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2021年2月25日

〒100-8919

東京都千代田区霞が関2-2-1

外務大臣 茂木敏光殿 

ミャンマー国軍によるクーデターと現在進行中の人権侵害に関して

外務大臣 茂木敏光殿 

我々、下記の市民社会団体らは、2021 年 2 月 1 日にミャンマー国軍が起こしたクーデターを受けて日本政府が直ちに明確な措置を講じるよう要請いたします。ご存知のとおりミャンマー国軍は国と地方の政府の文民指導者たちを拘束し、一年間の「非常事態」を宣言しました。今回のクーデターが取り消されなければ、ミャンマーにおける人権と民主主義を求める懸命な努力が何世代にも渡って妨げられる危険性があります。

日本政府には、ミャンマー国軍とその指導部、また国軍の所有企業であるミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)およびミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)に持つ莫大な経済的資産に対する対象限定型経済制裁を実施するにあたり、関係諸国と共同行動を取ることを求めます。また、日本政府には、国連安全保障理事会及び他の適切な場におけるミャンマー国軍に対する国際的な武器禁輸措置を支持する上、従来続けてきたミャンマー国軍との非公開かつ非効果的な外交を停止するよう求めます。一方、日本政府は公、明確かつ一貫性がある形でミャンマーの人々に対する人権侵害について言及すべきです。

タッマドーによるクーデター

「タッマドー」としても知られるミャンマー国軍は、今回のクーデターを正当化するために、自ら非常事態宣言を発令して三権の掌握を可能にする国軍が起草した2008年憲法の規定を行使しました。国軍は、大統領のウィンミン氏を逮捕し、その後に国軍系の野党政党に所属する副大統領のミンスエ氏を代わりに大統領に指名。その後、ミンスエ氏が大統領代行として非常事態宣言を許可する文書に署名したためタッマドーの最高司令官であるミンアウンフライン上級大将に権力が移譲されました。日本を含む関係諸国はすでにこの権力の掌握がクーデターであると判断しています。

タッマドーは国家顧問のアウンサンスーチー氏や大統領のウィンミン氏のほか、国民民主連盟(NLD)の高官や政府関係者数十人を早朝に首都ネピドーで逮捕しました。その後国軍は、無線機を違法に輸入したという愚劣な容疑でアウンサンスーチー氏を、また選挙運動中に支持者に挨拶したため新型コロナウイルス感染症に関する規制に違反したという容疑でウィンミン氏を起訴しました。しかし、ウィンミン大統領を明らかに信憑性に欠ける理由で逮捕しても、大統領職が空席とはならないため、タッマドーは憲法73条(a)に違反したことになります。73条(a)は「辞職、死亡、永続的な障害、またはその他何らかの原因によって大統領職が空席となった場合には、大統領選挙で2番目に得票の多かった副大統領が大統領代行として職務を果たす」と定めています。タッマドーに憲法の新解釈をする権限はなく、それは憲法裁判所がするべきことです。

当局はクーデターに関連して2月21日までに合計640人を 逮捕し、他地域にいるNLD関係者や市民社会活動家を含めて593人が拘束されたままです。クーデターが発生中、国軍はインターネットや電話回線を多くの地域で遮断し、国営メディアで声明発表をする前には、3Gモバイルネットワークなどのコミュニケーション方法を一時的に規制しました。当局は、フェースブックやツイッターなどのソーシャルメディアも遮断し、通信とインターネット接続をこれまでのところは一時的に遮断することを繰り返しています。

クーデターは、国軍が証拠を示さないまま2020年11月の選挙で広範な不正があったと繰り返し主張した後に起きました。国軍は、選挙管理委員会(UEC)とNLDが野党や少数民族団体や国軍の懸念に対処せず、「義務を適切に果たさず、自由、公正で透明な選挙の実施も怠った」と主張しました。初期に何件か不規則な事案が観測されたものの、国内の選挙オブザーバーたちは1月29日、「選挙結果は信用できるものであり、有権者の大多数の意志を反映していた」と述べました。現在、国軍はUECの代わりに自らが選んだ委員からなる委員会を設置しており、選挙における不正や選挙結果について今後行われる捜査の独立性や公平性について懸念が持ち上がっています。

継続中の人権侵害 

タッマドーは長年、ミャンマーの少数民族住民に対する重大な人権侵害や戦争犯罪を多数犯してきました。これには2017年8月に行なわれたラカイン州のロヒンギャ住民に対する殺害、性的暴力、強制立ち退きなどの民族浄化作戦も含まれます。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2017年にミャンマーの治安部隊がロヒンギャに対して人道に対する罪を犯しジェノサイド的行為を行ったことを明らかにしました。

ラカイン州では、国軍と警察が推定60万人のロヒンギャを移動の自由なくキャンプや村に閉じ込め、適切な食料、医療、教育、生活手段へのアクセスを与えていません。そのうち約13万人は2012年から野外の収容所に留め置かれています。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ロヒンギャが置かれている不潔で過酷な状況は迫害、アパルトヘイト、自由の著しい剥奪という人道に対する罪に相当することを明らかにしました。

日本の対ミャンマー外交

 日本の対ミャンマー外交は数十年前から主に、非公開の形で実施されてきました。外務省担当者などは、公にミャンマー国軍や政府に圧力をかけるよりは効果的としています。同時に、中国の拡大する影響力に抵抗する大きな地域戦略の中、ミャンマーを重要な国と見ています。結果的に、ミャンマー国軍や政府による深刻な人権侵害が発生しているのにも関わらず、「友好的」な外交を展開しています。

日本政府はこのような外交政策を展開しているため、ミャンマー政府とタッマドーの両方が行っている重大な人権侵害を公また明確に批判せず、人権を擁護するという国際的責任を果たしていません。批判することでミャンマーが中国政府の手中に落ちることを恐れている上、このような競争が非倫理的であり負け戦であることを軽視しています。例えば日本は2017年以降、国連人権理事会と国連総会における全てのミャンマー関連の決議を棄権し、ミャンマー政府の差別的な意向を尊重して「ロヒンギャ」という言葉の使用を差し控えています。特に衝撃的で容認できない出来事として、日本の駐ミャンマー大使である丸山市郎氏が、国際司法裁判所(ICJ)がミャンマー側の主張を認めロヒンギャ に対するジェノサイドは起きていないと判断するよう「祈った」と発言したことがありました。

日本政府の「無価値観外交」と並行して、日本の民間セクターもミャンマーへの投資を拡大しており、人権デュー・ディリジェンスの実施を含めて「国連ビジネスと人権に関する指導原則」が求める人権尊重責任を十分に担保していないこともあります。2017年に発生したロヒンギャ難民問題の後も、アウンサンスーチー氏は2019年10月に外務省などが共催した会議で投資や商機を促進するために来日しました。

日本はミャンマーに対して膨大な支援をしているため、重大な政治及び経済的な影響力を持っています。政府からの援助に関しては、2017年現在、日本は合計1兆円を超える有償資金協力、3000億円を超える無償資金協力、880億円を超える技術協力を行ってきました。2017年にはこれはOECDの開発協力局の加盟国や機関の中で第1位でした。

日本は1954年にビルマへの経済支援を開始しましたが、1988年に国軍が政権を握ると援助を中断しました。1995年にはアウンサンスーチー氏の解放など「前向きな動き」があったことを理由に、「中断されていた継続中の事業やミャンマーの人びとを直接利する基礎生活分野の事業を、民主化や人権状況の改善を注視しながら個々に検討し実行することを決定」しました。しかし日本は2003年にアウンサンスーチー氏が自宅軟禁されると再び大規模な援助を停止しました。2012年4月以降、日本政府は経済協力を再開し、現在では融資も行っています。2016年11月にアウンサンスーチー氏が来日した際に日本は官民合わせて5年間で8000億円の経済支援を行うことを発表しました。

国連が設置したミャンマーに関する事実調査団は2018年に、ミャンマー国軍による残虐行為は 「戦争犯罪と人道に対する罪の両方に相当する」と報告しました。この事実調査団は2019年9月の報告書で、ミャンマー国軍とその所有企業であるミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)およびミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)が参加する「外国企業の活動はすべて、国際人権法や国際人道法の違反の一因となる、またはそれらの違反と関連づけられる危険性が高い。少なくとも、そうした外国企業はタッマドーの財政能力を支える一因となっている」という結論を出しました。事実調査団は、国軍による国際人権法と人道法の違反を防ぐために国軍を「財政的に孤立」させるべきだと主張しました。

日本政府に対する勧告

日本政府には、関係諸国と連携した上、あらゆる外交ツールを活用してミャンマー国軍にクーデターを撤回そして民主的な政府の復活を促すよう強く求めます。

日本政府がミャンマー国軍に拘束されている人たちの解放を求めたこと、ミャンマーでの状況をクーデターと認定したこと、またG7の声明に加わったことを歓迎します。日本の外務大臣を含むG7外相が認めたとおり、今回のクーデターは「民主的な未来を求めるミャンマーの人々」にとって重大な脅威となっています。ミャンマーの脆弱な民主主義の破壊に対しては日本を含む全世界が反応するべきです。日本は、民主的に選ばれたリーダーの復活及びミャンマーの人々の人権の尊重を促すため、ミャンマーに対して持っている影響力を関係諸国と連携した上で使用できる立場にいます。

具体的には、日本政府に次のとおり勧告します。

  1. 引き続き、恣意的に拘束されたすべての人の無条件釈放と、民主的制度や機関および2020年11月にミャンマー の人びとによって民主的に選ばれた議会の下院と上院の回復を求め続けること。過去数週間に取られたこれらの抑圧的な措置が緊急に取り消されなければ、制裁対応の拡大を協調して行うべきである。
  2. 大使館や事務所の協力を得て、迫害を受ける恐れのある人びとに大使館での避難場所の提供を含めてあらゆる外交的支援や保護を与え、庇護や一時的避難のための入国を助けること
  3. 関係各国が関与する多国間行動の調整と実行に参加すること。これには国軍そのもの、国軍指導部、国軍に収入をもたらす所有財産に対する対象限定型経済制裁のほか、軍の武器や装備の禁輸措置が含まれる。このような制裁は特に次を対象とするべきである。             
    • ミャンマー国軍の指導部
    • 内閣と国家行政評議会の構成員のうち、国軍の現役の士官または元士官である者すべて
    • ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)およびミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)
    • MECとMEHLの子会社すべて
    • MECとMEHLおよびそれらの子会社の取締役や役員
    • 制裁対象者の日本への渡航と日本での預金を阻止すること
  4. ミャンマー国軍と直接または間接の関係を持っている日本企業が当該商業関係を断ち切るのを支援すること。特に石油、天然ガス、木材、ヒスイや宝石など主要な採取事業などを優先すべき。
  5. 日本政府開発援助の開発協力大綱にある「開発途上国の民主化の定着,法の支配及び基本的人権の尊重を促進する観点から,当該国における民主化,法の支配及び基本的人権の保障をめぐる状況に十分注意を払う」という文言を根拠に、開発援助がミャンマー政府に提供されていないかレビューすべき。しかし、人道的支援は場合によって増やすこと、また同支援の提供先は独立した市民社会団体などにすること。
  6. タッマドーに対する即時の国際的武器禁輸措置を支持し、ミャンマーに武器や物資を提供している政府に対し直ちにそのような活動を止めるよう求めること。
  7. 国連人権理事会で、ミャンマーにおける人権危機の監視と、人権状況についての人権理事会その他の関係機関に対する定期報告の強化を支持すること。

ご検討をありがとうございます。本件についてさらに協議する場をいただければ幸いです。

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