日本政府は先般、ビジネスと人権に関するガイドライン(いわゆる人権デューデリジェンス ガイドライン、以下「人権DDガイドライン」という)を初めて発表しました。日本の自動車産業は、この新しい人権DDガイドライン(正式名称は「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」)を契機に、サプライチェーンのクリーン化に向けた取り組みを加速させることが求められています。
日本の自動車メーカーは電気自動車への移行を徐々に進めています。これは破壊的な影響をもたらしている日本の気候フットプリントの縮小に貢献しうるものです。日本は電力の3分の2以上が化石燃料由来ですが、それでもガソリン車と比べれば電気自動車のカーボンフットプリントは少ないのです。
ただし、人権面では、電気自動車は問題を抱えています。自動車用バッテリーなどの部品に必要な素材が、グローバルな人権侵害や環境破壊とつながっているからです。グローバルな人権パフォーマンスで企業をランク付けする「2020 Corporate Human Rights Benchmark」で、トヨタ、日産、ホンダの日本の3大自動車メーカーが獲得したスコアはいずれも低いものでした。
私自身、電気自動車の主要材料であるアルミニウムの生産が人権に与える影響を調査してきました。アルミニウムの原料であるボーキサイトの採掘は、アフリカ西部のギニアで、貧しい農民たちを土地から追い出し、地域の水源を破壊しています。 石炭火力に大きく依存するアルミニウム生産は、世界の年間温室効果ガス排出量の約3%を占めています。
9月13日に公表された人権DDガイドラインは、法的拘束力がない上に、内容においても大幅な改善が必要など、問題を抱えています。しかしながら、日本企業がサプライチェーンにおける人権侵害を特定し、サプライヤーと協力してその是正に取り組まなければならないことが明記されている、重要な文書です。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは昨年、トヨタなどのグローバルな自動車メーカー11社に対し、アルミニウムのサプライチェーンにおける人権侵害との関係に関して書簡を送りました。私たちの書簡に対し、トヨタは「仕入先サステナビリティガイドライン」があると回答しただけで、「サプライチェーンにおける個別の取引」にはコメントしない姿勢を示しました。トヨタのこの残念な対応は、私たちの調査に関して協議の場を設けた自動車メーカー8社とは異なる対応でした。少なくとも4社はその後、サプライヤーに改善を求めています。
トヨタは世界最大級の自動車メーカーであり、日本の他の自動車メーカーと同様に、その選択によって人権と環境の保護に大きなインパクトをもたらしうる存在です。日本の人権DDガイドラインが、自動車メーカーが人権尊重を加速させる「燃料」となることを期待します。