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バングラデシュ:ハシナ首相、大規模デモの只中で辞任

暫定政府は法による正義、説明責任、民主的移行の優先を

公務員就職優先枠に対するデモ後、ミルプールでメディアに対応するバングラデシュのシェイク・ハシナ前首相。 © 2024 Bangladesh Prime Minister's Office/AFP via Getty Images

(ロンドン)バングラデシュのシェイク・ハシナ首相は、数週間におよぶ学生の抗議デモの後、2024年8月5日に辞任し、国外に逃亡したとヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。推計によると、死者は300人、負傷者は数千人、逮捕者は1万人以上に上る。

ワケル・ウズ・ザマン(Waker-Uz-Zaman)参謀総長は首相辞任を発表し、暫定政権が樹立されることを確認するなかで「私はすべての国民に対し、正義をもたらすことを約束する」と述べた。当局は、透明で独立した司法メカニズムをまず実行に移し、隔離拘禁者も含めて政治囚人全員を即時釈放すべきだ。暫定政府は国連の支援を受け入れて直近の学生デモにかかわるものだけでなく、シェイク・ハシナ政権時代のこれまでの重大な人権侵害行為について独立調査を開始すべきである。

「約15年にわたり権威主義的支配を強めてきたシェイク・ハシナ首相の辞任は、バングラデシュにアカウンタビリティ(説明責任)と民主的な改革への新たな希望をもたらすものだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理ミナクシ・ガングリーは述べた。「暫定政府はこの機会を逃さず、バングラデシュの国としての方向性を転換し、被害者への法的正義を保証する独立機関を備えた法の支配に向かうべきである」。

ハシナ首相を辞任させたのは7月上旬に始まった学生による抗議活動だった。デモ隊は当初、1971年の独立戦争の帰還兵の子孫に30%の公務員就職優先枠を復活させたことに対して抗議していた。この優先枠を与党支持者への政治的な利益誘導と見なしたからだ。抗議行動は平和的に始まったが、7月15日、治安部隊と与党アワミ連盟の学生組織・チャトラ連盟のメンバーがデモ隊を攻撃したことで暴力が勃発した。

この攻撃を受けて学生たちは街頭に出た。彼らはバングラデシュ国民から広く支持された。国民は学生への攻撃に愕然としたことに加え、汚職、不公正な選挙、度重なる治安部隊の人権侵害に怒りを覚えていたからだ。政府は軍隊を出動させ、インターネットを遮断した。この間に超法規的殺害や強制失踪があったと学生側は報告している。当局は封鎖と捜索を実施し、デモ参加者と見なした1万人以上を逮捕し、数万人を訴追した。

政府が夜間外出禁止令を解除し、インターネット接続を部分的に復旧させた後、学生側は市民的不服従を呼びかけて、バングラデシュ治安部隊による人権侵害(殺害、恣意的逮捕、拷問など)に抗議した。8月4日、数万人がデモに参加してハシナ内閣の辞職を求めた。

ハシナ首相はこのデモに対し、与党支持者に「無政府主義者を鉄拳で制圧せよ」と呼びかけたと伝えられている。全土で起きた与党支持者とデモ参加者との衝突では死者も出た。8月5日、国軍が政権を掌握し、総司令官がハシナ首相の辞任を発表した。

8月5日、強制失踪被害者家族が作るアドボカシー組織のMaayer Daakは、バングラデシュの軍諜報機関・軍事情報総局(DGFI)本部前でデモを行った。DGFIは本部敷地内で秘密刑務所を運営し、強制失踪被害者の収容と拷問を行っているとされる。当局は、現在隔離拘禁されている全員を釈放し、被害者の所在が依然として不明な事案すべてを独自に調査し、責任者を訴追することで、強制失踪者家族に救済を行うべきである。

明るい動きとして、強制失踪被害者のミール・アフマド・ビン・クアゼム(Mir Ahmad Bin Quasem)とアブドゥラヒル・アマーン・アズミ(Abdullahil Amaan Azmi)が5日、当局によって釈放された。ビン・クアゼム氏は2016年8月9日深夜、妻と姉と自宅にいるところを拘束された。治安部隊は拘束を否定し、家族への脅迫と嫌がらせを繰り返してきた。退役陸軍将校のアズミ氏は2016年8月22日、警察の刑事課を名乗る私服姿の男たちに拘束されたが、当局は後に拘束を否定した。2人とも野党ジャマーアテ・イスラーミー(JI)幹部の息子であり、バングラデシュの独立闘争時に戦争犯罪を行ったとして有罪判決を受けていた。

強制失踪はハシナ政権下で急増し、政権による弾圧の象徴となった。2009年の第1期政権の最初の年に報告された強制失踪事案は3件だったが、次に総選挙が行われた2014年までには131件に上った。バングラデシュの人権団体によると、ハシナ政権誕生以降、600人以上が治安部隊によって強制失踪させられている。

ハシナ前首相の治政を特徴づけたのは、不処罰の文化であり、超法規的殺害、拷問、強制失踪などの治安部隊による重大な人権侵害行為だった。勇気を出して抗議の声を上げた人びとは生命の危険にさらされた。シェイク・ハシナ政権は、定義が曖昧で広すぎる法律をいくつも用いて、政府に批判的な活動家やジャーナリストなどへの嫌がらせや無期限拘禁を行い、表現の自由をいっそう抑圧した。

国軍による政権掌握は過去にも例があり、最近では2007年に暫定政権が誕生している。軍主導の暫定政権は当初は広く歓迎されたが、すぐに治安部隊による広範な人権侵害行為が生じた。非常事態宣言の下、軍は批判者を拷問し、政治参加を制限し、表現と結社の自由を規制したのである。

国連は冷静で平和的な政権移行を呼びかけている。ハシナ氏の辞任直後から、バングラデシュ人の一部には破壊行為が見られるとともに、宗教的少数者やアワミ連盟のメンバーやその財物への攻撃もあった。学生指導者野党指導者は冷静になるよう訴える一方で、活動家たちは少数派であるヒンドゥー教の宗教施設の警護にあたった。バングラデシュ当局は警戒を怠らず、ハシナ氏支持者への暴力的報復などの無法なふるまいを防ぐべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

「バングラデシュの人々は人権と民主主義を守るために抗議を行い、多くが命を落とした」と、前述のガングリー局長代理は述べた。「バングラデシュの将来が過去に犯した過ちの繰り返しによって台無しにならないよう、有力国の政府は手を差し伸べるべきである」。

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