日本政府は長らく、母子保健分野での海外援助に注力し、出産時に母親が死亡するのを防ごうと努力してきました。2017年の3月8日(国際女性デー)を迎えるにあたり、このことに思いを馳せないわけにはいきません。

出産時に死亡する妊婦の数は1990年〜2015年、全世界で44%減少しました。大きな前進です。しかし今この成果が失われる危機に瀕しているのです。女性の保健分野で世界最大の資金援助国である米国の支援が大きく削減されることになるからです。トランプ大統領がある大統領令に署名したために。

On his first full day in office, US President Donald Trump issued an expanded “Global Gag Rule,” or “Mexico City Policy,” which strips foreign nongovernmental organizations of all US health funding if they use funds from any source to offer information about abortions, provide abortions, or advocate liberalizing abortion laws.

この大統領令の結果、世界中の女性の健康と生活が、日本など各国の双肩にかかることになりそうです。そう、日本などが支援を強化してくれるかどうかに。トランプ大統領令により生じる巨額な援助不足を埋めようと3月2日、政府、企業、NGOがベルギーのブリュッセルに集う予定です。オランダ政府が設立した「She Decides(決めるのは彼女自身)」国際ファンド・イニシアチブへの政治的・資金的支援を募る会合です。

トランプ大統領が就任後間もなく署名したのは、非常に厳しい内容の「グローバル・ギャグ・ルール(世界口封じルール)」。この新ルールは、米国外のNGOに対し、いかなるドナーからの援助資金であろうと、人工妊娠中絶に関する情報や手術の提供、あるいは中絶に関係する法律の緩和に資金を使った場合、米国の資金援助を打ち切るというルールです。

たとえばカンボジアのある病院が、米国の援助資金で結核やHIV感染の予防接種と治療を行い、日本の援助資金で中絶関連の情報提供をはじめとする家族計画支援を行っていたとします。その場合でも、米国の資金援助がすべて打ち切られてしまいます。要するにNGOは、包括的なリプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)サービスをすべて切り捨てるか、様々な保健サービスに対する資金カットを甘受するかの二者択一を迫られるのです。グローバル・ギャク・ルールは、女性自身の選択権を制限し、健康上の重要な選択の事前検閲を促進します。そして世界各地で、様々な保健サービスへのアクセスを全体としてより困難にしてしまうのです。

グローバル・ギャグ・ルールはこれまでにも、共和党の米大統領が採用してきました。が、その範囲は家族計画に関する米国の資金援助(およそ5億7,500万米ドル)に限られていました。ところがトランプ大統領が復活させた新ルールは、家族計画だけでなく、母子保健、栄養、HIV /エイズ、感染症、マラリア、結核、熱帯病などの保健支援に世界規模で適用されるため、その影響は金額にしてなんと95億米ドル(約9,500億円)にも上るのです。

この巨額の資金カットは、悲惨な結果に直結します。低中所得国60カ国の女性と少女が、避妊やHIV予防、母子保健へのアクセスを失う場合、望まない妊娠や安全でない中絶、妊産婦の死亡が増加するでしょう。世界保健機関(WHO)は830人の女性や少女が日々、妊娠・出産の際に避けられる原因で死亡していると算出しています。妊産婦の死亡の8〜18%が安全ではない中絶によるものとする研究もあります。また、避妊へのアクセスがない状態は若年妊娠に拍車をかけます。発展途上国に住む15〜19歳の少女の死亡原因のトップは妊娠・出産によるものです。

日本政府はこれまで、グローバルな母子保健分野を力強く支援してきました。包括的なリプロダクティブヘルスケアにも重きを置いています。これまでに達成した前進を守るためにも、「She Decides」ファンド・イニシアチブに対する日本の支援は重要かつ緊急といえます。

トランプ大統領が厳格化したグローバル・ギャグ・ルールは、反・女性、反・保健、反・言論の自由の政策といえます。世界各地で多大な努力により達成されてきた保健上の前進を大きく後退させる恐れがあります。そんな中、日本政府には、女性や少女の側に立ってほしい。そして、海外援助(ODA)を通じてグローバルヘルスの分野で達成してきた前進を、守っていってほしいと思います。