(ニューヨーク)中国で、強制労働に反対する企業にボイコットが叫ばれており、中国政府もこれを促している。しかし、企業は強制労働に反対する立場を堅持するべき、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
中国政府当局はここ数日、全国の消費者に対して、中国北西部の新疆自治区にいる、または同自治区出身であるウイグルその他のテュルク系イスラム教徒に対する強制労働などの人権侵害について公に懸念を表明した企業をボイコットするように促すような行動にでている。
「中国政府は、企業に対し、テュルク系イスラム教徒に対する人権侵害を終わらせるために力を合わせようと働きかけるのではなく、人権侵害に加担するように企業に圧力をかけている。政府の本性がはっきり示されている。」とヒューマン・ライツ・ウォッチの中国担当部長、ソフィー・リチャードソンは述べた。「企業が人権コミットメントを堅持するかどうかが試されている」
カナダ、欧州連合(EU)、英国、米国は2021年3月22日と23日に、中国政府高官4人と新疆生産建設兵団公安局(XPCC)に対して新たに協調して制裁を科すと発表した。この制裁は、これらの高官とXPCCが新疆自治区のとくに綿や繊維のセクターで強制労働を含む人権侵害に関与しているとされたために科された。
これを受けて中国政府はEUの様々な政治家、学者、機関に対する制裁を発表した。また中国政府機関やネチズンは、強制労働に懸念を表明した国際ブランドにあらためて焦点を定めた。中国商務省のスポークスパーソンは3月25日、「混じりけがなく非の打ちどころのない新疆の綿はいかなる勢力からの誹謗中傷も受けるわけにはいかない」と指摘。ネチズンはインターネット上のフォーラムで複数の企業を厳しく非難、それらの企業の製品のボイコットを呼びかけた。
共産主義青年団は24日、スウェーデンの小売会社H&Mを標的にした。同社は2020年9月にテュルク系イスラム教徒の強制労働問題について公に懸念を表明していた。H&Mは当時、新疆で営業する製糸業者で強制労働を使用していると認定された華孚時尚(Huafu Fashion)との関係を断つと発表した。共産主義青年団が声明を出してから一日経たないうちに、中国の大手通販業者三社がオンラインストアからH&Mの製品をすべて削除した。微博(Weibo)のH&Mの公式アカウントにはネチズンから次のようなコメントが寄せられた。「準備はできたか? 中国から完全に姿を消せ」「中国市場からの撤退開始へのカウントダウンだ」「もうH&Mの製品は買わない、周りの人にも買わないよう呼びかける」
数時間のうちに同様の批判がナイキにも及んだ。ナイキは一年近く前に「新疆における、および新疆に関連する強制労働についての報告に懸念を持っている」と述べていた。ある有名人は中国版 TikTok である Douyin で「ナイキは狂っているのか? 中国と戦えるものなら戦ってみろ」と述べた。
少なくとも3つの主要ブランドがウェブサイトから声明を取り下げた。ザラ(Zara)を所有するインディテックスは強制労働に反対する政策を説明する声明を取り下げた。PVHも同様の措置を取った。VFコーポレーションは具体的に新疆についての懸念を述べた声明を取り下げた。
フィラ(Fila)やヒューゴ・ボスなど他の企業は3月末に、新疆からの綿の使用を続けると述べた。どちらの企業も強制労働や人権デュー・ディリジェンスを実施する必要には言及しなかった。
最近では企業による「国連のビジネスと人権に関する指導原則」の遵守が各国政府によって求められ、消費者からも当然視されるようになっている。この国連指導原則のもとで、企業はその活動が損害を引き起こしたり加担したりしないよう、また影響を受ける労働者などが実効的な救済を受けられるようにサプライチェーン全体を通して人権デュー・ディリジェンスを実施する責任を負う。アイリーン・フィッシャー(Eileen Fisher)やマークス・アンド・スペンサー(Marks & Spencer)などの主要ブランドの一部は、「ウイグル自治区の強制労働を終わらせるための連合( Coalition to End Forced Labor in the Uyghur Region)」が作成した行動の呼びかけ(Call to Action)に加わっている。
こうした規準を守ろうとしている企業を事実上報復する中国政府のこの行動は、世界的な規範が形成されつつある中その弱体化を試みる恥知らずな行動だ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
「中国政府当局はまたもや、自分たちの気に入らない見解を表明したグループを恣意的に懲らしめている」と前出のリチャードソンは述べた。「中国政府が企業を激しく非難するほど、企業が表明した強制労働に対する懸念はますます増幅されるだけだろう。」