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FIFA、外国人労働者への救済措置で世界を欺く

新たなレガシーファンドの使途は労働者の補償に向けるべき

Laborers remove scaffolding at the Al Bayt stadium in Al Khor, Qatar, Monday, April 29, 2019. © AP Photo/Kamran Jebreili

(ジュネーブ)― 国際サッカー連盟(以下FIFA)は、カタールでのFIFAワールドカップ2022の準備・実施の過程で人権侵害を受けた外国人労働者とその家族に補償を行うことを拒んできており、人権責任をいまだ果たしていないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アムネスティ・インターナショナル、FairSquare(フェアスクエア)、エクィデム(Equidem)は本日述べた。

2022年6月以来、移住労働者への補償を訴えるNGO連合体の働きかけを受け、FIFAは一連のやりとりで、死傷のほか、横行する賃金詐取(賃金の不払いや額のごまかしなど)の被害に遭った移住労働者への補償策を考えるとともに、レガシー(開催記念)プログラムの一環として、独立した移民労働者センターを支援する方法を考えるとの意向を示していた。しかし、決勝トーナメント直前になっても、FIFAはそうした計画を一切明らかにしていない。そして、労働者への補償規定が現状では含まれていない、新たな「レガシーファンド」を創設すると発表した。ジャンニ・インファンティーノFIFA会長はまた、労働者はカタール国内にある既存のしくみを使えば、それで補償を受けることができるという、誤解を招く発言をした。しかし、実際には、このメカニズムは、死亡や負傷、過去の賃金窃盗に関して、実質的な補償を行うようには設計されていない。

ワールドカップ2022が最終週を迎えるなか、上記団体はFIFAに対し、このレガシーファンドを使って、労働者と遺族に補償を行うよう求めた。

「カタールにおける外国人労働者に対する深刻な人権侵害にかんするFIFAの隠蔽行為は言語道断だ。これは、世界に向けて恥をさらしているだけでなく、今回のワールドカップ準備の過程で人権侵害を受けた何千人もの労働者と、亡くなった労働者の家族に補償するという人権責任から逃れるための倒錯した戦術だ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの代表代行ティラナ・ハッサンは指摘した。「FIFAは何十億ドルもの収入を得ておきながら、死亡した移民労働者の家族や賃金をだまし取られた労働者には、びた一文払おうとしない。」

ワールドカップ2022開幕に至る数ヵ月のあいだに、FIFAは一連の声明やブリーフィングで、労働者への補償を計画していると述べてきた。たとえば、一連の公式声明で、FIFAが移民労働者への補償や独立した移民労働者センターの支援に前向きであることが示されている。10月13日、カタールにおける労働権に関する欧州評議会の公聴会で、アラスデア・ベルFIFA副事務局長は「FIFAがそれを進めることに関心があるのは確かだ」とし、「ワールドカップのために働いた結果、負傷した人については、なんらかの救済がなされるように取り組むことが重要だ」と述べた。FIFAは以前にも、カタールにおける労働者の権利に関する欧州サッカー連盟(UEFA)ワーキンググループに対して、「補償メカニズムを検討しているところだ」と明言している。

救済に背を向けるFIFA

大会開催間近の11月19日、ジャンニ・インファンティーノFIFA会長は、労働者の救済を求める声に対し、カタール労働省の労働者支援・保険基金が補償に対応すると主張した。そして、補償を望む人は「関係当局に連絡し、正当な補償を求める」よう呼びかけた。

2020年から運用されているこの基金は、賃金詐取の訴えを行った労働者について、労働裁判所で勝訴したものの、雇用者が支払を行わなかった場合に補償を行う。しかし、運用開始に先立つ10年間の死亡、負傷、過去の賃金窃盗について、実質的な補償を行うことができるようなしくみには今のところなっていない。

カタール政府当局も、ヒューマン・ライツ・ウォッチとアムネスティ・インターナショナルの度重なる要請にもかかわらず、賃金詐取について移民労働者に3億5,000万米ドルを支払ったとの発表についての内訳を明らかにしていない。さらに、調査によると、被害者が既存の補償メカニズムを利用する上ではいくつもの障害がある。支払い額には上限があり、労働者や家族が帰国後に申請することはほぼ不可能だ。

最大の障害は、カタールでは移民労働者の死亡事案の大半で、当局は大元の死因を適切に調べずに「自然死」や「心停止」とするため、遺族に補償を受ける資格がないことだ。カタールの労働法では、業務上の要因にかかわる死傷に限り、雇用者に補償の義務がある。

またこの19日の会見で、FIFAは「FIFAワールドカップ・カタール2022レガシーファンド」を設立し、発展途上国の教育プロジェクトの支援に充てると発表した。基金の額は未定だが、過去のレガシーファンドは1億ドルだった。しかし、今回の発表では、ワールドカップ2022の開催過程で人権侵害を被った移民労働者の金銭的救済や、労働組合側が求めている独立した移民労働者センターの支援にこの基金を使うという話は一切なかった。

「何千人もの移民労働者が、世界で最も儲かるスポーツイベントを実現するために、法律違反の賃金しか受け取れなかったり、賃金が支払われなかったり、命を落としてさえいる。FIFAのレガシーファンドがこうした労働者の貢献を認めず、その被害を補償しないなどというのは言語道断だ」と、アムネスティ・インターナショナルの経済・社会正義担当のスティーブ・コックバーンは述べた。

「FIFAには行動を正すチャンスがまだある。レガシーファンドを労働者とその家族のために使い、真に独立した労働者センターを支援し、カタール政府と協力してすべての労働者が相応の補償を受けられるようにするべきだ。軌道修正を行うなら、FIFAは今回のワールドカップを支えた真の英雄たちの生活に永続的な変化をもたらすことができるだろう。そうしないというのなら、労働者の権利に関して自ら行ったコミットメントへの甚だしい裏切りである。」

補償は人権責任

さらにFIFAは、国際労働機関(ILO)と連携して、より一般的な「労働エクセレンス・ハブ」の創設支援資金を別途に確保すると述べた。このハブの役割は、労働問題での「ベストプラクティス」を共有し、今後の大会で国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の遵守を支援することである。しかし、救済へのアクセスは、FIFA自身が従う必要のあるこの国連指導原則の基本原則だと、上記の各団体は指摘する。

「ワールドカップのために働いた労働者本人とその親族は、未払い賃金、就職あっせん料、死亡などの被害に対する補償を要求し、私たちに連絡を取っている。FIFAとカタール政府は、ゴールポストをずらすように話をすり替えることは止め、こうした声に耳を傾けるべきだ。今大会は、労働者の死亡や搾取、表現の自由やLGBTI+コミュニティとの連帯に対する著しい制限によって泥沼にはまり込んでいる。だからこそ、FIFAとカタールは、大会を実現させた女性と男性のために、前向きなレガシーを残して大会を終えるべきだ」と、イクィデム代表のムスタファ・カドリは述べた。

FIFAは今大会で75億米ドルの収益を見込んでおり、国連の上記指導原則に基づき、自らの人権責任を果たすべきであった。この指導原則は、企業が人権を尊重する責任は「国家がその人権義務を果たす能力及び/または意思からは独立してあるもので、国家の義務を軽減させるものではない」と明記している(原則11「解説」)。FIFAはまた、救済策の「検討」から全面的な却下へと方針を転換した理由について、公式に説明する義務がある。

5月19日に#PayUpFIFAキャンペーンが始まってから、補償を求める声は増している。人権団体、移民の権利団体、労働組合、ファングループからなるグローバルな連合体はFIFAに対し、ワールドカップ2022に関するあらゆる人権侵害を救済する包括的なプログラムをカタール政府と設立するよう求めている。FIFAは、2010年にカタールでのワールドカップ開催を決定した際、十分な人権デュー・ディリジェンスを実施しなかった。そして、今に至るまで、人権侵害の軽減・救済のための時宜を得た効果的な措置を講じていない。

救済基金と独立した移民労働者センターを求める移民労働者とその家族の声は、世界中の人びと各国サッカー協会スポンサー政治指導者アスリートによって広く支持されている。しかし、FIFAは、労働者への補償をこれまで拒んできており、こうした支持を結局無視していることになる。先週、Avaazは、このキャンペーンを支持する市民の署名72万筆を提出した。ワールドカップ代表チームに歓声が上がる一方、今大会によって生じた人的犠牲の大きさに対する不満が、世界中のサッカーファンのあいだに湧き上がっている。

「FIFAは、カタールでワールドカップのインフラを建設、提供した外国人労働者を保護するどころか、労働者の搾取から利益を得て、カタール政府当局のセールストークをただ繰り返すだけだ。このことは、FIFAが外国人労働者の人権侵害にかんするありとあらゆる誤った主張と論点ずらしに加担している証だ」と、外国人労働者の人権侵害を調査するFairSquareの創設者兼代表のニック・マギーハンは指摘する。「FIFAは、外国人労働者の救済を訴える、サッカー業界を巻き込んだ真っ当な要求に背を向けている。多くの人権侵害が補償されない状況を示す証拠も、カタールの現行の補償制度の不十分さも無視している。」

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