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教育の門戸、何百万人もの子どもたちに閉ざされたまま

教育を受ける権利を保障するために政治的意思とリソースが必要

(ロンドン)— 差別的な国内法および政策や、基本的権利の保障をめぐる政治的意思の欠如が原因で、何百万人もの世界各地の子どもおよび若者が教育を受けられないでいる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。各国の教育担当高官や国際的な政策立案者、および資金援助機関が、質の高い教育へのアクセスを世界レベルで改善する措置を採択するため、6月13日から16日までノルウェーに集う。

報告書「教育不足:グローバル開発アジェンダ内で取り残された教育を受ける権利」(全85ページ)は、20年前に世界各国の政府が、自国の子どもたちのために教育における障壁を取り除く公約をしたことを指摘。しかし、差別的な国内法や慣習、高額な教育費、暴力などが原因で、多くの国の子どもおよび若者が教育を受けられない状態が続いている。本報告書は、この20年近くの間ヒューマン・ライツ・ウォッチが40カ国以上で行ってきた調査に基づいている。国連教育科学文化機関(UNESCO)によると、世界で1億2,400万人の子どもおよび若者が学校に通えていない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの子どもの権利局調査員エリン・マルティネスは、「信じがたいことに、2016年になっても、世界各地で数百万人の子どもと若者が教育を受ける権利を否定されている」と述べる。 「政府の不十分な監督体制や差別撤廃政策の欠如が、誰が教育を受けられて誰が受けられないかの絶対的な決定権を、教育関係者にしばしば与えてしまっている。」

国連加盟国196カ国すべてが、自国領域内の子ども全員に向けた法的義務を採択した。広く批准されている子どもの権利条約や、ほか様々な地域および国際条約が教育を受ける権利を保護するための義務を細かく定めている。 2015年9月には、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のひとつとして、2030年までに「すべての人に包摂的かつ質の高い教育を提供」するために全ての政府が協力することに合意。初めて、中等教育へのアクセスがグローバル目標の一部となった。以前のミレニアム開発目標では、普遍的な初等教育の達成を目標のひとつとしていたが、まだ未達のままだ。

国際条約の多くに、初等教育の授業料および関連費をなくす義務が定められているにもかかわらず、コンゴ民主共和国南アフリカを含む多くの国が、支払う余裕のない学費を家族に課している。中等教育における学費が理由で、最低9年間の教育をまっとうすることのできない若者は、たとえばバングラデシュインドネシアネパールだけで数百万人もいる。
 
(上段:左から右)中国で通学中の双子の姉妹。歩行が困難な障がいをもつ© 2009 Private; 干上がった川床から水をくむカロコル女子小学校の生徒。学校には水道がない © 2014 Brent Stirton/Reportage by Getty Images for Human Rights Watch; アブドゥルマジード(11歳)とモハメド(9歳)。兄弟は2015年2月に家族とシリアを脱出したが、学校には2012年から通っていない。トルコ南部メルシンにて© 2015 Stephanie Gee/Human Rights Watch (下段:左から右)タンザニア・ムベヤ州の小規模金鉱山地域で授業を受ける13歳の少年。金採掘に従事している© 2013 Justin Purefoy for Human Rights Watch; 破壊されたウクライナ東部ドネツク州の学校。2014年9月〜2015年2月まで武装集団が学校を占領し、ウクライナ政府軍と激しい戦火を交えた© 2015 Yulia Gorbunova/Human Rights Watch; シホラ(13歳)。夫や義理の家族と暮らす家にて© 2015 Omi for Human Rights Watch

 

「私が学校で最後に学んだのは、中学1年生の1学期目でした。本当に勉強を続けたかったけど、お金がありませんでした」と話すインドネシアのエンダは、15歳の時に児童家事労働者として働くため学校を中退した。「授業料は月に1万5,000ルピア(1米ドル10セント)でしたが、私が本当に払えなかったのは『校舎使用料』と制服代の50万ルピア(36米ドル)でした。。。そして毎学期、教科書も買わなければならなかったのです。」

国連児童基金 (UNICEF) によると、学校関連の暴力が2 億4,600万人超の子どもに影響を与えている。拷問や品位を傷つける扱いにも該当し、子どもの学ぶ力に悪影響を及ぼす学校での体罰 は、タンザニア南アフリカ、そして米国の多くの州などで合法であったり、広く慣習として残っている。

女子生徒が学校に行かなくなる理由には、教師やクラスメートからの性的虐待や性暴力のまん延、人権侵害的で無意味な処女検査、必須の妊娠検査、妊娠すれば退学という校則の存在などが含まれる。プライバシーや品位が保たれた状態で月経に対処できる施設の不足など、不衛生かつ不十分な学校環境は、障がい者を含む思春期の女子生徒の欠席や中退などの原因となっている。バングラデシュネパールタンザニアジンバブエなどの国では、児童婚が質の高い教育機会へのアクセスを奪い、またそのような教育を受けられない現状自体が児童婚に終止符を打つことを難しくしている。

中国および南アフリカ障がいを持つ子ども、また様々な民族・言語・宗教的バックグランドを持つインドの子どもたちは、就学手続きを取ろうとする際に、役人による差別的な扱いを広く経験している。ひとたび入学できたとしても、これら子どもたちの多くは質の低い教育しか受けられないクラスに隔離されてしまう。多くの障がい者の子どもたちは、教師が障がいについて十分なトレーニングを受けていなかったり、支援が十分でなかったり、教育継続を拒否されたりして学校を辞めてしまう。たとえばロシアセルビアでは、障がいのある子どもが偏って多く施設に入れられており、たとえ教育機会があっても質の低いものにしかアクセスできていない。

人道危機や長期的な紛争により学校がアクセス不能だったり危険だったりするため、教育を受ける権利を享受できない子どもの数は増加している。学校に対する攻撃や学校の軍事利用が原因で、アフガニスタンナイジェリアパレスチナウクライナイエメンでは数百万人の子どもが教育機会を奪われている。

高・中所得国でも、マイノリティ難民移民LGBTの子どもに対する差別のまん延が、教育機会への障壁となっている。

すべての政府は、初等教育が完全に無償の義務教育であり、中等教育も無償であることを保障しなければならない。子どもおよび若者を学校から除外することを可能にする差別的な方針や規制を廃止し、学校が女子生徒や障がいを持つ子ども、マイノリティの子ども、およびLGBTの子どものニーズに応えることも保障する必要がある。

政府は法律により体罰を廃止し、子どもを学校での暴力、虐待、およびハラスメントから確実に守るためのより厳格な措置を取るべきだ。

世界銀行や「教育のためのグローバル・パートナーシップ基金」のような多国間金融機関を含むドナー、および各国政府による教育計画実行を支援する国際機関は、人権基準を尊重し、子どもおよび若者を学校から遠ざける人権侵害に迎合するようなことがあってはならない。

教育の世界的なイニシアチブをリードしている「チャンピオン国 (champion countries)」が自ら人権上の義務に従い、自国の教育制度内の人権侵害を阻止することを、国連事務総長およびユネスコは保障すべきだ。

前出のマルチネス調査員は、「世界のすべての子どもおよび若者への教育アクセス提供に際し、どんな失敗も許されてはならない」と述べる。 「自分たちの未来にむけて準備する権利を、政府が全面的に保障してくれるまで、次の15年どころか次の1学年を待つ時間さえ子どもにはない。」

報告書内の証言抜粋

“Most [students at] mainstream schools don’t have to pay. But for us, we have to pay school fees. Lots of parents who have children with disabilities can’t work – we have to take care of them 24 hours. Schools write to ask why we haven’t paid but they don’t understand our situation.”
–Father of an 8-year-old boy with autism, Johannesburg, South Africa

“Me and my cousin are the only two Syrians in the class. The rest of the students have ‘ganged up’ on us and are saying we speak a lot, that we misbehave. The teacher sent us to the back of the class. All teachers treat me badly because I’m Syrian. When one of the teachers asks a Jordanian girl and she answers the question then the teacher says ‘Bravo!’ When I answer, I get nothing.”
–Hadeel (pseudonym), 11, Al-Zarqa, Jordan

“They would beat me when the teacher couldn’t see them, and my teacher didn’t know so wasn’t stopping it. My father visited the school director to complain, and the director said, ‘You should stop sending her to school if you’re worried about it…’ In Syria, I loved school. I had friends. I loved learning.”
–Fatima, 12, Turgutlu, Turkey

“One [teacher] tried to convince me to have sex so I didn’t want to go [on] to Form 2 to experience that. I stopped going [to sports]. I did this because I was scared that if I was going to meet him he would take me somewhere else to do things with me. I felt bad and [teachers] called to tell me that I wasn’t concentrating or studying so [my] performance was not good…I decided to drop out of school and stop wasting my parents’ money.”
–Ana, 16, Mwanza, Tanzania

“The Japanese school system is really strict with the gender system. It imprints on students where they belong and don’t belong – in later years when gender is firmly tracked, transgender kids really start suffering. They either have to conceal and lie or act like themselves and invite bullying and exclusion.”
–A transgender high school teacher, Japan

“My uncles forced me to marry a man who was old enough to be my grandfather. I was going to school and in class six. I liked school. If I was given a chance to finish school, I would not be having these problems, working as a waitress and having separated from my husband.”
–Akur L., married at the age of 13, South Sudan

“I fell pregnant last year when I was 14 years old. I had stopped going to school that same year because my mother, who works as a maid earning $50 per month, could not afford to send me to school. I had an affair with an older man who had a wife. I went to hospital and gave birth to a baby, who died within a few minutes of birth… I wish to go back to school because I am still a child.”
–Abigail C., 15, Zimbabwe

“[The army] fired on my school with a tank…. When I ran away, a shabiha [a state sponsored militia] caught my shoulder, but I struggled and managed to get away. The shabiha came into the school and shot the windows, broke the computers. After that, I only went back to take my exams.”
–Rami, 12, a refugee from Daraa governorate in Syria, interviewed in Ramtha, Jordan

 

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