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退任間近のスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領は先日、暴力的な宗教過激派について初めて重い口を開きました。8月21日付のインタビューで、その存在には「ぞっとさせられる」「統制できなくなりつつある」と述べたのです。

インドネシアでは宗教的不寛容が高まっており、多くの国民が被害を受けています。ユドヨノ大統領の発言は、残念ながら国内で苦境に立たされる宗教的少数者に向けたものではなく、「イスラーム国」(ISIS)へのコメントだったのです。ISISの残虐さは広く明らかにされており、インドネシア人もISISの部隊に参加の兆候があることは、もちろん憂慮すべきです。

ユドヨノ氏が大統領を務めた10年のあいだ、国内の宗教的少数者は好戦的なイスラーム主義者による嫌がらせ・脅迫・暴力を受けてきました。しかし今回の発言は、大統領はそれを気に留めていないという厄介な事態をはっきり示すものです。それどころか、ユドヨノ大統領は「さまざまなグループがときに衝突するのは理解できる」と述べています。インドネシア国内でのこうした事件は、たいしたことではないかものように。

これは過小評価どころではありません。現にこの発言自体が、ユドヨノ政権時代に、宗教的不寛容と関連する暴力に対し、政府が十分な対処をしてこなかったという遺憾な事実を端的に表しています。過去10年、宗教的少数者への嫌がらせ・脅迫・暴力事件が多数発生しました。インドネシア国内の信教の自由をモニタリングするセタラ研究所(本部ジャカルタ)は、宗教的少数者への暴力事件を2013年に220件記録しています。2007年の91件から大幅な増加です。 

だれが標的とされているのでしょう。キリスト教諸宗派、シーア派、アフマディーヤ派です。これらの集団は好戦的なスンニ派活動家の標的となってきました。非ムスリムを「不信心者」、スンニ派の教義に従わないムスリムを「不敬」と決めつける人びとです。インドネシア国内で特に宗教を信じていない人たちですら、こうした集団の脅威を感じて生活しています。

ユドヨノ大統領はインドネシアでは「すべての宗教が尊重されている」と述べました。しかし宗教的少数者への暴力事件の増加と、徹底的な対策を取らない政府の姿勢は、こうしたのんきな評価の嘘を暴くだけではありません。政府の無策は、信教の自由を保障するインドネシア憲法、およびインドネシアが2005年に批准した自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)に基づく、国家としての義務に背くものです。

この数週間、インドネシアの宗教的少数者の1つシーア派には、とくに事態を憂慮すべき理由が生じています。4月、好戦的なスンニ派組織の連合体「反シーア派連合」は、数千人を集めて少数派シーア派への「聖戦」を主張しました。この集会には、国内で最も暴力的なイスラーム主義組織の一つ「イスラーム防衛戦線」(FPI)のメンバーも参加していました。FPIはこの日、黒いスキーマスクと迷彩服という統一した服装で現れました。迷彩服に刷り込まれた「異端狩り」が何を意味するかは誰の目にも明らかです。

しかしユドヨノ大統領が遠方の「イスラーム国」への不安を公言する一方で、大統領も現政権も、FPIやその他の類似組織が、ほぼ罪に問われることなく宗教的少数者に暴力をふるうという現実を容認しています。2008年6月にFPIは、首都ジャカルタの独立記念塔(モナス)に集まった超宗派団体「信仰と宗教の自由を求める全国連盟」の代表団を襲撃し、数十人を負傷させました。最近では2013年10月に、FPIは西ジャワ州でアフマディーヤ派のモスクを放火すると脅迫。このモスクを閉鎖に追い込みました。ユドヨノ政権はFPIとの対決ではなく、甘やかすことを選択しました。2013年8月22日、インドネシアの宗教問題相(当時)スリャダルマ・アリー氏は、ジャカルタでのFPI年次総会にわざわざ出向いて基調講演を行い、FPIを「国家の財産」と持ち上げています。

しかしユドヨノ政権が信教の自由を保護してこなかったことは、氏がイスラーム主義の暴漢による略奪を容認した以上の結果を生んでいます。近年さまざまな場所で、警察と政府職員が、宗教的少数者への嫌がらせ・脅迫・暴力に、受動的あるいは積極的に関与しています。

2011年2月6日、好戦的なイスラーム主義者約1,500人が、チクシク村の1軒の民家で礼拝中のアフマディーヤ教徒21人を襲撃した際、警察は傍観するだけでした。この集団はアフマディーヤ教徒の男性3人を棒で撲殺。5人に重傷を負わせました。裁判所は実行者12人に3ヶ月から6ヶ月の刑を宣告しました。それに対し、被害をあざ笑うかのように、裁判所はアフマディーヤ教徒の男性1人に対し、正当防衛を試みただけにもかかわらず6ヶ月の刑を宣告しました。警察は襲撃事件の内部報告書をいまだ公開していません。

さらにインドネシア政府当局者と治安部隊は、好戦的なイスラーム主義団体による宗教的少数者への嫌がらせや脅迫を後押ししています。具体的には、明らかに差別的な声明を発表する、宗教的少数者の礼拝場建設の申請許可を認めない、信者たちに移転するよう圧力をかけるなどの措置が行われているのです。こうした行為ができるのは、差別的な法律や規則があるからです。わずか6宗教のみを公認する冒涜法、当該地域の多数派住民を宗教的少数者の集団より圧倒的に優位な立場に置く礼拝所規則などです。

インドネシアの政府機関も、国内の宗教的少数者が持つ信教の自由への権利の侵害にかかわってきました。宗教問題省、社会内神秘主義信仰監視調整委員会(Bakor Pakem)、検察庁事務所(AGO)などです。また、半官組織の「インドネシア・ウレマ評議会」(MUI)は、宗教的少数者に敵対的で「涜神者」の訴追を求める命令やファトワー(イスラーム法学者による見解)を出しています。これらは信教の自由を侵害する動きです。

ユドヨノ大統領は10月下旬に任期を終えますが、宗教的不寛容と関連する暴力の増大という負の財産を残すことになります。

後任のジョコ・ウィドド氏(愛称「ジョコウィ」)にとって大きな課題の一つは、ユドヨノ政権が10年にわたり信教の自由の保護を怠ってきたことの悪影響を認め、これを正すために早急に対策を取ることでしょう。国内の宗教的少数者の保護を優先するとともに、好戦的なイスラーム主義者による人権侵害を一切許さない姿勢を取ることが、目標実現に向けた絶対に必要な一歩です。

フィリム・カインはヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理。以前はジャカルタで海外特派員を務めた経験もある。

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