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スリランカ:人権侵害が「真実委員会」に暗雲

ドナーと各国政府は、被害者が拒否する計画を後押しすべきではない

Thagbsiwaran Sivaganawathy holds a photo of her daughter, Thageswaran Susanya, at a protest for relatives of the disappeared on May 13, 2019 in Mullaitivu, Sri Lanka. © 2019 Allison Joyce/Getty Images

(ジュネーブ)スリランカ政府がいまも続ける人権侵害は、現政権が提案する真実和解委員会が掲げる目的そのものを損なっていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で指摘した。過去の人権侵害の被害者、その家族、人権活動家らは政府案を認めていない。政府は当事者らとのコンサルテーションを行わず、過去の委員会が集めた証拠を無視しているだけでなく、この案に加われば、治安部隊からの人権侵害やさらなるトラウマが引き起こされかねないからだ。

今回の報告書「『意見を述べると捕まる』:スリランカ政府の提案する真実和解委員会」(全39頁)は、治安機関による監視や脅迫などの人権侵害行為が、スリランカ内戦での「失踪」者の少数派タミル系家族の活動家などに対して行われていることを明らかにしている。当局は厳しい反テロ法を適用し、真実と責任追及(アカウンタビリティ)の動きなど政府批判者の意見を封殺している。他方で、政府の後押しを受けて、タミル人やムスリムのコミュニティ、そしてその宗教関連施設を標的にした土地の奪取が行われている。

「スリランカは真実とアカウンタビリティをとにかく必要としている。しかし、信頼できるプロセスの実現には、被害者家族の支援とともに、政府がマイノリティのコミュニティへの人権侵害をやめることが必須だ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理ミナクシ・ガングリーは述べた。「政府自身の公式声明が示唆するように、現在提案されている委員会のねらいは、失踪者の行方を明らかにしたり責任者を裁判にかけたりすることではなく、不処罰停止を求める国際社会の圧力をかわすこととみえる」。

今回の報告書は、2023年6月にスリランカで行われた80件以上のインタビューに基づく。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、タミル人が圧倒的に多いスリランカ北部と東部で、強制失踪の被害者家族、それ以外の人権侵害の被害者、人権保護やそれ以外の分野の活動家、ジャーナリストに話を聞いた。

政府は、「国民統一和解委員会(National Unity and Reconciliation Commission)」と呼ばれるこの新しい委員会の詳細をまだ公にはしていない。しかし、高官らは南アフリカスイス日本などの外国政府や国連機関に支援を求めている。ラニル・ウィクラマシンハ大統領府は、この案を実現させることで、ジュネーブの国連人権理事会が設置した、スリランカで行われた国際犯罪の証拠を収集し今後の訴追に用いる専門家チームのさらなる調査は必要ないと、各国政府が矛を収めてくれることを望んでいる

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、政府がジャスティス(法による正義)を求めて運動する人びとを標的にしていることは、この計画の信頼性を損なうものだと指摘した。「夫が拉致されて以来、私は普通の暮らしをする自由を奪われました」と、2000年に夫が強制失踪被害にあったタミル人女性は言う。「市場や寺院に行っても、あいつら[治安機関の職員]から「どこへ行くんだ?」と聞かれるのです」。

1980年代後半の左翼勢力の反乱と、2009年に停戦するまで26年間続いた、政府と分離独立を掲げる「タミル・イーラム解放の虎」との内戦の過程で、多数の人びとが国家に拘束されたまま「失踪」した。政府軍と反政府勢力は、民間人への攻撃、超法規的処刑、拷問、子ども兵士の使用など、広範な人権侵害を行っていた。

スリランカの歴代政権は、被害者や目撃者からの証言を広く集める委員会を設けてきたが、真のアカウンタビリティ(責任追及)は実現していない。それどころか、当局は、責任者の特定及び訴追手続きの開始という点で一定の成果を上げていた重大な人権侵害に関する数少ない捜査を妨害した

スリランカの市民社会と被害者団体はいくつかの共同声明を発表し、真実とジャスティス(法による正義)を実現するプロセスがただちに必要であることを訴えるとともに、現行案は信頼性に欠け、被害者とその家族をさらに傷つけかねないとはっきりと述べている。国際法によれば、各国政府は戦争犯罪などの重大な国際犯罪の責任者を訴追することが求められる。この義務を履行しないことによって、さらなる人権侵害が助長され、持続的な平和への見通しは損なわれると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

フォルカー・テュルク国連人権高等弁務官は、9月6日付のスリランカに関する人権理事会宛報告書で、移行期正義(トランジショナルジャスティス)プロセスの成功には、「真実追求だけでは十分ではない。アカウンタビリティ(責任追及)への明確なコミットメントと、遠大な改革を実行する政治的意志とが欠かせない」と指摘している。

政府は、被害者および被害を受けたコミュニティと真摯に関わることで、信頼できる正義の実現に向けて前進すべきだ。その取り組みは、歴代の委員会が収集した証拠、提出した勧告を基礎とすべきである。また政府は、国際犯罪に関する公正で信頼できる捜査と訴追を支援すること、過去の被害者やその家族、人権活動家やその他の活動家に今も続く人権侵害を直ちにやめること、マイノリティ・コミュニティを対象とした「土地の奪取」を停止するよう国家機関に命じることなどの行動を取るべきである。

南アフリカ、スイス、日本など外国政府は、被害者が拒否し、当人らを危険にさらしかねない今回の真実和解委員会に、資金提供などのなんらかのお墨付きを与えるべきではない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。欧州連合(EU)など国際パートナーは、テロ対策法を根拠に続いてきた人権侵害の終結という公約を守るよう、スリランカ政府に圧力をかけ続けるべきである。

「ウィクラマシンハ大統領は『和解」を推進する一方で、現政権は過去の人権侵害の被害者やその家族、マイノリティ・コミュニティを脅かしている」と、前出のガングリー・アジア局長代理は指摘する。「政府は、また新たに委員会を設置して話に進展があるかのように見せかけるのではなく、真の意味での真実と法による正義をもたらすプロセスに信頼を得るための方策をとるべきだ。それこそがスリランカがまさに必要としていることなのである」。

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