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(ワシントンDC)-昨年は、人権活動家や人権保護団体に対し、人権侵害国家が攻撃を強めた年だった、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発行した世界人権年鑑=ワールドレポート2010で述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが、世界の人権状況に関する年次調査を年鑑の形でまとめ始めてから、今年は20回目となる。今年のワールドレポートは、90カ国以上の国及び地域の人権状況をまとめたもので、612ページに及ぶ。このレポートは、ヒューマン・ライツ・ウォッチのスタッフが2009年に行った広範囲に及ぶ調査活動で明らかになった現状をまとめたものである。ヒューマン・ライツ・ウォッチのエグゼクティブ・ディレクター(代表)のケネス・ロスは、レポートの序章で、声をあげられない人権侵害の被害者たちに代わって、人権侵害を行なう権力者に圧力をかける人権運動の力について論じている。人権運動が進展すれば、人権を侵害する権力が反撃にでるのは常である。しかし、2009年は、この反撃が特に強まった年だった。

「人権活動家の活動が効果的であればこそ、批判された権力者は反撃にでる。こうした反撃は、ある意味、人権運動に対する賛辞ともいえる。しかし、活動家は危険にさらされることになる。」とロスは語った。「人権侵害を行なう政府は、様々な口実をつけて、人権運動の根幹そのものを攻撃し続けている。」

人権侵害を告発する者に対し攻撃を行なう政府は、ビルマ中国のような権威的な政府に限られていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。たとえば、選挙で選ばれた政権であっても、反政府武装勢力が存在する国で、人権監視活動を行なう人びとに対する攻撃が急増した(タイがその例)。チェチェンでは、紛争自体は止まったものの、北コーカサス地方で蔓延する不処罰と闘う弁護士や活動家を標的とした残虐な殺害事件や脅迫事件が何件も起きた。

エリトリア北朝鮮、そして、トルクメニスタンなどでは、政権が極めて権威主義的であるがゆえに、人権運動自体が全く機能していない。個人や団体に対し激しい人権侵害が行なわれており、人権運動が存在する余地がまったくない。

ケネス・ロス代表は、レポートの序章で、2009年、人権活動家を沈黙させるために暗殺という手段がとられた国として、ロシアスリランカケニアブルンジアフガニスタンを挙げた。

この2010年ワールドレポートで、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、人権団体を頻繁に閉鎖している国家として、スーダンと中国を挙げた。また、人権活動家や政府を批判した人びとに対し嫌がらせや恣意的な逮捕を公然と行っている国として、イランウズベキスタンを挙げた。また、コロンビアベネズエラ、ニカラグアでも、人権活動家は脅迫や嫌がらせにさらされ、コンゴ民主共和国やスリランカなどの国々でも、人権活動家が暴力にさらされている。エチオピアエジプトなどでは、NGOの活動を圧殺するために、極めて厳しい規正法が駆使されている。他にも、政府批判を圧殺するため、中国やイランなどは弁護士の資格が剥奪され、ウズベキスタンやトルクメニスタンでは襲撃事件が作り上げられ、人権活動家が刑事訴追された。ロシアやアゼルバイジャンでは、名誉毀損罪が批判者を弾圧するための道具とされている。

イスラエルで活動する国内外の人権団体は、これまでにない激しい反撃にさらされた。2008年12月から2009年1月にかけてイスラエル軍が行なったガザ攻撃の際の、イスラエル軍及びハマスによる人権侵害や、イスラエルが継続しているガザ地区封鎖による人権侵害について調査をして明らかにしたことに対する反撃である。

「人権侵害を平気で行なうこうした国家の弾圧を止める唯一の手段、それは、人権を尊重する国家が、こうした問題国家との外交の中で、人権をその柱とすることだ」とロスは述べた。

「人権を尊重する政府は、人権侵害を批判する声をしっかりあげるべきだ。そして、人権尊重を外交及び行政の根幹とする必要がある」とロスは語った。「人権を尊重する政府は、弾圧を行なう国家に対し、真の改革を求める必要がある。」

過去に、人権面での米国の信頼は失墜。2009年、オバマ政権は、これを回復するという試練に直面した。前向きの評価に値するオバマ大統領の発言が注目されるものの、そうした発言を実際の政策や行動に十分移せておらず、オバマ政権の評価はわかれる。

米国政府は、CIAの強制的尋問プログラムを中止。しかし、拷問を違法としその撤廃を旨とする米国内法及び国際法をしっかりと履行するためには、プログラム中止だけでは不十分である。「拷問その他の虐待を命令・推進・実行した責任者たちを捜査・訴追すべきである」とロスは語った。グアンタナモ収容所を1年で閉鎖するとの約束について、オバマ大統領は期限を守ることができなかったが、この問題については、閉鎖時期もさることながら、どのように閉鎖するかが一層重要である。ヒューマン・ライツ・ウォッチをはじめとする団体は、拘束中の容疑者たちを、通常の連邦裁判所で訴追するか、安全を確保した形で本国へ送還するか、若しくは、本国以外の国に再定住させるよう米国政府に強く求めてきた。オバマ政権は、到底正当な司法制度とはよべない軍事委員会(ミリタリーコミッション)を維持し続けるとしているほか、容疑者の被疑事実も確定せず、あるいは、裁判にも掛けないまま、無期限に拘束し続けるとしている。こうしたオバマ政権の政策は、グアンタナモ収容所の根幹を永続化する危険をはらむ、とロスは語った。

また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、このワールドレポートの序章で、国際刑事裁判所(ICC)などの国際的司法システムの出現に対する集中的な攻撃も行なわれた、とも述べた。スーダン国軍と同軍を後ろ盾にする民兵組織がダルフールの民間人に対して行った戦争犯罪及び人道に対する罪に関して、2009年、ICCがスーダンの現職大統領オマル・アル-バシル氏に逮捕状を発行。その後、ICCへの攻撃が過熱した。

ICCが逮捕状を発行した後、アフリカの多くの民主主義国家は、当初、国際的なジャスティスを支持する原則的立場をかなぐりすて、地域的団結のなかの一国となる心地良さを優先した、と本ワールドレポートの序章は述べた。

ダルフールに住む多くのアフリカ人たちの大量殺害・強制追放という悲惨な問題に対処すべく行動を起こしたICCに対し、アフリカ連合は、これを称賛するどころか、7月に当該逮捕状の執行に協力しないという決議を行った。多くのアフリカの指導者たちは、人権侵害の犠牲者となったダルフールの人びとを守るのではなく、バシル大統領の側につくという決定を支持したのだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、昨年、世界のほぼすべての地域で起きた様々な人権侵害を対象に調査を行なった。

本ワールドレポートには、序章以外にも、「患者に対する人権侵害」という論考もおさめられている。この論考では、患者を拷問したり虐待する各国政府の医療政策の実態、そして医療従事者がこうした人権侵害の共犯となるのを防ごうとしなかった国内外の医学界の怠慢についても論述している。この論考は、ヒューマン・ライツ・ウォッチが行ったエジプト、リビア、ヨルダン、イラクのクルディスタン、中国、カンボジア、インド、ニカラグアでの調査報告書に言及している。

その他にも、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、多くの国々で、女性や少女たちが被害者となっている状況についても調査を行なった。これには、妊娠・出産の場面や、介護・扶養の場面での人権侵害の実態などが含まれている。例えば、政策の欠陥や法律の問題ゆえに、避けられたはずの死亡事故の犠牲となったり障害を負う女性たちの数は、武力紛争のために毎年死傷する女性の数よりも多い、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2009年6月の大統領選挙の結果をめぐって厳しい対立がおきたイランの人権状況についても調査。イラン政府が平和的に活動を行なった人びとに対して広範な弾圧を行った実態をまとめた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、数千名にのぼる一般人や著名人が逮捕されたことを明らかにするとともに、平和的手段で抗議活動を行なった者に対する国家の暴力、人権活動家の恣意的逮捕、イランにおける違法拘禁施設内での虐待と拷問に関し、詳細な調査報告を発表した。

また、中国では、人権活動家が標的とされて投獄される実態を取りまとめる活動を続けたことに加え、中国政府当局が、北京などの大都市の街頭で人びとを拉致して拘束する「闇監獄(black jails)」を秘密裏に運営していることを明らかにする報告書を発行した。拘束されている人びとの大多数は、政府汚職から警察の拷問にわたる、職権濫用による被害を訴え、救済措置を求める直訴者たちである。

キューバでは、ラウル・カストロ政権の人権侵害の実態について調査報告を行なった。ラウル・カストロ政権は、フィデル・カストロ時代の弾圧的制度を解体するのではなく、多くの政治犯を拘束し続けているほか、数十名を超える反体制派の人びとを逮捕するなどして、逆に弾圧的制度を堅く維持している。

ジンバブエでは、ロバート・ムガベ大統領率いる前政権与党Zanu-PFが、連立パートナーやその支持者たちに対して行なっている人権侵害の実態を監視し、報告を続けた。また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、マランゲ(Marange)のダイアモンド鉱山で無免許で行なわれていたダイアモンド採掘と交易をのっとり、鉱山アクセスを独占する目的で、ジンバブエの軍や警察が残虐な手段をとっている実態も明らかにした。

また、ビルマについての報告書も発表。例えば、政治犯に関するレポートは、数十名の著名な政治活動家や仏教僧、労働運動活動家、ジャーナリスト、芸術家などについて、2007年の平和的な政治的抗議運動以来、逮捕され、不公正な裁判の後、とても長期にわたる刑で投獄中である実態を詳細に明らかにした。

ガザ地区とイスラエルでは、イスラエル軍とハマス両陣営による戦争法違反の実態を取りまとめた。イスラエルが1年前にガザ地区に対して行った攻撃には、白リン弾の違法使用、無人飛行機から発射されるミサイルによる民間人大量殺害、白旗を掲げている民間人に対する銃撃など、多くの戦争法違反があった。また、ハマスなどのパレスチナ武装グループも、イスラエルの一般人の居住地区の中心部へロケット弾を発射したほか、ハマスは、ガザ攻撃中、敵国に協力しているという疑惑を掛けた者たちを暗殺したほか、政治的なライバルたちを虐待した。

リビアでは、トリポリで記者会見を開き、リビア政府を批判するレポートを公表。この記者会見は、リビア初のオープンな記者会見だった。同レポートは、リビアで表現の自由を行使できる空間が徐々に拡大するなど、人権状況の部分的な改善が進んではいるものの、弾圧的な法律が残り、表現の自由や結社の自由を封殺し続けているほか、国内公安機関(Internal Security Agency)による人権侵害が日常的に起きている実態を明らかにした。

コンゴ民主共和国(DRC)では、ルワンダのフツ族民兵に対して、コンゴ国軍がコンゴ東部で行なった2度の波状的な軍事作戦の際の人権侵害の実態について報告。政府軍及び反政府武装勢力が行った1,400名を超える一般人に対する意図的な殺害、組織的に行われた卑劣な強姦など、極めて残虐なコンゴの人権状況を明らかにした。その他にも、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、コンゴの国連平和維持活動の重大な問題点についても報告。こうした問題点ゆえに、国連の平和維持活動が民間人を効果的に保護する能力を制約されている実態を明らかにした。

ギニアでは、首都で開催された野党集会で行なわれた大量殺人、強姦などの人権侵害の実態について詳細な報告書を発表した。この卑劣な攻撃は、主にギニア軍の精鋭部隊である大統領親衛隊員によって行なわれた。ヒューマン・ライツ・ウォッチが集めた証拠は、この攻撃が事前に周到に計画された攻撃であることを明らかにした。こうした攻撃は、人道に反する罪を構成する。

「グローバルな人権運動は前進を続けてはいるものの、人権活動家は攻撃の対象となりやすく、人権尊重国家によるサポートを大いに必要としている現状が続いている」とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べている。

「自らを人権尊重国家と位置づけている政府も、自らの友好国による人権侵害には、『外交的や経済的な必要がある』と言い訳しつつ、沈黙してしまうことが往々にしてある」とロスは語った。「しかし、沈黙は、人権侵害の共犯になることを意味する。重大な人権侵害に対する唯一適切な対応は、人権を侵害する責任者たちへの非難を強めることだけだ。」

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