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〒100-8968 東京都千代田区永田町1-6-1 内閣官房

内閣総理大臣  安倍晋三 殿

(CC: 外務大臣 岸田文雄 殿)

12月13日より東京にて開催される日・ASEAN首脳会議における安倍総理とラオスのトンシン・タンマヴォン首相との会談に先立ち、本書簡をお送りいたします。わたくしどもは、トンシン首相との首脳会談にあたり、著名な市民社会活動家ソムバット・ソムポーン氏の拉致事件を取り上げていただきたく総理に要望させていただくものであります。ソムバット氏は2012年12月15日、ビエンチャン市内で拉致され、強制失踪しました。ソムバット氏の所在や消息に関連してラオス政府が有する全情報を直ちに開示することが極めて重要です。総理が公けに本件を取り上げて日本側の重大な懸念を表明すれば、ラオス政府首脳に対し、緊急に対応することの必要性を示す強いメッセージとなります。

12月13日から15日まで開催予定の日・ASEAN首脳会議は、2005年のマグサイサイ賞受賞者(社会指導部門)であるソムバット氏拉致事件一周年にあたります。ソムバット氏はビエンチャン中心街にある警察の検問所前で拘束され、現在も消息不明となっています。

事件の概要は以下の通りです。ソムバット氏は2012年12月15日夜、夕食のため事務所から車で帰宅途中、別の車を運転していた妻のウン・シュイ・メン氏に目撃されたのを最後に、消息を絶ちました。シュイ・メン氏が最後にソムバット氏のジープを目撃したのは、午後6時頃、ビエンチャンのタードゥア通りにある警察検問所付近でした。

シュイ・メン氏は警察から監視カメラの映像を入手しました。その映像によると、ソムバット氏のジープは午後6時3分、タードゥアの検問所で、警察官に停車を命じられています。その後、オートバイ1台が検問所に停まると、運転手は乗ってきたオートバイを路肩に置き、ソムバット氏のジープを運転して立ち去りました。次にヘッドライトをつけたトラックがやってきて警察検問所で停車すると、2人の人物が降りてきて、ソムバット氏をそのトラックに乗せて走り去っています。

ソムバット氏の失踪以降、ラオス高官筋は繰り返し氏の拘束を否定し、消息に関する情報提供を拒んできました。ラオス政府当局が、ソムバット氏失踪事件の徹底的な捜査を行わないことは、ラオス政府の本件に対する関与への疑惑を高めるものであります。複数の外国政府が、監視カメラ映像分析などによってソムバット氏拉致に関与した人物の識別作業の支援などを申し出ているものの、ラオス政府はこれに応じていません。

国際法上の強制失踪の定義は、政府職員やその意を受けた者が個人を逮捕、拘禁または拉致したにもかかわらず、自由をはく奪している事実を認めないか、失踪者の消息または所在を隠ぺいし、失踪者を法律の保護の外に置く行為を指します。総理におかれましては、トンシン首相に対し、ラオス政府には強制失踪を防止し、救済措置をとる、国際人権法上の義務があることを想起させていただきたいのです。2008年9月、ラオスは「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約」(以下、強制失踪条約)に東南アジアで最初に署名(未批准)を行った国の一つであり、条約に反するような行為を行わない義務があります。

ソムバット氏強制失踪事件から一年が経過し、米国のジョン・ケリー国務長官や欧州連合のキャサリン・アシュトン外務・安全保障政策上級代表などを含む周辺地域及び国際社会からアカウンタビリティ(真相究明と法の裁き)を求める声が広く上がっているにもかかわらず、ラオス当局は本格的な捜査を行っておりません。

わたくしどもは、総理が国際的なリーダーシップを発揮し、ラオスをはじめASEAN加盟国に対し、強制失踪の防止/からの保護は、当事国政府のみならず国際社会全体の懸案事項であると伝えていただくことを要請します。また、2007年2月にパリで行われた強制失踪条約署名式で、総理は同条約に署名し、国際的なリーダーシップを示されました。総理がトンシン首相との会談でソムバット氏拉致事件を取り上げることは、「日本の外交は(中略)自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった、基本的価値に立脚し、戦略的な外交を展開していくのが基本」であるとの、総理の所信表明演説を具現化することになると存じます。

日本政府がソムバット氏拉致事件を公けに取り上げないことは、ラオス政府の同事件への無対応ぶりを容認するという誤ったメッセージを同国政府に送るものにほかなりません。このことは、人権、アカウンタビリティ、法の支配を促進する国家としての、日本の道徳的地位を傷つけるものであります。対ラオス二国間援助の最大ドナー国である日本の意見は、ラオス政府指導部にとって看過できないものであります。また日本の開発援助が効果を発揮するには、ソムバット氏のような社会活動家らの活動が不可欠であります。ソムバット氏の「失踪」事件は、ラオス国内の市民社会組織の中に、政府にとって不都合な真実を取り上げれば報復されかねないとの深刻な不安を与えております。

そして、ソムバット氏拉致事件への総理の懸念表明に対し、直ちに前向きな反応がない場合には、日本をはじめとする開発パートナーがラオス政府に対して、本件を調査する独立委員会(国際社会が関与または支援することが理想的)の設置を求めていただきたく要請いたします。

総理におかれましては、ソムバット・ソムポーン氏の事件を今回のトンシン首相との会談で取りあげ、今回の日・ASEAN首脳会議の場でも本件に光を当てること、また事件が解決しないままである場合には、独立委員会の設立を求めることについて、ご協力いただきたくお願い申し上げます。さらに、総理におかれましては他の開発パートナーとも協力の上、ソムバット氏の消息に関する全ての情報が明らかにされ、かつ、強制失踪の責任者全員が法の裁きを受けるまでは、今後も会合等の場でソムバット氏拉致事件への対応を求める声は消えないということを、ラオス政府側に明確に伝えていただきたく願うものです。

わたしどもが重大な懸念を持っております本件につき、総理のご関心をいただけましたら幸甚でございます。また、本件について、総理またはスタッフの方々と直接協議させていただけましたら幸いです。     

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