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高村外務大臣に対する書簡

〒100-8919 東京都千代田区霞ヶ関2-2-1外務省
外務大臣 高村正彦 殿

高村外務大臣 殿

本状は、2008年1月16日に東京で行われる、メコン地域における政治的、経済的、文化的協力の促進などを目的とした日メコン外相会議に関する書簡です。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、メコン地域各国の人権も、外相会議及びそれに続く二国間外相会談での優先的な議題とされることを求めます。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ここ数か月の間に、日本の外務省及びその他の政府高官に対し、ビルマ、カンボジア、タイ、ベトナムにおける人権状況についてブリーフィングする機会を得、これに感謝しております。

 日本は、多くのメコン地域の国にとっての最大の援助供与国、主要な投資国、重要な貿易相手国であり、日本は、深まる二国間関係や経済連携協定、さらには、ASEAN+3や東アジア首脳会議のような多国間グループを通じ、人権の発展に好ましい影響を与えることができるまたとないレバレッジ(影響力)を持っています。それに加え、日本は、2006年、法の支配、人権、民主主義などの普遍的な価値をより強く強調する新しい柱を外交政策に加えることをコミットしました。日本の政府開発援助(ODA)大綱は、援助決定に際し、原則として、被援助国における基本的人権の保護を判断要素の一つとすべきことを掲げています。

 多くのメコン地域の国において、人権侵害がはびこっています。政府は、慢性的に表現の自由を制限し、少数民族に広範な差別を行い、地元住民を犠牲にして天然資源を略奪し、人権侵害の責任者を不処罰としています。例えば、ビルマを支配する国家平和発展評議会 (SPDC) 及びビルマ軍は、非ビルマ民族に対する残酷な人権侵害を行い、強制労働に従事させ、略式処刑し、性的暴力を加えています。タイ南部の国境地帯では、暴力と不処罰が続き、政府の治安部隊及び独立を求める反政府武装組織双方による殺害及び「失踪」が行われています。また、ベトナムでは、処罰対象でない出版活動を行った活動家や、政府に批判的な意見をインターネットで発表した活動家が、嫌がらせ、身柄拘束、投獄をされており、また、何百人もの宗教犯と政治犯が投獄されたままになっています。カンボジアでは、政府高官の親族や軍の精鋭部隊かならる犯罪シンジゲートが、違法な伐採作業を続け、他方、外国企業、議会議員、政府高官とコネクションを持つ者が支配する違法な利権のせいで、農村の貧しい人々が土地を取り上げられています。

日本政府は、ビルマを除くこの地域の人権侵害について、今日までに公式に懸念を表明していない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは認識しています。我々は、ビルマについて、公に声をあげた外交及び人道支援ではない援助プロジェクトが1つ停止されたことを歓迎します。しかし、このような意思表示は、強力な公的メッセージと具体的な行動によって継続して支えられない限り、ビルマの軍人や人権侵害を行うその他の政府に対し、影響力がほとんどない点を懸念します。2008年日メコン外相会談の議題に人権課題がないことは、日本が、人権を促進するという自らの公約を放棄することを意味します。

 日本政府とメコン地域各国に鑑みれば、民主主義のリーダー国として、日本政府が、明確にかつ公的に人権侵害について意見を述べることで、そして、人道支援以外の対外援助を人権の尊重とリンクさせることで、人権状況の重要な改善をもたらすことができるし、また、そうすべきであると思料します。コミットメントが公にされなければ、人権侵害を行う政府に責任を問うことはできないのですから、静かな外交はこうした場合功を奏しないのです。日本は、融資や資金供与が、人権侵害を行う当局により悪用されていないことを確保するため、その方法や影響力についても注意深く精査する必要があります。例えば、日本の援助の相当金額が、ビルマ政府が設立・支配する機関を通じて、分配されています。2006年度、日本は、連邦団結開発協会(USDA)に対し、合計2600万円の資金供与を行いました。USDAが、ノーベル賞受賞者アウンサンスーチー氏とその政党支持者らに対する1996年11月のラングーンでの攻撃や2003年5月のデペインでの攻撃など、軍事政権に反対する人びとたちに対し、繰り返し、嫌がらせと脅迫を行ってきているにも関わらず、です。USDAへの資金供与は、軍事政権自体への資金供与とほとんど変わりがありません。

上記に加え、日本政府は、メコン地域の政府に対し、以下の事項を要求すべきと思料いたします。

  • l 強制失踪、拷問、恣意的な逮捕及び拘禁並びに超法規的な処刑への国家の関与を止めること。ビルマの2007年の弾圧で捕らえられた何千人もの政治犯及び何百人もの「失踪者」、ベトナムにおける何百人もの政治犯及び宗教犯、タイ南部の国境地帯で、独立主義者のグループに関係しているとの容疑で、嫌疑を明らかにされることも裁判を受けることもなく、タイの治安部隊により身柄拘束されている人びとなどの運命が、特に懸念されます。
  • l 表現及び情報の自由に対する、国際法違反の国家によるコントロールを止めること。例えば、ビルマ及びベトナムでの平和的な政治的意思表明及び情報交換に対する厳しい支配、カンボジアでの人権活動家に対する脅迫、恣意的な逮捕及び拘禁、平和的なデモに対する違法な制限などが含まれます。
  • l 深刻な人権侵害の責任者を訴追・処罰すること。上官が、進行中の犯罪を知っていたか、知るべきであったにも拘わらず、上官が対応策をとらなかった場合のように、上官責任を問われる人物も例外ではありません。例えば、高位の民間人、軍当局者、事実上の権力を有する有力者も含みます。
  • l 難民及び国内避難民に対し、適切な保護と人道的支援へのアクセスを与えること。国際法(慣習法及び1951年難民条約とも)は、何人も、生命や自由が迫害により脅かされるであろう場所へ送還されるべきではないとしています。メコン地域において、今日、危険にさらされているグループには、例えば、タイにいるビルマ人及びモン族、カンボジアにいるモンタイニヤード及び北朝鮮の人びと、ラオスにいる北朝鮮の人びとなどがあります。国内避難民には、例えば、東部ビルマでの、ビルマ軍政府の非ビルマ民族に対する残忍な軍事攻撃から逃れてきた50万人を超える人々、そしてラングーンや国内のその他の地域から逃れてきた数千人もの人びとなどがいます。
  • l 以下のような子どもに対する人権侵害を止めること。例えば、子どもの兵士としての使用、最悪の形態の児童労働、警察による子どもの拷問、ストリートチルドレンに対する警察の暴力、矯正施設及び孤児院の劣悪な環境、学校での体罰、難民及び移民の子どもに対する虐待、労働及び売春目的の子ども取引、人種・ジェンダー・性的指向・HIV/AIDSによる教育における差別、少女及び少年に対する性暴力

この地域での主要な経済援助国として、日本政府が、倫理面でのリーダーシップを発揮し、国家による抑圧と人権の侵害に抗し、メコン地域の人びととともにあるということは、正しいことであるのみならず、日本の国益にも適います。国民の税金たる経済援助が成功し、メコン地域が真に発展するためには、日本政府が、メコン地域の各政府に対し、人権と発展の関係性を強調しつつ、基本的人権と法の支配を保護・促進するよう、求めていく必要があるのです。

日本外交は、メコン地域を含む様々な国で苦しむ多くの市民たちの基本的な権利が尊重されるよう、重要な貢献をすることができるのです。よって、日本の外交政策は、今こそ、経済援助の質、そして、援助で何を実現するのか、に重点を置くべきです。そうすれば、日本は、人権侵害国家にも何の条件もなしに白地手形を切り続けている中国の政策・実務と、日本のそれは異なると示すことができます。そして、日本外交は、人権侵害に苦しむ人びとの希望と力の源となれるでしょう。

貴殿のご検討に感謝するとともに、更なる検討のための会合の機会を歓迎致します。

ブラッド・アダムズ
アジア局 エグゼクティブ・ディレクター

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