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バングラデシュ:恣意的拘束で総選挙結果にさらなる疑問

反対勢力への継続的弾圧 民主主義のかけらもない

(ニューヨーク)バングラデシュ当局は、野党党員らの恣意的拘束を直ちに停止すべきだ。2014年1月5日の総選挙では、多くの選挙区が無投票当選となった。与党アワミ連盟と友党が勝利した選挙後も、拘束は続いている。米国EUなど各国は、争いにまみれた今回の選挙について監視団派遣を拒否した。

総選挙に先立ち、野党の指導者や党員が、数十人から数百人規模で拘束された。バングラデシュ民族主義党(BNP)率いる野党連合は、今回の選挙をボイコットした。2度首相を経験したカレダ・ジア総裁は実質上の自宅軟禁状態にあった。治安部隊が自宅を包囲し、人の出入りは禁じられた。多数の野党指導者と活動家が地下に潜伏している。

「政府が適切に対処し、野党勢力による暴力行為を停止させた事例もある。しかし今回の大量逮捕劇は、反対勢力の弱体化、反政府活動の制限、与党の権力強化の典型的なやり方だ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムズは述べた。「アワミ連盟は、バングラデシュの有力な民主主義政党を自認する。しかし反対勢力にこうした広範な弾圧を行うことのどこが民主的なのか。」

ここ数か月の政治的な暴力事件により150人もの死者が出た。事件の大半は野党活動家が起こしたものだ。選挙管理委員会によれば、放火などの暴力行為により投票所は500か所近くが閉鎖された。アワミ連盟の活動家も、野党支持者への攻撃を行っている。

ヒンドゥー系住民への攻撃は、パキスタン民族主義党とイスラーム協会の支持者によるものと見られ、マスコミでも報道されている。ヒンドゥー教徒は、バングラデシュ最大の宗教的少数者で、現与党アワミ連盟の伝統的支持層だ。

少なくとも18人が投票日の暴力事件で死亡した。警官に射殺された人が多いと、マスコミは伝えている。

警察は1月7日、首都ダッカでバングラデシュ民族主義党の政治家8人を逮捕。うち5人は後で釈放。3人が投票前の暴力行為を扇動した罪に問われている。セリマ・ラーマン・バングラデシュ民族主義党副総裁は、1月7日の記者会見後に逮捕された。党総裁上級顧問Khandaker Mosharraf Hossain氏は、選挙批判の演説直後に短時間拘束された。警察はこの2人と元議員Fazlul Haq Milon氏に対し、暴力行為を扇動したとの嫌疑を掛けている。裁判所は1月8日、Khandaker Mosharraf HossainとFazlul Haq Milonの両氏を2日間勾留する決定を下し、審問自体は延期した。ラーマン氏は保釈が認められず、拘置所に移送された。

選挙前の逮捕劇

バングラデシュ民族主義党については、多数の野党幹部と活動家、数千人の活動家が選挙前に逮捕された。小政党である国民党(元独裁者フセイン・モハマッド・エルシャドの流れを汲む)の党首は、12月12日以降、本人の意に反するかたちで治安部隊により国軍病院に入院させられている、と同党の声明は伝えた。

一例として、警察は11月8日、ムドゥード・アフメド(Moudud Ahmed)元首相ら5人のバングラデシュ民族主義党幹部を逮捕した。翌日に5人は、放火などの暴力的な抗議行動を支持者に扇動したとして起訴された。弁護団は、警察は5人の逮捕状を用意しておらず、警察による最初の立件書面には名前が記されていなかったと指摘。12月26日に、弁護団の一人で、バングラデシュ民族主義党議員を務めるMahbub Uddin Khokon氏は、ダッカ高等裁判所で行われる保釈の審問に向かう途中で逮捕された。氏の弁護団によれば、氏は同日夕方に容疑を一切知らされないまま、刑事課(Detective Branch office)で取り調べを受けた。翌日、警官1人が死亡したバス爆破事件に関与したという容疑をかけられていることが判明した。氏の名前は警察の最初の立件書類には出てこない。野党指導者12人の名前が書いてあり、そのほかに「氏名不詳の者」が18~20人挙げられている。

バングラデシュ民族主義党が12月29日に予定していた「民主主義行進」の前に、数百人が逮捕された。バングラデシュ民族主義党の国会議員のあるアシスタントは、支持者約200人を連れて首都に入ったが、全員逮捕されたと話している。しかし警官に賄賂を払うと、その日の夕方に釈放された。

副総裁の1人Hafizuddin Ahmed氏は、12月29日の記者会見直後に逮捕された。他の実力者も、バングラデシュ民族主義党総裁宅や党本部への訪問後に拘束されている。

イスラーム協会の幹部も逮捕の脅迫を受けたと述べる。党員の多くが逮捕され、一部は地下に潜伏した。イスラーム協会は早い段階から選挙参加を認められていなかった。最高裁判所と選挙管理委員会が、同党の綱領はバングラデシュ憲法の世俗性に反すると判断したからだ。党幹部は、警察が逮捕しにやって来たが、虚偽の証拠に基づく第一報報告書(First Information Report)を根拠にしていたと述べた。

国際社会はバングラデシュ政府首脳に対し、対話を開始し、政治的暴力を停止するよう求めている。潘基文国連事務総長は声明のなかで、総選挙前に政党間の合意がなされなかったことに遺憾を表明し、全当事者に対して「集会と表現の自由の権利を人びとが保持できる」平和的な環境を確保するよう求めた。いくつもの政府が選挙のやり方を批判する声明を発表している。米国、カナダドイツなどは、現在の危機的状況を解決するために、信頼できる総選挙の実施を求めている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは国際社会に対し、恣意的拘束を終わらせると同時に、非暴力の抗議行動と言論・結社・表現・移動の自由を認めるよう、当局に強く働きかけるよう求めた。

「与党は野党と対話する用意があると言う。しかしこうした弾圧が続いているなかで、その言い分を真に受けることはできない」と、アダムズ局長は述べた。「現在の政治的膠着状態を打開するには、全当事者が政治的暴力の終結を公約する必要がある。また国際社会は、信頼できる総選挙の実施を含めた政治的解決策を模索せよとの圧力を強める必要がある。」 

 

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