(バンコク)―ベトナム政府当局は、ベトナム共産主義の創始者ホー・チ・ミン(Ho Chi Minh)に関する物議を醸した書籍の出版に関わったとして、2026年6月下旬以降5人を逮捕・拘束していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
ハノイ警察は、グエン・タイン・ナム(Nguyen Thanh Nam)氏、チャン・ヴィエット・アイン(Tran Viet Anh) 氏、グエン・トゥイ・ハン(Nguyen Thuy Hang) 氏、ダオ・バー・ドアン(Dao Ba Doan) 氏、グエン・ヴァン・イエン(Nguyen Van Yen) 氏の5人全員を、(悪名高い)国家安全保障法制である刑法第117条に基づく反国家プロパガンダの実行の罪で起訴し、さらに5人の自宅住所を公表して家族のプライバシー権を侵害した。有罪となれば、最長20年の拘禁刑に処される可能性がある。政府は5人に対する起訴を直ちに無条件で取り下げ、釈放すべきである。
「ホー・チ・ミンに関する一冊のある本をめぐる一連の逮捕は、ベトナムのすべての作家、ジャーナリスト、出版関係者に対し、喧伝されている『国家隆盛』の新時代は単なる抑圧の強化にすぎない、という身も凍るようなメッセージを送るものだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長エレイン・ピアソンは述べた。「この本に対する当局の極端な反応は、ビジネス、出版、メディアの著名な体制内エリートでさえ、共産党の強硬派から安全ではないことを示している」。
『タインとの対話――光をめぐる新たな物語』(In Conversation with Thanh: A New Account of the Light)は、拘束中のテック企業経営者グエン・タイン・ナム(Nguyen Thanh Nam)氏が執筆し、今年4月にハノイの作家協会出版社(Writers' Association Publishing House)から出版された。同書は、教師と生徒の対話形式と現代の話し言葉を用いてホー・チ・ミンの生涯と革命家としての経歴を詳述し、ホー・チ・ミンとその思想を若い世代のベトナム人にとって身近なものにしようとした本である。
警察系新聞は、「この本の内容は、歴史ならびに(共産)党と国家の路線・政策を歪曲し、ホー・チ・ミン主席、ヴォー・グエン・ザップ(Vo Nguyen Giap)将軍(ベトナムで最も称えられる現代の軍事指導者)、その他多くの党・国家指導者を侮辱している」と述べた。
4月と5月に開かれた同書の紹介イベントは、『ニャンザン(人民)』(the People's Daily)紙、『クアンドイ・ニャンザン(人民軍隊)』(the People's Army)紙、『サイゴン・ザイフォン(サイゴン解放)』(the Liberation of Saigon)紙などの国営メディアを含め、好意的に報道された。しかし6月に入り、元省レベル共産党幹部ファン・チュン・カン(Phan Trung Can)氏がオンライン上で同書を批判し、著者がホー・チ・ミンへの敬意を欠き、ベトナムの革命史を貶めていると非難した。同氏は特に、同書が現代的な言葉遣いを用いていることをホー・チ・ミンに対する敬意が不十分だとして問題視し、書籍の廃棄を求めた。この最初の投稿を受けて、同調するネットユーザーたちが、同書の制作・宣伝に関わった全員の処罰を要求した。
ベトナム国内の各紙はまもなく、同書を紹介する記事を削除した。作家協会出版社(Writers' Association Publishing House)は公に謝罪し、回収を指示した。その数日後、文化・スポーツ・観光省傘下の出版・印刷・発行局は、同出版社に対し2か月の業務停止と1億ドン(約3,800米ドル)の罰金という処分を科した。7月には、同省の報道局が同書を宣伝したとして23の新聞社に罰金を科した。同書との関わりがあるとみなされた結果、十数人のジャーナリストが警告、停職、または解雇の処分を受けた。
著者のグエン・タイン・ナム(Nguyen Thanh Nam)氏(65)は6月27日に逮捕された。同氏はベトナムの大手テクノロジー・教育企業であるFPTコーポレーション(FPT Corporation)の共同創業者・元CEOであり、ベトナム初のソフトウェア教育オンライン大学FUNiX(フューニックス)の創設者でもある。2019年には、当時のグエン・スアン・フック(Nguyen Xuan Phuc)首相から、「ホー・チ・ミンの思想・道徳・作風の学習と実践において傑出した成果を上げ…社会主義建設と祖国防衛の事業に貢献した」として表彰を受けている。
同氏はまた数年間、ベトナムの巨大民間企業ビングループ(VinGroup)が2019年に設立した私立大学ビン大学(VinUniversity)で、ホー・チ・ミン思想を教えていた。そしてその講義ノートを書籍にすることを決めたのだった。
チャン・ヴィエット・アイン(Tran Viet Anh)氏(33)は、このホー・チ・ミン本を宣伝したとして逮捕された。同氏は、2016年に設立され多くの若いベトナム人に人気のオンライン討論プラットフォーム「スパイダラム(Spiderum)」の創設者である。2026年7月時点で、スパイダラムのYouTubeチャンネルの登録者数は119万人だった。同プラットフォームはその後、停止されている。
7月11日と12日、警察は、同書に名前が記載されている作家協会出版社(Writers' Association Publishing House)の幹部3人――グエン・トゥイ・ハン(Nguyen Thuy Hang)社長(50)、ダオ・バー・ドアン(Dao Ba Doan)編集長(55)、グエン・ヴァン・イエン(Nguyen Van Yen)編集者(64)――を逮捕した。警察系新聞は、いずれも共産党の古参党員である3人が、同書の「編集、修正、出版、宣伝」を理由に拘束されたと述べた。
「ベトナム共産党指導部にとっては、建国の父について若者向けに書かれた本でさえ、党の権力独占への脅威とみなされうる」とピアソンは指摘する。