「外国エージェント」法は、独立した市民社会やメディアをはじめ、政権を批判する活動や言論に「トロイの木馬」という烙印を押すことで、それらの正当性を否定し、孤立させるための便利な枠組みとなっている。また同法は、厳しい監視・報告義務を課し、批判勢力の社会的排除を助長している。民主主義的慣行と人権の促進が権威主義者の権力基盤を脅かすなか、「外国エージェント」法は、こうした活動を外国勢力の利益促進と同一視することで、その信用を失墜させる格好のツールとなっている。
欧州連合(EU)を含む民主主義諸国が、外国からの干渉に対抗しようとする不適切な試みの一環として、外国の影響力に関する法整備を検討してきたことも、事態を悪化させる要因となっている。EUの場合、適用範囲を限定し、市民社会を保護するためのセーフガードを組み込む努力がなされているが、こうした法律は萎縮効果をもたらすリスクがあり、権威主義政権は自らの抑圧的な立法を正当化するために、それらを冷笑的に利用している。
外国エージェント法の標的
外国エージェント法の内容は様々だが、共通する要素がいくつかある。主なものとして、外国資金を受け取り、広義の「政治活動」を行う団体に対し、「外国エージェント」、「外国代理人」、「外国勢力の利益に奉仕する組織」として登録を義務付ける点だ。その上で、これらの団体の出版物、通信、その他の資料にもその旨のラベルを貼るよう強制する。こうした指定は、さらなる厳しい活動制限、政府による執拗な介入、そして活動の監視を伴う。また、過剰な報告義務、違反の疑いに対する罰則、組織のあからさまな閉鎖も発生している。
これらの法律における「政治活動」の概念には、政策に影響を与えることを目的とした政策提言、リサーチ、法律や政策の分析から、公開討論、イベント、集会、デモの開催まで、あらゆるものが含まれうる。他にも、選挙監視の実施や参加、世論調査の実施、法的・専門的知見の普及、政府機関の活動監視など、正当な市民社会活動の多くが対象となる。
これらの法律の主な標的は市民社会団体とメディア組織であり、同種の活動を行う営利目的のロビー団体やその他の商業組織ではない。法律は、外国からの寄付が国家によるものか非国家によるものか、あるいはその団体が外国ドナーの代わりに活動しているか否かを問わずに適用される。外国エージェント法については、国連人権委員会、欧州人権裁判所、欧州安全保障協力機構(OSCE)民主制度人権事務所(ODIHR)、欧州評議会ベネチア委員会など様々な国際機関が、結社の自由を侵害し、非営利団体やメディア組織を差別するものであるとの判断を示している。
平和的集会及び結社の自由に関する国連特別報告者は、国内外の双方からリソースを求め受ける能力が、市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)などの下で、結社の自由の権利にとって不可欠かつきわめて重要な要素であることを繰り返し強調している。
ロシア起源の法律
外国エージェント法の原型は、ロシアが2012年に制定した「外国エージェント」の機能を果たす非営利団体の活動規制に関する法律(いわゆる「外国エージェント法」)だ。ウラジミール・プーチン氏が自身の支配に対する大規模な抗議行動の直後に大統領に復帰してからわずか数ヵ月で成立したこの法律は、ロシア政府が権威主義体制を定着させる基盤となり、その後の広範な弾圧の前兆となった。
この法律により、著名な人権団体、反汚職団体、環境保護団体、世論調査団体、HIV予防や糖尿病ケアなどに取り組むサービス提供団体、メディア組織など、幅広い団体が閉鎖に追い込まれたり、活動を激減させられた。多くの組織が、スティグマを貼られたこと、膨大な報告要件に対応するリソースがないこと、罰金を支払う資金がないことを理由に、自主解散を余儀なくされた。
相次ぐ改正により、法の適用範囲はほぼすべての人を対象とするまでに拡大した。2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻を受け、当局は外国資金の証明すら不要とした。曖昧に定義された「外国の影響下」にあると見なされる個人と団体であれば、誰でも対象となるように法律が大幅に拡張されたためだ。また改正により、いわゆる「外国エージェント」は、公務員、公職、子どもの教育など公的生活の多くの側面から排除されている。罰則は高額な罰金刑から最長5年の刑に及ぶ。
また、ロシア当局は戦争反対やウクライナ支援も「外国エージェント」指定を正当化する理由とした。ロシアによるウクライナ全面侵攻後からの2年間で、外国エージェントのリストに記載された件数は336件から700件以上(2023年末)へと倍増した。2022年、欧州人権裁判所はロシアの法律が集会および結社の自由を侵害していると判断したが、当時すでに欧州評議会から脱退していたロシアはこの判決を無視した。
ロシアに限らず、至る所で「外国エージェント」法は、活発な公共圏に対処し、独裁体制を推進する手段として出現している。ソ連崩壊時から市民社会の発展が一切許されなかったトルクメニスタンのような強硬な権威主義国家では、こうした法律をわざわざ成立させる必要すらほとんどない。ロシアが「外国エージェント」法を成立させた後に生じた事態は、最近同様の法律を成立させたジョージアやキルギスなどの国々の将来に暗い影を落としている。
体制批判者の処罰
ジョージア議会は2024年5月14日に、「外国エージェント」法を可決した。これにより、資金の20%以上を外国から受けている市民社会団体やメディア組織は、「外国勢力の利益に奉仕する組織」としての登録を義務付けられる。1年前には大規模な抗議運動を受けて、ほとんど同内容の法案が撤回されていた。2024年10月の極めて重大な総選挙を前にして、当局はジョージアの活発な市民社会と独立メディアに信用を失わせ、解体することをもくろんでいる。こうした組織は、政府の政策や行動に異議を唱えることができる、表現の自由と独立した監視の最後の砦である。
ジョージア当局は、この法律が透明性を促進すると主張している。これは「外国エージェント」法に見られる典型的な都合の良い言い訳だ。しかし、当局のレトリックからは、この法律が批判的な意見をスティグマ化し、処罰するために利用されることは明らかだ。このことは、法律の可決成立前から進行していた、市民社会や政治活動家に対する暴力的な威嚇や中傷キャンペーンによって裏付けられている。市民社会団体は、特定の種類の組織だけが標的にされていること(例えば、企業や政府資金を受ける非政府組織は除外されている)を指摘し、この法律の目的が透明性ではなく、政府の不正を告発する批判的な団体を口封じすることにある明確な証拠だと述べている。
これに先立つ2024年4月2日、キルギスのサディル・ジャパロフ大統領は、ジョージアよりもさらにロシアの原型に近い、抑圧的な「外国代表者」法に署名した。同法は、いかなる額であれ外国資金を受け取り、曖昧に定義された「政治活動」に従事する非政府組織に対し、「外国代表者」というスティグマ化された呼称を適用する。この法案は、2022年11月の初提出時から広く批判されてきた。
多くの団体が自主解散か、国内での活動を停止した。LGBTQ+団体や青年団体もその中に含まれ、「外国代表者」登録申請の期限前にそのような対応を取った。中央アジアで最も活発な市民社会に対するこの法律の完全な影響は、まだ明らかになっていない。
様々な抑圧方法
「外国エージェント」法以外にも、市民空間を縮小させる手法が存在する。政府は様々な抑圧的な法律を通じて市民社会を弾圧できる。例えば、過剰で煩雑な登録・運営要件を課す法律、助成金の登録と政府承認、過剰な報告義務、非遵守への刑事罰を伴う政府の介入的監視を義務付ける法律だ。アゼルバイジャンは、こうした手段を用い、独立した活動家やジャーナリズムの空間を事実上閉ざした。
外国エージェント法が、こうした制限に加えてスティグマ化するレッテルを貼ることで、政府は市民活動に対する露骨な統制ではなく、世論に一定受け入れられやすい物語を通じて弾圧を正当化できるようになる。さらに、こうした組織の多くが取り組む市民的・政治的権利、平等、反差別といった大義を、普遍的価値ではなく外国勢力の思惑として正当性を奪うという副次的な効果もある。
はるかに強固な法的・司法的コンテクストを持つEU諸国にすら、「外国エージェント」や「外国の影響力」に関する法律が浸透しつつある。2017年のハンガリーの「NGO透明性法」は、外国資金を受け取って、ほぼあらゆる活動に従事する非営利組織のみを標的とした典型例だ。対象団体は、あらゆる出版物やオンライン資料で「外国資金提供組織」であることを宣言するよう義務づけられた。
この法律は2021年、欧州司法裁判所が、EU基本権憲章などEU法に違反するとの画期的判断を示したことで廃止された。同裁判所は、資金調達へのアクセス権を結社の自由の本質的要素と認め、こうした法律が団体の活動への不信感を助長しうる萎縮効果をもたらすことを認定したのである。
しかし、ヴィクトル・オルバーン政権は独立した団体を封じ込めようとする姿勢を崩さなかった。2023年12月、ハンガリー議会は新たに「国家主権保護法」を可決し、政府管理下の機関に市民社会や独立メディアを標的にする広範な権限を付与した。この法律における「外国の利益」や「国家主権」の曖昧な定義と、執行機関による政府や情報機関のデータへの無制限アクセス権限、対抗手段のない中傷キャンペーンの実施権限は、ハンガリー国内に恐怖と自己検閲の空気を醸成している。この法律をめぐり、欧州委員会がハンガリー政府に対する違反手続きを開始したにもかかわらず、政府はすでにこの法律を利用して、反汚職団体のトランスペアレンシー・インターナショナル・ハンガリーと、地元の反汚職調査報道グループを標的にしている。
ロシアの法律から着想を得ている親ロシア派の欧州の政治家たちは他にもいる。EU加盟候補国ボスニア・ヘルツェゴビナ内のスルプスカ共和国は、国内外の強い圧力を受け、2024年5月にロシアの法律をはっきり模倣した外国エージェント法案を撤回した。この法案は、外国からの「支援」が曖昧に定義されていたため、ほぼすべての活動を根拠に非営利団体を「外国の影響力エージェント」と指定する内容になっていた。ブルガリアでは、親ロシアの極右勢力が2022年以降「外国エージェント」法の成立を試みている。
意図せざる結果
これまでに見たロシア、キルギス、ジョージアの外国エージェント法、2017年にハンガリーで成立した法律、あるいは最近撤回されたボスニアの法律案に見られる曖昧さと過度に広範な定義には、法の恣意的解釈を可能にしようとの意図があるように見える。これにより、政府は都合の悪い団体や政府に批判的な人びとを標的にし、法的な不確実性と萎縮効果を生み出し、自己検閲や活動の抑制、さらには組織の解散にすら追い込むことができる。
しかし、たとえ市民社会への懲罰的な意図がない法律であっても、団体間に不当な差別を設ければ、意図せぬ結果を招くことがある。特定の「外国の委託者」のために活動する団体にのみ登録を義務づける、限定的な「外国利益代表法」がこれに該当する。権威主義者たちはこうした法律を引き合いに出して、自らの抑圧的な法律を正当化してきた。
ロシア政府などは、米国の外国代理人登録法(FARA)への対抗措置であると常に主張しているが、FARAは外国委託者の指揮・管理下で活動する組織・個人にのみ適用されるものであり、外国からの資金提供と、外国組織による指揮・管理を同一視していない。
しかし、こうした限定的な外国影響力規制法であっても、正当な市民社会団体の活動をスティグマ化することで、有害な結果をもたらすことがある。フランスは最近、市民社会から批判を浴びている外国の干渉を防止するための法律を成立した。これには様々なオンライン監視措置や外国の利益を代表する団体の登録制度が含まれる。同様に、2023年12月に欧州委員会が提案した「第三国のための利益代表の透明性に関する指令」案は、外国資金を受ける組織の登録簿創設を提案したことで欧州の市民社会に衝撃を与えた。
このEU指令案には、単なる外国資金受領ではなく、外国国家のためになされる利益代表行為に範囲を限定するなどのセーフガードが組み込まれており、典型的な「外国エージェント」法とは一線を画す。それでも、圧倒的多数の市民社会団体と多くのEU加盟国が、市民社会をスティグマ化するリスクや、この法律が「外国エージェント」法に類似していると理解されかねないリスクについて、深刻な懸念を表明している。
ジョージアの政権与党やボスニア・ヘルツェゴビナのスルプスカ共和国は、自らの人権侵害的な立法を正当化するために、このEU指令を引用した。スティグマ化や誤解を避けるため、多くのEU加盟国や市民社会団体は、「外国」の利益代表だけを特別扱いするのではなく、政策決定者への影響力行使に関わる全てのアクターを対象とする、ロビーイングや透明性のための登録制度を求めている。
政治における資金の影響を追跡することには、民主主義の促進という正当な目的がある。しかし、だからこそ、健全な民主主義を促進するために影響力追跡措置を用いる各国政府は、その措置が特定の集団を差別しないよう細心の注意を払うことが求められる。こうした措置は絶対的な必要性があり、均衡性が保たれ、厳密に定義されるとともに、有害な影響を特定するために独立機関による監視を受けなければならない。
多くの政府は最近、非政府組織に対して、意図的か否かを問わず、活動を制限し、沈黙させかねない法的制約を設けている。EU が、域内では表現の自由と市民的空間を育み、域外では市民社会に対する悪意のあるスティグマ化や抑制に対抗する、確固たる基準を確立することを願ってやまない。
本稿執筆にあたり、ヒュー・ウィリアムソン、レイチェル・デンバー、ベン・ウォード、ターニャ・ロクシナ、ジョルジ・ゴジア、シナト・スルタナリエヴァ、リディア・ガル、エリダ・ヴィキック、アイズリング・レイディの助力を受けた。記して感謝する。