日本陸上競技連盟(JAAF、日本陸連)は、2025年9月13日に開幕した東京2025世界陸上競技選手権大会(東京2025世界陸上)に先立ち、8月26日に「JAAF人権ポリシー」および「JAAFインテグリティ行動指針」を発表しました。
日本のスポーツ界では、男女問わず、さらには子どもに対する暴力・暴言等が、長年蔓延してきました。今回の人権ポリシーとインテグリティ行動指針の策定の2か月前の今年6月に、国会で、スポーツ基本法が改正されました。この法改正により、スポーツ団体は、スポーツを行う者に対する暴力等の防止に努めるものとすると定められました。
日本では、人権ポリシーなどを定めるスポーツ団体は、まだほとんどありません。日本サッカー協会や日本ラグビーフットボール連盟など、代表的なスポーツ団体でさえ、子どもや女性の保護についての限定的な対策にとどまっています。
そうした中で、日本陸連の人権ポリシーでは、暴力やハラスメントといった人権侵害の防止・根絶が、明記されています。また、陸上に関わるすべての人びとに対して、日本の国内法で保護されている人権だけでなく、世界人権宣言や子どもの権利条約などの国際人権法で定められた人権も、尊重することを呼びかけています。
インテグリティ行動指針は、陸上に関わるすべての人びとに対して、ハラスメントや虐待のない環境を推進するよう、求めています。特に、指導者などによるアスリートへのセクシャルハラスメントの防止も、重視しています。
しかし、今回の人権ポリシーなどにも、大きく欠けているものがあります。暴力・暴言等があったときに、とられる措置が具体的に定められておらず、報復の懸念を軽減しうるような、独立した実効的な申立機関が、ないのです。
この欠陥を補うため、日本の諸組織は、米国、カナダ、英国などで設立されている、スポーツにおける暴力・暴言等に対処する独立機関など、国際的に拡大しているセーフスポーツに向けたムーブメントに学ぶべきです。
改正スポーツ基本法は、国及び地方公共団体に対し、スポーツにおける暴力等に、措置を講じることを義務づけています。日本政府は、スポーツにおける子どもの虐待に対応する独立した専門機関を、設立すべきです。スポーツをする人は、もし暴力・暴言等を受けたときには、安心して支援を求めることができるようになるべきです。そして、こうした独立機関は、各スポーツ団体が、スポーツをする人の権利の保護・促進のための人権ポリシーを強化することを、後押しするでしょう。