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北朝鮮:商売が恣意的拘束や拷問の対象に

賄賂やコネがなければ 刑務所で強制労働に

(ニューヨーク)- 北朝鮮当局は、私的取引を行った個人を恣意的に逮捕し、不当に訴追し、激しく虐待しており、懲罰の程度は賄賂やコネが左右すると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。北朝鮮政府は刑法を改正して私的取引を理由とした「経済犯罪」を廃止するとともに、関係当局にこうした逮捕を止めるよう命ずべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、私的取引を幅広く手がけた後、2013年以降に韓国に脱出した北朝鮮市民12人に話を聞いた。当局から商売をしていると追及を受けた際、その後の成り行きは賄賂を払うか、コネがあるか、または政府が強制労働を必要としているかに左右される場合が多いと述べた。お金もコネもなく訴追されれば、刑務所・収容施設で長期刑に服役することになることもあった。その傾向は強制労働のニーズが高い場合に強まった。

「多くの北朝鮮市民が生きていくために細々と商売を営んでいるが、政府当局者は市民を恣意的拘束や恐喝、収容の対象としている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア・アドボカシー・ディレクター ジョン・シフトンは述べた。「刑務所を出るための賄賂が用意できなければ、強制労働を命じられ、飢えて拷問を受けながら何ヶ月、何年も過ごすことになりかねない。」

経済犯罪

北朝鮮では食糧配給制度が1993年から1995年にかけて崩壊し、深刻な飢饉が発生。大勢の人びとが飢えに苦しんだ。このため市民は、市場と物資を個人的にやりとりする「商売」(チャンサ)を手がけざるをえなくなった。それはこれまでにないことだった。こうした経済活動が広まり、表の経済と並行して非公式に存在するグレー経済となった。政治と規制がきわめて不安定かつ危うい状況におかれたこの経済に関し、当局は同じ経済犯罪で起訴した場合でも、容疑者となった個人や集団によって刑の重さを変える。

政府の許可なく市場経済活動を行うことや、禁制品(きのこ、スパイス、漢方薬、海産物など)を取引することも、経済犯罪として処罰の対象となる。政府発行の旅行許可証が定める条項の違反、政府が認めた職業への不就業、中国側との接触、中国との行き来や物資のやりとりも犯罪とされているほか、政府が指定した職場に出勤しないことも処罰の対象だ。教育を終えたすべての男性と未婚女性は、政府が指定した企業に出勤する。仕事に行きたくなければ、その企業に一定の金額を払って代えることもできる。

2014年1月に脱北した国営企業の元管理職はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、自分の妻は北東部の港町・羅先など市場取引が活発な都市で服を大量に仕入れ、咸鏡北道の清津の市場で売っていたと述べた。コネを使ってうまく商売を進め、逮捕も免れていたそうだ。この男性は書類上の勤務先の複数の上司のほか、国家安全保衛部(秘密警察)と人民保安部(警察)の職員に定期的に会っては、金銭や肉、イカや酒などを贈っていたと話す。

「身の安全を確保するためには、記念日を覚えておいてちゃんとお祝いしたり、新たに出された命令や物資没収を目的とした取締りにしっかり対処する必要があります」とこの男性はいう。「失敗すればすべてを失うか、刑務所送り、もしくは重労働ですから。」

商売人たちは逮捕を免れるため、当局者のゆすりに備えて余分な金銭やたばこを用意し、必要があれば当局者を買収する。「私たちはつねにびくびくしています。何が起きるかまったくわからないのですから」と、ある商売人は述べた。この女性は地域間で物資を大量に売買していたが、2014年冬に脱北したと話す。「友人が警備隊員に呼ばれたのに気づかないことがありました。すると隊員は彼女を殴り飛ばしたのです。賄賂の持ち合わせがなかったその友人は、労働鍛練隊に送られました」という。

北朝鮮での経済活動への規制は、基本的な経済的社会的権利を侵害するものであり、同国が1981年に批准した経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)に違反する。A規約は個人に労働の権利を認めている。そして「この権利には、すべての者が自由に選択し又は承諾する労働によって生計を立てる機会を得る権利を含む」(第6条1)。締約国には「この権利を保障するため適当な措置をとる」義務がある。締約国はまた「自己及びその家族のための相当な食糧、衣類及び住居を内容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利を認める」とされる(第11条1)。 

北朝鮮当局が経済犯罪の実行犯とされる人物に行っている措置は、市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)が定める国際的な法的保護に反するものだ。ここには恣意的逮捕や拘束を受けない権利、移動の自由の権利、拷問やその他の虐待を受けない権利、公正な裁判を受ける権利などが含まれる。

強制労働

労働鍛練隊は被拘禁者に短期間の強制労働を課す拘禁施設で、地方行政機関が運営する。当局は、通常物品の単純売買をしたとの疑いがあったり、不就労者を労働鍛錬隊に送ることが多い。被拘禁者には重労働が課せられ、食料はほとんど与えられない。きちんと働かせるためとして頻繁に暴力が振るわれる。生産目標が達成できなければ労働時間は延長される。

中国国境の町で密輸入を営なみ、2014年9月に脱北した男性はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、2014年初めに仕事をしていないことを理由に逮捕され、労働鍛練隊に3ヶ月間入れられたと話した。看守からは重労働を命じられ、頻繁に殴られ、働きぶりが悪いと棒でぶたれたという。この男性は「母が中国に行ってしまったので、自分が刑務所を出るお金を払ってくれる人がいなかったのです」と述べた。

2014年、北朝鮮外務省で国連問題と人権を担当するチョン・ミョンナム氏は、北朝鮮の労働矯正型拘禁施設は、労働を「ものの考え方を通じて、自らの過ちを見つめることで」人びとを改善させる手段として用いていると述べた。しかし聞き取りに応じた人びとは、懲罰は刑務所側の強制労働の必要性や、上からの命令に応じてなされてもいると指摘した。

ある元囚人はヒューマン・ライツ・ウォッチに対して「北朝鮮の全刑務所の囚人数は、生産に必要とされる1人あたり労働日によって決定されています」と述べた。この男性は轉車里(チョンゴリ)教化所で囚人として働かされ、2001年から2007年まで施設の生産計画を担当していた。教化所とは、政治犯と刑事犯の拘禁施設で、警察の管理下にある。長期間の労働矯正刑が宣告された被拘禁者が対象だ。囚人は農場、建設現場、鉱山、伐木場などで強制労働を課せられる。教化所で目立つのは、食料や医薬品の圧倒的な不足と、看守による虐待が常態化していることだ。「経済活動であれば、ほぼすべてが犯罪となりえますから、役人や警備隊にとっては、強制労働のためにあちこちの施設に送り込む人びとを捉えるのには事欠きません」と、この男性は説明した。

刑務所での強制労働の収益は、管轄する政府機関内に配分される。教化所の収益は警察に行き、労働鍛錬隊の収益は都市や地方の人民委員会に帰属すると、この男性はいう。

中国国境で密輸入を行っていたある女性は、2012年5月に逮捕され、警察管轄下の刑務所に1年間送られたという。管轄する当局は、現金が稼げる事業に大量の囚人を割り当てたがっていたと指摘する。「刑務所が中国への輸出品を作る企業と契約を結ぶと、元気な人間は全員働かされました」と述べた。ネックレスのホックの部分や、つけまつげの製造を命じられたと話す。「書類上は1日8時間労働ですが、実際にはその日のノルマを達成するまで持ち場を離れることはできませんでした。どんなに遅くなってもです」とこの女性はいう。

労働力の不足が強制労働の使用の要因にもなっている。一例を挙げる。金日成主席の誕生日である4月15日の2、3ヶ月前、この日が大規模な建設工事の完了期限であったために、通常ならば刑務所送りにはならない犯罪者が教化所に送られた。

北朝鮮の人権状況に関する国連調査委員会は2014年2月の報告書で、強制労働を課す刑務所にいる囚人の大半が「裁判自体が行われていないか、法の適正手続きも、国際法が定める公正な裁判の法的保障もほとんど顧みられずに行われた裁判で有罪となった人びとであり、恣意的拘禁の犠牲者である」と指摘した。このほか委員会は以下も明らかにした。

[前略]通常刑務所も炭鉱、工場、農場、伐採場を収容者の強制労働で運営していた。これらの事業からの収益が収容者のために使用されることはなかったとみられる。収容者が生産する食べ物の数量も種類も、収容者が与えられるものより多かった。国際法は、適法に有罪とされた者の改善の目的で収容者が自主的に行う労働を禁止していないが、通常刑務所の収容者が強制されている種類の労働は、ほぼすべて、国際基準が定める違法強制労働にあたる。

調査委員会は北朝鮮に対し、刑法と刑事訴訟法を改正し「市民的及び政治的権利に関する国際規約に明記された、公正な裁判を受ける権利と適正手続の保障を、十分に権利として認めること[中略]。自由を奪われたすべての被収容者に対し、拘留中の人道的条件が確保されるよう、一般的な刑務所制度を改革すること」を勧告している。

「北朝鮮では搾取のシステムが稼働し、生計を立てるために小規模な経済活動を営む人びとから賄賂をとっている」と、前出のシフトン・ディレクターは述べた。「賄賂を払えないか、コネが使えない人びとは、地元当局者と政府のために無償の強制労働を課されてしまう。多くの北朝鮮国民の生活は、深刻な物不足によりすでに厳しい状況にある。しかし当局者は権力を濫用する法律を使い、それに拍車を掛けている。」

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