(ニューヨーク) ― 米国では多くの学校が、性自認に従った洗面所やロッカー室ほか施設の使用を禁じているため、トランスジェンダーの生徒の安全と健康が脅かされている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。2016年8月末、性自認に基づいた施設を利用可能にすることを指導する連邦政府の通達が、通達に異議を申し立てた訴訟の判決が下されるまで一時停止処分となった。9月に新学年度を迎えるなか、トランスジェンダーの生徒は差別的な政策の被害者になりかねない。

Students hold stickers about to be placed on a new all-gender bathroom as members of the cheer squad applaud at Nathan Hale High School in Seattle, WA on May 17, 2016. 

本報告書「シャットアウト:米国の学校におけるトランスジェンダーの若者への洗面所とロッカー室の利用制限」(23ページ)は、性自認と一致する洗面所やロッカー室の使用を禁じた校則が、トランスジェンダーの若者に与える悪影響について詳しく調べたもの。こうした校則が、肉体的および精神的な嫌がらせの増加につながっているだけでなく、身体的および精神的な健康被害の原因ともなっており、学業成績や学校生活への参加に悪影響を及ぼしていると、トランスジェンダーの生徒たちが詳述した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー(LGBT)の権利プログラムのフェロー、ライアン・ソーレソンは、「政治にかかわらず、学校はトランスジェンダーの若者の権利が校内で確実に尊重され、保護されるようにすべきだ」と指摘する。「もしトランスジェンダーの生徒が、安全に利用できる洗面所探しといった、ごく普通のことを心配しながら学校生活を送っているのだとしたら、学校はその責任をしっかり果たしていない。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、アラバマ州、ペンシルベニア州、サウスダコタ州、テキサス州、ユタ州で、74人のトランスジェンダーの生徒と50人超の保護者、教師、学校責任者、そしてトランスジェンダーの若者と活動する社会サービス提供者と、聞き取り調査およびディスカッションを行った。調査対象となった5つの州には、性自認に基づいた公共施設の利用をトランスジェンダーの人びとに対して禁じたノースカロライナ州のHB2のような法律は存在しない。しかし、州全体を網羅するトランスジェンダーの生徒のための保護体制は敷かれておらず、全5州の多くの学校および学区で、トランスジェンダーの生徒が危険な状態に置かれかねない同様の制限があることも分かった。

ウィロー I.(仮名・14歳)は、テキサス州在住のトランスジェンダーの少女。学校でアメフト選手の一団から暴行された後でさえ、男子用ロッカー室を使用するよう学校に強制されたという。「失礼な呼び名で私をからかう男子の集団の前で、女の子っぽい下着1枚にさせられました。」

9歳になるトランスジェンダーの息子を持つ母ターニャH.は、息子が女子用洗面所の使用を強制され、同級生から嫌がらせを受けたと話す。トイレに行くのをやめ、自殺を口にするようになったため、息子を少年として認めて扱ってくれる学校に転校させた。その後、彼の精神状態は目に見えてよくなったという。「息子は前よりずっと幸せそうです」とターニャはいう。「彼を男の子だと思っている友だちがたくさんできました。」

すべての生徒が性自認と一致する選択にアクセスできるべきである一方、「全ジェンダー」用という選択を望むトランスジェンダーの生徒も一部にいる。たとえば、教員用や保健室の洗面所などがそれにあたる。その理由は、トランスジェンダーの生徒が必ずしも男性または女性と自認していなかったり、男女別の施設で嫌がらせを経験しているためだ。学校は可能な限り、こうした選択を望む生徒にそれを提供するべきだ。

「全ジェンダー」用施設を利用する生徒の多くは、アクセス自体が困難だったり、利用の際にトランスジェンダーに関する研修を受けていない教師から詰問された経験を語った。サウスダコタ州に住む15歳のトランスジェンダーの少年Silas G.は、「先生が僕を問い詰めるんだ。『なぜ保健室にいく?いったいなぜだ、なぜなんだ』って。教員用の洗面所を使った時は怒鳴られた」と話した。

連邦・州・地方公務員および職員は、トランスジェンダーの生徒が学校で快適に施設を利用できるよう保障する具体的な措置をとらなければならない。連邦および州政府は、性自認が原因の教育機関における差別を禁じる法律を制定すべきだ。また、小売、エンターテインメント、サービス業の分野でも同様のことが求められる。

地方自治体レベルでは学校責任者が、性自認と一致した施設の使用や、可能ならば全ジェンダー対応オプションの選択が可能なことを明確にしたガイドラインを出し、かつトランスジェンダーの生徒のニーズを理解するための研修を教師に対して行うべきだ。

前出のLGBTフェロー、ソーレソンは「トランスジェンダーの生徒は他の生徒と全く同じで、学ぶために学校に通っている」と指摘する。「この問題に関する論争が過熱しているからといって、すべての生徒が安全かつ確実で快適に施設を利用できるよう保障するために、学校が打つべき手を打たないでいる理由は全くない。」