- ゼネラルモーターズ(GM)、テスラ、BYD、トヨタ、フォルクスワーゲンなどのグローバル自動車メーカーは、自社のアルミニウムのサプライチェーンでウイグル族の強制労働が行われているリスクを最小限に抑える努力を怠っている。
- 中国政府による報復を恐れ、メーカー側は中国に拠点を置くサプライヤーや合弁会社に対して、新疆ウイグル自治区での強制労働と関係があるかどうかを問い合わせようとしていない。
- 各国政府は、強制労働に関係する製品の輸入を禁止する法律を制定し、企業にサプライチェーンのディスクロージャーを行い、人権侵害との関係の疑いを特定するよう義務づけるべきだ。
(ニューヨーク)―ゼネラルモーターズ(GM)、テスラ、BYD、トヨタ、フォルクスワーゲンなどのグローバル自動車メーカーは、自社のアルミニウムのサプライチェーンでウイグル族の強制労働が用いられるリスクを最小化できていないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で指摘した。
今回の報告書「居眠り運転:中国での強制労働に加担する自動車メーカー」(全99頁)によると、一部の自動車メーカーは中国政府の圧力に屈し、中国の合弁会社ではグローバルなオペレーションよりも低い人権基準や責任ある調達基準を適用し、自社製品が新疆ウイグル自治区での強制労働にさらされるリスクを高めている。ほとんどの企業は、アルミニウムのサプライチェーンをマッピングして強制労働との関係を特定する努力を、あまりにも怠っている。
「自動車メーカーは、自社のアルミニウムのサプライチェーン内で、自社が新疆ウイグル自治区の強制労働とどれくらい関わりがあるかを把握していない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの上級調査員で企業アカウンタビリティ担当のジム・ウォーミントンは述べた。「消費者は、自分の車に新疆ウイグル自治区での強制労働などの人権侵害と関わる素材が含まれかねないことを、知っておくべきだ」。
中国北西部の新疆ウイグル自治区とアルミニウム産業、強制労働がつながるのは、中国政府が支援する労働者移送事業のためだ。ウイグル族などトュルク系ムスリムが新疆ウイグル自治区などで強制的に仕事をさせられている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、中国国営メディアのオンライン記事、企業の報告書、政府の発言等を検証し、新疆ウイグル自治区のアルミニウム生産業者が労働者移送事業に参加していることを示す信頼できる証拠を明らかにした。ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、新疆のアルミニウム生産業者に石炭を供給する化石燃料会社について、この会社の炭鉱が移送された労働者を受け入れている証拠も明らかにした。新疆ウイグル自治区のアルミニウム製錬所では、エネルギー集約型のアルミニウム生産工程の燃料として、この地域に豊富にある石炭(汚染源ともなる)が主に用いられている。
2023年、自動車を製造する内外の自動車メーカーの総生産・輸出台数では中国が世界トップだった。2017年以降、中国政府は新疆ウイグル自治区で、恣意的拘禁、強制失踪、文化的・宗教的迫害などの人道に対する罪を犯し、ウイグル族などのトュルク系ムスリム住民に同自治区内外で強制労働を課している。
中国政府は、ウイグル族への人権侵害を拡大する一方で、新疆ウイグル自治区を産業集積地にすべく動いている。新疆ウイグル自治区のアルミニウム生産量は、約100万トン(2010年)から600万トン(2022年)に増加した。現在、中国で生産されるアルミニウムの15%以上、世界全体の供給量の9%がこの地域で生産されている。アルミニウムは、エンジンブロックやフレーム、ホイールや蓄電池用箔に至るまで多数の自動車部品に使用される。こうした部品は中国国内の自動車メーカーで用いられるだけでなく、国外の自動車メーカーにも輸出されている。
新疆ウイグル自治区製アルミニウムの大半は自治区外に出荷され、他の金属と混合されて、自治区外で合金が作られる。その一部が自動車産業用となる。アルミニウム地金が溶解され、他の材料と混合されると、そのアルミニウムが新疆産かどうかや、新疆産がどれくらい含まれているかを特定することはできない。人権侵害に関与したアルミニウムは検出されず、内外のサプライチェーンに入り込むことになる。
新疆産アルミ地金は商品取引業者が売買するため、新疆とグローバル・サプライチェーンとの関係はいっそうわかりにくくなる。グローバルな商品取引業者であるグレンコア社はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、中国国内の顧客への販売用として新疆のある製錬所からアルミニウムを購入していることを認めたが、「新疆関係の強制労働のリスクを認識している」と述べ、新疆のサプライヤー側の施設でデューデリジェンスを実施したと述べた。
自動車メーカーには、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、自社サプライチェーンでの強制労働などの人権侵害の存在を特定、防止、軽減する責任がある。新疆ウイグル自治区には、労働者や監査員への脅迫など、厳しい抑圧・監視体制が敷かれている。企業側が強制労働の申し立てを信頼できる形で調査し、改善の可能性を検討することはできない。自動車メーカー側は、そうした対応に代えて、自社のサプライチェーンをマッピングし、新疆ウイグル自治区からの部品・材料調達が判明したサプライヤーとの取引を停止すべきである。
一部の自動車メーカーは、中国側の合弁会社を運営または管理していないため、合弁会社のサプライチェーンと新疆ウイグル自治区との関係に対処しづらいと主張する。フォルクスワーゲン(VW)は、中国の自動車メーカー・上海汽車(SAIC)との合弁会社の株式の50%を保有する。VWはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、ドイツのサプライチェーン法は企業が「決定的な影響力」を持つ子会社のみを対象としているため、フォルクスワーゲンは法的責任を負わないと回答した。
しかし、ドイツ政府の指針には、企業の「決定的な影響力」の有無を判断する基準がいくつも挙げられている。その一つは「子会社が親会社と同一の製品を製造・利用し、同一のサービスを提供しているかどうか」だ。SAIC-フォルクスワーゲン社は、フォルクスワーゲン・ブランドで中国市場向けの自動車を製造している。ドイツの法律はフォルクスワーゲンの直接のサプライヤーにも適用されるため、SAIC-フォルクスワーゲンも対象となる可能性がある。
合弁事業を行う企業は、国連の上記指導原則に基づき、影響力を行使して、合弁事業のサプライチェーンでの強制労働のリスクに対処する責任も負う。フォルクスワーゲンは、自社が「人権侵害リスクに対処するために、中国の合弁企業に影響力を行使する責任を(…)負っている」と述べた。しかし、SAIC-フォルクスワーゲンと新疆ウイグル自治区のアルミニウム生産者との関連の疑いに話が及ぶと、フォルクスワーゲンは「非支配合弁会社であるSAIC-フォルクスワーゲンのサプライヤーとの関係についてはトランスペアレンシーを持たない」と回答した。フォルクスワーゲンは、中国国外の直轄事業ではアルミニウム部材のサプライチェーン・マッピングを優先的に行ったと述べる一方で、自社の自動車に使用されるアルミニウムの原産地については「盲点」が存在したと認めた。
ゼネラルモーターズ(GM)、トヨタ自動車、BYD(比亜迪股份有限公司)は、中国の合弁会社の監督、サプライチェーン・マッピング、アルミニウムの原産地に関する照会には無回答だった。その上でゼネラルモーターズは、「GMは、デューデリジェンスの実施と産業面でのパートナー、ステークホルダー、組織との協働を誠実に行い、自社サプライチェーンでの強制労働に関連する潜在リスクに対処している」と述べた。
テスラ社は、自社の「上海ギガファクトリー」で中国国内向けと輸出向けの自動車を製造する。同社は自社のアルミニウムのサプライチェーンを「複数のケースで」マッピングしたが、強制労働の証拠は見つからなかったと述べた。しかし、同社が製造する自動車に使用されているアルミニウムのうち、産地不明分の割合については明らかにしなかった。
自動車業界の複数の幹部や責任ある調達の専門家筋が、匿名を条件に明らかにしたところによると、中国政府からの報復を恐れる自動車メーカー側は、中国に拠点を置くサプライヤーや合弁会社に対し、新疆ウイグル自治区での強制労働との関連について問い合わせようとしない。中国政府は、新疆ウイグル自治区での強制労働など、中国での人権侵害と自社が関わりがあるかを調べる企業について、そうした動きを行う企業や個人を標的とした刑事捜査を開始している。
詳しい調査に対して中国政府が敵意を示していることを踏まえ、各国政府は中国での企業の人権尊重にさらに大きな注意を払わなければならない。米国や欧州連合(EU)など複数の法域では、強制労働に関連する製品の輸入を禁止する法律がすでに制定されているか、その動きがある。加えて各国政府は、企業に自社のサプライチェーンを開示し、人権侵害との潜在的な関連を特定するよう義務づける法律を制定すべきである。
「中国は世界の自動車産業の支配的なプレーヤーだ。各国政府は、中国で自動車を製造したり部品調達を行う企業が、中国政府が新疆ウイグル自治区で行う弾圧とは無関係であることを確認することが求められる」と、前出のウォーミントンは述べた。「中国でビジネスをすることが、強制労働を用いたり、強制労働から利益を受けることであってはならない」。