケア・サービスに無料でアクセスできなければならない」と定める[212]。
また規則27(1)は、「すべての刑事施設は、緊急時における医療措置への迅速なアクセスを確保しなければならない。専門的な治療又は外科的処置を必要とする被拘禁者は、専門施設又は民間の病院へ移送されなければならない。刑事施設が独自に病院設備を有している場合には、当該病院に送られた被拘禁者に対して適切な治療とケアを提供するための十分なスタッフと設備が備えられていなければならない」と定める[213]。
また、上述した経済的・社会的及び文化的権利に関する委員会は、「すべての保健施設、物品及びサービスは、医療倫理を尊重し、文化的に適切でなければならない。すなわち、個人、マイノリティ、諸民族およびコミュニティの文化を尊重し、ジェンダーおよびライフサイクルに基づく要請に配慮するとともに、秘密を尊重し、当該人物の健康状態を改善するために設計されていなければならない」と定める。
しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、多くの女性受刑者が刑務所内で良質なヘルスケアを利用するにあたり、いくつもの障壁に直面していることを明らかにした。刑務官によってヘルスケアの利用を拒否される場合いれば、矯正医官に詳しい診察を拒まれた場合もあった。矯正医官の数が少ないことも、この問題をいっそう深刻なものにしている。
ヘルスケアにおける差別の禁止
女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女性差別撤廃条約) [214]は、第 12 条で、国は「締約国は,男女の平等を基礎として保健(ヘルスケア)サービスを享受する機会を確保することを目的として,保健の分野における女性に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとる」と規定する[215]。社会権規約の締約国である日本は、ヘルスケアへの権利をはじめ、同条約によって保障される権利が性差によらず享受できるようにすべきである。
ジェンダーに固有なヘルスケア・サービスへのアクセスの提供
バンコク・ルールズ規則10は、「少なくともコミュニティで利用できるものと同等のジェンダーに固有なヘルスケア・サービ スを女性受刑者に提供するものとする」と定める[216]。
さらに、同規則12では、「その人のための、ジェンダーに配慮し、心的外傷を理解したインクルーシブなメンタルヘルスケアおよび社会復帰プログラムが、刑務所内または非拘禁環境下で、メンタルヘルスケアのニーズを持つ女性受刑者に提供されるものとする」と定める[217]。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査から、生理用品の利用といった基本的なケアを含めて、ジェンダーに固有のヘルスケア・サービスの利用が認められなかった事例があることがわかった。
刑務所でのメンタルヘルス・サービスの利用の提供
マンデラ・ルールズは、「すべての刑務所には、特別なヘルスケアのニーズを有し、あるいは社会復帰の妨げとなる健康問題を抱える被拘禁者に特別な注意を払いつつ、受刑者の身体的及び精神的健康を評価し、守り、改善することを任務とするヘルスケア・サービスが整えられるものとする」と定める[218]。
また、「刑務所の体制は、受刑者らの責任意識及び人間としての尊厳の適切な尊重を弱めがちな、刑務所生活と自由な生活との差異を最小化するよう努めなければならない」とする[219]。
元受刑者は、利用可能なメンタルヘルス・サービスがないという理由などから、メンタルヘルス・サービスの一部を、身体、精神、またはその他の障がいを持つ女性受刑者が利用できないと説明した。また、身体的な制限がある高齢受刑者に十分なケアがないことも指摘した。
物質使用症に対する治療へのアクセスの提供
バンコク・ルールズ規則15は、「刑務所のヘルス・サービスは、過去の被害、妊娠中の女性および子どもがいる女性の特別なニーズ、ならびにその多様な文化的背景を考慮した上で、女性薬物濫用者のために設計された専用の治療プログラムを提供または促進するものとする」と定めている[220]。
同規則 62 は、「犯罪予防およびダイバージョン(迂回)や代替刑のために、ジェンダーに配慮し、心的外傷を理解した、女性専用の薬物濫用治療プログラムのコミュニティでの提供と、そうした治療への女性のアクセスを改善するものとする」と定める[221]。
現在、刑務所では物質使用症の治療が行われているものの、同意に基づいておらず、過去の心的外傷、特にDVや性虐待といった、ジェンダーを理由とする心的外傷に十分に対処できていないと指摘する受刑者らがいた。
陣痛時、出産時、産後の女性受刑者に対する拘束具の使用禁止
バンコク・ルールズ規則24は、「陣痛時、出産時および産後の女性には、拘束具を決して用いないものとする」と定める[222]。
日本はこの国際的なベストプラクティスを満たしていない。法務省は、分娩室の入室前後では、妊娠中や出産後の女性受刑者に対して一般的に手錠を使用していると述べた。
母とその子どもの権利
子どもの権利に関する条約[223]は、第2条(2)で「締約国は、子どもがその父母、法定保護者又は家族の構成員の地位、活動、表明した意見又は信念によるあらゆる形態の差別又は処罰から保護されることを確保するためのすべての適当な措置をとる」と定める[224]。
親が収監され、施設外に残された子どもに関わるのは、同第9条(3)の「締約国は、子どもの最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている子どもが定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する」という規定である[225]。
国連子どもの権利委員会は、「親および主たる養育者に判決を下す際には、可能な限り、公判前および公判段階を含め、自由刑ではなく非自由刑を宣告するものとする。拘禁の代替措置は、さまざまな刑罰がその影響を被る子どもの最善の利益に与えうる影響を十分に考慮した上で、ケースバイケースで利用可能とされ、適用されるものとする」と勧告する[226]。
また、委員会は、「すべての子どもは、親と共に過ごす権利とともに、家庭生活と自らの発達に資する社会環境への権利を有する」と勧告した。この認識を背景に、委員会は「子どもを収容中の親と一緒に生活させるか、それとも施設外で生活させるかについて、子どもの最善の利益がより尊重されるのはどちらかを見極める判断は、常に個別に行われるものとする」と勧告している。子どもが収容されている親と生活する場合について、委員会は「締約国は、収容されている親と生活する子どもに対し、保健施設や教育施設など、十分な質を備えた社会的サービスを提供するものとする」と勧告している[227]。
バンコク・ルールズ規則50では、「子どもと共に刑事施設で過ごす女性受刑者は、その子どもと共に時を過ごす機会を最大限提供されるものとする」と規定されている[228]。
さらに、同規則52は、「子どもを母親から引き離す時期についての決定は、関連する国内法の範囲内で、個別評価と子どもの最善の利益に基づくものとする」とした上で、「子どもを母親から引き離して家族または親族の元に預けるか、施設に預けるかについては、そのことが子どもの最善の利益になり、公共の安全が損なわれない場合について、女性受刑者は子どもとの面会にあたって最大限の機会と施設とが与えられるものとする」と定める[229]。
また、委員会は、子どものいる受刑者が、子どもが住む場所にできるだけ近い施設に収監されるべきだと勧告した。収監の結果、親が子どもから遠く離れた場所にいる場合、政府は収監中の親に子どもが面会するための移動を容易にする、または/かつ補助金を出すものとする[230]。
子どもが親と面会する際について、委員会は、「すべての刑事施設が、適切であれば収監施設外で、通学など子どもの生活上の用事と重ならない時間帯に、受刑者が施設の外にいる子どもと面会する場合には、子どもに配慮した環境を利用できるようにするものとする」と勧告した[231]。
元受刑者はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、自宅から遠く離れた刑務所に収監されているため子どもに会うことができないこと、また面会時間は主に平日に限られているために、刑務所にいる親に会うには子どもが学校を休まなければならないのだと述べている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、刑務所で乳幼児の養育を申し出る権利があることを受刑者が知らされていなかったケースを確認している。
高齢受刑者の権利
国連の経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会は「保健に関わる施設、物品およびサービスは、住民の全階層が、特に脆弱な、または周縁化された集団が、安全に直接利用できる範囲に存在しなければならない」と助言している。「高齢者」はこうしたカテゴリーの1つである[232]。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査によると、高齢受刑者の多くは適切なヘルスケアを利用できず、適切な治療や医学的アドバイスを受けることなく、慢性痛や慢性疾患に対処しなければならないことが多い。
国連薬物・犯罪事務所(UNODC)は、「高齢受刑者の大半は、適切な非収監型の制裁や措置の枠組みの下、コミュニティでよりよくケアされうるのであり、犯罪者の年齢、心身の健康状態、刑務所で十分にケアされる見通しが、量刑を下す当局によって、量刑が不均衡に苦しい刑罰を構成しないために、考慮されるべきである」との助言を行っている[233]。
同事務所はさらに「高齢受刑者の増加率、さらなる増加の見通し、刑務所での治療やケアに関する人権上の懸念事項から、この脆弱な受刑者集団の抱える固有のニーズに対処するために、刑務所当局が特別な政策や戦略を開発することが正当化される」と付け加えた[234]。
国連人権理事会の高齢者によるあらゆる人権の享受に関する独立専門家であるクラウディア・マーラー氏は「拘禁や個人の自由の制限を正当化する理由のいかんにかかわらず、高齢者は一般に、当人の人権にとって有害であって、十分な安全や保護が提供されない環境に身を置いている」と指摘する[235]。高齢者の刑事拘禁の文脈で、マーラー独立専門家は次の助言を行った。
(a) 各国は、自由の剥奪を規制する国際および地域人権基準に沿って、高齢者の人権を尊重し、保護するために、刑事司法の文脈において年齢に配慮した政策と戦略を採用する必要がある[236]。
(b) 適切なインフラ、居住施設、および生活環境をはじめとする年齢に配慮した拘禁環境が確保されるとともに、敬意あるコミュニケーションと説明を受けて納得した上での意思決定を促す、年齢配慮型の研修が刑務職員になされるべきである。高齢者は、生涯学習および職業訓練の機会をはじめ、年齢に応じたサービスや活動を利用できるべきである[237]。
(c) ヘルスケアにおける平等原理に従って、高齢者のための適切なヘルスケア・サービスが、個別のニーズを満たすかたちで提供されるべきである。入所時、移送時、および拘禁期間の全体を通じて、高齢受刑者が持つリスクと固有のニーズを特定するためのスクリーニングが実施されなければならない[238]。
(d) 各国は、高齢者の釈放にあたり、長年治療がなされていない健康状態に対する医療的およびメンタルヘルスケアへのアクセス、住居の確保、年金の受給、金銭的支援など、高齢者固有のニーズや希望に合わせて設計された、個別化された釈放前プログラムが高齢者にとって利益を得ていることを確認すべきである[239]。
(e) 刑事司法手続きのあらゆる段階を通じて、交差的な要素が、特に高齢者がジェンダー、障がい、先住民またはエスニック・アイデンティティなど、差別の根拠となる交差的な要素を持つ場合において、十分に考慮されるべきである。暴力や虐待、迫害を受けるリスクが高い高齢者について、高齢女性、高齢のレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーおよびインターセックスの人びと、エスニック集団、宗教集団または先住民集団に属する高齢者を含め、拘禁下で安全を保証されるように、個別のケア計画が作成されるべきである[240]。
(f) 各国は、司法制度のなかで、複合的な健康状態にあり、緩和ケアを必要とする高齢者を拘禁する必要性と比例性を検討すべきである。また、各国は、高齢者のニーズが人道的または情状的な釈放を通じて対処されるか利益を得るであろう施設での刑期を含む、拘禁のすべての段階における非拘禁型代替措置の可能性を検討すべきである[241]。
地域社会とのつながりの維持と社会復帰への道のり
バンコク・ルールズ規則26はこう定める。「女性受刑者と、子どもを含めた家族、子どもの養育者やガーディアンとの接触は、あらゆる合理的な手段によって奨励および促進されるものとする。可能であれば、自宅から遠く離れた施設に収監された女性が直面する不利益を相殺するための措置がとられるものとする。」[242]
同規則 28 はこう定める。「子どもを含む面会は、職員の態度も含め、好ましい面会体験に資する環境で行われるとともに、母子間の開放的な接触を可能にするものとする。可能であれば、子どもとの長時間の接触を伴う面会が奨励されるものとする。」[243]
同規則43はこう定める。「矯正当局は、女性受刑者の精神的福利と社会復帰を確保するための重要な前提条件として、女性受刑者の面会を推奨し、可能であれば、これを促進するものとする。」[244]
同規則15はこう定める。「女性受刑者への懲戒処分は、家族、とくに子どもとの接触の禁止を含んではならないものとする。」
同規則45はこう定める。「矯正当局は、女性受刑者が刑務所から自由に容易に移行し、スティグマを減らし、できるだけ早い段階で家族との接触を再確立するために、一時帰宅、開放型刑務所、中間施設(ハーフウェイハウス)、コミュニティベースのプログラムやサービスなどの選択肢を最大限活用するものとする。」[245]
同規則47はこう定める。「心理的、医学的、法的、実際的な支援を必要とする釈放後の女性受刑者には、順調な社会復帰のために、コミュニティでのサービスと協力して、釈放後の追加支援を提供するものとする。」[246]
提言
国会への提言
· 刑法第9条を改正し、社会奉仕活動命令、保護観察所措置など、服役を必要としない種類の刑罰を導入すること。
· • 関連法を改正し、薬物の単純所持及び使用を非犯罪化すること。同様の行為の繰り返しについても、加重事情がない限り、刑事責任その他の身体拘束はしないものとすること。自発的なコミュニティベースの物質使用症治療へのアクセスを広げるとともに、そうした治療を医学的に適切かつ国際基準に適合したものとすること。
法務省への提言
収監の削減
- 代替刑の創設と利用拡大の法案を起草し、国会での成立を支援すること。
- 薬物の個人的な所持及び使用の非犯罪化を目指すこと。
- 検察官に対して、刑事訴訟法第482条を利用し、妊娠、家庭での責任、年齢、健康などを理由として、受刑者に対する自由刑の執行停止を認めることを奨励する政策を策定し、実行に移すこと。
- 刑事訴訟法第482条の救済措置の対象となりうる者が、自らの事案に同条の適用を要請するための情報と法的支援を得られるようにする政策を策定すること。
- 保護観察所の能力を大幅に向上させ、収監を伴わない刑罰を宣告された者のニーズに効果的に対応すること。
受刑者の環境と処遇
- 刑務所内の規則を改正し、作業中に他の受刑者のほうを見たり、話したりしてはいけないといった、受刑者の行動に対する過度の制限をなくすこと。
- 刑務所での懲戒に関する決定や、受刑者による違反の疑いに関する調査が、受刑者に弁明の機会を与えることを含め、独立した透明性のある方法で行われるようにすること。
- 独居拘禁下の受刑者に対し、一定の姿勢で座り続けさせるなどの身体的な強制などを廃止すること。
- あらゆる受刑者について、長期の独居拘禁を止めること。心理社会的障がい(メンタルヘルスの問題)のある受刑者の独居拘禁を止めること。
- 独居拘禁された受刑者に対し、みずからの権利を守るために弁護士へのアクセスを提供すること。
- 受刑者への言葉による嫌がらせをはじめとする虐待行為を禁止する規則に違反した刑務官らについて、透明性をもった調査を行い、免職を含む罰則で厳しく対応すること。
- 性的虐待をはじめとする心的外傷を持つ女性受刑者を積極的に特定し、女性職員だけを配置した刑務所で服役する選択肢を提供すること。
- 刑務官や職員に対し、ジェンダーに配慮した、尊厳ある方法で女性受刑者と接するための研修プログラムの受講を義務化すること。
- 受刑者が、刑務所外のコミュニティで入手できるものと同品質の生理用品を、無料で十分に入手できるようにすること。また、高齢受刑者が頻繁に使う製品(歯科衛生用品のほか、基本的な生活用品など)について無償で利用できるようにすること。
- 物質使用症、心理社会的障がい、その他の心理社会的障がいのある受刑者が直面する困難を理解するために、刑務官など施設職員への義務的研修を実施する。
医療的ケア
- マンデラ・ルールズおよびバンコク・ルールズに則り、すべての受刑者が適切な医療的ケアを適時に受けられるよう、明確な方針と規則を定めること。医療上の緊急事態が発生した場合、ケアが遅滞なく提供されるようにすること。そのような緊急事態に即応できるよう医療スタッフを待機させるものとすること。刑務所内で提供されるすべての医療的ケアについて、最新のベストプラクティスと医薬品が用いられることとし、医療上の必要性に応じて外部施設で適時に治療が行われるようにすること。
- 刑務官は体調の優れない受刑者との最初の接点であることを踏まえ、刑務官が受刑者による医療の申請に対し、人道的で尊厳を保った敬意ある対応で処理し、適時かつ正確に矯正医官また外部の医療従事者につなぐことを義務づける具体的な規則を定めること。そうした規則について、刑務官や矯正医官をはじめとする施設職員に研修を行い、規則を遵守しない職員に懲戒処分を科すこと。
- 刑務所で働く医師、看護師、その他の医務職員を十分な人数雇用し、受刑者へのヘルスケア提供者が減少している傾向を改善すること。
- すべての受刑者に対し、適切な歯科ケアを、予防的ケアを含めて提供すること。
障がい者に対するサービス
- 入所時に受刑者にどのような障がいがあるかを体系的にスクリーニングし、合理的配慮措置を行うこと。障がいのある受刑者が支援サービスを十分に受けられるようにする。
- 受刑者が良質なメンタルヘルス・サービスを利用できるようにすること。十分な資格を有するメンタルヘルス専門家、無料でインフォームドコンセントに基づくサービス、適切な資源、およびコミュニティ・ヘルスケアの基準を満たす水準のケアを保証すること。
- 刑務所は、心理社会的障がいを持つ受刑者を独居拘禁にしてはならないとの明確なルールを確立すること。
- 政府がこの措置をすぐに取ることができない場合、最初のステップとして、心理社会的障がいを持つ受刑者への独居拘禁の使用について、この分野についての専門家による全国調査を実施し、政策と実践を改革するための明確な勧告を行うこと。
- 障がい者のニーズに合った支援サービスを提供するために、障がい者との適切な関わり方に関する研修を刑務所職員に実施すること。
- 刑務所の医務職員に対し、障がい者と効果的に関わるための十分な研修を行うようにすること。すべての刑事施設職員は、サービスを必要とする受刑者を特定して支援につなげる援助を行うために、障がい者、特に心理社会的または認知的障がいを持つ人とのかかわりについて、ジェンダーに配慮した研修を定期的に受講するようにすること。
物質使用症と治療
- 薬物の単純所持及び使用の非犯罪化を目指すと同時に、すべての受刑者が、物質使用症に対する自主的で、エビデンス・ベースの治療の存在を認識し、利用できるようにするとともに、ピアサポート、個別カウンセリング、再発防止プログラム、メタドン治療などの治療法を含む、幅広いサービスを提供すること。
母とその子ども
- 妊娠150日目以降の受刑者、産後60日以内の受刑者、子どもや孫が幼く、他に養育する親族がいない受刑者に対して、検察官に刑の執行停止権限を付与した刑事訴訟法第482条を利用するよう、検察官に促す指示を出すこと。
- 受刑者と家族へのアウトリーチを実施し、同法第482条と関連する手続きについて周知すること
- 受刑者に対し、刑務所所長が認める場合、子どもを刑務所で養育することができる法的権利があると周知するとともに、刑務所長に対し、この申し出があった場合、迅速かつ共感をもって検討するように促すこと。刑事被収容者処遇法第66条によれば、女性受刑者は、子どもが1歳になるまで刑務所内での養育したい旨を申し出ることができる。この1年という期間は、刑務所長が再び認めれば、6ヵ月間延長することができる。
- 該当する受刑者について、上記の規定により認められている申出書の作成を支援する弁護士を適時に利用できるよう支援を提供すること。
- 出産中の受刑者に職員が手錠等を使用としてはならないとする2014年の法務省通知を積極的に強調すること。この通知を改訂し、陣痛中及び産後直後の女性への拘束具の使用を明確に禁止すること。
- 母親が望まない場合、またはそうした行為が子どもの最善の利益に反すると信じる理由がある場合を除き、母親に子どもを刑務所で養育することを認めるとの方針を策定し、必要な規則を定めること。
- 刑務所に適切な資源を提供し、刑務所内で乳幼児を養育する母親を支援するために必要な設備を設置すること。刑務所内に適切な空間を別立てで確保し、保育のための設備を整え、良質な保育に必要なもの(離乳食、おむつ、衣類、予防接種など)を提供すること。
- 刑務所の管理職、刑務官、その他職員に対し、母親と生まれたばかりの子どもの絆の重要性について、またそうした子どもが刑務所で母親と一緒にいることを認めることによる親、子ども、社会への利益について研修すること。
- 刑務所で暮らす子どものために、子どもの発達のためのプログラムを提供すること。
- すべての刑務所に、受刑者が刑務所外で、学校など子の生活の他の要素と重複しない時間帯に子どもと面会できる、子どもに優しい空間を利用できるようにすること。
- 子どもを持つ受刑者について、子どもが住む場所にできる限り近い刑務所に収監されるようにすること。収監によって、親が遠方となってしまうケースについて、国連子どもの権利委員会が勧告するように、政府は面会に関わる移動を促したり、金銭的支援を行うなどすること。
- 受刑者が出産後、そのケアを統括する医療専門家が推奨する期間の入院を認めることで、適切な医療ケアを受け、休息できるようにすること。刑務所に戻ってからは、母親の身体的な健康状態を評価した後に、作業はいつから行わせるのか、また行わせるかどうかを判断すること。
- 刑務所で服役中に妊娠しているか、出産した受刑者について、刑務所外のコミュニティで提供されるのと変わらない水準の産前・産後ケアを受けられるようにすること。
- ソーシャルワーカーが、親となった受刑者を支援することを認めること。
高齢受刑者
- 70歳以上の受刑者について刑の執行停止権限を検察官に与える、刑事訴訟法第482条の規定を用いるよう、検察官に促す指示を出すこと。
- 高齢受刑者に関する同第482条の規定を周知すること、そして、該当する受刑者について、その申出書の作成を支援する弁護士を適時に利用できるよう支援を提供すること。
- 医療ケアへのアクセス、専門スタッフの介助を得た入浴、食事、作業、運動などの日常的な課題の遂行など、高齢受刑者のケアと支援サービスを提供する政策を定めること。
- 高齢受刑者がそれ以外の受刑者と同等の職業訓練を受けられるようにするとともに、家探しや経済的支援といった釈放前の支援を受けられるようにすること。
- 特により若い受刑者と同室の場合、そうした受刑者による高齢受刑者へのいじめを積極的に監視し、防止すること。
- 妊娠している、幼い子どもと離れている、高齢である(特に70歳以上)、身体または精神障がいを持つ、または深刻な病状を持つといった、脆弱な女性受刑者の代理人を務める弁護士を公費で提供するプログラムを日本弁護士連合会とともに策定し、直ちに開始すること。
トランスジェンダーの受刑者
- 戸籍上の性別の変更が済んでいるかや性同一性障害(GID)の診断を受けているかにかかわらず、トランスジェンダーの受刑者は、みずからの性自認(ジェンダー・アイデンティティ)に沿った刑務所にのみ収監するものとするとの明確に定めること。
- 法務省通知「性同一性障害等を有する被収容者の処遇指針について」を次のように改正すること。
- ホルモン補充療法やその他のジェンダー肯定型(gender-affirming)医療介入は医学的な必要性があり、希望するすべての受刑者が利用できるようにすると明記すること。
- トランスジェンダーの受刑者が着衣をつけないことが予測されるすべての状況で、同席する可能性のある刑務官の性別をどうするかについて、本人は事前に相談を受けると明記すること。
- 性同一性障害か否かを医師が判断するとの要件を削除すること。刑務所は性自認の自己申告モデルを採用し、これに従って受刑者に保護を与えるものとすると定めること。
地域社会とのつながりの維持
- 受刑者は、懲罰期間中も含め、面会を行い、手紙をやりとりし、電話をかける権利を奪われないようにすること。親族が刑務所にいることのスティグマを家族に負わせないようにするため、刑務所内の受刑者に手紙を送ることができる私書箱宛の住所を提供し、受刑者がその住所を返信先として使用することを認めること。
- 受刑者がインターネットにアクセスできるようにし、電子メールの送信や(オンライン)ビデオ通話ができるようにする方針を導入すること。
- 受刑者が家族やコミュニティとのつながりを維持できるかどうかを、刑期を務める刑務所を選ぶ際の重要な要素とし、出身のコミュニティや子どもを含む家族からの距離を考慮すること。
釈放後のコミュニティへの復帰を成功させること
- 刑務所サービスは、元受刑者が釈放された後の将来について、積極的な計画と支援を支援する明確な方針を持つものとする。その将来は、釈放時に必要と思われる個人のニーズの評価と、刑務所でのサービスや訓練が個人の釈放準備にどう役立つかの計画に基づいて構築される。
- 少なくとも釈放予定の6ヵ月前には、資格のある刑務官が、食料、住居、基本的なニーズを満たす資金、必要な公的給付や利用できる社会的支援へのアクセスの確保のため、女性受刑者と共に社会復帰計画の策定を開始するものとする。
- 計画プロセスの一環として、釈放されたばかりの受刑者、特に高齢受刑者、障がいのある受刑者、子どものいる受刑者を、ソーシャルワーカーや当人が利用できる社会福祉サービスにつなぐ措置が講じられるものとする。
- 刑務所は、釈放されるすべての受刑者に対し、交通費を含む必要な移動のための支援と、受刑者が安全に目的地に到着できるような指導を行う方針を持つものとする。
- 元受刑者が住まいを得て、職に就く上での障壁を取り除くよう努力し、元受刑者にまつわる社会的スティグマをなくすための公的アドボカシーを実施すること。
厚生労働省への提言
物質使用症と治療
- 日本の薬物対策を犯罪化アプローチから公衆衛生アプローチに転換し、薬物使用の悪影響を最小限に抑え、物質依存を減らし、薬物使用に関するハームリダクションと救急医療へのアクセスの向上を支援すること。
- 公共キャンペーンや会議の開催などを通じて、物質使用症の脱スティグマ化に向けたアドボカシーを行うこと。
- 個人的な薬物の単純所持及び使用の非犯罪化に向けて、法改正へのアドボカシーを行うこと。
- 厚労省の管轄がするすべての機関・施設に向けて、物質使用症の治療を優先し、患者を警察当局に通報しないよう通達を出すこと。
日本弁護士連合会への提言
- 妊娠している、幼い子どもと離れている、高齢である(特に70歳以上)、身体または精神障がいを持つ、または深刻な病状を持つといった、脆弱な女性受刑者の代理人を務める弁護士を提供するプログラムを策定し、直ちに開始すること。本プログラムが公費で運営されるようになるまでは、プロボノとすること。
- 妊娠、家族への責任、年齢、健康といった理由に基づき、刑の執行停止権限を検察官に与える刑事訴訟法第482条の適用を求める申請書の提出について弁護士に研修を行うこと。刑事弁護人が、この規定が提供する救済措置が利用できる可能性があることを依頼人に必ず伝えるようにすること。
- 刑務所長の承認があれば、受刑者が新生児を刑務所で養育することができるとの刑事被収容者処遇法第66条の適用を求める申入書の提出について、弁護士への研修を行うこと、また刑事弁護人が、そのような許可を求める法的権利の存在を依頼人に伝えるようにすること。
謝辞
本報告書の元となった調査は、アジア局プログラムオフィサーの笠井哲平と日本代表の土井香苗が、女性の権利局共同局長代理Heather Barrの協力を得て実施した。斎藤文栄がコンサルタントとして本調査に協力した。
元東京オフィスインターンのAki Satouchi、Miho Kawaguchi、Jumpei Hirota、Emily Okabe、Miku Ishii、Erina Mikiは、インタビューの書き起こし、アウトリーチ、デスクリサーチのサポートなど、幅広く活躍した。記して感謝する。
本報告書の編集は、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの土井香苗、Heather Barr、Phil Robertsonが行った。また、本報告書のレビューは次の専門家らが行った。シニア・リサーチャーBridget Sleap、障がい者の権利局シニア・リサーチャーKriti Sharma、子どもの権利局シニア・リサーチャーMargaret Wurth、女性の権利局長代理Regina Tamés、スペシャルアドバイザーKayum Ahmed、シニア・リサーチャーKyle Knight、そしてヘルス局のコーディネーターDanielle Mulima。また、リーガルとポリシー局長のJames Rossとプログラム局シニア・プログラム・エディターのDanielle Haasがリーガルとプログラムレビューを行った。編集とプロダクションの支援はアジア局シニアコーディネーターのRacqueal Legerwood、デジタル・パブリケーション・オフィサーのTravis Carr、そしてデジタル・パブリケーション・ディレクターのGrace Choiが行った。アドミニストレーティブ・オフィサーのJose Martinezとアドミニストレーティブ・シニア・マネージャーFitzroy Hepkinsが本報告書の刊行を担当した。箱田徹が日本語への翻訳を行い、日本語版のレビューを専門家の高遠あゆ子弁護士と古藤吾郎氏が行った。
本報告書の元となった調査には、松本俊彦医師、高遠あゆ子弁護士、大野鉄平弁護士、小竹広子弁護士、後藤弘子教授、浜井浩一教授、菅原直美弁護士など多くの専門家や支援提供者にご協力いただきました。匿名を希望された方もいらっしゃいます。皆様の協力に心から感謝申し上げます。
そして、私たちの求めに応じて、惜しげもなく話を聞かせてくださった元および現受刑者の皆さんに最大の感謝を捧げます。