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中国西北部の新疆ウイグル自治区・クンジェラブ峠で、勤務中の国境検査を担当する中国警察官、2025年1月2日。 © 2025 Hu Huhu/Xinhua via Getty Images

(ニューヨーク)―中国政府は渡航を試みるウイグル人に対し、厳しい制限・条件・管理を継続しており、これは国際法で保障されているはずの「自国を含むいずれの国からも自由に離れることができる」権利(以下、出国権)の侵害に当たると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。政府は海外在住のウイグル人に対し、新疆ウイグル自治区(以下、新疆)への限定的な訪問を許可しているが、その目的は明らかに同地域が「正常」であるとアピールすることにある。

中国政府が2016年に新疆で人権侵害的な「猛撃キャンペーン」を開始して以来、当局は同地域に住むウイグル人の旅券を恣意的に没収したり、海外居住者と連絡を取った人びとを投獄してきた。当局は現在、一部のウイグル人に渡航用の旅券申請を許可したり、没収した旅券を返却したりしてはいるものの、渡航者の厳しい管理に力を入れている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのヤルクン・ウルヨル中国担当調査員は、「中国の渡航制限が緩やかになったことで、何年も音信不通になっていた海外在住の家族と一時的に再会できたウイグル人もいるが、中国政府の渡航制限は今も新疆内および国外のウイグル人を弾圧するために使われている」と指摘する。「中国政府はウイグル人が自国を離れる権利を否定し、国外での言論および団結の自由を規制し、かつ外国とのつながりを処罰し続けている。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは中国国外のウイグル人23人に聞き取り調査を実施し、かつ関連する公式文書を検証した。

中国国内のウイグル人が渡航を申請する場合、その目的を当局に提出する必要がある、と近ごろ新疆を離れたり、新疆出身の親族と会った複数のウイグル人が証言した。家族関係の目的で申請する者は、海外在住の家族の招待状、個人情報、住所、仕事の状況、その他の書類を提出しなければならない。

許可には厳しい規則が伴う。渡航者は海外在住の活動家と関わったり、中国政府を批判する発言をしてはならず、数日から数カ月にわたる指定期間内に帰国しなければならない。ビジネス目的の渡航の場合、ウイグル人はカザフスタンなど特定の国への渡航しか許されず、トルコといったイスラム教徒が多い「センシティブな国」への渡航は禁止されている。

中国にいる親族が旅券の発給を拒否されたというあるウイグル人は、「警察が私の写真を彼らに見せて『この人物を知っているか』と聞いたので、[親族が]はいと答えると、警察官は、旅券のことは忘れろと言ったのです」と語った。

聞き取り調査を受けた数人が、当局から「一度に渡航できるのは各家庭から1人だけ」と告げられたと証言した。帰国を確実にするために近親者を事実上の人質にしているという。渡航許可を出す前に、当局が「保証人」を要求したという人もいた。通常、別の役人が保証人となるが、これらの規則に従わなかった場合、保証人や家族が厳しい処罰のリスクに直面することになる。渡航を許可された人びとは、国外にいる間、指定された役人から定期的に連絡が入り、日々の動きについての最新情報を求められた。帰国後は、再び旅券を没収され、渡航について、訪問先の国々に暮らすウイグル人について尋問された。

海外在住のウイグル人の中には、厳格な審査を経て新疆を訪問できた人がいる。査証なしで中国へ渡航できる旅券を持つ人びとも、身元調査を受け、家族が住む地域の「居民委員会」、草の根政府組織および地元警察から事前の承認を得る必要があると、家族から言われたという。新疆の故郷に戻れば戻ったで、尋問を受けたり、親族の家ではなくホテル泊を強いられた人もいる。

中国への入国に査証が必要な国の市民権を持つウイグル人は、申請手続きにかなり長い時間を要する。在外の中国大使館が徹底的な身元調査を行うため、手続きには最長で半年かかることもある。子どもをウイグル語学校に通わせていたり、ウイグル活動家が居合わせた結婚式に出席するなど、非政治的なディアスポラ活動に参加しているだけでも、査証の交付を拒否される可能性がある。

中国外交使節団は、海外在住の一部のウイグル人に対し、中国共産党機関の新疆統一戦線工作部が主催する新疆公式ツアーに参加するよう指示した。ツアーに参加するには、中国国民身分証明書、旅券、新疆の自宅住所のコピーを外交使節団に提出する必要がある。その後リストは、本国の地元警察署を含む警察機関、公安局、対テロ担当部署、居民委員会など各方面に送られる。

公式ツアーに参加できるのは承認された個人だけだ。外国の旅券を所持するウイグル人は、ツアーに参加するために中国国籍を放棄しなくてはならない。警察の尋問や拘禁の危険を冒して単独で当該地域を訪問するよりも公式ツアーの方が安全で、かつ査証申請手続きも早くて容易なことから参加することにしたと、複数のウイグル人が語った。

こうしたツアーに参加したウイグル人は、統一戦線の担当者に厳しく監視されていたと語った。家族を訪問するのに許可が必要で、ウイグル人同士でさえ中国語(北京語)を話さねばならなかったという。また、中国語が堪能でない人のためのピンイン(発音記号)付き台本を与えるなどして、プロパガンダ活動にも参加させられたと訴える。内容は共産党の新疆政策を称賛するものだった。
中国政府は、このように管理された訪問やツアーを通じて、ウイグル人の海外移住者を統制し続けてきた。こうした人びとの一部は、家族との再会や故郷への訪問を望んで、沈黙を守ったり、アクティビズム、それどころかウイグル文化の活動さえ避けている。中国当局は長年、海外在住のウイグル人に対して、国境を越えた弾圧、つまり反対意見を抑えるために国境を越えた人権侵害を行ってきた。その標的は、活動家や中国政府に批判的な人びと、そして新疆ウイグル自治区に住む彼らの家族だ。

中国政府は国際法上の義務に従い、ウイグル人の自由な渡航を認め、外国とのつながりを持つ人びとへの処罰を止め、海外在住のウイグル人に対する抑圧的な措置を終わらせるべきだ。この問題に関連する各国の政府は、中国政府によるあらゆる形態の国際的な弾圧に対して、自国民および居住者全員の人権保護を確保しなくてはならない。

前出のウルヨル調査員は、「ウイグル人は、中国にいる家族と一時的に再会したり、たとえ連絡を取りたいだけだとしでも、厳しい条件や要求を突きつけられる」と指摘する。「海外在住の家族と連絡を取ったり、訪問できることは少数のウイグル人に与えられた特権ではない。中国政府が尊重する義務のある権利だ。」

ウイグル人に対する渡航制限や嫌がらせに関する証言は以下をご覧ください。

渡航制限、ウイグル人への嫌がらせ

中国政府は、長年特に厳格なパスポート申請手続きを課されてきたウイグル人に対して、差別的なパスポート政策を続けてきた。2016年に始まった人権侵害的な「猛撃キャンペーン」以降、中国当局は新疆の住民にパスポートを「保管」のため提出させ、海外在住のウイグル人のパスポート更新を停止している。

海外渡航が許可されているウイグル人は、新疆の首都ウルムチと北部にある他の2つの都市の住民に限られている。大多数のウイグル人は地域を離れることができない。海外在住の多くの人びとは、特に長期投獄中の家族との連絡が途絶えたままだ。

中国政府は、公式メディアおよびウイグル人政府関係者によるソーシャルメディア投稿を通して、このような訪問を促進してきた。これは、同地域における人権侵害を隠蔽する目的と見られる。これらの記事では、ウイグル人の参加者はしばしば「新疆における素晴らしい変化」について熱く語り、「母国の温かさを…深く感じている」と述べている。

調査手法

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2024年10月から2025年2月にかけてカナダ、フランス、ドイツ、日本、キルギス、ノルウェー、オランダ、イギリス、トルコの9カ国に在住のウイグル人23人およびウイグル人ディアスポラに関する研究を行う専門家2人に聞き取り調査を実施した。調査対象者の中には、家族の一部が短期滞在のための出国を許可されたり、本人が中国政府が主催するツアーで新疆を訪問したことがある人が含まれる。また、数年間にわたるパスポートと出国許可の取得プロセスを経て、最近新疆を恒久的に離れたカップルもいた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、政府主催のツアーに関連する写真、文書、ソーシャルメディアのチャット履歴を分析したほか、中国政府の報道発表記事や中国版TikTokであるDouyinに投稿された新疆訪問者の動画を含む、公開されているオンライン資料も確認した。

聞き取り調査対象者の個人情報は、本人の保護のために匿名化している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは中国政府に調査結果を共有し、コメントを求める書簡を送付したが、回答はなかった。

新疆から渡航するウイグル人

海外在住のあるウイグル人は、8年間にわたり離別した後、母親と再会できたと述べたが、会うことができたのは母親がビジネス目的で訪問を許可された第三国でのみだった。母親は厳格な身元調査を受け、箝口令に同意した上で、この訪問を許可された:

彼女は15日間のみ海外渡航を許可されました。近隣の委員会と地元警察は、彼女に「危険な人物」と接触しないこと、政府の批判を言わないこと、また許可された期間内に帰国することを命じました。私は彼女といつまでも一緒にいられることを願いましたが、私たちの資産が没収され、他の親族が処罰を受ける可能性があるため、彼女を帰国させざるを得ませんでした。

他のウイグル人は、警察が事実上家族を人質に取って父親の旅行を許可したと述べた:

私の父は、数年前に地域委員会が没収した古いパスポートを持っていました。彼には政府で働く保証人がいました。当局は彼だけが行くことを許可しました。彼らは「あなたが戻ってきたら、あなたの妻も渡航できるかもしれません」と言いました。彼は厳格な身元調査と[制限を遵守するよう求める] 誓約書に署名した後、1ヶ月の訪問が許可されました。彼は滞在延長を申請しましたが、許可が下りなかったため、母親がその後渡航できることを期待して帰国しました。しかし、当局は母親のパスポートを発行しませんでした。彼女は待つように言われました。

別のウイグル人は、父親が新疆に戻った後、当局が尋問をしたと話した:

父の帰国後、地域委員会、地元の警察署、公安局の職員が父親を訪ねてきました。職員たちは、彼が誰と会ったか、どこに行ったか、周りの人に何を話したかを尋ねました。彼は「誰にも会わなかった」と答えました。それは真実で、私たちは注目を浴びること、また中国の監視を避けるため、ウイグル料理店にも行きませんでした。

海外在住のウイグル人による新疆への渡航

個人旅行

ウイグル人らによると、査証免除で中国に入国できる国の旅券を持っていても、新疆を訪問する前に身元調査を受ける必要があるという。これについて詳しいある人物は次のように話した:

欧州の国の旅券を持つウイグル人の多くは査証免除制度を利用して、家族に会うために短期間の帰省をしています。渡航したい場合は、出身地区の居民委員会と警察から許可を得て、国境でその許可書を提示する必要があります。当局から尋問を受けた人もいれば、家族の家ではなくホテルに泊まるよう言われた人もいます。このような渡航の大半は、ウルムチ市と新疆北部のいくつかの都市へのものでした。

国外のウイグル語学校の教師は、生徒の保護者が子どもをウイグル語の学校に通わせているというだけの理由で、査証交付を拒否されたと語った:

少なくとも2人の生徒の保護者が、中国警察および中国外交使節団から、[この国で]ウイグル語学校に通うことは、生徒とその家族の[新疆への]渡航の「障害」になると告げられました。同じ理由で査証の交付を拒否されたケースもあります。現在、多くの保護者が子どもを学校に通わせるのをやめています。当校は2014年に開校したのですが、生徒がいなくなってしまったため、2025年1月をもって運営を停止しています。

別の人は次のように語った:

最近あった結婚式では、新郎新婦の近親者が[新疆を]行き来していたため、主催者がこれらウイグル人活動家数名に出席しないよう求めました。社交行事さえも中国政府に取り締まられている現状は受け入れられるものではありません。コミュニティの人びとの間でも不信感が高まっています。

新疆への政府主催ツアー

最近の新疆公式ツアーに参加したウイグル人は次のように語った:

家族にまた会えるチャンスがあるかどうかわからなかったので、ツアーに参加することにしました。ですが、すべてが仕組まれていたことに気づきました。ツアーは警察が厳しく監視していたし、ツアー後にも家族と一緒にいるために地元の居民委員会と警察に許可を取らなければいけませんでした。

別の人は次のように語った:

私たちは新疆の統一戦線工作部に迎えられ、すぐにツアーに連れて行かれました。ツアーはプログラムに応じて7日から15日間続きます。グループのメンバーは全員ウイグル人で、ツアーガイドもウイグル人でした。それなのに全員が中国語で話すよう言われました。YouTubeで見られるような典型的なプロパガンダツアーさながらに、店や博物館、モスクを訪れました。最終日は高官との面会です。中国政府への感謝を表す原稿を渡された人もいます。役人が書いたものです。ツアーの後、地元の居民委員会と警察署に登録して許可を得てから、やっと家族と数日間を過ごすことができました。

別の人も同じような体験を話した:

すべてが偽物で、用意されたものに見えました。街をそぞろ歩きできた時に、空っぽのモスク、ひげのない男性、ウイグル語を話せなくなった小さな子どもたちを目にしました。自分の知る街ではなくなっていました。

海外在住のウイグル人への影響

国外に移住したウイグル人の多くは、いまだに家族と連絡が取れていない。あるウイグル人はこう語った:

ここの中国外交使節団に近い人たちが、政府の支援団体と一緒に祖国を訪問するよう私に依頼してきました。私は活動家ではないし、外国の旅券を持っています。だから、本当にそうしたいなら帰国できるかもしれないと。でも、理由もなく長期刑に服している両親のことを彼らに話すやいなや、連絡がなくなりました。はたして私には、帰っていける家族が残っていると言えるのだろうかと自問する日々です。

同じような経験をした別の人は、新疆に行くリスクを冒したくなかった:

中国領事館に近い人物が、祖国にいる家族を訪ねるよう勧めてきました。彼は、行くのにはなんの問題もないし、無事に戻ってこられるよう保証すると、私を「洗脳」しようとしてきました。でも、祖国の状況に恐怖を感じて戻ってきた人たちを知っています。政府からそうしないように言われていたので、彼らは公の場で自分の経験について否定的なことは言いませんでした。でも、少なくとも3人が帰国した際に尋問され、強制的にいくつかの書類に署名させられたと、個人的に話してくれました。もう二度と戻らないと言っていたし、私も行くつもりはありません。

「猛撃キャンペーン」中に拘禁されたり、強制的に失踪させられた親族を捜している多くのウイグル人が、まだ何の連絡も取れていないと話す。彼らは、中国政府が新疆の正常なイメージを推進しようとしていることが、海外在住のウイグル人に悪影響を及ぼしていると訴えた:

中国政府への忠誠を証明した人びとは、こうした「特権」的訪問を手に入れる。帰国の実現を期待する人が増えるにつれて政治参加率は低下している。人びとは「トラブル」を避けて政府の言いなりになっているのだ。

短期間の訪問中に家族と再会した人は次のように語った:

信じられませんでした。[家族との再会が] 実現するなんて。不可能だと思っていましたから。同時に、家族と連絡さえ取れていない友人たちのことを思い出し、とても悲しくなりました。この7年間何事もなかったかのように振る舞うなんてできません。

新疆における人道に対する罪

中国政府は数年にわたり、新疆で人道に対する罪に相当する激しい弾圧を行ってきた。目的は、主流とする漢民族文化にウイグル人を強制同化させることとみられている。ウイグル人ほかテュルク系ムスリムに対する人権侵害には、恣意的な大量拘禁、投獄、拷問、強制失踪、大規模な監視、文化的・宗教的迫害、家族の分離、強制労働、性的暴力、生殖に関する権利の侵害などがある。

中国当局は国外のウイグル人に対しても、さまざまな形で国境を越えた弾圧を行っている。2016年以降、新疆当局は外国とのつながりを処罰対象にした。カザフスタン、エジプト、トルコ、マレーシア、インドネシアなど、主にイスラム教徒が多数派を占める国も含まれる「センシティブな26カ国」のいずれかに行ったことがある、その国に家族がいる、またはその国の人びとと何らかの形で連絡を取っているウイグル人は、尋問・拘禁され、多くの場合、訴追・投獄されている。

中国の法律と国際法

中国の出入国管理法第12条(5)では、国民が「国家の安全保障や利益を危険にさらす可能性がある」場合、出国を禁止できるとあいまいに規定されている。同様に旅券法第13条は、出国が「国家の安全保障に危害を及ぼす、または国家の利益に重大な損失をもたらす」とみなされる者に対しては旅券の交付を拒否できると、あいまいに規定している。

移動の自由は、国際慣習法の反映と考えられている世界人権宣言、ならびに中国も署名している「市民的および政治的権利に関する国際規約(ICCPR)」で認められており、ICCPR第12条では、「すべての者は、いずれの国(自国を含む。)からも自由に離れることができる」と規定されている。

国連人権理事会は、移動の自由の権利に関する一般的意見の中で、「国際的な旅行には通常、適切な書類、特に旅券が義務付けられているため、出国する権利には、必要書類を取得する権利が含まれなければならない」としている。各国政府は、「法律で定められている場合」および「国家の安全保障、公共の秩序、公衆衛生または道徳、あるいは他者の権利・自由を保護するために」必要な場合にのみ、移動の自由の制限が許される。

こうした制限は差別的でなく、かつ1つ以上の正当な目的を達成するために必要であり、かつ求められる目的に比例し、かつそのような目的を達成するために最小限の措置でなければならない。合法的な目的を主張する制限は、たとえば出国を禁じられている人びとが出国を許可された場合に、国家の安全保障がどのように脅かされるかについて具体的に説明できるものでなくてはならない。

新疆における現在の慣行は恣意的かつ差別的であり、ウイグル人の出国権を侵害している。

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