(ニューヨーク)― 今回公開された衛星写真により、2017年8月25日以来、ビルマのラカイン州北部では少なくとも228カ村が一部または完全に焼失したと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。数万棟の建造物が火災の被害を受けたが、その大半がロヒンギャ・ムスリムの住居だった。
衛星写真の分析から、火災はロヒンギャの住む村に集中しており、ビルマ当局者が治安部隊による「掃討作戦」の終結を宣言した後にも発生していたことがわかったと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。画像データは、破壊されたロヒンギャの村が、無傷なラカイン民族の村と隣接している多数の地域を特定しており、少なくとも66カ村が9月5日より後に放火に遭ったことを示している。9月18日のアウンサンスーチー国家顧問の演説では、この日に治安部隊の軍事作戦は終了したことになっている。ビルマ軍がアラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)による8月25日の一連の襲撃に民族浄化作戦で応じたことで、国連難民高等弁務官事務所によれば、ロヒンギャ53万人以上がバングラデシュに越境避難した。
「最新の衛星写真から、わずか4週間で50万を越えるロヒンギャ住民が国境のバングラデシュ側に避難した理由がわかる」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理フィル・ロバートソンは述べた。「ビルマ国軍はロヒンギャが住む数百カ村を破壊する一方で、殺害やレイプなどの人道に対する罪を犯した。ロヒンギャは自分の命を守るために避難せざるを得なかったのだ。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ラカイン州北部のマウンドー、ラテーダウン、ブティーダウン3郡の計866カ村をモニタリングと分析の対象とした。被害が最も深刻だったのはマウンドー郡で、8月25日から9月25日の間に火災が生じた地域のおよそ9割を占めている。同郡内の全村落のうちおよそ62%で、村の一部または全体が破壊されている。同郡南部はとくに被害がひどく、約9割の村落が壊滅的な状態だ。衛星写真からは、多くの地点で、多数の火災が長い期間に広い範囲で同時的に発生したことがわかる。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは被害パターンと火災状況が一致と指摘。最近の写真と襲撃前の写真とを比較・分析したところ、被害を受けた村落のほとんどで90~100%の建物が焼失している。ロヒンギャとラカイン民族が別々の地区に暮らしている多くの村落(例えばインディン村やイウェニョタウン村)は深刻な放火被害に遭っているが、ロヒンギャ地区が全壊する一方で、ラカイン地区は無傷である。
ビルマ政府は、ARSAの武装集団と地元のロヒンギャ住民が自分たちの住む村を焼き払ったと繰り返し主張しているが、一切証拠は示されていない。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ラカイン州北部3郡から避難した難民100人以上にバングラデシュ側で聞き取りを行っているが、ロヒンギャの住む村に火を放ったのがロヒンギャの地元住民なり武装集団であることを示すものは一切なかった。
ビルマ政府と国軍は、ロヒンギャ住民に対する深刻な人権侵害行為の疑いについて公平な調査も訴追も行っていない。国連加盟国と国際機関はビルマ政府に対し、一連の人権侵害の実態を調査するマンデートを国連から受けている、事実調査団の入国を認めるよう強く働きかけるべきだ。国連安全保障理事会も、ビルマに対する世界的な武器禁輸措置、および重大な人権侵害に責任があるビルマ軍司令官への渡航禁止措置と資産凍結を直ちに実施すべきである。各国政府は、軍どうしの協力や、ビルマ国軍が所有する企業との金融取引の禁止措置を含めた、ビルマへの包括的な武器禁輸措置を行うべきだ。
「村落の壊滅的な被害を伝えるビルマでの衝撃的な写真と、バングラデシュの難民キャンプの急増は、ロヒンギャが直面するきわめて悲惨な境遇という1枚のコインの表裏だ」と、前出のロバートソン局長代理は述べた。「関係国には、ロヒンギャへの人権侵害を停止するとともに、窮乏する人びと全員に人道援助が確実に届くようにすることを求めて、直ちに強く働きかける義務がある。」