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(ニューヨーク、2017年1月12日)ビルマの新たな文民政権は全土でいまだに続く人権侵害について国軍の責任追及を怠っていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の2017年世界人権年鑑で述べた。アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の政権はラカイン州のロヒンギャへの過酷な弾圧や民族居住地域での民間人への人権侵害にしっかり対応せず、表現の自由や結社の自由の権利を制限する法律の改正にも未着手同然。政権移行時の公約を裏切っている。

A family stands beside the remains of a burned down market in a Rohingya village outside Maungdaw, Rakhine State on October 27, 2016. © 2016 Soe Zeya Tun/Reuters

発行27年目を迎える「世界人権年鑑2017」(全687ページ)で、ヒューマン・ライツ・ウォッチは90を超える国々の人権状況を評価。その序文でケネス・ロス代表は、新世代の権威主義的な大衆主義者が、人権を多数派の障がいとみなし、人権保護の概念を覆そうとしていると指摘。世界経済の発展から取り残されたと感じ、暴力的な犯罪への恐怖を募らせる人びとのために、市民社会団体、メディア、人びとは、これまで人権尊重型民主主義社会が基礎を置いてきた価値を再確認するという重要な役割を負っている。

「アウンサンスーチーと氏が率いる新政権は、ビルマが人権尊重型の民主主義国家に変貌する方向へついに大きく舵を切ったとの強い期待をもたらした」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのブラッド・アダムス・アジア局長は述べた。「しかしこの目標が実現されるには、政府は人権尊重に腰を上げなければならない。つまり国軍の責任追及が必要である。」

NLD率いる新政権は1962年以来初の民主政府として2016年3月に誕生した。しかし2008年憲法には国軍に主要閣僚ポストと議員の25%を管理する権限を与える規定が存在。さらに抑圧的な法律が頻繁に用いられているため、継続的な人権侵害が促され、有意味な政治改革がたびたび障害にぶつかっている。2008年憲法により、国軍には文民の監督と国家安全保障関連の問題について自立性が与えられている。

2016年10月9日、ロヒンギャ過激派によるラカイン州北部での国境警察地区支部襲撃事件では警官9人が死亡した。この事件に対し、国軍は「掃討作戦」を実施して一帯を封鎖。人道援助団体や独立系メディア、人権モニタリング団体の接触を認めない措置をとった。

恣意的殺害、レイプなどの性暴力、拷問や虐待、恣意的拘束、恐喝など、政府治安部隊のロヒンギャ住民への深刻な人権侵害が広く伝えられている。だが封鎖によりこうした報告への独立した調査がいまだ一切行われていない。衛星写真によりロヒンギャの村落で火災に関連する家屋の広範な破壊が明らかになり、被害は少なくとも1,500戸に上る。衛星写真の分析と隣国バングラデシュでのロヒンギャ難民への聞き取りからは軍の残虐行為に対する関与が示唆される。ムスリム住民数万人が自宅を離れざるをえず、多くがバングラデシュに逃れた

ビルマ国軍と民族武装勢力との戦闘は、昨年2016年を通してシャン州北部、カチン州、ラカイン州、カレン州で激化。多数の民間人が避難民となった。政府軍による超法規的処刑、拷問、性暴力、財産の破壊などの人権侵害が頻繁に確認されている。政府軍の砲撃と空爆が民族居住地域の民間人に継続的に行われている。これは武力紛争法に違反する行為だ。8月にアウンサンスーチー氏と政府は和平プロセスの一環として「21世紀パンロン会議」を開催したが、民族組織側の期待に十分応えるものではなかった。

4月、政府は一連の恩赦で政治囚と被拘禁者235人を釈放した。だが新時代の幕開けは簡単には訪れていない。政府は問題ある法律を引き続き用いて、言論の自由を制限した。当局は政府や軍の批判、非暴力的な集会への参加を理由とした活動家の拘束と起訴を続けている。メディア検閲の緩和が民政移管の目玉の1つだが、政府の統制は法的枠組に様々な形で残っており、報道の自由の制限に用いられている。

「政府による宗教的・民族的マイノリティへの攻撃と政治活動家の拘束が続いている。これはビルマの『古き悪しき日々』の不快な名残である」と、前出のアダムズ局長は語る。「各国政府はアウンサンスーチー氏に対し、必要な改革の実現のため、政府の全部門に対して人権尊重の促進を命じるよう求めるべきである。」

 

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