(ワシントンD.C)– 新型コロナウイルス(COVID-19)感染爆発との闘いでデジタル監視技術の活用が各国で広がるが、人権は保護されなければならないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アムネスティ・インターナショナル、アクセス・ナウ、プライバシー・インターナショナルほか103の団体が、本日共同声明を発表した。感染爆発(パンデミック)対策において、人びとの追跡および監視にデジタル技術を使用する際、各国政府に人権を尊重したリーダーシップを発揮するよう要請する内容だ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのデジタル権利担当デボラ・ブラウン上級調査員は、「新型コロナウイルスは前例のない保健・医療の危機だが、政府がこのウイルスを隠れ蓑にして、人権侵害又は広汎なデジタル監視を導入するようなことがあってはならない」と述べる。 「あらゆる監視措置には法的根拠が必要だ。正当な公衆衛生上の目標を達成するために厳密に調整されるべきで、権利侵害に対する保護措置も含む必要がある。」
各国政府は、感染爆発を監視・阻止するため、これまで以上にデジタル監視に着目している。現在24カ国が通信による位置情報の追跡を実施しており、14カ国がウイルス接触者の追跡または隔離の実施にアプリを使用しているとの報告がある。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査では、中国およびロシア政府が監視能力を拡大させ、新型コロナウイルス蔓延に対する公衆衛生上の理由では正当化できない方法で諸権利を制限していることがわかっている。米国の公衆衛生当局も民間部門と緊密に連携し、人びとの動きをめぐる膨大な情報を収集・分析してウイルスの広がり方の見極め、公衆衛生上の介入の有効性の評価を目指している。しかしながらこうしたビックデータは、各コミュニティ、とりわけ貧困層やマイノリティコミュニティの実態を公平に反映していないことが多々ある。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの人工知能担当エイモス・トー上級調査員は、「不完全かつ差別的なデータを使用して新型コロナウイルスの広がり方を理解すれば、我々の人権が脅かされることになる」と指摘する。「貧困層やその他のマイノリティのコミュニティに対し、不当な規制を課す公衆衛生対策がさらに厳しく行われることになりかねない。」
今日提案されている監視措置のなかには、公的機関への信頼が損ない、政府と市民の関係を根底から作り変えてしまう可能性を秘めるものもある。長期的に人権面での損害をもたらすだけでなく、今の緊急状況下での公衆衛生への取り組みを損なう可能性もある。
本声明は、デジタル監視を強化するにあたって、各国政府が満たすべき8つの条件を列挙した:
- (デジタル監視の強化が)正当な公衆衛生上の目標に基づき、合法的、必要かつ適度で、透明性があり正当化できる
- (デジタル監視の強化に)期限があり、その継続は感染爆発に対応するのに必要な期間にかぎられる
- (デジタル監視の強化の)適用範囲と目的に定めがあり、感染爆発に対応する目的に限られる
- (デジタル監視の強化のために)収集された個人情報の十分な保護がある
- (デジタル監視の強化が)周辺化された集団に対する差別やその他の権利侵害につながるリスクを軽減する措置がある
- (デジタル監視の強化で)他の公的機関または民間企業との情報共有について透明性が保たれている
- (デジタル監視の強化で)起きる人権侵害に保護措置を盛り込み、効果的な救済策が盛り込まれている
- (デジタル監視の強化の)情報収集に関して、自由、活発かつ有意義な参加機会を利害関係者(ステークホルダー)に提供する
前出のブラウン上級調査員は次のように指摘する。「デジタル技術は、この感染爆発との闘いと人びとの安全に役立つかもしれない。しかしそれは、政府がこうしたツールを使用するにあたって、人権のルールに則っている場合に限られる。」