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ビルマ:ロヒンギャ民族への「ふたりっ子政策」 撤廃を

強制産児制限 少数派ムスリムへの広範な迫害の一環

(バンコク)- ビルマ政府は、ムスリム・ロヒンギャ家庭の子どもの数を2人に制限する差別的な人口管理政策を公に撤回すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。この政策の実施は、大半が無国籍者であるロヒンギャ民族への広範な迫害の一環であり、国際的な人権保護策に違反しているのみならず、女性の心身の健康を危険にさらしている。

アラカン(ラカイン)州のウィンミャイン報道官は5月26日、報道機関に対し、バングラデシュに接するアラカン州北西部ブーティーダウン、マウンドー両郡のムスリム・ロヒンギャに対し、2005年に導入された規制の存在を再確認した。多額の賄賂と引き替えに当局から結婚の許可を得ることを定めた規則とあわせて、差別的な「ふたりっ子政策」が、結婚を望むロヒンギャ民族の男女に対して実施されている。長期間待たされた後に(2年に及ぶこともある)、許可が下りる場合が多い。当局はまた、結婚申請プロセスの一環として、多くの女性に妊娠検査を強要している。

「ロヒンギャ民族に対する、冷淡で容赦のないふたりっ子政策の実施は、組織的かつ広範な迫害の一例だ。ロヒンギャ民族は最近、民族浄化作戦の標的ともなっている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムスは述べた。「テイン・セイン大統領は差別には反対だと言っている。だとすれば、このような強制的な家族政策など、ロヒンギャ民族に対する一連の差別政策を撤廃するとただちに宣言すべきだ。」

アラカン州のウィンミャイン報道官は、地元当局は、アラカン州での宗派間暴力に関する政府調査委員会の勧告の実施を目指していると主張した。この委員会は27人からなり、アラカン民族仏教徒とロヒンギャ民族およびカマン民族ムスリムの間で発生し、死傷者を出した、昨年の暴力事件の原因を調査した。2013年4月29日に発表された報告書概要では「ベンガル人(ロヒンギャ民族)コミュニティでの家族計画プログラムの実施が、ロヒンギャ民族の『人口急増』対策として求められている」と明記。その一方、「政府やその他民間団体は、不公正で人権侵害と見なされかねない強制措置の実施は控えるべきだ」とも記す。委員会にはアラカン民族仏教徒の政治指導者が参加しているが、ロヒンギャ民族の委員は一人もいない。

ふたりっ子政策は、ビルマ政府によるロヒンギャ民族への更なる迫害の例だと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。政府治安部隊や地元のアラカン民族政党関係者、仏教僧侶は、2012年6月と10月、ロヒンギャ民族などムスリム住民を標的とした民族浄化作戦が起きた際、人道に対する罪を犯している。しかし現在まで、誰一人として責任を追及されていない。ロヒンギャ民族住民に対し広範な、または組織的な攻撃がさらに行なわれれば、ふたりっ子政策の実施は人道に対する罪に値する可能性がある。

ふたりっ子政策の再要請:国による迫害が続いている証拠

2005年に導入されたふたりっ子政策は、アラカン州でロヒンギャ民族に長年課せられてきた、差別的な結婚規制を強めるものだった。結婚の事前許可は国境警備隊(通称「ナサカ」)から入手する。ナサカとは軍、警察、入管、税関からなる、省庁横断型の腐敗した国境警備組織だ。結婚を望むロヒンギャ民族の男女には、子どもは2人までとするとの誓約書提出が義務づけられている。ふたりっ子政策への侮辱は、罰金と懲役刑による処罰の対象となる。

罰金や逮捕を避けるために、結婚許可の取得以前、またはすでに2人子どもがいて妊娠したロヒンギャ女性は、危険で違法な中絶に頼らざるを得ない。さらに何倍も危険な自己流中絶を家庭で行う女性もいる。ビルマ刑法第312条は、母体に危険があるときを除いて中絶を犯罪としており、中絶手術を求める女性への障壁はそもそもかなり高い。安全な中絶手術に対するこうした障壁は、結婚規制とふたりっ子政策の存在により、ロヒンギャ女性にとってさらに高いものとなっている。ロヒンギャ民族は移動の自由に関する権利も厳しく制限されており、緊急医療が必要な場合ですら、事前に国境警備隊から移動許可を取得する必要がある。この申請は賄賂なしでは却下されることも多い。ビルマでは、危険な手段による中絶が、妊娠女性の主要な死因である。

「ふたりっ子政策による処罰を恐れて、相当な数のロヒンギャ女性が生命の危険を冒し、自己流中絶という無謀で危険な手段を用いざるをえない状況がある」と、前出のアダムスは指摘する。

ビルマに80万~100万人が住むロヒンギャ民族は、差別的な1982年国籍法によりビルマ国籍を取得できない人が大半で、とくに政府による人権侵害を受けやすい。婚外子として、または2人以上子どもがいる家庭に生まれたロヒンギャ民族の子どもには、政府からいかなる地位も与えられない。このため教育など公的サービスの受給資格がなく、移動許可の取得も不可能だ。成長してからは結婚や財産取得の許可を得ることもできない。恣意的な逮捕と拘禁の対象ともなっている。

こうした規制を回避するため、ロヒンギャ女性は賄賂を払い、子どもを法的に結婚している他人の子どもとして登録するか、罰金や投獄を避けるため、子どもの存在を隠して未登録状態のままにしている。国境警備隊が3人以上子どもがいることを把握した家庭については、子どもが政府のブラックリストに載ることもある。調査委員会は、未登録状態のロヒンギャの子どもを6万人と推計している。こうした規制があるため「多数のベンガル人(ロヒンギャ民族)住民は、所定の許可を行政から得ないまま隠れて結婚し、こうした状態で生まれた子どもが未登録状態となっている。」

現地政府と国境警備隊は、ロヒンギャ民族を管理する網の目のような厳しい規則を監督していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。規制の対象は移動、出生、死亡、出入国、結婚と土地所有などに及ぶ。国境警備隊当局は一連の規制を実施するにあたり、ロヒンギャ民族の逮捕、殴打、金銭強要などを頻繁に行っている。2012年に国境警備隊は推計で2,000~2,500人のロヒンギャ民族を「法律違反」で恣意的に拘禁した。この「違反」には深刻なものもあれば軽微なものもあり、無許可での家屋の修繕や「未登録」家畜の所有なども理由となったと、消息筋は伝えている。

いかなる場合であれ、「人口抑制」を目的とした避妊が行われるべきではない。とりわけ、民族的少数者を選択的な標的とすることがあってはならないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。避妊サービスは、性と生殖の健康に関するその他のサービスとともに、すべての女性に対して差別も強制もなく提供されなければならない。望む避妊手段を採用し、家族の人数を決定する選択権は、女性と男性が持つべきである。

2012年3月、国連子どもの権利委員会はビルマに対して「現地で行われている、ロヒンギャ民族への結婚規制を廃止し、ロヒンギャ民族の子どもの数を制限する措置を停止する」ことを求めた。同委員会は、政府による子どもの権利条約の遵守状況のモニタリングを行っている。

野党指導者アウン・サン・スー・チー氏は5月27日、ふたりっ子政策について「そうした差別があることは望ましくない。人権と相反する」と述べている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはビルマ政府に以下を求める。

・アラカン州北部ブーティーダウン、マウンドー両郡でロヒンギャ民族家庭の子どもの数を2人に制限する根拠となる規則ならびに、当該住民へのその他の強制的あるいは差別的な政策、規則、規制、法律をただちに破棄すること。

・妊娠中絶を犯罪とする刑法の条項、とくに中絶を行った成人および未成年の女性を処罰する条項を廃止すること。

・国際人道援助組織が、アラカン州で援助を必要とするすべての人々に医療などのサービスを完全な形で提供できるようにすること。とくに国内避難民、ならびに移動の自由が制限されているその他の人々のニーズに特別に配慮すること。

・2012年以降にアラカン州で発生している重大な人権侵害に関与したすべての人々に対して、立場や身分にかかわらず捜査を行い、適切な形で訴追すること。

「ビルマの改革に関心を持つ各国政府は、ムスリム・ロヒンギャへの迫害について発言する必要がある」と、アダムスは指摘する。「改革プロセスの開始以前なら、こうした政策がビルマ政府当局者から発表されれば、ドナー側は相当激しい批判を行っていた。国際社会の影響力がはるかに強まっている現在だからこそ、各国政府やドナー側は意見を表明する必要がある。」

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