(ニューヨーク) ― ベトナムは権利活動家のチャン・ティ・ガー(Tran Thi Nga)氏を即時釈放し、控訴裁判所は2017年12月22日に彼女の事案を審理する際に無罪とすべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。トゥイ・ガー(Thuy Nga)という名でも知られる同氏は、「反国家宣伝罪」で5年間自宅に軟禁されたあと、7月に9年の実刑判決を受けた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局 局長ブラッド・アダムズは、「ベトナム政府は、活動家や批評家への取締りを強化しており、チャン・ティ・ガー氏も被害者となった」と述べる。「政府は批判の声と議論を交わすのではなく、意見を封殺し、厳しい判決と人権侵害をますます用いるようになっている。」
チャン・ティ・ガー氏(40歳)は、刑法第88条のもと、今年1月21日に逮捕された。同条は、批判の声を挙げた人を恣意的に罰するために適用されてきた、厳しいベトナム公安関連条項のひとつだ。国営メディアによると、「政権の誹謗」および「反動的な思想の拡散」容疑で訴追されたという。政府当局は氏の裁判の中で、氏が環境危機と政治腐敗をめぐる問題に光を当て、政府を批判する動画や記事をインターネットで共有したと主張している。
チャン・ティ・ガー氏は7月25日に、1日の裁判で有罪判決を受けた。彼女の弁護人はあらかじめ決められていた迅速な判決だったとしている。治安当局は、氏の支援者や独立系ジャーナリストの傍聴を禁じた。また氏の夫や子どもは、傍聴のみならず氏との面会もこれまで許されていないと言われている。仲間の権利活動家グエン・ゴック・ニュー・クイン氏(マザーマッシュルームとして知られる)の「反国家宣伝罪」での10年の実刑判決に対する控訴が棄却されてから1ヶ月も経っていない。
チャン・ティ・ガー氏は、人身取引や警察の残虐行為、土地の接収といった人権侵害と長らく闘ってきた労働活動家だ。ベトナム政府当局は何年もの間、威嚇や嫌がらせ、暴力を彼女に対してふるってきた。2014年5月に、平服姿の男5人組がハノイの通りで同氏を襲撃し、鉄棒で腕や足の骨を骨折する大けがを負わせた。襲撃は撮影されていたが、警察はこうした動画証拠にもかかわらず事件の捜査を拒否。 2015年8月には平服姿の警察官が、釈放されたばかりの政治囚に会いに行った氏をバスから引きずりおろして、暴行している。
これらの攻撃は、権利の行使者に対してベトナム全土で多数行われている。 ヒューマン・ライツ・ウォッチは2017年6月の報告書で、ブロガーおよび活動家が暴漢に威嚇・脅迫され、暴行された36件のケースを調査・検証。警察官の目の前で起きたケースも多々あったが、 通常警察官が止めに入ることはない。
政府の威嚇と暴力にもかかわらず、チャン・ティ・ガー氏は政治的な不公正や国家の広範な暴力に抗議し発言してきた。政治的行動と連帯を促進するためにFacebookとYouTubeを活用するベトナム人ブロガーが増えているが、彼女もそんな1人だ。こうしたブロガーの多くが、言論の自由に対する取締りの一環として、あいまいな規定の治安関連法のもとで拘禁されている。
現在も100人超の活動家が、表現・結社・集会・信教の自由を行使したことで投獄されている。ベトナムはこれらの人びとを無条件に釈放し、平和的表現を犯罪とするすべての法律を廃止すべきだ。
アダムズ局長は、「チャン・ティ・ガー氏ほかベトナム人活動家たちは、自国で起こっている権利侵害に対して声を上げただけで、深刻な危険にさらされている」指摘する。「ベトナム友好国および国際ドナーは、無条件の釈放をベトナム政府に強く訴えることで、活動家たちの闘いを称えるべきだ。」