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シンポジウム「岐路に立つ対人地雷禁止条約 :いま世界で何が起きているのか」

ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表 土井香苗によるスピーチ(2025年6月6日)

こんにちは。私はヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗です。

1997年12月3日、国際障害者デーに署名が開始された対人地雷禁止条約(オタワ条約)は、民間人の保護における大きな前進として世界中で祝福されました。日本の当時の外務大臣であった小渕恵三氏は「21世紀に私たちの子孫が地雷の脅威に晒されない世界に住めるよう」に誰もがこの条約を履行し、順守することを望むと表明しました。

対人地雷禁止条約が採択されてから約30年が経ち、地雷禁止条約は前向きな変化をもたらしていますが、いくつかの困難な課題に直面しています。例として、複数の国が条約からの脱退をほのめかしているほか、新たな地雷使用による新たな犠牲者が生じ、米国は地雷除去への資金援助を凍結しています。

2025年の対人地雷禁止条約第22回締約国会議の議長国として重要な役割を担う日本が、この条約が直面している様々な課題に対処する主導的な役割を担うことに注目が集まっています。市川とみ子軍縮会議日本政府代表部大使が6月と12月にジュネーブ国連本部で予定されている重要な締約国会議の議長を務めます。

対人地雷禁止条約の歴史

対人地雷は人を無差別に殺傷するだけでなく、地雷が敷設された土地では住民に移住を強制するとともに、人道支援の実施を妨げ、営農を難しくし、紛争からの社会経済的復興を妨害します。 こうした理由から、各国政府は1997年に地雷禁止条約を採択し、1999年3月1日に発効されました。

この条約は、対人地雷の厳格な禁止と、加盟国に対して地雷除去・廃棄と共に被害者支援を義務付ける措置を組み合わせたものです。対人地雷による苦しみと犠牲者をなくすという目標を達成するために、高い基準と国際的な枠組みを提供しています。

アフリカ連合(AU)全加盟国、欧州連合(EU)全加盟国、米国を除く北大西洋条約機構(NATO)全加盟国を含む165ヵ国がこの条約に加盟しています。1999年以来、対人地雷禁止条約は著しい進展を遂げました。55ヵ国以上を数えた対人地雷の生産国が今では10数ヵ国にまで激減したことや備蓄地雷5500万個以上が廃棄されたことにも表れています。

日本はかつて対人地雷の生産・輸入国でした。ですが、2003年2月には、保有していた約100万個の対人地雷の廃棄を完了しました。

対人地雷禁止条約の課題

条約は健在とはいえ、いくつかの深刻な課題に直面しています。特に大きな課題は、2025年3月以降のエストニア、ラトビア、リトアニア、フィンランドそしてポーランドによる対人地雷禁止条約からの脱退です。各国の議会のプロセスは現在進行中ですが、これらの国は主な非加盟国である米国、中国、インド、イラン、イスラエル、北朝鮮、パキスタン、ロシア、韓国の仲間入りをすることになります。

こうした脱退の動きは、文民の生命を危険にさらし、国際人道の基準を損なうものです。

これらの動きは、ロシアに起因する不確実な安全保障環境によるものです。ロシアは2022年2月にウクライナに全面侵攻して以来、同国で対人地雷を大規模に使用し続けているため、数千人の民間人が犠牲となり、広大な土地が汚染されています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが6月3日に発表した新たな報告書で、ロシア軍がクアッドコプター型の無人機を改造し、対人地雷をヘルソン市内およびその周辺に投下していることが明らかになりました。この攻撃により、これまでに多数の民間人が死亡し、数百人が負傷しています。「上空から狙われて:ウクライナ、ヘルソン市におけるロシアのドローン使用」と題された本報告書では、対人地雷やその他の爆発物・焼夷兵器を搭載した無人機による度重なる攻撃の中で、安全を確保しようと懸命に生きる住民たちの証言が紹介されています。

クアッドコプターによる対人地雷の投下は新たな手法であるものの、これらの兵器は依然として、1997年の対人地雷禁止条約で禁じられています。なお、同条約にはウクライナを含む165カ国が加盟している中、ロシアは加盟していません。

また、2022年以降、ウクライナ軍による対人地雷の使用について信頼に足る証拠も存在する中、2024年11月以降、ウクライナは米国から少なくとも2度にわたり対人地雷の移転を受け入れ、対人地雷禁止条約への違反をさらに深める結果となっています。

対人地雷による深刻な被害

ミャンマーでは軍政下にある国軍が1999年から対人地雷を繰り返し使用しています。他の複数の非国家武装勢力も同様です。

2024年10月、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2022年以降にミャンマーの地雷サバイバーの民間人15人(うち子ども3人)と50人を超える反政府勢力の兵士を治療した外科医にインタビューを行いました。この医師は、地雷が村や農場、また軍事キャンプ周辺に設置されていることを指摘し、こう話していました。「村人は怯えていますが、米やトウモロコシの収穫時期になると戻らざるを得ません。子どもたちは畑について行き、そこで遊ぶことになります」。

ある地雷サバイバーは、2024年8月9日にミャンマーのラカイン州にあるアウク村から逃げるさなかに対人地雷を踏んだとヒューマン・ライツ・ウォッチに話してくれました。「私が他の村人と幹線道路を歩いていると地雷が足元で爆発した」のだそうです。この男性は意識を失いましたが、村人たちの手で川岸まで運ばれ、そこから国境を越えてバングラデシュ側に行き、病院で左足下部の切断手術を受けました。

2023年に記録された全死傷者のうち84パーセントは民間人で、年齢が記録されている死傷者のうち37パーセントは子どもでした。

対人地雷の許されざる性質

どんな兵器も軍事的な有用性をもたらす可能性がありますが、兵器の中には無差別性がきわめて強いため、民間人への被害や人道的影響を考慮すると容認できないとされるものがあります。 対人地雷もその一つです。

状況にかかわらずいかなる行為者によるものであっても対人地雷の使用は非難されなければなりません。 注意すべきは、被害者が起動させるタイプの爆発装置は、現地で入手可能な材料で即席に作られたものか、工場で製造されたものかに関わらず、条約によって禁止されているということです。

地雷除去資源の確保と日本の重要な役割

対人地雷禁止条約に対する最後の課題は、条約の人道的目標を達成するために、支援を必要とするすべての国に対して十分な資源が確保されるよう、各国政府が責任を持って対応する必要がある点です。

条約に署名していないにもかかわらず、米国は過去30年にわたり、地雷除去や地雷生存者のリハビリプログラムへの人道支援では世界最大の拠出国となっています。しかし、ドナルド・トランプ大統領が1月20日に就任してから数日のうちにその資金提供は停止され、この重要な支援が継続されるかどうかは不明です。米国の支援資金が中断しており、地雷除去作業員やリハビリ提供者らも含め、世界中の国際機関や市民社会グループに負担をかけているのが現状です。

米国の資金援助が打ち切られる可能性がある中、米国の資金援助の減少分を補うために、日本をはじめとするドナーからの拠出がこれまで以上に重要となります。

対人地雷禁止条約の議長国である日本は、人道的軍縮の規範を守り、推進するために最大限の努力を払う必要があります。

ありがとうございました。

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

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