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トランスジェンダー女性について、すべての公立女子大学への入学を認めるよう求める要請書

福岡県知事 小川 洋 殿
福岡女子大学 学長 梶山 千里 殿
群馬県知事 山本 一太 殿
群馬県立女子大学 学長 小林 良江 殿
岐阜市長 柴橋 正直 殿
岐阜市立女子短期大学 学長 杉山 寛行 殿
山形県知事 吉村 美栄子 殿
山形県立米沢女子短期大学 学長 阿部 宏慈 殿

CC 東京都千代田区霞が関3-2-2
文部科学省  文部科学大臣 萩生田光一 殿  

トランスジェンダー女性について、すべての公立女子大学への入学を認めるよう求める要請書

 

拝啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、世界100カ国以上で活動する国際人権団体であり、人権侵害を明らかにし、あらゆる人の人権の尊重と促進にむけて活動しております。なお2009年に東京事務所を開設しています。

今回の書簡は、貴学と首長及び日本政府に対し、すべての人について本人が申告するジェンダー・アイデンティティを尊重し、国内のすべての公立女子大学が、トランスジェンダー女性の入学を認めるよう強く要請するものです。ご承知の通り、ここ数年で、国立女子大学2校すべて(お茶の水女子大学、奈良女子大学)と私立女子大学2校(宮城学院女子大学、日本女子大学)が、トランスジェンダー学生の入学を許可すると表明しました。2020年6月には、日本で最も歴史のある女子大学である日本女子大学が「様々な違いがあっても不当な扱いを受けることのない、人権の尊重される社会の実現に貢献する」(篠原聡子学長)との認識を示し、4校目の受入校となりました。

これら4大学は、トランスジェンダー女性の教育権を尊重する方針をとることによって、トランスジェンダー女性にも平等な権利があり、分け隔てなく高等教育を受ける機会が与えられるべきであるとの認識を示しています。貴学及び文科省におかれましては、これらの女子大学4校の姿勢に範をとり、トランスジェンダー女性が戸籍上の性別表記にかかわらず、すべての公立女子大学に入学できるようにすべきであります。

現在、日本では、トランスジェンダーの人びとの法的性別認定には、医療的介入と断種手術が国内法で義務づけられています。「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(性同一性障害特例法)は、法的性別認定を望むものの、断種手術などの不可逆的な医学的処置を受けることができない、または望んでいないトランスジェンダーの人びとに害を与えています。世界保健機関(WHO)は、2019年に「国際疾病分類」を改訂した際、「性同一性障害(GID)」の診断名を精神疾患の章から削除し、トランスジェンダーであることやジェンダー・ノンコフォーミングであることは、人間の経験の自然なヴァリエーションのひとつであり、精神疾患ではないとしました。さらに、断種手術を法的性別認定の要件とする日本のような法律は、人権団体及び世界トランスジェンダー・ヘルス専門家協会(WPATH)などの医療専門機関から繰り返し非難されているところでもあります。

これに加えて性同一性障害者特例法は、トランスジェンダーの法的性別認定は、成人年齢(現在は20歳)に達してからと定めています。つまり、トランスジェンダー女性である大学生は、大学に入学可能な年齢に達しているのに、法的性別認定の権利そのものがありません。したがって、トランスジェンダー学生が当人のジェンダー・アイデンティティに従って、大学に通うことができるようにするために、貴学、県、市及び文科省が指示・指導を行うことが欠かせないのです。

行政や司法の中には、手術を要件とせずに法的性別認定を行うことの重要性を理解する流れもあります。2018年2月、最高裁判事2人は性同一性障害者特例法改正の必要性について示唆し「性同一性障害者の性別に関する苦痛は、性自認の多様性を包容すべき社会の側の問題でもある」との見解を示しました。この補足意見は、生殖腺除去手術を義務づける同法の規定が憲法違反であるとして、あるトランスジェンダー男性が起こした裁判の最高裁決定の中で示されました。この判事2人はさらに「性別は、社会生活や人間関係における個人の属性の一つとして取り扱われているため、個人の人格的存在と密接不可分のものということができ」るとした上で、トランスジェンダーの人びとが「性別の取扱いの変更の審判を受けられることは、切実ともいうべき重要な法的利益である」と結論づけています。最高裁はこの法律を違憲とまではしませんでしたが、この補足意見に示された見解は同法に対する重大な批判として一考に値するものです。

教育を受ける権利は、セクシュアル・マイノリティやジェンダー・マイノリティを含めた、すべての人びとの基本的な権利です。2016年のヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書は、日本の学校でLGBT児童生徒が、他の児童生徒や教職員から、身体に対する、また言語による虐待、ハラスメント、頻繁な侮辱を受けていることを明らかにしました。報告書発表直後の2017年3月、国のいじめ防止指針が改訂され、セクシュアル・マイノリティやジェンダー・マイノリティの児童生徒が初めて保護対象として明示されることになりました。文部科学省はこれまでも、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の権利に関して指導的役割を果たし、性的指向やジェンダー・アイデンティティによる児童生徒のいじめを学校側が防止するために、「性的指向や性自認に関する教師の適切な理解を促進するとともに、この問題に関する学校の必要な措置を確実に通知する」よう求めてきました。この方針は、2015年に文部科学省が全国の教育委員会などに向けた通知「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」や、「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」に続くものです。後者は、LGBTの権利に関する進みつつある見解を示しながら、LGBT児童生徒を守る手段を複数挙げています。

現行の性同一性障害者特例法は、自らのジェンダー・アイデンティティに応じた教育を受けようとする学生にとって、大きな差別の壁となっています。手続き要件はきわめて厳しい上に、子どもが得られる情報は限られています。このため、法的に性別が認定されるまでのプロセスは、不安感、強制、将来への恐れに満ちています。ヒューマン・ライツ・ウォッチのインタビューに対し、東京都出身の19歳のトランスジェンダー男性は次のように話していました。

高校では、自分と自分の性自認にとっては(身体を変えることよりは)周囲の人たちに受け入れてもらうことの方が大事だったので、手術を受けたいとあまり思ったことはなかったです。手術嫌ですし。高いし、体にかかる負担が大きいので。

この男性は、職に就くためには法律に定められた医療的処置を受けなければならなくなることが不安だと言っています。「将来がどうなるのかはっきりしません。学校の先生になりたいけれども、法に定められた性別変更の要件をすべて行いたくはありません。でも性別が不一致な書類を出して雇ってくれる学校があるのでしょうか。」

日本政府が性同一性障害者特例法を改正するまでの間、貴学、県、市及び文科省は、国公立大学に所属するすべての人について自己申告による性別/ジェンダーを認めるとともに、トランスジェンダー女性の入学を受け入れるべきだと考えます。

ところで2018年に東京都は、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)差別禁止条例を成立させました。都条例は「都、都民及び事業者は、性自認及び性的指向を理由とする不当な差別的取扱いをしてはならない」(第4条)とするとともに、「都は、人権尊重の理念を東京の隅々にまで浸透させ、多様性を尊重する都市を作り上げていくため、必要な取組を推進するものとする」(第2条2)と定めています。こうした条文によって、東京都はすべての人に平等な権利を与える姿勢を示しました。

ご承知のように、近年、日本ではLGBTの権利に関する問題が、公の議論や重要政策で注目されるようになっています。貴学、県、市におかれましては、この流れのなかで指導的な存在となっていただくように、また文科省におかれましては、国内全大学に対し、学生が自己申告するジェンダー・アイデンティティを認めなくてはならないとする政策をとり、すべての人の教育を受ける権利を支える上でのリーダーシップを引き続き発揮していただきたいと考えます。

この重要な問題に対処するためにどのようなステップを踏まれるか、ぜひご教授いただきたく存じます。本件に関してさらにお話いただける場合には、ぜひ当方までご連絡いただきたくお願い申し上げます。

敬具

ヒューマン・ライツ・ウォッチ

日本代表 土井香苗

ヒューマン・ライツ・ウォッチ
LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)権利部長 グレアム・リード

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