(ラングーン)― ビルマ政府と国軍は、ロヒンギャなどラカイン州北部の弱い立場にある人びとに人道援助が届くよう、ただちに行動すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。政府の治安作戦で数万人への援助が停止し、多数が避難を余儀なくされている。
国連とドナー国はビルマ政府に対し、困窮する人びとへの援助団体の接触を保障するよう強く公に求めるべきだ。
「ラカイン州北部での最近の暴力的な衝突により、ビルマ国軍は、深刻なリスクを抱える人びとに対して援助団体が最低限必要な医療と食糧を提供することを、認めなくなってしまった」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。「ロヒンギャの人びとらは2012年の民族浄化作戦以降、特に弱い立場に置かれており、多くが人道援助によってなんとか生きているという状況である。」
2016年10月9日、武装した男性の一団が、バングラデシュ国境に近いマウンドー郡にある国境警察の地区支部など3ヶ所を襲撃。警察官9人を殺害し、武器を奪った。大統領府は無名のロヒンギャのグループ「アカ・ムル・ムジャヒディーン」の犯行と発表したが、消息筋は実際に誰が攻撃したのかは不明とも述べている。
政府治安部隊は一帯を「作戦地域」に指定し、襲撃犯を確保するためのローラー作戦を開始した。政府幹部筋によれば、治安部隊側は30人を殺害した一方で、5人の犠牲者を出している。だが記者が現場入りできないため、報道の情報源はほぼ政府に限られている。
ロヒンギャの活動家側は、現在の作戦では、超法規的処刑や村の焼き討ちなど、政府の部隊による重大な人権侵害が起きていると主張している。
10月9日以来、当局はマウンドー郡への援助物資の配給を全面停止させており、援助団体はニーズ評価ができない状態が続いている。「私たちは郡政府レベルから連邦政府レベルまで[接触を]求めている」と、世界食糧計画(WFP)のパートナーシップ・オフィサーは話す。「[接触禁止についての]当局の説明は、治安作戦が実施中だというものだ。」国際法は当局に対し、特定の治安上の理由をもとに、限られた期間については移動の自由の制限を認めているが、広範で期間を区切らない制限は認めていない。国連の国内強制移動に関する指導原則は、すべての関係当局が「人道的援助の自由な通行を許可しおよび容易にするものとし、また、人道的援助の提供に従事する者に対し、国内避難民への迅速なかつ妨げられることのない接触の機会を許可する」と定めている。
ラカイン州北部では多数の国連機関および非政府組織が長年活動しており、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、WFP、国境なき医師団(MSF)、アクション・コントル・ラ・ファム(ACF)などが食糧援助や移動型診療所をはじめとするサービスを提供してきた。たとえばWFPだけでも、弱い立場にある15万2千人に対し、妊婦や乳児の母親、5歳未満の乳幼児、HIVと結核の患者・感染者への栄養支援など、さまざまな支援を行っている。
WFPはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、政府はブッティーダウン郡の3万7,000人への食糧援助の再開を最近になって認めたが、マウンドー郡の5万人にはいまだに食糧援助が届いていない、と話した。
援助停止によって、この地域で行われている栄養プログラムや移動型診療所にも深刻な影響が出るだろうと援助関係者は指摘する。移動の自由が制限されているため、傷病者はマウンドーの中央病院まで行くことができない。
人道団体側は、暴力的な衝突によって約3,000人のラカイン民族と1万5,000人ものロヒンギャが避難民となったが、接触ができないため正確な数がわからないとする。
ラカイン州の総人口は300万を超えるが、ロヒンギャはそのうち約3分の1を占める。ムスリム少数者であるロヒンギャは長年差別を受けており、多数の深刻な人権侵害に苦しめられてきた。例えば自由に移動したり、医療や教育を受けたりする権利が制限されている。ビルマの歴代政権は差別的な1982年国籍法に基づき、ロヒンギャのビルマ国籍を実質的に認めていない。
今回の衝突で、ラカイン州の州都シットウェー近郊にある、ロヒンギャ12万人以上が暮らす避難民キャンプでも緊張が高まっている。住んでいるのは2012年の宗派間暴力によって家を追われた人びとだ。このとき多数が亡くなり、いくつもの村が完全に破壊された。
「ビルマ政府は国境警察の施設を襲撃した人物を特定し、逮捕する責任を負っている。だがそれにあたっては、人権を尊重するとともに、当該地域の人びとが必要な援助を受け取り、ジャーナリストや人権団体が地域に入れるようなかたちで行うべきである」と、前出のアダムズ局長は述べた。