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(本文英語)

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内閣官房 内閣広報室

総理大臣 鳩山由紀夫 殿

北朝鮮の人権問題と脱北難民に関する日本の外交政策の提言

拝啓 私どもは、日本の新政権に対し、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)における人権問題について、これまでの政権より積極的でリーダー的な役割を果たして頂くことを強く要請したく、本書簡をご送付申し上げます。

日本政府は、北朝鮮における人権状況、とりわけ日本人拉致被害者の人権状況に対する国際社会の認識を高めるため、重要な役割を果たしてこられました。国連総会や国連人権委員会における北朝鮮の人権侵害を非難する多くの決議の共同提案者ともなってこられました。また1990年代及び2000年代前半に北朝鮮で起きた飢饉の際には、日本は多大な食糧援助を行いました。

1970年代から80年代にかけて北朝鮮の工作員が13人の日本人を拉致した事実を2002年9月に金正日総書記が認めて以来、日本政府はこの問題を解決するために大変な努力を積み重ねてこられました。その結果、日本政府はそのうちの5人とその家族を帰国させることに成功しました。拉致され過酷な人権侵害の被害者となった自国民の保護に向けた日本政府の尽力と断固とした姿勢を、私どもは高く評価致しております。

私どもは、貴殿の政権において、北朝鮮の人びとの悲惨な状況に対しても、同様の姿勢で取り組まれることを要請いたします。日本政府はこれまで北朝鮮の人権状況を強く非難してきたものの、例えば、日本への受け入れは、日本人の親族をはじめとする日本との関係を持った人に限られており、北朝鮮難民に門戸を開いてはおりません。

中国政府に対する脱北難民の認定・保護の働きかけや、日本に関連性のない脱北難民の受け入れ、過去に北朝鮮に渡ったものの日本へ帰国した人びとの受入れの継続などを、日本政府は進めていくべきと思料いたします。そうすれば、日本政府は、北朝鮮との今後の二国間対話において、北朝鮮で人権を促進し保護するために、さらに積極的で重要な役割を果たすことができると思料いたします。

北朝鮮における人権問題に関する多国間および二国間交渉の強化について

北朝鮮の人権状況は依然として悲惨であります。組織された反体制勢力、独立した労働組合、自由なメディア、独立した市民団体、宗教の自由のいずれも存在いたしません。また、重大かつ構造的な人権問題たる、恣意的逮捕・拘束・拷問や、被拘禁者に対する非人道的で品位を損なう処遇が行われ、刑事訴訟手続上の適正手続もございません。現体制を批判をする可能性があると見なされた者への弾圧は非常に厳しく、政府に批判的意見を言う人物や活動家の北朝鮮内での存在は確認されておりません。

日本政府におかれましては、北朝鮮政府に対し、人権関連の議題も二カ国間協議に加えるよう要求していただきたく存じます。人権関連の議題には、北朝鮮に居住する日本国民、元日本国民、その配偶者及び子どもの消息を明らかにする事に加えて、以下に掲げさせていただいた主要事項を含むべきであると思料いたします。

  • 公開処刑を、直ちにかつ永久的に禁止するとともに、死刑廃止に向けて対策を講じること。北朝鮮は、国家財産横領、食料買いだめなどの"反社会主義"とみなされた犯罪を理由に、人びとを(多くの場合子どもの眼前で)日常的に処刑しております。
  • 国連の人権機関に協力し、国連特別報告者の訪朝及び人権高等弁務官事務所の技術支援を受け入れること。なかでも、あらゆる形態の拘禁施設に対し、国連などの中立な国際専門家が視察を行うことと、こうした視察をもとにした勧告を実施することが特に必要とされております。
  • 政府の許可無く脱北し、その後自主的に帰国又は強制送還された人びとへの処罰をやめること。
  • 韓国の戦争捕虜や韓国や日本の拉致被害者とその家族のなかで、北朝鮮を出国して日本など国外に向かう希望を持っている者に対し、出国ビザを出すこと。各人の意思確認に際しては、赤十字国際委員会が、他の北朝鮮国籍の者の同席のない状態で聞き取り調査を行い、各人の意思を中立的に評価すべきと思料いたします。

食糧援助について

北朝鮮は、数百万人が犠牲となった1990年代の飢饉からは立ち直ったものの、今も多くの人びとが食糧不足に悩まされております。2009年9月、世界食糧計画は、北朝鮮の女性と子どもの1/3が栄養失調であると発表。最も脆弱な立場におかれた人びとが食糧を食べられるためには、あと180万トンの食糧が不足しており、この不足分を輸入若しくは援助によって填補しなくてはならないとしました。

私どもは、人道援助は継続されるべきであり、人道援助が政治のツールとして使われることがあってはならないと考えております。一方で、そうした援助の分配をモニターすることが極めて重要であるとも考えております。人道援助は、幼児、高齢者、障がい者、妊婦、子育て中の女性など、最も脆弱な立場の人々に届くべきであり、ドナーは、援助が意図した人びとに届くよう確保すべきであります。

国家の食料配給制度が劣化し、援助食糧が市場の商品と化していくにつれて、食料の価格が高騰し、多くの北朝鮮の人びとは十分な食料を得ることができなくなっております。市場の"浸透(トリックルダウン)"効果は、経済構造の最下層にいる人びとが十分な食料を得られることを保証するものではありません。以上の理由により、私どもは、日本政府が北朝鮮に対し以下を働きかけるべきであると思料いたします。

  • 食糧援助の支給に対し、透明性とアカウンタビリティの国際基準に則った適切なモニタリングを受け入れること。国際基準とは、援助の必要性を調査するための国内全域へのアクセスや、食糧援助支給の現場への視察の許可などを含みます。

難民について

北朝鮮を脱北した難民たちの悲惨な状況は、日本国内はもちろん国際的にも比較的良く知られております。1990年代半ばの飢餓以来、数十万人もの北朝鮮の人びとが、国境を越え中国に向かいました。これらの人びとの数は大きく減少したものの、広範な食料不足から逃れて収入を得るために国境を越える脱北者は、いまでも後を絶ちません。中国政府は、こうした脱北者を難民として保護する義務があるにも拘わらず、脱北者を、逮捕し強制送還することもたびたびございます。強制送還された人びとは、拘禁、非人道的処遇、拷問、強制労働収容所送りや、いわゆる政治犯強制収容所送り、処刑など、激しい人権侵害の犠牲となっております。

日本の国境、大使館や領事館に到着する脱北難民の庇護希望は、1951年の難民の地位に関する条約及び1967年の難民の地位に関する選択議定書に基づき、審査されるべきであります。しかも、2006年に成立した「拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律」(北朝鮮人権法)のもと、日本政府は、脱北難民に対する保護と支援に関し、施策を導入することとされております。

私どもは、日本政府に以下を提案いたします。

  • 正式な許可なしに北朝鮮を出国する国民に対する刑罰を廃止し、実務上刑罰を停止し、北朝鮮に強制送還された人や自主帰国した人を国際的にモニターできるようにするよう、北朝鮮に働きかけること。北朝鮮を出国した人びとに加えられる迫害のため、毎年何千人もの後発難民(refugees sur place)が発生しており、地域の不安定化の要因になるとともに、北朝鮮とその周辺国との緊張を深刻化させております。
  • 中国政府に対し、脱北難民の逮捕・送還を止め、1951年の難民条約で中国政府に義務付けられている、難民へのシェルターの提供と保護を行うよう要請すること。また、中国政府に対し、国連難民高等弁務官事務所が脱北者の地位を審査できるように脱北者へのアクセスを認め、安全で迅速な中国国内での定住または第三国へのトランジットを支援するよう求めること。
  • アジアの他の国々、特に中国政府と交渉して、日本の在外公館に保護を求めるすべての脱北難民が、日本を含む希望の定住先に向けて安全に移動できるよう、迅速な支援を受けられるよう確保すること。
  • 日本の在外公館に対し、脱北難民を受け入れて保護し、第三国へのトランジットを支援するのが原則であるというはっきりした指示を出すこと。
  • 日本の安全保障上の懸念を解決するための各地の入国管理局、海上保安庁、各地の警察の協力した措置を取り入れたうえで、北朝鮮からの難民たちの認定、身元確認、定住措置のためのわかりやすいプロセスを確立し、帰国者たちが自らの身元証明のために日本に住む親族に頼らなくてすむようにすること。

日本からの北朝鮮への大規模な移住について

北朝鮮の悲惨な人権状況によって、多くの日本人・元日本人・元日本居住者・その配偶者や子どもたちは、何十年にもわたり影響を受けてきました。しかし、その事実は、日本以外では必ずしも広く認識されておりません。1959年から1984年にかけて、93,300名を越す人々が、日本から北朝鮮にむけて、両国の赤十字社の合意に基づいて移住いたしました。北朝鮮に移住したなかには、1910年から1945年にかけて奴隷的労働力として日本に強制的に連行された朝鮮人や、日本で生まれ育ったその子孫や、そうした朝鮮人やその子孫と結婚した約6,000人の日本人などがいました。

脱北者(日本から北朝鮮に移住した後脱北した人びとも含む)によると、日本から北朝鮮に移住した少なからぬ人びとは、北朝鮮政府によって、最終的に強制労働収容所に送られたとのことであります。多くは、そこで、餓えや、医療を受けられないことや、虐待により、命を落としていったといいます。強制労働収容所送りを避けられた人びとも、その多くは、ほとんどの所有物を強制的に国家に寄贈させられ、限られた資産で北朝鮮での新しい生活を始めるよう強いられました。

北朝鮮に移住した人びとのすべてではないにしても、その多くは、北朝鮮の抑圧的政策や貧困に対する知識のないままに移住していきました。北朝鮮体制派組織による移住推進運動が始まった1959年から数年の内に、日本政府は、日本から北朝鮮に渡っていった人びとが困難に直面している事実を認識いたしました。その後20年にわたり、日本政府には、この事実を明らかにし警告を発する機会がありました。しかし、その機会は無視され続けたのであります。

これまで、日本政府は、移住していった在日朝鮮人だけでなく、その日本人配偶者(その殆どは女性)やその子どもの悲惨な状況にも、あまり(特に拉致被害者に対する関心と比較すると)関心を払ってきませんでした。北朝鮮に移住した多くの人びとは、高齢、病気、投獄や1990年代の飢饉などの結果、すでに亡くなっていると考えられます。しかし、その一部は、支援の手を必死の思いで待ち続けながら、今も生存している可能性がございます。

日本政府には、こうした人びとに対する道義的・人道的責任がございます。私どもは、日本政府に対し、これらの人々の身元に関する総合的なデータベースを作成するとともに、捜し当てて日本にいる家族や親族と自由に連絡が取れるようにするために北朝鮮政府と精力的に交渉するなど、問題を解決するための力強い措置を講じることを提言申し上げます。データベースが完成した暁には、日本政府は、長い間離別させられた家族や親族との定期的な再会を実現するため、北朝鮮と直接交渉を行うべきであります。

現在、日本政府は、脱北者に対し、日本在住の親族から身元を証明をしてもらうことを義務付けております。しかし、北朝鮮体制派組織に所属する親族が、脱北者の身元確認を拒否するケースがこれまでにも見受けられました。北朝鮮政府は、正式な許可のない出国を犯罪と見なしており、北朝鮮政府に忠誠を誓う人びとは、脱北者を裏切り者として遠ざける可能性もございます。全ての日本国民、元国民、元居住者、そうした人びとの配偶者及び子ども(北朝鮮で生まれた者を含む)が、日本国籍、永住権若しくは難民の地位を(その身元確認を親族に依存しなくても)回復若しくは取得できると、日本政府は明確に表明するべきであります。

私どもは、日本政府に以下を提言いたします。

  • 1959年から1984年にかけて日本から北朝鮮に移住した日本人・元日本人・元居住者・その配偶者や子どもの総合的なデータベースの作成。
  • すべての日本人・元日本人・元居住者や、その配偶者や子どもの日本帰国を認め、国籍若しくは永住権を回復させ、若しくは難民の地位を認めること。
  • 上述した移住者たちを捜すとともに、日本にいる親族と連絡をとって定期的に再会できるよう、北朝鮮政府と交渉すること。
  • 北朝鮮から日本への帰国者及び日本に定住する脱北難民に対し、必要な語学教育・職業訓練・医療サービスを提供すること。または、そのようなサービスを提供するNGO向けの基金を創設すること。

北朝鮮のような国の人権状況を改善することが極めて困難であることは、私どもも十分に承知をしております。しかし日本政府は、日本人・元居住者・その家族・脱北難民、そして北朝鮮の一般民衆の今も続く苦悩をやわらげ、北朝鮮に対して人権状況を改善するよう強く働きかける機会を有しておられます。困難ではあるもののこの極めて重要な本件について、日本の新政権が指導的役割を果たされることが極めて重要であると私どもは思料いたします。

本件について、総理とお話し合いをさせていただく機会をいただきたく、あわせて申し入れさせていただきます。

敬具

ヒューマン・ライツ・ウォッチ アジア局長 ブラッド・アダムズ

北韓人権市民連合 理事長 ユン・ヒョン

北朝鮮難民救援基金 理事長 加藤 博

北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会 代表 三浦 小太郎

 

CC

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海上保安庁長官 鈴木 久泰 殿

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