- 米国は、(パナマ国籍ではない)「第三国市民」299人をパナマに大量追放。人々を過酷な拘禁条件および虐待にさらし、適正手続きおよび庇護を求める権利を否定した。
- こうした人びとの多くは、民族、宗教、ジェンダー、性的指向、家族関係、政治的信条に基づく迫害から逃れてきた。
- 米国は国境に到着した人びとの庇護申請を受け付け、かつ不当に追放された人びとを再び受け入れるべきだ。パナマは自国領内にいる人びとが、確実に完全かつ公正な庇護手続きにアクセスできるようにし、米国が追放した第三国国民の受け入れを停止しなければならない。
(ワシントンD.C.)―米国は2025年2月12〜15日にかけて、パナマ国籍ではない「第三国国民」を同国へ大量追放し、適正手続きと庇護申請の権利を否定した、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。米国およびパナマは、外部との連絡を遮断した過酷な条件下で人びとを拘禁している。
報告書「『誰も気にとめず、耳も傾けなかった』:米国による第三国国民のパナマへの追放」(全40ページ)は、こうした大量追放の実態を調査・検証した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、米国で非正規移住者が直面する過酷な拘禁条件と虐待、そして適正手続きと庇護申請権の否定を明らかにした。また、パナマ政府当局による非正規移住者の携帯電話の差押え、面会の阻止、外界から隔離した拘禁についても詳述した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの難民・移民の権利担当ディレクター ビル・フレリックは、「米国政府は庇護申請の機会を一切与えずに、拘束した上で人びとを第三国に追放した」と指摘する。「米国とパナマは、いずれも公正な庇護申請手続きを確保する義務がある。何人も、庇護申請の完全かつ公正な審査を受けることなしに、力づくで危険な環境に送り込まれることがあってはならない。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、米国からパナマに追放された299人の(米国国民でもパナマ国民でもない)第三国国民のうち48人に、非公開の対面聞き取り調査を実施。対象者の内訳は男性15人、女性32人、子ども1人で、アフガニスタン、アンゴラ、カメルーン、中国、エリトリア、エチオピア、イラン、ネパール、パキスタン、ロシア、ソマリア、スリランカ、ウズベキスタンの出身だった。
パナマに追放されたのは、米トランプ大統領が2025年1月20日に就任して以降、メキシコから米国国境を越えてきた人びとだ。その多くは、民族、宗教、ジェンダー、性的指向、家族関係、政治的信条などを理由に迫害から逃れてきた。
就任式当日にトランプ大統領は、米国/メキシコ国境における「侵略行為」を宣言。米国法は、「国境上や米国内にいる者がその地位にかかわらず庇護を求める権利」を認めているにもかかわらず、規則によらずに国境を越える人びとの庇護申請を禁じた。
27歳のイラン人女性はキリスト教に改宗後、当局による逮捕や迫害を恐れて国外に脱出した。改宗者は重大な人権侵害に直面し、死刑判決を受ける可能性もあるからだ。彼女は米国で何度も庇護を求めたと語った。「なぜ私の話を聞いてくれないのか理解できませんでした。その後、出入国管理局の職員から、トランプ大統領が庇護を認めなくなったので、強制追放すると言われました。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取りをした人は全員、米国の庇護を希望しており、その多くが庇護希望の意思と母国帰還の恐怖を米当局に伝えるため、多大な努力を払っていたという。しかし、国を離れた理由や帰国への恐怖をめぐる根拠の有無を問われた人は誰一人いなかった。
「私は合法的な移民ではないかもしれませんが、米国には法制度というものがあるでしょう。でも私はそれを実感することはできませんでした」と、中国から逃れてきた女性は言った。「誰も何も言ってくれません。私も何も言うことができませんでした。」彼女は「生活のあらゆる側面を政府が管理していること」に「恐怖と苦痛を感じていた」ため、中国を去ったのだと訴えた。
米政府はこうした人びとを過酷な条件下で拘禁した。人びとはしばしば極寒の部屋に閉じ込められ、家族や弁護士との接触を禁じられた。手錠と足かせをはめたままパナマ行きの軍用機に連行された際に、真相を知らさせることはなかった。
強制結婚から逃れてきたアフガニスタン出身の21歳の女性は、米国で10日間拘禁された。ある朝、担当官がやって来て皆の名前を呼び、整列させたという。「その朝、名前を呼ばれた時はとてもうれしかったです。釈放されるんだと思ったから」と語る。しかし、彼女も他の人も米軍機に乗せられた。どこへ飛んでいるのか分からないまま、着陸して初めてパナマにいると知ったのである。
パナマで当局は、まずパナマ市中心部のホテルに、その後コロンビア国境にあるダリエン州の出入国管理局「受付所」に、これらの人びとを事実上外界との繋がりを断絶した状態で拘禁した。携帯電話の使用を差し止め、訪問者との面会を禁ずるなど、外部との接触を断つための措置を様々講じたのである。
人びとが釈放されたのは3月初旬だ。パナマ当局は30日間の「人道的許可証」を発行し、最長90日間まで延長可能とした。そして、その期間を利用して母国に帰るか、他国に渡るかして、出国するよう通達した。4月には有効期限をさらに60日間延長している。
追放された299人のうち180人は、後に国際移住機関(IOM)の「支援付き自主帰還」プログラムにより母国に戻ったが、収容条件や与えられた選択肢が限定的なことから、はたして帰還が自主的なものであったか否かについては、重大な疑問が生じている。
性的指向に基づく迫害から逃れてきたロシア出身の28歳のゲイ男性は、IOM職員と何度か話をしたと語った。「帰国したら100%逮捕されると伝えたんです[中略]なのにIOMは、『母国に帰るほか選択肢はありません[後略]』とだけ。私の話は無視されるばかりでした。」
米国は、市民権を持たない者の第三国への追放または移送を停止すべきだ。国際社会の義務に従い、不当に国外追放した人びとの帰還ならびに庇護申請を認めるべきである。何より重要なのは、米国がノン・ルフールマン原則(迫害を受ける可能性のある国に人びとを送還しない原則)違反を止めることだ。国境で庇護申請を処理すべきであり、申請の審査や保護提供の能力が限定的な国々に、自らの責任をアウトソースすべきではない。
パナマは米国からの第三国市民の受け入れを停止すべきである。移送を再開する場合には、完全かつ公正な庇護手続きへのアクセスやノン・ルフールマン原則の尊重を含む、適正手続きおよび国際法の厳格な遵守を保証する正式な合意に基づかなければならない。パナマは、すでに受け入れに合意した人びとが、完全かつ公正な庇護手続きに確実にアクセスできるようにする必要がある。
前出のフレリック担当ディレクターは、「庇護希望者がいかにして米国から不当に追放されたとしても、そして今後、米政府の不当な扱いを是正するためにどのような措置が取られるとしても、こうした人びとを今保護する責任はパナマにある」と指摘する。「そしてそれは、難民認定の申立てについて完全かつ公正な審理を行うことから始まる。」