最近、あらゆる政府がベトナム政府に親善攻勢をかけています。対外投資を引きつけつつ地域大国とグローバル大国のあいだでバランスを取るという、ベトナムの「竹外交」政策が、自分たちに都合良く働いてくれると考えているのです。
7月には、米国政府がベトナム政府および共産党指導部との新たな貿易協定を発表しました。先月には、欧州委員会のマルオス・シェフチョビチ貿易・経済安全保障担当委員がハノイを訪問しました。今後数ヵ月で、欧州連合(EU)は「包括的戦略的パートナーシップ」を通じてベトナムとの貿易・安全保障関係を深化させるでしょう。
2023年以降、ベトナムは日本、オーストラリア、米国、フランス、マレーシア、ニュージーランド、インドネシア、シンガポール、タイとの間で新たな包括的戦略的パートナーシップを締結しました。この2年間で、ロシア、中国、米国、日本の各国首脳がベトナムを訪問しています。
各国首脳はベトナムの驚異的な経済成長に便乗しようと躍起です。同国はアジアにおける最貧国の一つから重要な経済大国へと変貌を遂げ、いまや米国の第8位の貿易相手国です。米国が貿易相手としてあまり信頼できないことが明らかになるにつれ、各国はアジアこそが世界の富を今後生み出す場所だと見なし始めています。
西洋諸国はまた、ベトナムを中国の影響力に対する重要な防波堤と見なしています。しかし、中国もベトナムへの投資を拡大し、サプライチェーンの多様化と西側諸国による貿易制限の回避を目的とした工場建設を進めています。
経済関係を拡大する各国政府は、ベトナムが東南アジアで最も抑圧的な国家の一つであることを認識すべきです。政府の弾圧対象は、著名なブロガー、ジャーナリスト、人権活動家だけではありません。もちろん、そうした人々は投獄されたり、亡命や地下潜伏を余儀なくされたりしています。しかし、今では、ソーシャルメディアで地方当局を批判するあらゆる人にも処罰が及んでいます。
例えば、2022年10月に鉄鋼労働者ダオ・バ・クオンさんの息子は、警察署での勾留中に亡くなりました。警察は自死だと説明しましたが、家族は息子が暴行されて死んだと考えています。家族は自宅を抗議の場とし、Facebookで抗議活動をライブ配信し、地方政府に嘆願書を提出しました。しかし、ダオさんは法的な正義を得るどころか、警察に逮捕され、「民主的自由の権利を濫用し、国家の利益を侵害した」罪(刑法第331条)で起訴されました。
2023年12月、ダオさんには有罪判決が下され、2年の刑が言い渡されました。2025年初めに発表されたヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書では、ダオさんの事件を含むいくつもの事例を詳しく取り上げています。私たちは数十件の訴訟記録、マスコミ報道(国営メディアを含む)のほか、数百件に上るソーシャルメディアの投稿や動画を検証しました。
2018年以降、刑法第331条違反で起訴された人は140人を超えています。2012年~2018年の6年間の28人と比べ、件数は跳ね上がっています。ベトナム当局は、人権問題、汚職、環境問題に関する懸念を共産党支配の存続を脅かすものだと見なす動きを強めています。
クメール族のトラック運転手は、新型コロナウイルス感染症パンデミック時の差別についてソーシャルメディアで不満を訴えたとして、有期刑を宣告されました。ある女性縫製労働者は、パートナーが自分のノートパソコンを使ってソーシャルメディアで社会政治問題にコメントすることを認めたとして有罪判決を受けました。エデ族の活動家は宗教の自由を訴えたことで投獄されました。元警察官は上司の汚職を告発したために投獄されています。
経済関係の強化を求める各国首脳は、ベトナム訪問時にこうした事例を当局に直接提起すべきです。特に長期刑の受刑者や、ファム・ドアン・トランさんやファム・チ・ドゥンさんといったジャーナリストのように、医療を緊急に必要とする人びとの事例を優先的に取り上げなくてはなりません。
各国首脳はベトナム政府指導部に対し、法の支配とデュープロセスを尊重した、公正で透明な経済システムを保障する真の改革を伴わなければ、成長が停滞しかねないことを指摘すべきです。いかなる代償を払っても成長を実現しようとするやり方は、国民の経済的・社会的・文化的権利を損ないかねません。国連の貧困問題に関する独立専門家は最近、「発展は国内総生産の増大と同一視されるべきではなく、社会的・エコロジー的福利の向上によって測られるべきだ」と指摘しています。
各国政府や企業はまた、市民社会組織が、たとえ政府に対して批判的であっても、様々な問題を解決する上で大切な役割を担っていることを、また、そうした役割が、警察による拷問、拘禁中の死亡、大気汚染、食品安全、汚職といった問題の解決に向けて政府に行動を促す助けとなることを強調すべきです。
ベトナムは、結社の自由及び団結権に関するILO(国際労働機関)第87号条約を批准するとすでに公約しています。EUはその履行を迫るべきです。ベトナム政府は真に独立した労働組合の結成を認めるべきです。現状では、ベトナムの比較的安価で従順な労働力には労働権保護規定がほぼ及んでいません。しかし、長期的かつ持続的経済成長は国家による抑圧に依存すべきではありません。労働組合は、労働者の安全・福祉基準と適正賃金を確保する強力な手段になり得る存在です。
複数の在ベトナム外交官は、ベトナム国民の大多数は経済成長に満足しており、人権をあえて要求などしていないという声も聞こえてきます。しかし、人権を主張すれば最終的には刑務所行きになるから、国民は口をつぐんでいるのです。あるベトナム人はこう言っていました。「政府は言論の自由を認めている―ただし、発言した後に自由はない」。
先ほどのダオさんは、今年の春、1年8ヵ月以上を獄中で過ごした後に釈放されました。ダオさんのFacebookページが示す通り、投獄されてもなお本人の決意は揺るぎません。「私たち家族は法による正義を求めている。このベトナムという国では、法と人権はいったいどこに行ってしまったのか?」
ベトナム政府による人権の弾圧は、人権を求める声を消すことは決してできません。各国の指導者は、そうした声をこそ支持すべきです。好ましくない意見への寛容さを育むだけでなく、国民の声に耳を傾け、不満や懸念に対処することは、まさにベトナムの長期的な戦略的利益にかなうのです。