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日本におけるセーフスポーツの構築を求める要望書

スポーツ庁長官 河合純一殿への共同書簡

スポーツ庁長官 河合純一 殿

12の団体及び個人を代表し、このたびのスポーツ庁長官ご就任を心よりお慶び申し上げます。あらゆる形態の虐待からスポーツをする人を守る重要な課題について、貴庁と関わらせて頂く機会を賜れますと幸いです。

下記署名団体及び個人は、スポーツにおける体罰や、その他の虐待に強く反対します。体罰その他の虐待は子どもやアスリートに生涯にわたるトラウマをもたらし、早急な根絶が必要です。

私たちは、東京オリンピック・パラリンピック開催の1年前である2020年から、スポーツをする人の保護に関する貴庁の取り組みに、深く関心を持ち注目してまいりました。例えば、前長官の室伏広治氏は2021年に、各スポーツ団体が設置したスポーツにおける暴力・ハラスメント等相談窓口を一覧化しました。また、貴庁や当時貴殿が委員長を務めていた日本パラリンピック委員会(JPC)を含む日本の6つの主要スポーツ団体は、日本のスポーツ界における虐待やハラスメントの啓発を目的とした「NO!スポハラ」キャンペーンを開始しました。さらに貴庁は現在、学校の外部指導者に対する処分指針を検討していると承知しております。

また、JPCが最近、虐待通報の仕組み作りに積極的に取り組んでいることも承知しています。今年3月には、日本オリンピック委員会(JOC)と、アスリートの誹謗中傷ホットラインを共同で設立しました。5月には、2025ジャパンパラ陸上競技大会に参加する女性アスリート向けの相談窓口を設置しました。さらに9月、JPCとJOCはミラノ・コルティナ2026パラリンピック冬季競技大会及び日本で開催されるその他の主要国際大会において、SNS等のアスリート等に対する誹謗中傷をモニタリングすると発表しました。パラスポーツにおける虐待の問題への取り組みに深く感謝いたします。

日本でスポーツをする人の権利向上に取り組むアドボカシーグループとして、私たちは2021年に、スポーツにおける虐待を止める国際キャンペーン「#スポーツから暴力をなくそう」を開始しました。SNSキャンペーンへのご支援に深く感謝申し上げます。また、当時の室伏長官及び東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長であった橋本聖子氏に対し、スポーツにおける子どもの虐待の通報・対応を担う独立機関「セーフスポーツセンター」の創設を要請する書簡を送付しました。

この間、諸外国では、法律に基づき、及び/または、政府が資金拠出して、設立したセーフスポーツに取り組む専門機関を設置・運営する国が増えてきており、わが国もセーフスポーツに取り組むイニシアチブに参加することが、わが国の国際的なスポーツ界でのプレゼンスを高めていく上では不可欠です。

本年、スポーツ基本法が改正され、国はスポーツをする人への暴力等の防止策を講じる義務を負うこととなりました。この重要な局面において、長官としてのリーダーシップは極めて貴重であると存じます。スポーツ庁に対し、セーフスポーツの構築を最優先課題とするよう要請いたします。

 

要望書

 

第1 要望事項

 

  1. スポーツにおける体罰やその他の虐待が許されないことをすべてのスポーツ関係者や日本社会に遍く浸透させる強い決意を改めて表明することを求めます。
  2. スポーツにおける暴力を根絶し社会啓発活動をするための独立した専門行政機関 『日本版セーフスポーツ・センター』を設立することを求めます。
  3. スポーツ基本法8条及び29条1項に基づく法制上の措置として、「セーフスポーツ法」を制定することを求めます。

 

第2 「日本版セーフスポーツ・センター」について

 

  1. 日本版セーフスポーツ・センターの機能の概要
  • 『セーフスポーツ』とは、スポーツに関わる者があらゆる種類の「暴力」や差別から守られている状態をいいます。
  • 『セーフスポーツ』には、障がいのあるアスリートやLGBTQ+のアスリートが「暴力」から守られ、差別なくスポーツに参加できること(インクルーシブ)の観点も含みます。
  • ここでいう「暴力」とは、以下のすべてを含む概念です。 ①身体的な暴力、②暴言等による精神的な攻撃、③性的虐待(性的姿態の撮影、公表を含みます)、④セクシャルハラスメント、⑤ネグレクト、⑥オンライン上の誹謗中傷、⑦本来防げたはずのスポーツ事故の発生による受傷
  • 日本版セーフスポーツ・センターは、日本におけるセーフスポーツを実現するために、次の機能を担います。
  1. セーフスポーツの概念の普及・教育
  2. スポーツ中の暴力に関する、独立・匿名・無償の相談窓口の運営、スポーツをする子どもへの暴力・暴言等についての申立てや報告の現存するすべての通報相談窓口の事案をまとめる統一システムを通じた受付
  3. スポーツ中の暴力事案の調査
  4. スポーツ中の暴力事案に対する処分、アスリートの救済、処分を受けた指導者への不服申立制度の提供
  5. 同処分例の公表・データベース化
  6. 再発防止のための研修・更生プログラムの提供
  7. スポーツをする子どもへの暴力・暴言等の防止、子どもを保護するための基準の整備、日本のスポーツ団体の基準遵守の確保
  8. 適切な場合の、暴行・暴言等の虐待事案に関する犯罪捜査のための法執行機関への通報
  9. 暴行・暴言等の虐待を受けたスポーツをする子どもに対する、無料、継続的、専門家による心理的支援のリソース提供
  10. スポーツをする子どもの指導者全員に対する研修基準の設置
  11. スポーツをする子どもの保護者に対する研修の実施
  12. 独立機関の存在と提供するリソースについての教育・啓発
  13. スポーツ団体におけるセーフガーディングの仕組みの構築の助言
  14. スポーツ団体が団体内で策定するセーフスポーツポリシーや、セーフスポーツコードのモデルの提供
  • また、同センターは、以下のアスリートに対する人権侵害行為に対し、法的支援を必要としているアスリートが専門家に容易にアクセスできる仕組みを整えます。
  1. 性的画像被害
  2. オンラインアビュース
  3. ジェンダー・人種・LGBT・障がいなどによる差別
  4. その他のスポーツ活動における人権侵害

 

  1. セーフスポーツ法
  • スポーツにおけるあらゆる種類の暴力を根絶することを目的とする法律です。
  • 同法は、次の内容を含みます。
  1. 日本版セーフスポーツ・センターの設置及び活動の根拠
  2. スポーツにおけるあらゆる種類の暴力の禁止を啓発するための活動に関する、 法的及び財政的な根拠
  3. スポーツ団体があらゆる種類の暴力を根絶するために活動する義務
  4. スポーツにおけるあらゆる種類の暴力の禁止
  5. スポーツにおける暴力を実施したと疑われる者に対する適正な手続の保障
  6. 暴力を実施した者に対し相当な処分を課す独立かつ公正な判断体の設置
  7. 処分を課せられた者に対する日本スポーツ仲裁機構への上訴権の保障
  8. 非違行為が認められたスポーツ指導者に対し、再発防止のための更生プログラムの提供
  9. 暴力・暴言等を受けずにスポーツに参加する権利等、スポーツをする人の権利の明確化
  10. スポーツをする子どもの指導者全員への研修の義務付け
  11. スポーツをする子どもへの暴力・暴言等に気づいた大人への通報の義務付け

 

第3 要望の理由

 

  1. 日本版セーフスポーツ・センターが必要な理由

【全国のメディアで毎日のように報道される未だに暴力が行われている現状】

  • これまで、わが国のスポーツ界では、日本スポーツ協会、日本オリンピック委員会、日本パラスポーツ協会、全国高等学校体育連盟、日本中学校体育連盟が中心となって、暴力の根絶に向けて活動をしていました。
  • しかし、2020 年 7 月に、ヒューマン・ライツ・ウォッチが公表した50競技のアスリートを対象にしたオンラインアンケートによれば、2013 年以降に18歳未満の子どもであった381人の回答者のうち、暴力を受けたと回答した者は19%、暴言を受けたと回答した者は18%でした。
  • スポーツ指導中の性的虐待・ハラスメントは、報告数自体が少なく、未だに問題の全貌がつかめていません。
  • 以上の状況から、暴力の被害にあったアスリートが相談しやすいように、 秘密が守られ、専門性があり、無料で相談できる相談窓口や、法的救済にアクセスできる仕組みが必要です。

 

【アスリートに対する法的支援の必要性】

  • 加えて、現在、日本では、性的画像の問題や、ソーシャルメディア上の誹謗中傷に悩むアスリートが多いです。東京2020オリンピック大会中には、選手団により脅迫を受け、虐待や報復のための強制帰国の措置を受けたが免れたアスリートもいます。これらのアスリートが、低廉な費用で適切な法的支援を受けられるように、スポーツに関わる法律問題に関する専門家に容易にアクセスできる仕組みが必要です。

 

【小規模スポーツ団体の限界】

  • 日本のスポーツ団体は、規模の小さい団体の方が多く、スポーツ指導における暴力の問題に、各団体が個別に取り組むことには限界があります。スポーツ指導における暴力専門の団体を設立することは、日本のスポーツ団体の現状にもかなうものです。

 

【諸外国におけるセーフスポーツ運動】

  • アメリカやイギリス、カナダ、オーストラリア、ドイツなどの諸外国では、政府の資金拠出やスタッフ、制度の割当により、スポーツにおける暴力を根絶する取り組みやアスリートを支援する取り組みが始まっています。マレーシアやシンガポールなどアジア諸国でも、セーフスポーツ実現のための取り組みが始まっています。

 

【スポーツ基本法の改正】

  • 2025年9月に施行された改正スポーツ基本法では、国及び地方公共団体に対し、暴力により、スポーツをする人の環境が害されることのないよう、必要な措置を講じなければならないことが定められました。
  • また、同法では、スポーツ団体に対しても、暴力等によりスポーツをする人の環境が害されることのないようにする努力義務を課されています。
  • 日本政府は、今こそ、暴力等からスポーツをする人の環境を保護し、またスポーツ団体の努力を後押しする措置をとる積極的義務(positive obligation)を果たすべきときです。

 

以上の理由から、日本でも、スポーツにおける暴力を根絶し、アスリートに対する法的支援を充実させ、子どもを保護するため、政府の具体的な措置として、日本版セーフスポーツ・センターの設立が必要です。

 

  1. セーフスポーツ法が必要な理由

【明確な禁止の必要性】

  • スポーツ指導における暴力は、刑法の暴行罪・傷害罪にあたるものです。しかし、スポーツ指導における暴力に対する刑法の適用は、消極的です。
  • また、日本の社会では、愛情のこもった体罰なら許される、という誤った考え方がいまだに払拭されていません。

 

【統一的な対応の必要性】

  • 日本のスポーツは、学校部活動として行われているもの、中央競技団体及びその加盟団体のもとで行われているものがあり、それぞれの団体が管轄する範囲が、細分化されています。
  • 日本版セーフスポーツ・センターが担う機能をすべての団体に遍く適用するためには、日本版セーフスポーツ・センターの設置に法律上の根拠を与える必要があります。
  • また、スポーツ団体がスポーツをする人の人権を保護するセーフガーディング体制を整えるのが容易になるよう、専門的知見の提供や専門的知見を有する人材の育成が必要です。

 

【各ステークホルダーに対する権利・義務の保障】

  • スポーツ指導における暴力を根絶するためには、スポーツ団体の努力義務を後押しする支援策、スポーツ指導者に対する適正手続の保障・不服申立権の保障など、各ステークホルダーに配慮したバランスの取れた制度設計が必要です。

 

以上の理由から、改正スポーツ基本法が今年9月に施行された今、セーフスポーツ実現のために、法制上の措置が必要です。本件につきまして、至急のご対応を賜りますようお願い申し上げます。

日本セーフスポーツ・プロジェクト 代表 弁護士 杉山 翔一

ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表 土井 香苗

一般社団法人アスリートセーブジャパン 代表理事 飯沼 誠司

ユニサカ 代表 渡辺 夏彦

一般社団法人監督が怒ってはいけない大会 代表理事 益子 直美

一般社団法人 S.C.P. Japan 代表理事 井上 由惟子

 

齊藤 夕眞(プロサッカー選手/日本女子プロサッカーリーグ所属)

髙橋 藍(シュートボクシング初代フライ級王者)

高橋 友喜子(元水泳選手/アテネオリンピック競泳代表)

藤岡 奈穂子(ボクシング世界五階級制覇王者)

森 克己(鹿屋体育大学スポーツ・人文応用社会科学系教授)

 

他 1団体署名

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