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日本:いじめに遭うLGBTの子どもたち 保護されず

国の方針や教育課程 性的指向とジェンダー・アイデンティティが置き去りに

(東京)日本政府は、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー(LGBT)の子どもを学校でのいじめから保護できていないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で指摘した。LGBTの人びとへの平等な権利保障に関する議論が社会全体で高まる中、国のいじめ防止対策は2016年の見直し時期を迎える。

今回の報告書『出る杭は打たれる:日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除』(全84頁)は、LGBTの子ども・生徒をいじめにさらし、情報や自己表現へのアクセスを妨げる原因のひとつとなっている日本政府の政策の問題点について分析。日本の学校では過酷ないじめが多発している。だが国のいじめ防止基本方針では、最もいじめ被害を受けやすい集団のひとつであるLGBTの子ども・生徒を明記せず、基本的権利より規範意識の推進をうたっている。LGBTの子どもたちはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、教師から、同性愛やトランスジェンダーであることをオープンにして学校生活を送ることは自己中心的だとか、学校生活がうまくいかなくなるなどと注意されたと述べた。

「国は近年、LGBTの子ども・生徒の支援に動きつつあるものの、国のいじめ防止基本方針は性的指向とジェンダー・アイデンティティ(性自認)ついて一切触れていないままだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗は述べた。「国は国際基準とベストプラクティス(好事例)に従い、いじめ防止の政策をLGBTの子どもを守る方向で直ちに見直すべきだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは全国14都府県で、数十人のLGBTの子ども・生徒及び最近学校を終了した若者たちから、詳しく話を聞いた。聞き取り参加者とは、カウンセラーや支援者の紹介で、またはFacebookとTwitterで拡散したアンケート調査を通して出会った。ヒューマン・ライツ・ウォッチは社会科学の研究者、精神科医、弁護士、政府関係者、教育政策の専門家からも聞き取りを行った。また本報告書では、うち4人の経験を漫画として取り上げた。日本の若者にとって漫画が、LGBTのロールモデルなどを見つける身近な情報源となることが多いことを踏まえたものだ。

文部科学省は近年、LGBTの子ども・生徒に関わる通知等を出すなどし、セクシュアル・マイノリティ及びジェンダー・マイノリティに属する子どもたちに学校は配慮すべきとの重要なメッセージを発している。だが国のいじめ防止基本方針には、LGBTの子ども・生徒に特有な弱い立場についてまったく記されていない。この格差は、教育過程にLGBTを含むべきとする拘束力のある方針がなく、ジェンダーとセクシュアリティに関する教員研修が不十分であるという状況ゆえに深刻化している。性別変更(法律上の性別認定)の要件として、トランスジェンダーの人びとに「性同一性障害」の診断を求める現行法は、若者に深刻な精神的影響を与えかねない。

日本では、いじめは大きな社会問題となっている。子どもたちは、よく、「皆とちょっと違う子」に狙いを定めて、嫌がらせ、脅迫、ときに暴力を振るう。こうしたいじめには、ある子どもの性的指向やジェンダー・アイデンティティ(実際の性的指向・性自認のほか、周囲が思い込んでいるという場合も含む)を理由に行われることもあると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。だがいじめが、特に被害者が亡くなる事例ではマスコミで大きく取り上げられ、何十年も議論がなされてきたにもかかわらず、国はLGBTの子どもの脆弱性を含め、その根本原因に対処してきたとは言えない。一方政府は、規範意識と学校での風紀と和を推進しており、当局は特定の子どもたちがいじめられやすいことはないという立場を強調する。ヒューマン・ライツ・ウォッチとの会談で文部科学省の担当者は、いじめに対して「総合的」なアプローチを取っていると繰り返し、LGBTなどの弱い立場のグループのニーズに対応することとすれば、そうした子どもたちを特別扱いすることになってしまうとも示唆した。

本報告書内の漫画は、ヒューマン・ライツ・ウォッチがインタビューした方々が、ご自身の経験を自らの言葉で語ってくださったお話に基づいている。いくつかのシーンでは、ストーリー展開に必要な文章が追加されている。 © 2016 歌川たいじ

しかしながら、文部科学省が2013年10月に発表した国の「いじめの防止等のための基本的な方針」が不十分であることは明らかである。「方針」では、子どもの権利や教員研修の義務化ではなく、規範意識に関する道徳教育と教員の自覚が重視されている。LGBTの子ども・生徒についての記述は一切ない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査からは、LGBTの子どもが教員にいじめを打ち明けた場合、個々の教員によって対応にかなりのばらつきがある実態が浮かび上がった。ジェンダーとセクシュアリティに関する包括的な教員研修が一切義務付けられていないため、LGBTの子ども・生徒がいじめられた際、各教員の対応は個々の教員のLGBT観に全面的に左右されてしまっているのだ。今後いじめられたくないのなら、もう少し社会の性別規範に合わせなさい、と言われた子どももいた。教員自身がLGBTを差別する冗談や悪口を口にしているのだから、同性愛に対するいじめを報告するなんてできない、との声もあった。

都内の学校に通うレズビアンの学生、キヨコ・Nさんは、「女の子っぽくない」と中学のクラスメイトからいびられ、取り囲まれて丸めた模造紙で叩かれたと話した。担任教師たちはいじめの現場を再三目撃していたが、何もしなかった。「私がいじめられていたことは周知の事実でした。先生が助けてくれないこともまた、周知の事実でした。」

名古屋の高校生タダシ・Iさんは、ヒューマン・ライツ・ウォッチにこう話している。「たぶん、僕がいじめられていると先生に言ったら、助けようとはしてくれたと思います。でも、LGBTの知識が全然ないので、何をしたらいいのかわからなかったとも思います。もしかしたらもっと悪い方向に行ってしまったかもしれません。」

福岡でLGBTの若者を対象とするカウンセラーを務める元教員のアイ・Kさんは指摘する。「一人の先生が『助けたい』と思っていても、学校側や教育委員会側はそれをサポートする体制がない。そうするとその先生は、当事者生徒に好意的であるがために孤立した存在になってしまう。」

トランスジェンダーの子どもにとっては、通学そのものさえ試練となりうる。日本の法律(性同一性障害特例法)では、自らのジェンダー・アイデンティティに従って性別変更(法律上の性別認定)を行うためには、精神疾患としての診断を受けるとともに、不妊手術を含めた一連の医療的処置を受けることが義務付けられている。これは人権侵害かつ時代遅れの制度である。近年国は、診断なしでもトランスジェンダーの子ども・生徒に配慮してよいとの見解を出しているが、ヒューマン・ライツ・ウォッチの調べによれば、この通知の効果はまちまちだ。トランスジェンダーの子ども・生徒のなかには、自らのジェンダー・アイデンティティにそぐわない制服の着用を強制され、適切な性別に基づくトイレの使用を認められず、当人が違和感を覚える男女別の活動に参加させられる子どもたちがいる。

文部科学省は今年4月に「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」周知資料を公表した。この資料は学校がすべての子ども・生徒にとって安全な場所でなければならないことを伝えており、期待の持てる動きだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。しかしこの資料は拘束力がないものであり、とくにトランスジェンダーの子ども・生徒が自らのジェンダー・アイデンティティに基づいた教育を受けるにあたり、医学的な診断を求めないことを明記して内容を強化する必要がある。

LGBTをめぐる国政レベルでの議論の高まりは明るい兆しだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。政府はこの機会を生かし、LGBTの若者が抱えるニーズを政策立案過程にしっかりと組み込むとともに、日本のすべての子ども・生徒が平等な立場で教育を受けることができるようにすべきである。

「子どもの安全と健全な発達が、理解ある大人と出会えるか、といった運不運で決まるようなことがあってはならない」と、前述の土井は述べる。「国は教員が性的指向やジェンダー・アイデンティティに基づくいじめにしっかり対処できるようにしっかり研修を行い、LGBTの子ども・生徒を嫌がらせや差別から守る責任がある。」

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