- ベトナム政府は、労働者の権利を支持することを求める貿易協定を結んでいるにもかかわらず、労働者が独立した労働組合を結成する権利を組織的に抑圧している。
- 当局者は、独立労働組合を支持していると繰り返し主張してきたが、その主張は虚偽であり、誤解を招き、欺瞞である。同時に、労働者の権利を行使しようとする者を標的にする姿勢も明らかにしてきた。政府は、労働活動家を訴追するために、刑事法を常用してきた。
- ベトナム政府は、約束した改革を実行する必要がある。貿易相手国も現実を直視し、労働者の権利に関する約束を反故にすれば、その結果を招くことになると政府にはっきり伝える必要がある。
(ニューヨーク)―ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で、ベトナム政府が労働者による独立労働組合の結成権を組織的に抑圧していると述べた。複数の自由貿易協定で貿易相手国に約束したにもかかわらず、政府は労働組合が自由に結成され、活動できるようにするための実質的な改革を実施していない。また、独立した労働組織づくりを日常的に弾圧している。
全49ページの報告書『ベトナムに独立労働組合は存在しない:労働者の組織化する権利に対するベトナム政府の継続的な攻撃』は、ベトナム政府が、人権や労働権を擁護する人々の活動を抑圧するため、曖昧で適用範囲の広すぎる刑事法を使い続けていることを記録している。また、独立した労働組織の結成を妨げるため、抑圧的な雰囲気を維持していることも示している。政府は、ベトナム国内のすべての労働組織が政府の権限下にあると改めて主張する政令を出し、国営メディアの記事を通じて、独立労働組合を危険な反政府組織として描いている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア地域アドボカシー担当ディレクター、ジョン・シフトンは次のように述べた。「ベトナム政府は、労働者の権利について虚偽で誤解を招く、欺瞞的な主張を繰り返す一方、ベトナム政府が進めているとされる改革を称賛し、労働組合の結成が認められているかのように見せかけてきた。実際には、ベトナム政府は独立労働組合という考え方そのものに強い敵意を抱いている。そのため、独立労働組合は一つも存在しない。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、労働者、人権活動家、労働者の権利や法律の専門家、その他ベトナムの労働者の権利をめぐる状況に詳しい人々、計30人以上に聞き取りを行った。また、ベトナムの法律や規則を分析し、国営メディアに掲載された労働問題に関する記事も検証した。
ベトナム政府当局者は、2021年の法改正によって労働者の組織化が認められ、国内には何千もの「草の根」労働組合が存在すると、公の場で繰り返し述べてきた。こうした主張は主に、さまざまな経済協定に関連して貿易相手国に向けて行われている。対象となる協定には、2020年のEU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)、その後の英国および欧州自由貿易連合との協定、そして2019年の包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)が含まれる。CPTPPには、カナダ、オーストラリア、英国、日本、ブラジル、メキシコなどが参加している。
これらの協定により、ベトナムは独立労働組合の存在を認めるための改革を行う義務を負った。2021年、政府は独立した「労働者組織」の設立を認めたとされる法改正を一部実施したが、その後、労働者が実際にそうした組織を結成できるようにする規制の枠組みを整備しなかった。
ベトナムの労働者が労働者の権利に関する問題に対処するために利用できる法的な仕組みは、ベトナム労働総連盟(Vietnam General Confederation of Labor、VGCL)の権限下に設置された組織、いわゆる「労働組合」の内部に限られている。ベトナムの法律では、同連盟とその下部組織は、支配政党であるベトナム共産党の管理下に明確に置かれている。各階層の指導者は党幹部が選出するか承認し、予算は政府が提供する。その財源は、雇用主と労働者が義務として支払う拠出金である。ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、これらの労働者組織は、国際法上、独立労働組合とみなされるための法的基準を満たしていない。
VGCLの組織は、表向きには労働問題に取り組む活動を行うこともあるが、その取り組みは限定的で、労働者を真に代表しているわけではない。最終的には共産党の利益に沿って行動している。これらの組織がストライキを呼びかけたり、雇用主に対抗する直接的な活動を主導したりしたことは一度もない。
亡命中のある労働活動家は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに次のように語った。「労働組合には独自の自由が必要であり、成長する自由も必要だ。しかし、ベトナムでは依然として、あらゆることを党が指導している。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、仮にベトナムで独立した労働者組織を結成できるようになったとしても、現行のベトナム労働法の規定は国際基準を満たしておらず、労働者の権利を保護するには不十分である。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、独立労働組合を認めない政府の姿勢が、ベトナムの労働者のその他の権利にも悪影響を及ぼしていると指摘した。独立労働組合を結成する自由がなければ、労働者は効果的な団体交渉を行ったり、賃金の引き上げや労働条件の改善を求めたり、個人または集団としての仕事上の不満や問題について救済を求めたりすることが難しくなる。
労働者たちは、政府が独立した労働組織の結成を認める手続きを導入したとしても、当局はベトナム刑法の規定を悪用して組織づくりを進める人々を標的にするだろうと述べた。政府は長年にわたり、労働者の権利や人権を擁護する活動家を訴追し、独立組織の結成を抑え込むために刑事法を利用してきた。
当局は数十年にわたり、著名な独立系ジャーナリスト、ブロガー、活動家を投獄してきた。その中には、労働者の権利を擁護してきた人々も複数いる。過去10年間、ベトナムでは、裁判を待つ人や不公正な有罪判決によって収監された人を含め、政治犯が常時少なくとも150~180人拘束されていた。近年、弾圧はさらに強まっており、2025年と2026年だけで、当局は反体制派50人以上を投獄した。
当局は、2021年のEUとの貿易協定に関連して権利問題を提起した人権擁護活動家や労働組織の活動家を特に標的にしてきた。さらに、労働者の権利についてEUと交渉に関わった自国の政府関係者の一部まで投獄した。
ベトナム語で発表された当局者の声明や記事の数々からは、独立労働組合に対する当局の否定的な見方と強い敵意がうかがえる。政府の管理下にあるメディアに登場する当局者は、独立労働組合を共産党に反対する「反動的」勢力と位置づけ、政府を弱体化させ、妨害するための「破壊的」で「邪悪な」陰謀に関与していると描写している。その「真の目的」は、政府管理下の労働組合を弱体化させ、「国家と対決」し、「社会不安を引き起こす」ことだという。こうした記事の一つには「犯罪への警告」という見出しが付けられている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ベトナム政府に対し、関連するすべての国際労働機関(ILO)条約を遅滞なく批准・実施し、真に独立した労働組合の結成をいつ認めるのか、明確な日程を示すべきだと述べた。また、ベトナムの貿易相手国は、政府がこれらの約束を果たすよう圧力をかけ、表現の自由を行使したことを理由に投獄されている人権・労働者の権利擁護活動家全員の釈放を求めるべきだとしている。
シフトンは次のように述べた。「ベトナムの貿易相手国の多くは、ベトナム政府による改革の主張を十分に検証せずに受け入れてきた。また、貿易協定によってベトナムの人権状況が改善したと、今なお主張する国もある。ベトナムの貿易相手国は現実を直視し、労働者の権利に関する約束を破れば、代償を支払うことになるとベトナム政府にはっきり伝える必要がある。」