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バングラデシュ:限定的な新型コロナウィルス感染症支援でロヒンギャ難民が窮地に

難民キャンプでの規制が「重要なサービス」を脅かす

Rohingya refugees place empty jars in a line while waiting to collect water in Cox's Bazar, Bangladesh on April, 20, 2020. © 2020 Mohammad Hussain

(バンコク)―バングラデシュ政府が新型コロナウィルス感染症を理由に人道支援へのアクセスを新たに制限したことにより、ロヒンギャ難民がさらなるリスクに直面していると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。この封鎖措置により、難民キャンプの人道支援従事者が80%減となり、難民は食糧や生活飲料水の不足および病気の集団感染という深刻な危機の中にある。

バングラデシュ当局は、パンデミックの封じ込め措置が、食糧・生活飲料水・医療を提供する支援団体の活動や、暴力および家庭内暴力に直面している女性や少女をなど、リスクをもっとも多く抱えている難民の保護を決して妨げることがないようにすべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムズは、「バングラデシュ当局はロヒンギャ難民キャンプにおける新型コロナウィルス感染症の拡大を防ぐ必要があるが、封鎖措置による害を限定的なものにするためのあらゆる努力を払わなくてはならない」と述べる。「新型コロナウィルス感染症関連のいかなる規制も、食糧・生活飲料水・医療・保護を提供する支援団体の活動を著しく妨げるべきではない。」

2020年4月8日、バングラデシュ政府難民救済帰還委員会委員長が、ロヒンギャ難民キャンプでのサービスおよび設備を「クリティカル(重要)」とされるものに限定し、キャンプにアクセスできる人道支援団体の職員数を80%削減する指令を発行した。 キャンプ内での新型コロナウィルス感染症の集団感染を回避するために採用された措置だが、ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査をした14人の人道支援要員は、活動能力が劇的に縮小したため、「クリティカル」とされるサービスにさえ影響が出ていると訴えた。医療従事者らによると、これらの中断がウィルスに対する迅速対応を妨げ、長期的な健康への悪影響がでる可能性もあるという。

90万人超のロヒンギャ難民が隣国ミャンマーでの大規模な残虐行為を逃れ、バングラデシュ南部の難民キャンプに暮らしている。過密状態のため、新型コロナウィルス感染症の集団感染が起これば、急速に拡大してしまう可能性が高い。

当該指令は「クリティカルな」サービスは保障するもので、それらには健康・栄養・生活飲料水・食糧・ガス・衛生・下水設備・下水処理・新規到着者の身元確認、および「隔離の確保」が含まれる。しかし、人道支援要員らは、職員数の制限と停電によるインターネットの遮断が、こうした中核サービスの提供や新型コロナウィルス感染症への実効的な対応の努力を妨げていると証言した。

職員が減らされたことで、麻疹ワクチンといった一部のワクチン接種プログラムも中止されている。難民キャンプでは、以前はしかなどの集団感染が起きていた。ある医療従事者は次のように述べる:

規制と人手不足で、保健所や診療所への予防接種の供給が中断されてしまいました。ワクチン接種率を維持することの重要性はいくら強調しても足りません。新型コロナウィルス感染症の集団感染の対処が、他の疾病予防措置をやめてしまう理由にはならないのです。難民キャンプはコレラやはしかのような二次的集団感染に見舞われてしまう可能性があります。

いくつかのキャンプは深刻な食糧不足および水不足に陥っている。キャンプ7・9・11・18の難民17人が、食糧配給は減りつつあり、飲料水がない地域もあると訴えた。人道支援団体職員らは、生活飲料水の配給や衛生設備周りの混乱に繋がっていると話す。これらは世界保健機関(WHO)が新型コロナウィルス感染症拡大のさなかに人びとの健康を守るのに必要不可欠であるとした要素でもある。ある人道支援関係者は、これらの問題に対処するのに十分な数の職員がいないため、一部の地域でトイレがあふれかえっているという苦情を受けたと報告している。

生活飲料水と衛生設備の不足は、機能しているトイレや洗面所に簡単に行けなかったり、列に並んだりできない高齢者や障がい者のリスクも増大させる。また、安全かつプライベートな衛生設備空間がないと、女性と少女はトイレをとるか暴行や嫌がらせの危険をとるかを選択せざるを得なくなる。

女性と少女に対する暴力は難民キャンプで広くみられる問題だ。しかし、最近の封鎖措置により、「子どもと女性に優しい空間」へのアクセスや、性別に基づく暴力の管理対応といったすべての保護活動が停止になった。女性の権利活動家らは、封鎖措置の開始以来、家庭内暴力や性的虐待の報告が増えていると訴えている。しかし、通信環境が限定的なため、人道支援職員が遠隔操作で支援保護サービスを調整することができない。保護チームのメンバーの1人は、難民キャンプで動ける職員がいなければ、「女性がレイプされたとしてもその知らせが私に届くことはなく、彼女は私たちのサポートを全く受けられないことになるでしょう」と述べた。

国連難民機関UNHCRは政府に対し、「ジェンダーに基づく暴力のサバイバーのための重要なサービスは必要不可欠であり、強制的に避難させられた人びとが利用できる」ことを保障するよう要請した。

難民キャンプへの立ち入りが許された一部の人道支援団体職員は、新型コロナウィルス感染症から身を守るための防護装備がないために、重要なサービスを一時停止せざるを得なかった。国連およびドナー国はバングラデシュ政府と協力して、ロヒンギャのボランティアも含め、重要なサービスに従事するすべての人が、十分な防護装備を確実に手にできるようにしなければならない。

人道支援団体職員らはまた、パンデミックの最中に活動するために、コックスバザール県の難民キャンプの検問所で受けた嫌がらせを報告。ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、「検問所で警察に威嚇されたケースをいくつかスタッフから聞いている」と証言した。「私たちのスタッフの一部は、難民キャンプの医療従事者であることを理由に、家主から強制的に立ち退かされてしまいました。これはひどい人災です。この集団感染から我々を救ってくれるのはこの人たちにほかならないのに。」

インターネットと電話サービスの規制は誤報の拡散を促し、難民が緊急医療を求めることを妨げる。難民たちは症状を報告すれば「連れ去られる」と懸念している。ある難民は「症状がでればどこかに連れて行かれて殺されるという噂が広まっている」と話した。

人道支援団体「国境なき医師団」(MSF)は、診療所を訪れる患者数が大幅に減少しており、キャンプ内でその他の疾病の深刻な集団感染につながる恐れを報告している。「難民たちは症状がでると、連れ去られるのを恐れて意図的に診察に来ないのです」とある職員は述べた。「私たちの診療所に来る呼吸器系疾患の患者数が減るのを目の当たりにしました。」

数人の難民は、地元の診療所が収容能力を理由に受け入れを拒否したり、MSFに紹介した後、治安部隊が検問所で彼らを足止めし、キャンプ外のMSF診療所に行くことを阻止したと訴えた。症状についての治安要員の尋問や、地元住民からの敵意で、キャンプ外での診察を思いとどまらされたと言う難民もいる。たとえばHIVに感染している難民たちは、薬を手に入れるために外出する際に健康状態を説明しなければならないため、服用をやめてしまっているという。「キャンプ内に残っている医療従事者はあまりいませんが、薬を手に入れるために外に行くのがこわいのです。彼ら[地元住民]に憎まれていて、外に出た私たちに暴力を振るうのじゃないかと恐れています」とある難民は話す。「検問所を通るのもまた大変ですしね。」

キャンプ内の女性と少女たちはこれまでもすでに、安全なリプロダクティブヘルスケアで重大な壁に直面しており、バングラデシュ当局は新型コロナウィルス対策に全般的な保護措置を求める人道支援団体や活動家の要請に耳を傾ける必要がある。

公衆衛生上または国家の非常事態のために移動を制限する措置は、合法的かつ必要かつ均衡がとれたもので、無差別的なものなければならない。バングラデシュ当局は、過密状態の難民キャンプで新型コロナウィルス感染症対策を強化するにあたり、関連のベストプラクティス・ガイダンスを活用すべきだ

アダムズ局長は、「バングラデシュは、ロヒンギャ難民キャンプにおける新型コロナウィルス感染症の集団感染を阻止するために時間と闘っているが、新たな規制措置で状況が悪化する可能性が高い」と指摘する。「インターネットを遮断し、基本的な人道支援サービスを大幅に削減するのではなく、関連団体と協力して、支援と保護をそれらを必要としている人びとに届けなくてはならない。」

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