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国際通貨基金 御中

スリランカの緊急支援融資について

国際通貨基金 理事メンバー 殿

スリランカ政府が、国際通貨基金に対し、政府緊急支出の補填及び紛争後の再定住のために申請した19億ドルの緊急支援融資に関し、本書簡をお送りしております。

私どもは、北部ワンニ(Vanni)地域での人権状況に関して最近行った現地調査に基づき、スリランカ政府が、国内避難民の権利を保護するとともに現在の紛争状況及び紛争後の状況に対して効果的な人道的対応を行うことを確保しない限り、紛争後の再定住のための緊急支援資金は、その意図する目標を達成しないのではないか、という重大な懸念を抱いております。

すでにご存じでいらっしゃるかと存じますが、現在、ワンニは悲惨な人道状況に陥っております。2009年1月初頭以来、政府軍とタミル・イーラム・解放のトラ(LTTE)の戦闘に巻き込まれた民間人犠牲者は、急増の一途をたどっており、過去2ヶ月だけで、2800名以上の民間人が殺害された他、7000名が負傷したと考えられます。およそ25万の人びとがこの戦闘で避難を余儀なくされており、内3万5000名が現在、政府運営の収容所に収容されています。

3月13日、国連人権高等弁務官ナビ・ピレイ氏は、「スリランカ政府軍及びLTTEによる行動のなかには、国際人権法及び国際人道法に違反する可能性があるものがある。事実についてはより詳細な調査が必要であるものの、絶望的な状況であることは明らかである」との声明を発表いたしました。3月17日には、赤十字国際委員会スリランカ代表団団長が「人道状況は日ごとに悪化している。多くの人びとが塹壕に避難することを余儀なくされ、重大な危険にさらされている」と述べております。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、政府軍とLTTEの両陣営によるこの1月初頭以降の戦闘における戦時国際法違反について、広範囲に報告してきました。LTTEは、法を無視して、民間人がより安全な地域に避難するのを妨げ、軍人たちを住民の中に配置しております。スリランカ政府軍は、自らが安全地帯と宣言した地域に無差別に砲撃を加え続けています。両陣営ともに、住民の人道的避難を許可せよという国際機関や各国政府からの呼びかけに抵抗しております。

また、私どもは、スリランカ政府が資金調達目的としている紛争後の再定住に直接に関係すると考えられる国内避難民の処遇に関しても懸念を表明して参りました。スリランカ政府が、2008年9月、大部分の人道機関に対してワンニからの退去を命じたことによって、国内避難民の窮状は悪化の一途をたどりました。国連が最小限の役割しか果たせない中、スリランカ政府による食糧・医薬品・その他救援物資を輸送供給は不十分です。LTTEの支配地域を逃れ、安全を求めて政府支配地域に逃げてくる国内避難民たちは、「福祉センター」という名の事実上の強制収容所に抑留されております。政府側に移動してきた全ての国内避難民たちは、家族全員で、この抑留センターに送りこまれています。「福祉センター」は、自由への権利も移動の自由権もない、軍が支配する鉄条網に囲われたキャンプです。わずかな人道支援機関が「福祉センター」への出入りをみとめられていますが、こうした人道機関は、支援をすることで、逆に、戦争から逃れてきた民間人を長期間拘留するプログラムを事実上支援し長引かせてしまうというかもしれないというジレンマを抱えながらの活動を余儀なくされております。

私どもは、国内避難民の大多数に対し、今年末までに故郷に帰還するか、若しくは避難民が選択した地域に再定住することを許す、とするスリランカ政府の約束がまもられるのか、重大な疑問を抱いております。スリランカにおける25年間にわたる紛争を通じ、民間人たちは、いつも、長期間に渡る難民生活を強いられてきました。海外で難民生活を続けている数千名の人々に加え、国内に残る多くの避難民たちは、帰郷することや別の地域に再定住することを許可されておりません。例えば、1990年代に戦闘を避けて故郷から逃れた多くのムスリム人は、今日まで、「福祉センター」に収容され続けたままの状態です。

スリランカ政府は、IMF融資の目的を、「北部地方での再定住、社会復帰、復興活動、及び、東部地方で継続中の急速な発展を維持するため」と述べ、「同地方の住民の生活水準を上げるばかりでなく、紛争の恒久的な解決をもたらすための政府の努力を成功裡に実行するために」、必要不可欠であると主張しています。

残念ながら、スリランカ政府は、現在、IMF融資の目的に反する政策及び実務を続けております。第一に、スリランカ政府は、ワンニに住む民間人(圧倒的多数がタミル人)の権利と福祉を無視し続けていますが、こうしたスリランカ政府の対応は、タミル系住民の政府に対する信頼を損ない、紛争後の安定と恒久的な政治解決の可能性の芽をつみ取ってしまっております。スリランカ政府は、人道援助機関にワンニへのアクセスを許さず、LTTEによって閉じ込められている民間人に無差別砲撃を加え続けているほか、民間人を収容所に無期限に拘禁し続けているなど、タミル系住民の権利と福祉を無視する姿勢は顕著になっております。

第二に、再定住、復興、社会復帰の成功は、スリランカ政府が国内避難民の故郷へ帰還する権利を尊重し推し進めることにかかっております。しかし、スリランカ政府が、国内避難民に対し明らかに不信を抱いていることは、キャンプや病院すらも軍に厳重に支配させていることからも裏付けられます。避難民たちの故郷への帰還を許すことを政府が意図しているのかどうか、こうした避難民への明らかな不信や政府の過去の政策を考えると、重大な疑問が生じます。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、スリランカ政府がこのような基本的な懸念に対処しない限り、今回申請された緊急資金は、意図された人道目的を達成できないであろうと思料いたしております。提供された資金が無駄にされず、悪用されないよう確保するために、適切なセーフガードが設けられるべきです。以下に掲げますように、セーフガードは、人道危機を緩和するために講ずべき緊急手段や、本件融資が支援する予定である紛争後の復興に付随する長期的なセーフガードなどであるべきと思料いたします。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、スリランカ内戦の両陣営に対し、国際人道法を順守し、民間人に対してワンニの戦闘地帯からの人道避難を許すよう、呼びかけております。スリランカ政府は、人道危機を緩和するため、特に以下の手段を直ちに講じるべきと思料いたします。

●ワンニにおける国際人道機関の援助活動の制限を定めた2008年9月15日命令を取り消すこと。

  • ● 北部の避難民キャンプ内で暮らす人々の基本的権利を尊重するよう確実にすること。キャンプは文民当局の管理下に置かれるべきであります。また、キャンプ内の住人は、スリランカ国民全員に与えられているはずの移動の自由に対する権利を享受するべきです。そして、中立的人道援助機関が、不必要な制限なく福祉センター(キャンプ)にアクセスできるようにするべきであります。

また、スリランカ政府は、紛争後の復興に対処するため以下に掲げる長期的な手段を導入するべきと思料いたします。スリランカ政府は、国連の国内避難民に関する指針に従い、下の手段を講じるべきであります。

●国内避難民に対し、かつての居住地に自発的かつ安全に人間としての尊厳を持って帰還できる環境、または、スリランカ国内のいずれの地域にも再定住できる環境を作ること。スリランカ政府は、国内避難民自らが、自身の帰還計画や実現のためのマネージメントに参加できるよう確保するべきであります。

●国内避難民が、財産と所有物を取り戻すことができるよう支援すること。これが不可能な場合は、損害賠償、その他の救済措置を得られるよう支援すること。

●国際人道援助団体が、国内避難民の帰還や再定住を支援することを認め、そして、推し進めること。

本件につきまして、十分なご検討いただきたく、お願い申し上げます。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ アジア局長

ブラッド・アダムズ

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