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(ワシントンDC)-「ブッシュ政権が拷問を行った事実を示す証拠が多数存在する。よって、バラク・オバマ大統領は、ジョージ・W・ブッシュ前大統領をはじめとする政府高官が承認した被拘禁者の虐待について、刑事捜査を命ずる義務がある」とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。拷問等禁止条約(米国他146ヶ国が批准)に基づき、締約国は被拘禁者への拷問などの虐待行為を捜査する義務を負っているが、オバマ政権はこの責務を果たしていない。

本報告書「罰せられない拷問:ブッシュ政権と被拘禁者虐待」(全107ページ)は、ブッシュ前大統領、ディック・チェイニー前副大統領、ドナルド・ラムズフェルド元国防長官、ジョージ・テネット元CIA長官をはじめとする政権高官が、いわゆる"水責め"、CIA秘密収容所の使用、拷問を加える国への被拘禁者の移送などを命じた被疑事実につき、刑事捜査を進めるための十分な情報を提供する報告書となっている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのエグゼクティブ・ディレクターであるケネス・ロスは「ブッシュ前大統領、チェイニー氏、ラムズフェルド氏、テネット氏が、拷問及び戦争犯罪を承認した容疑に対し、刑事捜査を行なうべき確固たる根拠がある」と指摘。「オバマ大統領は拷問に対し、犯罪として対処するというより、ブッシュ政権時代の残念な政策として取り扱ってきた。オバマ大統領は虐待的な尋問を止めると決定したものの、拷問の禁止を明確に法的に再確立しない限り、このオバマ大統領の決定も将来容易に覆される可能性がある。」

米国政府が信頼性の高い刑事捜査をしない場合、他国が国際法に従って、被拘禁者に対する犯罪に関与した米国政府高官を訴追するべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「米国政府には、これらの犯罪を捜査する法的義務がある」と前出のロスは語る。「米国政府が捜査を行わない場合は、他の国々が行なうべきだ。」

2009年8月、エリック・ホルダー米国司法長官は、被拘禁者に対する人権侵害の捜査を行なうべく、ジョン・ダラム連邦検事補を指名。しかし、その捜査対象は「未承認」の措置に限定された。その結果、ブッシュ政権の法律顧問が承認した水責めなどの拷問行為は、たとえ国内法や国際法に違反していた場合でも、捜査対象から外されてしまう。

ダラム検事補は、イラクとアフガニスタンのCIA拘禁施設でおきたとされる2名の不審死をしっかり捜査する必要がある、とホルダー司法長官に提言。6月30日、ホルダー長官はこれを受け入れた。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ダラム検事補の捜査対象は狭きに失し、虐待が組織的に行なわれていた実態を解明できないと指摘した。

前出のロスは「米国政府は世界各国で拷問を組織的に行なった。単なる、ルールを破った個人の行為の結果ではない」と述べる。「拷問は、米国政府高官が規範をねじ曲げて、ないがしろにすると意思決定したからこそ、行なわれたのである。」

ブッシュ政権の首脳陣4名につき、ヒューマン・ライツ・ウォッチは以下のように指摘。

  • ブッシュ前大統領は、水責め尋問2件についてはこれを承認したと公に認めている。水責め尋問は、溺死などの模擬処刑の一形態で、米国では拷問の一種としてこれまで長いあいだ訴追対象とされてきた。また、ブッシュ前大統領は、CIAによる違法な秘密拘禁と国家間移送も承認。これらの措置下に置かれた被拘禁者は、外部との連絡を遮断されるとともに、エジプトやシリアなど、拷問される可能性の高い国々にしばしば移送された。
  • チェイニー前副大統領は、被拘禁者アブ・ズベイダに対して2002年に行われた水責め尋問をはじめ、CIAの具体的活動を議論する重要な会議を統括。違法な拘禁・尋問の方針を確立した立役者といえる。
  • ラムズフェルド元国防長官は、違法な尋問方法を承認し、モハメド・アル-カタニに対する尋問も詳細に把握していた。アル-カタニは、グアンタナモ収容所で6週間に及ぶ威圧的な尋問にさらされた。彼に対する長期間の威圧的尋問は、拷問のレベルに達したとみられる。
  • テネット元CIA長官は、水責め、苦痛を伴う姿勢の強要、強烈な光線や大音量の強要、睡眠剥奪などの人権侵害を伴うCIAの尋問方法、および、CIAの国家間移送を承認するとともに監督した。

ブッシュ前大統領はメディアのインタビューにこたえて、司法省の法律顧問から合法だと助言されたという理由で、水責めの承認を正当化。ブッシュ前大統領は、そもそも、法律顧問との相談などなしに水責めを拷問と認識すべきであったが、それに限らず、チェイニー前副大統領などの政権高官が法律顧問の判断に影響を及ぼそうと画策した十分な情報も存在する、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。

前出のエグゼクティブ・ディレクターのロスは「ブッシュ政権高官らは、自分の都合よく法律顧問の助言を変えた上でその助言を採用したにもかかわらず、あたかもその法的助言が独立して出されたかのように振舞って、自分の判断を法的助言のせいにしている。これを許してはならない」と語る。


被拘禁者の違法な取り扱いを正当化するために利用された司法省のメモランダムの作成準備についても、刑事捜査の対象とすべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、拷問の被害者が、拷問等禁止条約の定める公正かつ適切な補償を受けられるべきである、とも指摘。ブッシュ政権もオバマ政権も、拷問被害を訴える民事訴訟の場で、国家機密や政府免責などの法原理を拡大解釈して裁判所が実質審理に入るのをストップしてきた。

ブッシュ政権による被拘禁者虐待政策と、その実施に関する行政権・CIA・軍・連邦議会の役割を検証するため、9/11委員会のような超党派の独立委員会を設置すべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは提言。ブッシュ政権の行なった組織的人権侵害が二度と繰り返されないよう、そうした委員会が勧告を出すべきである。


2011年2月、ブッシュ前大統領は予定されていたスイス訪問を取りやめた。スイスでは、拷問被害を受けたとする個人が、ブッシュ前大統領を刑事告訴すると表明していたのである。スペインでも、拷問への関与が疑われる米国政府当局者に対する捜査が進行中である。ウィキリークスが公にした文書によって、米国政府が、オバマ政権下でもスペイン政府当局に捜査中止を求める圧力をかけ続けていた事実も明らかにされた。

米国政府は、世界各地で人権侵害のアカウンタビリティ(法の裁き)を求めて圧力をかける努力をしている。しかし、米国が拷問・虐待に関与した自国の政府高官への捜査を怠っている結果、その力が減殺されているとヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。

「ダルフールやリビア、スリランカなどで重大な国際犯罪が行われる時、米国政府が法の裁き(正義)を求めることは正しい。しかし、ダブルスタンダードはいけない。」と前出のロスは語る。「重大犯罪の容疑者を法の裁きにかけるため、世界的な取り組みが進んでいる。その中で、米国政府が自国高官を捜査・訴追から免れさせれば、他国が処罰を避けることがより容易になってしまうだろう。」

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