(バンコク)— カンボジア政府は独立系新聞カンボジア・デイリーの廃刊という、政治的動機に基づいた脅しと法的措置をやめるべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。財務上の憶測に基づき、通常の手続きに反した急な執行で課された630万米ドルの追加税を納めなかった場合、同紙は2017年9月4日に廃刊と資産凍結に直面することになる。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理フィル・ロバートソンは、「評価の高いカンボジア・デイリー紙が政府の標的にされていることは、1991年のパリ和平協定以来もっとも深刻な報道の自由に対する脅威のひとつだ」と指摘する。「カンボジアのドナー国は、独立した公正かつ迅速なやり方で、税金滞納疑惑の正当な監査を実施し、本当に滞納分があると証明するまで、カンボジア・デイリー紙に対する法的措置を中止するよう、政府に求めるべきだ。」
カンボジア・デイリー紙は1993年以来、英語とクメール語による偏向のない報道で国際的な賞を受賞するなど、評判の高い、カンボジアでも数少ない調査報道機関のひとつ。同紙のスタッフはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、追加税を納めなければ、9月4日に強制捜査を行い、資産を凍結すると当局から脅されていると伝えた。情報省はすでに、8月中旬に期限切れとなった同紙の報道ライセンスの延長を先延ばしにしている。
カンボジア・デイリー紙の記者に対する政府の嫌がらせは数カ月続いていた。8月4日、税務当局は2007年からの税金滞納を主張し、630万米ドルの追加税を同紙に課した。カンボジア・デイリー紙は監査のために財務台帳の提出を申し出たにもかかわらず、当局はそれを再考せずに、同紙の収入および利益を推定して20%の税を課したうえ、罰金と利子も加えた。同紙は、2016年に報道機関やメディア企業に義務づけられた政府への登録義務を適宜果たし、税金も正しく納めたとしている。また、徴税をめぐる正当な監査が実施されるまで、懲罰的措置を停止するよう租税総局(GDT)に要請したが拒否されている。
与党カンボジア人民党(CPP)を率いるフン・セン首相が近ごろの演説で述べたように、政府はカンボジア・デイリー紙に対し、30日以内に追加税を納めないのであれば「荷物をまとめて出て行け」と求めている。フン・セン首相は同紙を泥棒呼ばわりし、記者たちを「外国人の下僕たち」と表現した。
徴税令書と監査拒否といった租税総局のカンボジア・デイリー紙への対応は、同紙への通知が消印されるよりも前に、与党人民党とつながっているフレッシュニュースという報道機関に、内々の税務情報も含まれる書簡のかたちで流出した。このような情報流出は、カンボジア税法第94条の「税務行政機関およびその関係者と職員はすべて、納税者に関する情報を内密にしなくてはならない」という規定に抵触している。9月4日にカンボジア・デイリー紙の廃刊に政府が動くという見通しのため、同紙は事実上、定期購読料や広告費を回収したり、今後の広告を取れずにおり、経営の継続が不可能になっている。
カンボジア・デイリー紙の脱税事件とされた情報が流出したあと数週間に、米政府が資金提供している2つのメディア「ラジオ・フリーアジア」と「ボイス・オブ・アメリカ」が、同様に狙われる可能性を示した租税総局の書簡が明らかになった。
経済財政省の報道官は、これらの行動をめぐる政治的動機を否定している。しかし政府関係者は、2017年6月の地方選挙をめぐる不正行為を報告した「シチュエーションルーム」というNGOのコンソーシアムについても、これらの問題を持ち出している。政府は最ごろ、 NGO法律に違反した疑いで、この「シチュエーションルーム」を捜査しており、自由で公正な選挙のための活動が、政府を転覆させる「色の革命」の可能性を高めることを目的としているとの見解を示唆した。
政府が「シチュエーションルーム」に選挙の監視活動停止を命じたため、これに属していた3つの団体が、潜在的な税金滞納問題に対処せねばならないという通知を受け取った。カンボジア人権促進保護連盟(LICADHO)、カンボジア人権開発協会(ADHOC)、コムフレル(the Committee for Free and Fair Elections in Cambodia :COMFREL)の3団体が追徴課税されることになるかもしれない調査が現在進行中だ。政府の税金徴収キャンペーンは、カンボジアの主要な独立意見を威嚇する、あるいは沈黙さえさせることを目的としていると見える。
ロバートソン局長代理は、「国際的な抗議がなければ、フン・セン首相の政府がカンボジア・デイリー紙を抹殺し、25年にわたる独立した報道と客観的な批判が終わりを迎えることになると信じる理由は山ほどある」と述べる。「自由で開かれたカンボジアのために、エネルギーと資金を30年近くも費やしてきたドナー各国は、今にもすべてが失われようとしていることを認識する必要がある。カンボジア政府の行動を非難するか、自らもその非難を引き受けるかのいずれかを選ぶ時が来たと言える。」