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ロシア:カディロフ チェチェン大統領は名誉毀損訴訟を取り下げよ

ロシア政府は、人権活動家ナタリア・エステミロワ氏殺害の十分な捜査必要

(モスクワ)-チェチェンのラムザン・カディロフ(Ramzan Kadyrov)大統領は、著名な人権活動家オレグ・オルロフ(Oleg Orlov)氏に対する名誉毀損訴訟を取り下げるべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。オレグ・オルロフ氏は、人権活動家ナタリア・エステミロワ氏が殺害された際に、その責任は大統領にある、と発言した。ロシア当局は、この訴訟をいいわけに、殺害の犯人を特定し責任を追及する義務の遂行を怠るべきでない。

ロシアの著名な人権保護団体メモリアル(Memorial Human Rights Center)のオレグ・オルロフ(Oleg Orlov)代表は、7月15日のエステミロワ氏殺害はカディロフ大統領の責任と発言。これに対し、カディロフ大統領が、この発言を名誉毀損だと申立。これを受けて、2009年9月10日に予備民事訴訟手続きの開始が予定されている。カディロフ大統領は「自身の名誉と尊厳」を傷つけられたと主張し、1000万ルーブル(約32万米ドル)の損害賠償を求めて提訴した。大統領は刑法上の名誉毀損罪容疑でもオルロフ氏を告訴していたが、9月3日、検察庁は訴追しないと発表した。

「カディロフ大統領はこの訴訟を取り下げるべきだ。そして、エステミロワ氏はもちろん、その他活動家の殺害事件の捜査を進めるべきである。」とヒューマン・ライツ・ウォッチのヨーロッパ・中央アジアディレクターであるホリー・カートナーは述べた。「公的地位に立つ者として、カディロフ大統領は、世間から多大な関心を集めている事件の論議に冷水をかけるために法律を利用するべきではない。カディロフ大統領が自分の身の潔白を示したいのであれば、ロシア政府の人権保護義務に従い、真に独立した捜査を行い、その結果で示すべきだ。」

訴訟が進行することになり、裁判所がオルロフ氏の発言が名誉毀損にあたるかどうか判断することとなった場合でも、表現の自由の保護などのロシア政府の人権保護義務に従う必要がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。公職につく者に対する批判は、民間人に対する批判よりも広く許されている。

NGOメモリアルの著名な調査員エステミロワ氏は、7月15日にチェチェンの首都ロズヌイの自宅外で拉致され、同日遅くに、イングーシ共和国で射殺体となって発見された。

エステミロワ氏殺害の状況や、チェチェンにおける同氏やメモリアルのスタッフやジャーナリストや人権活動家への脅迫のパターン、そしてエステミロワ氏が政府の人権侵害について調査していたことを考慮すると、同氏の殺害にはチェチェン政府の関与若しくは黙認があった可能性が浮き上がる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはメドベージェフロシア大統領に対し、エステミロワ氏殺害に対する一般の関心が高まっている機会を捉え、ロシア政府が事件解決にむけ可能な手段すべてをとるとはっきり約束するよう強く求めた。メドベージェフ大統領は7月16日の発言で、殺害への政府の関与の可能性を否定。これは捜査が、制約のうえでしかなされていないことを示唆するものである。

複数の人権保護団体が、カディロフ大統領の事実上の指揮下で、法執行官や治安部隊員が重大な人権侵害を行なっている実態を取りまとめてきた。反政府勢力に対する対策の一環として、違法な拘束、拷問、超法規的処刑、そして反政府活動に関与若しくは支援的であると疑われた人びとの家に対する放火などの人権侵害が広範に行なわれている。これらの犯罪を調査して取りまとめ公表した人びとは、暴力や脅迫の被害に直面してきた。

「ロシア政府は、エステミロワ氏殺害事件に政府が関与している可能性を真剣に念頭において捜査する必要がある。さもなくば、エステミロワ氏殺害事件について、ロシア政府が全力を尽くしているとはいえない」とカートナーは述べた。「ロシアは、国際法上の義務に従い、チェチェン当局の政府高官を捜査する必要がある。」

エステミロワ氏殺害の3週間後、チェチェンで紛争の被害者を支援する人道団体Save the Generationの活動家であるザレマ・サドゥライエワ(Zarema Sadulayeva)氏とその夫アリク・ドズハライロフ(Alik Dzhabrailov)氏が殺害された。サドゥライエワ氏とドズハライロフ氏は8月10日、グロズヌイにある事務所から法執行官に拉致され、翌日射殺体で発見された。エステミロワ氏殺害以降の数週間で、チェチェン関連の活動を行うNGOメモリアルのスタッフ数名も脅迫にあっている。

「人権活動家に対する殺害と迫害の連鎖を断ち切るためには、ロシア政府がこの地域で違法な人権侵害に手を染めている者たちを裁判にかけることが必要不可欠だ」とカートナーは述べた。「この捜査では、3件の殺人事件の実行犯はもちろん、殺害の指示者の責任も問う必要がある。」

オルロフ氏に対する訴訟は、エステミロワ氏殺害事件について信頼性がありかつ透明性の高いしっかりした捜査を行なわなくてはならないと、ロシアに緊急に働きかける必要があることを、各国政府に改めて示すものである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。また、チェチェン政府高官も捜査対象に含まれるべきである。

加えて、欧州連合と米国は、国際的な監視組織が北コーカサスを含むロシアの領土に迅速かつ制限なく立ち入れるようになるよう、ロシア政府に要請すべきである。ロシア政府は、欧州議会の北コーカサスにおける人権侵害に対する法的救済措置担当の報告者や、国連の拷問、超法規的処刑、人権保護活動家担当の特別報告者などのロシアへの入国と現地調査を認め、もって、公開性と説明責任を果たす用意があることを世界に向けて明確にすべきだ。これらの組織は、北コーカサスへのアクセスを長い間求め続けている。

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