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スリランカ:信頼できない新たなトランジショナル・ジャスティス(移行期正義)のプロセス

国連人権理事会の継続的関与が、残虐犯罪の裁きの実現に依然不可欠

Thagbsiwaran Sivaganawathy holds a photo of her daughter, Thageswaran Susanya, at a protest for relatives of the disappeared on May 13, 2019 in Mullaitivu, Sri Lanka. © 2019 Allison Joyce/Getty Images

(ジュネーブ)―スリランカ政府は、戦時中の人権侵害行為を調査する新機関の設置法案を提出した。しかし、この法案は過去の過ちを繰り返すものであり、被害者のニーズを無視し、スリランカの国際法上の義務を果たすにはほど遠いと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。スリランカ政府当局は、武力紛争終結から15年経った今もなお、被害者の家族やそのコミュニティを沈黙させ、押さえつけている。

2023年に行われた限定的な協議を経て2024年1月1日、「スリランカ真実統一和解委員会設置法案」が公開された。タミル・イーラム解放の虎(LTTE)との内戦中(1983年~2009年)及びその後に生じた人権侵害と戦争犯罪を調査するとの政府の公約を受けたものだ。左翼政党「人民解放戦線」(ジャナタ・ヴィムクティ・ペラムナ:JVP)が1988年~1990年に武装蜂起した際の広範な人権侵害は対象に入っていない。法案のねらいは、真実を明らかにし、法による正義を実現して救済を行うことではなく、残虐犯罪に対するアカウンタビリティ(説明責任)が欠如していることに対応するよう求める国際的な圧力をかわすとともに、国連人権理事会によるスリランカの監視を止めさせることにあるとみられる。

「戦時下の人権侵害行為で何万人もの死者と強制失踪者を出したスリランカでは、信頼できる真実と法による正義によるプロセスが切実に求められている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理ミナクシ・ガングリーは述べた。「しかし、政府は被害者コミュニティへの弾圧を続け、加害者とみられる人物らをいまだ守っている。これは法による正義を実現するつもりがないことの表れだ。今回の委員会も過去の複数の委員会と大差ないことは確実だ」。

法案によると、新委員会は戦時下の人権侵害行為の「真実を伝える記録」を作成し、賠償について勧告を行い、再発防止策を提案する。この委員会はまた、「さらなる調査や必要な措置のために(…)関連する法執行当局や検察当局に案件を付託する」こともできる。しかし、当局はそうした案件を取り上げることがすでに規定されているにもかかわらず、そうすることはめったにない。スリランカの歴代政権は、重大犯罪に関与した者を訴追または引き渡すという国際法上の義務を守らず、捜査を妨害し、裁判を引き延ばし、被害者を沈黙させてきた。

1990年代以降、政府は今回のような委員会を少なくとも10回設置し、うち5回で報告書がまとめられた。多くの被害者が「委員会疲れ」を訴えるとともに、訴追などの法による正義と救済が期待できない以上、トラウマをさらに負ったり、治安部隊から脅迫されたりするリスクを冒してまで、改めて証言することに意味を感じないと話している。

2023年、政府が新委員会の設立計画を発表したことを受けて、紛争被害者や市民社会団体を代表する数多くの団体(紛争の影響が最も大きかった北部と東部の諸州の組織が目立つ)は4つの共同声明に名前を連ねた。そして、政府のやり方を批判した上で、現在進行中の人権侵害行為をまずは止めて「信頼を築き」ながら、過去の委員会の報告の結果に基づき動くべきだと訴えた。

現政権は、過去の政権と同様、国際的な圧力をそらすために人権状況改善の公約を掲げるが、その一方で人権侵害を継続し、実効性のある改革とアカウンタビリティ(責任追及)の実現を妨んでいる。多くの被害者は、今回の委員会設置の目的は、国連人権理事会の理事国にスリランカの人権状況の監視を打ち切ってもらうための説得材料にすることにあると考えており、ラニル・ウィクラマシンハ大統領府の一連の発言もこの見方を裏付けている。

今回の委員会は、2010年~2011年に活動した「教訓と和解委員会」に類似している。この委員会が当初の目的を達成できなかったことを受けて、人権理事会は2015年、スリランカでの残虐犯罪に対するアカウンタビリティ(責任追及)を前進させるための一連の重要な決議を初めて採択した。

ウィクラマシンハ現大統領が首相を務めた2015年~2020年に、人権理事会はスリランカ政府の賛同を得て、スリランカによる外国人とスリランカ人とからなる「ハイブリッド」司法メカニズムを期待する決議を採択した。2021年、スリランカの新政権がこのプロセスを撤回したことを受け、人権理事会は国際的な証拠収集プロジェクト設置し、将来考えられる国外での刑事訴追を支援することにした。

現政権は基本的権利の抑圧を続けている。2024年1月、政府は表現の自由を脅かす2つの法案を議会に提出した。国連人権高等弁務官事務所によれば、「反テロリズム法案」は、マイノリティや「反政府派」を標的に長年用いられた法律代わるもので、「警察、また軍に広範な権限を委ね、司法による監督が行き届かないなかで、人びとを呼び止め、職務質問と身体捜索を行い、逮捕・拘禁することを認める」ものだ。

また、「オンラインセキュリティ法案」が1月24日に成立したが、高等弁務官事務所は「当局が気に入らない表現を「虚偽の陳述」とレッテル貼りして制限する自由裁量権を当局に与えることになる」と述べた。言論に関連する罪が新設され、違反すれば長期の刑が科される。

政府はまた、真実とアカウンタビリティを求める活動家を標的にし続けている。当局は、北部訪問中のウィクラマシンハ大統領に抗議したために親族が強制失踪に遭った事件について、長年にわたり真相究明を求めてきたSivananthan Jenita Charlesnise氏とMeera Jasmine Charlesnise氏を1月5日、逮捕・拘束した。2023年12月、戦没者を追悼したタミル人9人が反テロ法違反容疑で拘束された。

政府機関は、タミル人やムスリムのコミュニティが使うヒンドゥー教やイスラームの宗教施設や土地を、さまざまな口実で取り上げ続けている。仏教寺院に作り変えたり、多数派コミュニティのメンバーに譲り渡す事例もある。こうした行為は信教の自由を侵害するものであり、「和解」を促進し紛争の原因に対処するという政府の掲げる目標とまったく矛盾するものだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

新委員会のミッションは、有名無実化している既存の機関(「賠償事務所」(2018年設置)や「行方不明者事務所」(2017年設置)など)と重複することになるが、その重複の調整はない。1月9日、スリランカ議会は明らかに目的が類似する機関をさらにもうひとつを正式に認める法案を可決した。「国民統合和解局」(2015年設置)である。

関係国政府は、新たな「真実統一和解委員会」への資金提供や支持を拒否すべきだ。この委員会は、不処罰に対処し救済を提供するというスリランカの国際法上の義務を遂行するためのものではなく、被害者や被害を受けたコミュニティからの支持も得ていないからだ。関係国政府がなすべきは、人権理事会のマンデートが更新・強化されて、過去の犯罪に対するアカウンタビリティが追及され、現在進行中の人権侵害行為がとまるよう、働きかけることである。

「ウィクラマシンハ大統領率いる現政権は、政権批判を封じ込める一方で、人権侵害行為を行ったとされる者たちを守り、後押し、少数者のコミュニティを差別している。こうした行動からすれば、今回の「和解」案がこれまでの委員会と異なる結果を出すと信じるに足る根拠はない」と、前出のガングリー局長代理は述べる。「スリランカ政府は、過去に誠実に向き合う作業を始めるべきだ。そのためには、すでに収集された証拠を用いてアカウンタビリティの追及を進めるとともに、法による正義を求める被害者とその家族への迫害を止めることが必要だ」。

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