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サウジアラビア:司法救済を求めたために投獄中の女性の釈放を

男性後見人ないままにハラスメント被害を申し立てた女性に、鞭打ち300回と禁固1年半の判決

(ベイルート)-女性に義務付けられている男性後見人なしにハラスメントの被害を申し立てた女性が、2010年1月、300回のむち打ちと1年半の禁固刑判決を受けた。サウジアラビア政府当局は、同判決を無効とするとともに、この女性を釈放するよう、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。

サウサン・サリム氏は、政府関係者に対し、「虚偽の被害申立」(誣告)をし「男性の後見人なしに裁判所に出向いた」という罪で有罪判決を受けた。この判決は、女性が男性後見人の同伴なくては多くの行為が許されない、というサウジアラビアの差別的な制度に基づく。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東女性の権利調査員ナディア・カリフは、「サウジアラビアでは、男性の保護なしに、女性が自分の用事をこなしただけで犯罪かのごとく扱われている。政府は、サウサン・サリム氏を釈放するとともに、この差別的な制度を廃止するという過去の約束を守るべきだ」と述べる。

2009年6月、国連でのサウジアラビアの人権状況審査の際、同国は、この後見人制度を廃止するべきという国連人権理事会の提言を受け入れた。しかし、サウジアラビア政府はこの約束に向けた措置を何らとっていない。

この制度下では、「男性後見人」として指定された人物が、女性(未成年も成人後も)の代理人となる。例えば、女性たちは、旅行をしたり、特定の医療ケアを受けたり、仕事をしたり、毎日の用事を足すのにも、男性後見人の同意を得なければいけない。この男性後見人には夫、父、兄弟がなる(未成年の息子がなることもある)。

この事件の発端は、サリム氏の夫サリ・ア・タワブ氏が2004年1月、相続争いの結果相続した債務を支払わなかったことを理由として、サウジアラビア北部カーシム地方のラス裁判所が同人を投獄したことにある。(ところで、国際人権法は、債務の不払いなどの契約上の義務を履行しなかったことだけを理由として人を投獄することを禁止している)その後、ア・タワブ氏は破産申立を行い、ラスの裁判所は彼を釈放した。

2004年、サリム氏は、当時まだ獄中にあった夫を解放しようとして、地元ブライダ裁判所の判事ハブドゥ・アブドラ・アル・アスカに協力を求めた。サリム氏がアブドゥラ・ビン・アブドゥ・ラジズ・アルサウッドゥ王に宛てた書簡によると、アル・アスカ判事はサリムに「自分はあなたの夫よりもすばらしい。彼は一文無しだ」と言い、夫アル・タワブ氏と離婚するよう勧めたという。またサリム氏の証言によると、夫アル・タワブ氏が釈放された後、アル・アスカ判事は彼女に「あなたは、離婚すべきだという私の勧めを断った。だから、3ヶ月以内に彼が負債を返済しない限り、私は彼を刑務所に戻してやる」と言ったという。

サリム氏の代理人であるミクリフ・ダハム・アル・シャマリ弁護士は、アル・アスカ判事が彼女へのハラスメントなど、彼女の生活の邪魔を続けたという。サリム氏は、内務大臣のナイーフ・ビン・アブダァラジズ・アル・サウッドゥ王子に書簡を書き、アル・アスカ判事の不適切な行為に関する被害を申し立てた。

アル・シャマリ弁護士は、サリム氏はラスの他の役人たちからも嫌がらせを受けていた、という。アル・シャマリ弁護士によると、2008年2月以前にも様々な事件があった。ラスの警察長サレ・スライモン・アルカリファとラスの旅券事務所のマネージャーであるアブダル・アジズ・アブダラ・アルカリファ、そして、カリド・アラサフ知事は、彼女がオフィスを訪れた際、男性の後見人が同行していないとして彼女を非難。当時、彼女は夫とうまくいっておらず、夫が自分の後見人として行動することを望んでいなかったという事情があった。

アル・シャマリ弁護士によると、サリム氏は、自分はスーダン出身でサウジアラビアに帰化したのであるから、サウジアラビア国内には後見人になれる男性親族がいないと説明したものの、これらのラスの職員が同意しなかった、という。

2008年2月14日、サリム氏は、男性の後見人がいなかったという理由で役人たちから不適切な扱いを受けたとして、ナイーフ王子宛にも被害を申し立てる書面を送付。ラス裁判所の元判事スライマン・アルマウィスが、彼女の被害申立の書面の作成を手伝った。

これを受けて、2月25日、サリム氏は、裁判所捜査官サルマン・ムハマッド・アル・ナシュワン判事の取調べのために召喚された。彼女は法廷に出頭したものの、必要な書類すべてを持っていなかったという理由で、翌日再度出頭したいと申し入れた。アル・ナシュワン判事は、これを拒否し、調書に記載。サリム氏はアル・ナシュワン判事に何を書いたのかと質問したものの、判事が回答を拒否したため、彼女は調書を取り上げようとし、その際にメモは破れてしまった。アル・ナシュワン判事は怒り、彼女に退廷を命じたと、彼女はアブドラ王への手紙の中で書いている。

2008年4月8日、サリム氏はアブドラ王に書面を書き、2004年のアル・アスカ判事との対立、地元の役人から度重なって受けた嫌がらせ、アルナシュワン判事との対立に関し、被害を申し立てた。

アルナシュワン判事とアル・アスカ判事は、サリム氏が2007年(イスラム暦1428ヒジュリ)に政府関係者に118の虚偽の被害申立を行ない、しかも、男性の後見人なしに政府関係者と面会したとして、彼女を告訴した。また、「彼女が被害申立を作成するのを手助けした」元判事も告訴した。

本告訴は、最高裁判所のサリ・ムハマッド・アルハダン裁判長に係属。最高裁判所は、アル・アスカ判事が告訴人の一人であるにも拘わらず、アル・アスカ判事とイブラヒム・アブドゥラ判事の担当とした。

2009年12月27日、審理が開始された。アルマウィス元判事も共同被告人とされた。検察官は、アルマウィス元判事は記録上「退職」した判事とされているものの、実際にはラス裁判所を解雇されたのだと主張し、だから「同裁判所の他の判事」への嫌がらせを「挑発した」と主張。その日の審理中、サリム氏は法廷の外で判事と言い争ったため、警察は彼女を留置所に拘置した。彼女は、ラスの自宅から、60キロ離れたブライダ中央留置所に、幼い子どもと一緒に拘束されている。2010年1月25日、彼女は「政府関係者に対し虚偽の被害申立を行い」(誣告)、「男性後見人なしに政府関係者と面会した」という罪で有罪判決を受けた。そして裁判所は、禁固1年半と鞭打ち300回を彼女に言い渡した。検察官は、帰化してサウジアラビア国籍を取得したサリム氏から国籍を剥奪し、国外追放するようにと求めていた。

アルシャマリ弁護士によると、アルマウィス元判事も「虚偽の被害申立」の作成を幇助したとして有罪判決を受け、鞭打ち120回と禁固10ヶ月の刑を言い渡された、という。アルシャマリ弁護士は、アブドゥラ王に対し、サリム氏とアルマウィス元判事の恩赦を求める書面を送付した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの上級調査官クリストフ・ウィルクは、「法廷に正義を求めることはサウジアラビアでは危険なことだ」と述べる。「元判事でさえ、他人が裁判所に申立を行うことを幇助したという罪で、鞭打ち刑の判決を受ける国なのだ。」

サウジアラビアには、犯罪行為の内容と定義を列挙した刑法典が存在しない。判事たちには、不適切と考えられるあらゆる行為を犯罪とすることができる広範な裁量権が与えられているほか、刑罰についても、自らの判断で決められるという幅広い裁量権を有している。

サリム氏に対する判決は、差別的な後見人制度に基づくものであるから無効である。また、アルマウィス元判事に対する判決も、サリム氏を助けたことを理由にしているので無効である。よって、両名に対する禁固刑及び鞭打ち刑は取り消されるべきであって、両名ともすぐに刑務所から釈放されるべきである。また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、いかなる状況においても、残虐で、非人道的で品位を傷つける取扱いたる体罰刑に反対している。

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