(ニューヨーク、2017年1月11日)スリランカ政府は、意見聴取タスクフォース(CTF)が行った移行的正義に関する勧告に直ちに従うべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。2017年1月3日付の報告書は、真実と法の下の正義について初めて広範囲のスリランカ国民に調査した結果を示すもの。調査は国連人権理事会の2015年10月の決議が求めたものである。
勧告の中心は、国内外の判事およびその他の当局者から構成され、管轄権の制限のない戦争犯罪法廷の設置である。30年前に多数の強制失踪被害を出しながら責任追及が放置されたままのシンハラ人たちも設置を支持している。なおこの問題の責任追及はいまだなされていない。タスクフォースは強制失踪に関する全土での対応、金銭的・象徴的補償、憲法に基づく政治的合意、長期化する土地紛争の解決、心理社会的ニーズへの配慮も勧告している。
「タスクフォースの報告書は、移行期の正義のプロセスに関するスリランカのあらゆるコミュニティの懸念とニーズをきわめて包括的かつ明解に示している」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのブラッド・アダムズ・アジア局長は述べた。「政府は勧告を受け止め、人権理事会での公約に従って勧告内容を実施するためのフレームワークを整えるべきだ。」
タスクフォースは2016年2月に正式任命され、人権理事会決議30/1号で概略が提案された仕組みに基づいて2016年4月から意見聴取を開始した。決議でスリランカ政府は、26年間のスリランカ内戦の結果を受け、法の下の正義やアカウンタビリティ、和解の実現を公約している。タスクフォースは、市民社会関係者の支援を受けながらヒアリングを行い、シンハラ、タミル、ムスリムなどのコミュニティ、ならびに治安部隊から計7,306件の意見提出を受けた。
CTFは2016年8月に意見聴取を終了した。そして活動について政府からの干渉の事実や妨害の試みはなかったこと、報告書は委員11人全員の見解を反映したものであると報告した。報告書発表後の記者会見の席上、委員からは国の南北ですべてのコミュニティから法の下の正義とアカウンタビリティについての懸念が示されたことが述べられた。
政府軍と分離派勢力タミル・イーラム解放の虎(LTTE)の両者による強制失踪や超法規的処刑、拷問、性暴力が多数あったとの信頼できる報告にもかかわらず、スリランカの歴代政権は内戦下での人権侵害のアカウンタビリティに取り組まずにきた。2015年1月の総選挙後に誕生した新政権はこの問題の解決を目指す内外の動きに対しより融和的なアプローチを取り、2015年10月の国連人権理事会で移行期の正義に関する少なくとも4つの仕組みの設置に同意した。今回の意見聴取もその一部である。
スリランカ問題は人権理事会の2017年3月会期の議題になっており、ザイド国連人権高等弁務官がスリランカの決議履行状況について報告を行う予定だ。
人権理事会では、この勧告を政府が速やかに実施しようとしているかも取り上げられる。しかし政府高官の報告書発表直後の反応は失望を呼ぶものだ。ラジャパクサ法相とセネラトネ保健相はともに特別法廷への外国人参加を認めないとそれぞれ発言している。アベイワルデネ財務副大臣は、シリセーナ大統領が外国人判事の参加はないと言ったとし、政府は「戦争の英雄」を訴追することを認めないつもりだと述べた。さらに内閣報道官は、ザイド国連人権高等弁務官が前回の会合で外国人は法廷に参加させないことに同意したと主張したが、高等弁務官側は即座にこれを否定した。
報告書の勧告には政府が直ちに採用することのできる重要な信頼醸成策も盛り込まれている。強力な被害者・証言者保護法、すべてのコミュニティに対して政府が行う有意義なアウトリーチ、公的な追悼・記念行事を認める象徴的な意思表示、マイノリティ権利委員会の設置などだ。
「スリランカ政府は移行期の正義に関する広範な意見聴取のための多民族のタスクフォースの設置に合意するという勇敢な一歩を踏み出した。タスクフォースが国民の意見を集めた今、政府が主要な勧告を無視しないことがきわめて重要だ。政府は今回の公約がジュネーブで国連人権理事会の会議に参加した関係国に対してだけでなく、すさまじい戦争を生き残り、法の下の正義や和解を求める自国民にも向けたものであることを肝に銘ずるべきである。」