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天安門広場、1989年6月4日。 © 1989 Stuart Franklin/MAGNUM

(ニューヨーク)―中国政府は、北京で平和的な民主化デモ参加者が多数殺害されてから36年経った今もなお、1989年6月の虐殺(いわゆる天安門事件)の記憶を消し去ろうとしていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日指摘した。当局は弾圧に関する検閲を解除し、記念式典を許可し、遺族に補償を行い、人権侵害に関与した当局者の法的責任を追及すべきだ。

当局は、6月4日の記念日が近づくにつれて、例年のように中国全土で、記念行事、特に虐殺犠牲者の遺族で作る団体「天安門母親」のメンバーによる記念行事に先制弾圧を加えている。著名なメンバーの一人、張先玲さん(87)は、ラジオ・フリー・アジアのインタビューに対し、「車椅子なしで200メートル歩く」のがやっとであるにもかかわらず、当局は張氏らを依然として厳重に監視し行動制限を加えていると述べた

「中国政府は天安門虐殺事件の真相をこれまで一切明らかにしておらず、ましてや被害者とその家族に補償を行ったことはない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国担当リサーチャーであるヤルクン・ウルヨルは指摘した。「中国政府が記憶喪失を強制していることで、中国での権威主義的支配は強化されている。しかし、真相究明、民主化、人権尊重を求める動きは潰れていない。天安門虐殺事件記念式典への先制的な弾圧は、中国が現在進行形で反体制派を弾圧し、表現の自由と平和的集会の権利を侵害し続けていることをはっきり示すものだ」。

天安門虐殺事件追悼行事への予防的弾圧は、中国政府が現在も反体制派を弾圧し、表現の自由や平和的集会の権利を否認し続けていることを痛感させるものである。

天安門虐殺事件の呼び水となったのは、1989年4月、首都・北京の天安門広場など各都市で、学生や労働者らが表現の自由、民主改革、汚職撲滅を訴えて行った非暴力集会だった。政府は5月下旬、激化するデモに戒厳令で対応した。6月3日~4日、人民解放軍の兵士が北京で多数のデモ参加者や見物する群衆に発砲し、多数を殺害した。

政府による記念行事の禁止措置は、香港に強権的な国家安全維持法が施行された2020年半ばからは、中国本土を超えて香港にも及んでいる。当局はまず、2020年2021年に新型コロナウイルス感染症を理由に、それまで毎年行われてきた天安門虐殺事件の追悼集会を禁止した。そして2021年には、集会を主催する香港市民支援愛国民主運動連合会(支連会)を解散に、また同団体が運営する六四紀念館を閉鎖に追い込んだ。

当局は、支連会と元幹部3人(李卓人、何俊仁、鄒幸彤の各氏)を、香港国家安全維持法に基づく「国家政権の転覆を扇動した罪」(最高刑は無期懲役)で起訴した。3人の未決勾留期間は3年以上に及んでおり、裁判開始は2025年11月の予定だ。鄒氏のほか支連会の元メンバー4人は、公安警察の情報提供要請に応じなかったとして有罪判決を受け、3ヵ月~4ヵ月半の禁固刑を言い渡されたが、この判決は2025年3月に破棄されている。

毎年の追悼集会の会場だったヴィクトリア公園付近で天安門虐殺事件の追悼を引き続き試みる香港市民の動きもあったが、警察は数十人を逮捕した。2024年6月4日、警察はこの公園のベンチに一人で座りながら携帯電話のライトを点けていた男性に対し、国安条例に基づく「扇動」に該当する可能性があると警告した。警察はその日、あいまいな理由で4人を逮捕し、うち1人は12月に「警察官への暴行」で10週間の実刑判決を受けた

香港では、天安門虐殺事件に関する検閲や自己検閲が常態化している。2024年11月、香港当局は、ある街灯に割り当てられた表示FA8964について、弾圧の日付が誤って記載されているとしてこれを変更した。2024年12月、香港の航空会社キャセイパシフィックは、機内エンターテイメント・システムに天安門虐殺事件の光景を取り上げたコンテンツがあったとして謝罪した

中国政府は中国本土と香港で沈黙を強制しているが、多くの人びとによって1989年の民主化運動の遺産は引き継がれている。特に注目すべきは、2022年に彭立發が北京の繁華街にある高架橋に一人で立ち、抗議の横断幕を掲げたことだ。この行動は多くの市民を鼓舞し、数ヵ月後の「白書抗議」行動の契機となった。彭氏は、抵抗の象徴である天安門虐殺事件の「戦車男」と比較されることがある。この男性は、弾圧の翌朝6月5日、進軍する戦車の列に生身で立ちはだかる姿が撮影されたことで知られている。

中国と香港以外でも、近年、世界中のディアスポラ・グループや匿名のSNSアカウントが、公開の討論会展示集会エッセイの出版などを通じて、弾圧を記念している。今年は10カ国40都市で77の行事が計画されている

中国政府は天安門虐殺事件後、全土で弾圧を実施し、「反革命」のほか、放火や騒乱などの容疑で数千人を逮捕した。政府はこの虐殺の責任(アカウンタビリティ)を一度も認めたこともなければ、当局者の法的責任を誰一人として追及していない。何が起きたのかを調査することもなければ、死傷者数、強制失踪者数、投獄者数に関するデータの公表も行っていない。前出の天安門母親は、北京やその他の都市で運動が弾圧された際に殺害された202人の詳しい情報を明らかにしている。

中国政府は天安門虐殺事件に対する法的正義の追及を求める国内外の声を無視し続けている。米国政府が天安門虐殺事件に対して科した制裁措置は、年を経るにつれて弱められ、あるいは解除された。国際社会は天安門での虐殺とその後の弾圧をうけて実効的な制裁措置を科してこなかった。このことが、その後数十年にわたり中国政府が平然と行ってきた人権侵害(新疆ウイグル自治区でのウイグル族やテュルク系ムスリムへの人道に対する罪、香港での基本的自由の廃止など)の一因であると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。

天安門虐殺事件36周年にあたり、中国政府は次の措置を講じるべきである。

  • 表現、結社、平和的集会の自由の権利を尊重し、天安門虐殺事件の公式説明に異議を唱える人びとへの嫌がらせや恣意的拘禁を止めること
  • 「天安門母親」のメンバーと面会して謝罪し、死亡あるいは不当に投獄された者について全員の氏名を公表し、犠牲者遺族に適切な補償を行うこと
  • 天安門虐殺事件とその後の動きに関する独立した公的調査の実施を許可し、調査結果と結論を速やかに公表すること
  • 1989年に起きた一連の出来事に関わって中国を離れざるを得なかった国民の帰国を無条件で許可すること
  • 抗議活動参加者への違法な武力行使を計画または命令した、政府および軍関係者全員を調査し、適切に訴追すること

各国政府は、中国政府に過去の重大な人権侵害行為への責任を取らせるべく改めて取り組むべきだ。また、中国にある自国の在外公館やSNSの公式アカウントなども用いて、天安門虐殺事件36周年を公に記念し、世界中の亡命者の活動に加わり、6月4日には中国政府に責任追及を迫るべきだ。

「中国政府は天安門虐殺事件の記憶を封印しようとしているが、この事件は世界中に響き続けている」と、前出のウルヨル・リサーチャーは述べた。「各国政府には、天安門虐殺事件を記念し、これまで取ってこなかった責任を果たすよう中国政府に強く働きかけることを通じて、追悼活動を支援し、その声を大きなものにすることが求められているのである。」

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