(ニューヨーク、2017年1月27日)ベトナムは人権活動家チャン・ティ・ガー(Tran Thi Nga)氏を即時釈放し、政治的な動機に基づく容疑を取り消すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ベトナムのドナー国・機関は政府に対し、政府に批判的な人びとや人権活動家への嫌がらせや起訴を止めるよう求める声明を公の場で発表すべきである。
チャン・ティ・ガー(トゥイ・ガThuy Ngaとも)氏は2017年1月21日に逮捕され、刑法88条の反国家宣伝罪で立件・起訴された。国営メディアによれば、同氏は「ベトナム社会主義共和国の批判を喧伝するビデオクリップや記事をインターネット上にいくつも公開していた」という。
「インターネットにアクセスして政治的見解を述べることを犯罪扱いするベトナム政府のやり方はばかげている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。「ベトナム政府の国際ドナーや貿易相手国は、同国政府に対し、暴力によらずに政権を批判する人びとを投獄することを止めなければ、関係を見直すつもりだと明言すべきだ。」
ベトナム政府当局はこの5カ月でブロガーと活動家少なくとも10人以上を逮捕し、国家安全保障を脅かしたという定義のあいまいな犯罪の疑いで起訴している。
チャン・ティ・ガー氏は労働運動など一連の活動ゆえに目をつけられ、長年にわたって脅迫や嫌がらせ、身柄拘束、取り調べ、暴力を受けてきた。反中国や環境保護の抗議活動にも加わっており、ブロガーや人権活動家の裁判にも足を運んでいたほか、政治囚の自宅を訪問して連帯の意志を表明してきた。また2013年11月に創設された団体「人権を求めるベトナム女性の会」(VNWHR)の執行委員を務めたこともあった。
2013年5月、チャン・ティ・ガー氏は息子2人(当時それぞれ3歳と5カ月)とともにハナムからハノイに行った。翌日にギアド公園で開催される人権ピクニックに参加する予定だった。警察は宿屋の主人に圧力を掛け、雨の降る真夜中に一家を部屋から追い出させた。友人たちが助けに向かうと、母子は歩道で夜を過ごしていた。
2014年5月、男性5人組がチャン・ティ・ガー氏を鉄の棒で襲撃し、腕と足の骨を折るけがを負わせた。2015年3月、ハノイの公安は氏を拘束し、自宅のあるハナム省まで連れ戻した。護送中の氏は、助けが呼べないように男1人に首をねじられて猿ぐつわをはめられた。さらに2人の男に両手両足を押さえつけられ、もう1人の男に平手打ちやげんこつで殴られた。2016年2月、私服の男たちが、ハナム省フーリー市のスーパーから帰ろうとするチャン・ティ・ガー氏と息子2人にエビのペーストを投げつける事件があった。氏は目を負傷し、長男のフーさんはアレルギー反応を起こした。
最近の逮捕事案としては次のものがある。
- 2017年1月19日、ゲアン省警察は元政治囚グエン・ヴァン・オアイ(Ngyen Van Oai)氏を仮釈放条件に違反したとして逮捕した。氏は2011年8月、在外非合法政党のベトタン(ベトナム更新革命党)と関わりがあるとして逮捕され、4年の刑を宣告されていた。2015年8月に刑期を終えたが、さらに4年間の保護観察をつけられた。氏は現在も拘束されている。
- 1月11日、ハティン省警察は人権活動家のグエン・ヴァン・ホア(Nguyen Van Hoa,)氏を逮捕した。氏は2016年4月、フォルモーサ・ハティン・スティール(FHS)社が有毒な産業廃棄物を海に垂れ流して海洋を汚染し、魚の大量死を引き起こした事件について、同社の責任を追及する活動を展開していた。氏は刑法258条の「自由と民主主義の権利の乱用による国益の侵害」で起訴された。
- 2016年12月、タインホア省警察は政府に批判的なYouTubeチャンネル「ティエンアンTV」を管理しているとしてグエン・ザイン・ズン(Nguyen Danh Dung)氏を逮捕し、刑法258条の「自由と民主主義の権利の乱用による国益の侵害」で起訴した。
- 11月、ホーチミン市警察はブロガーのホー・ハイ(Ho Hai)(別名「ドクター・ホー・ハイ」)氏をオンラインで政府批判を行ったとして刑法88条違反の容疑で逮捕した。ルー・ヴァン・ヴィン(Luu Van Vinh)氏とグエン・ヴァン・ドゥク・ドー(Nguyen Van Duc Do)氏も11月、民主化団体のベトナム国民同盟(VNA: Lien minh Dan toc Viet Nam)の結成を図ったとしてホーチミン市内で逮捕され、刑法79条の政府転覆活動罪容疑で起訴された。
- 10月にカインホア省警察は有名ブロガーのグエン・ゴック・ニュー・クイン(Nguyen Ngoc Nhu Quynh,)(別名「マザー・マッシュルーム」)氏をインターネットでの投稿を理由に拘束し、刑法89条の反国家宣伝罪容疑で起訴した。
- 9月にザライ省警察は「山地民」と呼ばれる先住民4人を逮捕した。プイ・ボップ(Puih Bop)(別名「アマ・プン(Ama Phun)」)、クソール・カム(Ksor Kam)(別名「アマ・フトルン(Ama H’Trưm)」)、ディン・ノン(Dinh Nong)(別名「バ・ポル(Ba Pol)」)、ロー・ラン・クリー(Ro Lan Kly)(別名「アマ・ブラン(Ama Blan)」の4氏は山地民プロテスタント独立教会(Degar Protestant independent church)の活動に関わったとして逮捕され、国家の一体性の毀損を禁じた刑法87条違反の容疑で起訴された。
ベトナムでは少なくとも112人のブロガーと活動家が服役中だが、有罪の理由は表現・集会・結社・信教の自由といった基本的自由を享受する権利を行使したにすぎない。ヒューマン・ライツ・ウォッチは非暴力の表現行為を犯罪とするベトナム国内法を全廃するよう長年訴えている。
「ベトナム共産党は権力独占の脅威と見なした人びとを長年迫害してきた。ベトナムは21世紀の現在に追いつき、前世紀の遺物である一連の過酷な法律を廃止すべきである」とダムズ局長は述べた。