(ソウル)―韓国の新政府は、内外の人権問題に対処する措置を講じるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、李在明(イ・ジェミョン)大統領宛の書簡で述べた。民主的機関の強化、根深い差別の撤廃、デジタル権利の保護、及び北朝鮮の人権促進に取り組むことが、新政府にとって極めて重要だ。
李大統領は、2024年12月に尹錫悦 (ユン・ソンニョル)前大統領が非常戒厳の発令により弾劾を経て失職した後に行われた大統領選挙で勝利し、2025年6月4日に就任した。
「今回の韓国大統領選は、アカウンタビリティ(説明責任)のある政府を求める大規模な抗議行動を受けて行われた」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの韓国担当シニアリサーチャーの尹理娜(ユン・リナ)は指摘した。「李在明大統領には、表現・集会・報道の自由の保護、デジタル権利と社会的保護の強化、女性や周辺化された集団に対する構造的な差別への対処など、韓国が直面するさまざまな人権問題への建設的な取り組みが求められている」。
韓国政府は、市民的・政治的・経済的・社会的・文化的権利への保護に向けて動くべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。具体的には、表現の自由、平和的な集会の自由、報道の自由の権利の保障などがある。政府はまた、成人女性と少女、高齢者、社会経済的地位の低い人びと、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの人びと、障がい者、移民、北朝鮮脱北者を保護する包括的な差別禁止法を制定すべきだ。
その他の優先事項としては、性別による賃金格差の是正とデジタル性犯罪の撲滅、人工知能規制によるプライバシーと子どもの権利の確実な保護、年金と社会的保護の強化などが挙げられる。政府はこのほか、政府を批判する言動を抑えつける目的で、緊急事態、安全保障、名誉毀損に関する法律が濫用されないようにすべきだ。さらに、気候正義の推進も求められる。化石燃料への依存度を削減するとともに(特に液化天然ガスに関する新規プロジェクトの停止)、再生可能エネルギーの活用機会を拡大すべきだ。
政府にはまた、企業に対して、現実に起きている、または起きる可能性のある人権、労働、環境、気候への悪影響を防止・軽減・改善することを義務付ける新法を提案すること、また2016年北朝鮮人権法の完全実施を通じて北朝鮮の人権を促進することも求められる。
「李在明大統領は、大統領就任が韓国国民の権利を推進するチャンスであると同時に、もしも既存の人権問題に対処しなければ落とし穴にもなりうることを認識すべきだ」と、前出の尹シニアリサーチャーは述べた。「新政府がどう行動するかによって、韓国国民の権利だけでなく、北朝鮮国民や世界中の多くの人びとの権利も影響を受けるだろう」。