Skip to main content
寄付をする

ミャンマー:ロイター通信の記者を釈放して立件を見送るべき

虐殺で有罪となった兵士よりも重い刑に直面する記者たち

Kyaw Soe Oo carries his daughter while escorted by police outside a court in Yangon, Myanmar, June 18, 2018. © 2018 Reuters

(ニューヨーク、2018年7月2日) - ミャンマー当局は、軍によるロヒンギャ・ムスリムの虐殺事件を取材したために拘禁されたロイター通信の記者2人を釈放し、立件を見送るべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。2018年7月2日にヤンゴン裁判所は、最高で14年の刑が科される国家機密法(1923年)のもと、ワーロウン氏(Wa Lone・32歳)およびチョーソーウー氏(Kyaw Soe Oo・28歳)を訴追するかについて、最終審問を行う。

2017年12月12日、記者2人が警察関係者からヤンゴンのレストランでの会合に招待されたが、その後身柄を拘束された。レストランで両氏は、ラカイン州北部における治安部隊の作戦と関係があるとされる紙片を手渡されていた。ミャンマー警察は、「外国の報道機関と共有する」意図で「不法に政府の文書を入手・所有した」容疑で逮捕したと発表。両氏は6カ月以上にわたり保釈されないまま拘禁され続けているが、一方で警察の不正行為を示唆する証拠や公式報告と相反する証拠などが明らかになりつつある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムズは、「ミャンマー当局は、軍によるロヒンギャ虐殺を取材で暴露したために、2人のロイター記者を罠にはめて逮捕した」と指摘する。「当局は、過去の軍事政権が長い間好んできた戦略に戻りつつある。真実を語る人びとの拘禁と訴追だ。」

逮捕前にワーロウン氏とチョーソーウー氏は、ラカイン州北部のInn Din村で2017年9月に起きたミャンマー軍によるロヒンギャ男性および少年10人の殺害について取材していた。ロイター通信は2月に彼らの取材に基づいた詳細記事を配信。治安部隊要員や軍の作戦に参加した村人の証言を通して、攻撃を時系列に追ったものだ。6月25日には欧州連合とカナダが、いち部隊および準軍事警察大隊の指揮官たちに対し制裁措置を発動した。

2018年1月以来、保釈請求が却下されるなか、両氏は悪名高いインセイン刑務所に収監され、毎週のように審問のためヤンゴン裁判所に出廷してきた。

目撃者の逮捕をめぐる証言はおとり捜査のケースを示している。4月にある警部は、憲兵旅団将官のTin Ko Ko氏が逮捕の口実として「機密文書」を記者に手渡す「罠」を部下に命じたと証言。その証言直後にその警部は、警察官職務執行法のもとで1年の有罪判決を受け、家族も警察官官舎から追放された。

検察の訴追は矛盾と不正に満ちており、元々の警察業務で不正行為があった可能性を示唆している。審問中、両氏を逮捕した警察官の1人は、逮捕記録の適切な手続きを知らなかったと証言し、別の警察官は逮捕に関するメモを燃やしたことを認めている。検察側の追加証人は、警察が逮捕の現場と主張した場所を手に書き留めていた。警察はまた、証拠文書として記者たちの電話から発見したという証拠書類を提出したが、これに関して捜査令状が出ていなかった。被告側の弁護人は、警察官が記者に渡した情報は逮捕時すでに一般公開されていたと主張している。

ワーロウン氏とチョーソーウー氏は植民地時代の国家機密法第3条(1)(c)に違反したとされている。同法のもと、「敵に有益」な可能性のある「あらゆる公式[中略]文書または情報を取得、収集、記録、出版、 または他者と共有」した個人は最高14年の刑を科される。また同法の厳格な条項に基づき、情報開示が実害リスクをはらんでいなくてとも、文書を共有しただけで刑事罰を適用することができる。これは表現の自由をめぐる国際標準に反するものだ。

特に第3条(1)(c)は、当該行為が国家安全保障に実害を及ぼすこと、またはそのような害への重大リスクが生じることさえも条件にしていない。過度に広範であい昧な条項を改正して、国家安全保障に対し具体的なリスクを及ぼすことが証明された行為のみを罰し、かつ情報を受け取ったジャーナリストやNGO関係者ほかに対する刑事罰を廃止すべきだ。

逮捕された後、ワーロウン氏とチョーソーウー氏は外界との連絡を断たれ、2週間隔離拘禁された。弁護人によると、その間、尋問中に睡眠を剥奪されたり、何時間もひざまずくよう強制されていたという。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、虐待行為によって収集された証拠はすべて放棄するよう強く求めた。

被拘禁者から情報を得るために、連日の睡眠剥奪といった拷問ほか強引な手法を使用することは、一般国際法ならびに国際人権条約に抵触する。ミャンマーが批准していない国連拷問等禁止条約第15条は、「拷問によるものと認められるいかなる供述も[中略]訴訟手続における証拠としてはならない」と規定しており、国連規約人権委員会の公正な裁判への権利に関する一般的意見32にもこの点が概説されている。

Inn Din村の襲撃は、2017年8月以来ロヒンギャの人びと72万人超が隣国バングラデシュに脱出する原因となったラカイン州北部における民族浄化運動のさなかに、軍が行った数々の虐殺のひとつだ。政府は再三にわたって軍の人権侵害疑惑を否定し、国連事実調査団やミャンマーに関する国連特別報告者による独立調査を拒否している。

「具体的な証拠」が提示された場合は人権侵害に関与した治安部隊要員に対して行動を取ると政府は主張するが、昨年8月以降ラカイン州で起きた犯罪で兵士の身柄が拘束された唯一のケースが、ワーロウン氏とチョーソーウー氏によって明るみに出た虐殺事件に関係するものだった。1月にミャンマー政府は、Inn Din村の「ベンガル人テロリスト10人」の殺人事件を捜査中と、ロヒンギャの人びとに対する軽蔑的な言葉を用いて発表。4月に7人の兵士が虐殺に関与したとして10年の刑を言い渡された。しかし、政府は10人の犠牲者を「警察に引き渡す」ことに失敗したためと表現、10人は合法的に逮捕されるべき過激派グループ「アラカンロヒンギャ救世軍(ARSA)」のメンバーだったと言い放った。

発表の翌日、出廷後にワーロウン氏は兵士たちの刑に反応し、「虐殺を犯した犯罪者たちは10年の刑を言い渡された。しかし、それを報道した人間、つまり私たちは14年間投獄されるかもしれない法の下で訴追されている」と裁判所前の階段で記者たちに向かって叫んだ。「真実と正義はいったいどこに? 民主主義と自由はどこに行ったのでしょう?」

アダムズ局長は、「ロイター通信の裁判は、アウンサンスーチー政権下における報道の自由の試金石だ」と指摘する。「ロイター通信の記者たちが訴追されるようなことがあれば、当局は軍事政権の足跡をたどることになろう。諸外国政府は、ワーロウン氏とチョーソーウー氏のための法の裁きの実現と、職務を遂行しているだけのジャーナリストの逮捕・投獄に終止符を打つよう強く求めなければならない。」

GIVING TUESDAY MATCH EXTENDED:

Did you miss Giving Tuesday? Our special 3X match has been EXTENDED through Friday at midnight. Your gift will now go three times further to help HRW investigate violations, expose what's happening on the ground and push for change.