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「残虐行為からの保護」に残された大きな溝。日本政府が「人道に対する罪」に特化した条約の実現に向けて役割を果たすべき理由

アンベリア難民キャンプを歩く、RSFの戦闘員に撃たれて足を切断された西スーダンのエル・ジェニーナ出身のアブドゥラ・カティール氏(30)、チャド、アドレ、2024年4月20日。 © 2024 Dan Kitwood/Getty Images

中国政府は、新疆ウイグル自治区に対する弾圧の中で何十万人ものウイグル人を恣意的に拘禁し、ウイグル人のアイデンティティの表現を抹殺している。

ミャンマー国軍は、ラカイン州の少数民族のイスラム教徒、ロヒンギャの人びとに対して、広範囲にわたる超法規的殺害、レイプ、強制移住を行っている

スーダンでは、国軍と民兵組織が民族浄化の一環で一般市民を計画的に標的にし、何千人もの犠牲者と強制移住の被害者を生んでいる。

これらは政府や非政府の武装勢力による人道に対する罪のほんの一例だ。

人道に対する罪とは、政府や組織のポリシーに基づき、一般市民に対して広範または組織的な攻撃の一部として行われる殺人、レイプ、拷問、アパルトヘイト、住民の追放、拘禁やその他の犯罪のことを指す。このような罪は内戦や国際的な武力紛争に関わらず、どのような時でも起こりえる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチをはじめとする多くの人権団体がこのような深刻な人権侵害を報告しているにもかかわらず、加害者の責任追及や被害者のための法の下の正義実現に向けた国際法の枠組みは不完全なままだ。

この状況を改善すべく、国際社会は10年以上にわたり、人道に対する罪を防止・処罰するため、人道に対する罪に特化した国際条約の成立に尽力している。このような国際条約はジェノサイド罪、戦争犯罪、拷問、強制失踪、アパルトヘイトには既に存在しているが、人道に対する罪に関する条約は、世界中の最も凶悪な残虐行為に対する国際法上の保護に残された大きな溝を埋めることとなる。

現在、国連総会第六委員会(法律に関する議事項目を審議)で、加盟国は人道に対する罪に関する条約の今後の対応を決めるために会合を開いている。人道に対する罪に関する条約の条文草案は昨年より各国によって議論されてきた。

この先数週間のうちに委員会は、条文草案を議論するという現在の段階から、最終的に国際条約となる条文の内容に関する交渉開始という次のステップに移るか否かを決定する予定だ。この決定は今秋の国連総会が扱う最重要課題のひとつとも言える。

人道に対する罪に関する条約は、すべての締約国に対して、各国の国内法で人道に対する罪を定義し、国内裁判所でこれらの罪を防止・処罰するための司法制度を作るよう求める。

日本は今月4日、すべての地域グループからなる70以上の国連加盟国とともに、条文の内容の交渉というプロセスに進むための重要な決議案の共同提案国となった。日本政府の重要な決断を歓迎する。

しかし、国際法に残る明白な溝を埋め、人びとの保護を強化するための努力を否定する国―ロシア、中国、イラン、キューバ、北朝鮮、エリトリア、カメルーン―も少数とはいえ存在する。

このようにプロセスの進行を妨げる国が存在する中、国連総会第六委員会の慣例通り、加盟国の全会一致で条約の内容の交渉に進むためには、より多くの国の協力が必要だ。これが上手くいかなければ、国連総会の他の委員会と同様に投票による決定が必要となる。

法の支配と国際司法を支持する主要な国家として、日本がいまだ意見を表明していない国や反対する国々に強く働きかけ、委員会で前向きな発言をすることは極めて重要だ。日本政府の今後の積極的な発言に注目したい。また、委員会の会合外の非公式な会議で決議案に関する意見交換が行われることも想定されるが、このような場で声を上げることも日本の担う重要な役割の一つだ。

さらに、仮にプロセスの前進が決定したあかつきには、人道に対する罪の加害者の責任追及に残されたギャップの解消に貢献すべく、条文の内容の交渉に積極的に関わることも期待したい。

これまで日本は国際刑事司法の強化に対して多大にコミットしてきたものの、人道に対する罪に関する条約の策定については慎重な発言がみられた。

中国の新疆ウイグル自治区、北朝鮮、ミャンマー、ウクライナ、エチオピア、スーダン、ハイチ、イスラエル南部、ガザ地区。

これらの地域における一般市民に対する壊滅的な被害をふまえるならば、人道に対する罪に関する条約内容の交渉に進むという重要な決議案の共同提案国となった今こそ、日本はこれまでの慎重な姿勢を転換し、志を同じくする国々と共に、危険にさらされた一般市民の保護を強化するために積極的な役割を果たすべきだ。

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