(ニューヨーク)― スリランカの「リハビリテーション」法案は、スリランカ軍が運営する「リハビリテーション」施設に人を収容し、人びとが人権侵害を受けるリスクを高める広範な権力を当局に与える法案である。スリランカ政府はこの法案を撤回するべきだ。2022年9月23日に議会に提出された「リハビリテーション局法案」は、「薬物依存者、元戦闘員、暴力的な過激派団体やその他のいかなる集団の一員」を強制的に施設に収容することを可能にする。
リハビリテーション局法案の下では、国防省の管理下に設けられる新たな行政機構が、軍の人員が職員として配置される「リハビリテーション」施設を運営する。この法案に対しては既に人権活動家らが最高裁判所に異議を申し立てているが、法案は人が「リハビリテーション」に送られる根拠を説明していない。しかし政府の最近の他の政策で、有罪を宣告されていない人を強制的に「リハビリ」する曖昧かつ恣意的な権限が与えられている。
「スリランカ政府が提案する『リハビリテーション』の取り組みは、容疑がかけられていない人に対する恣意的な身柄拘束の新たな形に過ぎないようだ」とヒューマン・ライツ・ウォッチの南アジア局長、ミナクシ・ガングリーは述べた。「リハビリテーション法案は、いっそうの拷問や暴力、無期限の収容に大きく道を開くことになる。」
スリランカ政府は以前も、恣意的な拘束と拷問を可能にするために強制的な「リハビリテーション」施設を利用したことがある。2009年に内戦が終わった後、敗戦した分離主義の「タミル・イーラム解放の虎」の人員だと政府が認定した人が何千人も、軍が運営する「リハビリテーション」施設に収容された。そこで拷問や、性暴力を含むその他の虐待も報告された。今回の法案は、内戦が終わって13年経った今、再び「元戦闘員」の「リハビリ」を行おうとしている。
リハビリテーション法案は、テロ防止法(PTA)のように、恣意的拘束と拷問を法的に容認する法律が定められてきたスリランカの長い歴史に連なる最新の法案と位置付けることができる。同法案は、マイノリティ集団や、ラニル・ウィクラマシンハ大統領に「過激主義者」と特定された政府抗議者を標的にするために利用される可能性がある。
司法審査なしに長期に及ぶ収容が可能となるリハビリテーション法案の下では、政府関係者は「善意で(in good faith)」行動したのであればその行為について刑事責任を問われない。法案はまた、「服従を強制する」ために定義が不明確な「最低限の有形力」を使う権限を政府関係者に与える。別の規定では、リハビリ中の人を誰でも「合理的な理由なく」殴る、傷つける、虐待する、または故意に世話を怠る政府関係者は最長で18カ月の拘禁刑を受けると定められている。これは、被収容者に危害を加える「合理的な理由」が存在することを示唆している。国際法は、拷問その他の残虐で非人道的または品位を傷つける取り扱いを無条件に禁止している。
これとは別に、9月9日に議会に提出されたスリランカの「毒物・アヘン・危険薬物条例」の修正案は、薬物使用者だとされた人の強制的なリハビリテーションについて定める。この修正案は、スリランカの軍関係者が繰り返し「対テロ戦争」と対比してきたスリランカの「麻薬戦争」の下で既に暴力的な法律や実践を悪化させることになろう。
スリランカには、薬物使用者とされる人を強制的に「リハビリ」するシステムが既にあり、元戦闘員を「リハビリ」するために使われていた2つの場所で軍によって運営されている。そこで強制労働や被収容者の集団懲罰を含む虐待があったとの主張がされており、被収容者は医学的に適切な薬物依存治療へのアクセスは認められず、強制的な「依存離脱」療法を受けなければならない。6月にカンダカドゥのリハビリテーション施設で被収容者が死亡したことがきっかけで、「セラピスト」として行動していた陸軍と空軍の軍曹4人が逮捕された。
薬物依存治療の国際基準では、治療は常に自由意志によるべきで、薬物依存はまずは健康状態のひとつと見なされるべきであることが明確にされている。軍が運営する禁欲を基にした「リハビリテーション」プログラムは科学的証拠に基づいておらず、ハームリダクションも提供されていない。
国連恣意的拘禁作業部会は2017年、スリランカ軍が薬物治療に関与していることや医療の欠如、司法手続きにおける不正について懸念を表明した。薬物使用者とされる人を強制的な「リハビリテーション」のために収容することは医学的に適切な薬物依存治療と矛盾し、国際法に違反する、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
薬物対策法の修正案には、立証の基準を弱めるとともに、薬物所持に関連する一部の刑事事件で容疑者の保釈を認めない規定が含まれている。国際法基準に反し、かつ、1976年以降は国内で死刑執行モラトリアムが設けられているにもかかわらず、スリランカは薬物犯罪の一部について死刑宣告を続けている。
リハビリテーション局法案や薬物対策条例の修正案は、ウィクラマシンハ大統領による基本的権利に対するまた新たな攻撃といえる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。首都コロンボでの公の集会を制限するために国家機密法を使おうとする試みは、そのような行動は違法であるとの広範な抗議を受けて10月に撤回された。
国連人権理事会は10月6日、スリランカの人権状況に懸念を表明する決議を採択し、国連による監視の強化をしたほか、将来の訴追で使用するために国連が過去の人権侵害の証拠を収集、分析するマンデートを更新した。
「ウィクラマシンハ大統領が押し進める暴力的で抑圧的な諸政策は、スリランカの国際社会におけるパートナーたちが、経済的措置を全面的に支持するのを難しくしている。経済措置が非常に必要とされているのに。」と前出のガングリーは述べた。「諸外国政府はスリランカ市民の切迫したニーズを支援することを明確にするべきだが、同時に、重大な人権侵害を犯している者に対する対象限定制裁その他の措置を通じた行動も取ると明確にすべきである。」